静かに行われようとしている雇用対策法の改正―「労働生産性の向上」と「多様な就業形態の普及」―

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 秋の臨時国会に向けて「働き方改革」関連の一括法案の提出に向けたプロセスが急ピッチで進んでいる。長時間労働是正のための「時間外労働の上限規制」と、長時間労働を促進する恐れの強い「高度プロフェッショナル制度の創設」および「裁量労働制の拡大」が、1つの労働基準法改正案としてとりまとめられそうになっていることに労働団体や野党は強く反発している。4日の労働政策審議会 労働条件分科会における分科会長のとりまとめの強引さについては下記の記事で触れた通りだ。

「残業代ゼロ法案」の扱いをめぐる労働政策審議会、8日に予定される法律案要綱の諮問に向けて強引なまとめ(上西充子) - Y!ニュース (2017年9月5日)

「働き方改革」関連の一括法案には、基本法である雇用対策法の改正も

 一方、あまり注目されていないが、ここにきて急に具体化してきたのが雇用対策法の改正だ。一括法案には「働き方改革」の理念を反映した基本法として雇用対策法の改正も含まれる予定であることは、8月18日の日本経済新聞や8月24日の東京新聞が報じていた。

働き方改革で基本法整備へ 厚労省、今秋に法案提出(日本経済新聞 2017年8月18日)

残業代ゼロ、残業上限規制、同一労働・賃金 「働き方法案」一括審議へ(東京新聞 2017年8月24日)

 この雇用対策法の改正をめぐる検討が、9月1日の労働政策審議会 職業安定分科会で始まり、この日は改正の概要案が示された。

 その概要案に対し、労働者代表委員から疑問や懸念の声があがったのだが、各種報道によれば明日8日の労働政策審議会 労働条件分科会に、7つの法案(※1)を束ねた「働き方改革」関連の一括法案の要綱が示される見通しだという。

 一括化された法案要綱が明日8日に示されるならば、雇用対策法の改正案についても、9月1日に職業安定分科会で概要案を提示しただけで、そのまま法案要綱に盛り込むということになってしまうのではないか。しかし、そのように分科会の議論を無視して法案要綱の作成へと突き進んでよいものとは思われない。

 筆者は9月1日の職業安定分科会を傍聴した。以下では、この分科会に示された雇用対策法の改正案の概要とそれに対し労働者代表委員から指摘された懸念事項を紹介したい。なお、以下に紹介する分科会における各委員の発言は、筆者が傍聴の際に書き留めた範囲のものであるため、不正確な点を含むことは、あらかじめご理解いただきたい。

雇用対策法とは/なぜ今、雇用対策法の改正なのか

 現行の雇用対策法とは、雇用対策に関わる基本法であり、国の施策の方向性を示すものである。雇用対策法の第4条には国の講ずべき施策が列挙されており、それをもとに職業安定法や職業能力開発促進法、雇用保険法などの個別法において施策の具体化がなされる。

 そのような重要な位置づけにある雇用対策法が、なぜ今、拙速に変えられようとしているのか。さらに、今回の改正案は「時間外労働の上限規制」や「同一労働同一賃金」などの「働き方改革」関連の法改正に対応した最小限の改正ではなく、目的規定にも大幅な変更を加えるなど、これまでの労働法制の枠組みを大きく変える可能性があるものなのだが、なぜそれを今、行おうとしているのだろうか。

 9月1日の職業安定分科会においては、法改正の根拠として、「働き方改革」の実現に向けて、「改革のモメンタムを絶やすことなく、長期的かつ継続的に実行していく」ための「法制面」も含めた検討が必要と「働き方改革実行計画」に書き込まれ、その後の関連する建議にも書き込まれていることが、事務局より説明された。

■「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)より(p.3)

(ロードマップに基づく長期的かつ継続的な取組)

 働き方改革の実現に向けては、前述の基本的考え方に基づき、改革のモメンタムを絶やすことなく、長期的かつ継続的に実行していくことが必要である。働き方改革の基本的な考え方と進め方を示し、その改革実現の道筋を確実にするため、法制面も含め、その所期の目的達成のための政策手段について検討する。

 しかし「働き方改革実行計画」そのものが、政府主導でかなり形式的かつ強引な形でまとめられたものであり(※2)、これに書き込まれた上記の文言を根拠として雇用対策法の枠組みまで変えようとするのは、強引ではないのか。

雇用対策法改正の概要案

 9月1日の職業安定分科会に示された雇用対策法改正の概要案は下記の通りである(下線は筆者による)。

画像
画像

目的規定に「労働生産性の向上」を追加

 この概要案について、労働者代表委員からは主に2つの点について疑問や懸念の声があがった。1つは目的規定に「労働生産性の向上」が規定されていることであり、もう1つは「国の講ずべき措置」に「多様な就業形態の普及」が盛り込まれていることである。順にみていこう。

 第1条の目的規定を現行法と改正の概要案で比較すると、下記の通りである。

筆者作成
筆者作成

 「雇用に関し」が「労働に関し」に変更になっていることがまず目を引く。法律の名称も「雇用」から「労働」に変更することが見込まれているようだ。この点は後ほど、「多様な就業形態の普及」との関連で改めて検討する。

 目的規定の内容がどのように変わっているか、注目される変更点を上記で赤字にして示したが、図示してみるとよりわかりやすい。

筆者作成
筆者作成

 国が何を目指して施策を行うのか、現行法と改正案概要のそれぞれの中央部分を見比べると、大きく変わっている。

 

 現行法では、労働市場における需給調整や労働者の能力開発、つまりは職業安定行政や職業能力開発行政などに関わる内容が書かれているのに対し、改正案概要では目指すものが大きく2本立てになっている。

 1つは「労働者がその多様な事情に応じた就業ができるようにすることを通じてその有する能力を有効に発揮することができるようにすること」であり、「多様な事情に応じた就業」という文言が、後で検討する「多様な就業形態の普及」と対応したものであることを推測させる。

 もう1つの大きな柱が、「労働生産性の向上」を図る、というものだ。これについて、複数の労働者代表委員から「違和感」が表明された。

「労働生産性」は、効率化を図る指標と理解している。生み出された付加価値を労働の投入量で割りだして得るものだ。「労働生産性の向上」がアウトプットを増やすという目的なのであればよいが、インプットを減らすことも考えられる。企業が人員削減を行う場合にも、労働生産性が向上するケースがあると考えられる。

働く側からすると、「労働生産性の向上」のために労働強化や人員削減が行われることを危惧している。

などが労働者代表委員の表明した懸念だ。

 これに対し、事務局(厚生労働省)からは、

少子高齢化が進む中で、様々な事情を抱えている方にも労働参加してもらうことと、労働生産性の向上は、「働き方改革実行計画」の2つの柱だ。生産性向上の成果を再分配することにより、「成長と分配の好循環」が構築される。そのためにアウトプットを増やしていく。「職業の安定」や「職業生活の充実」という考え方に相反するような労働生産性の向上は、法律として意図していない。

といった説明があった。

 しかし、労働者代表委員が指摘したように、今年3月に成立した「雇用保険等の一部を改正する法律」では労働関係助成金(雇用保険二事業)に関し、「労働生産性の向上に資するものとなるよう留意しつつ、行われるものとする」旨が新たに追加され、それは具体的には、下記に示すように、生産性の向上を図る企業に対する助成の割増を行うといった施策へとつながっている。

画像

出所:厚生労働省「『雇用保険法等の一部を改正する法律』の改正内容

 国の労働政策を定める基本法に、「労働生産性の向上」という大きな柱を立てることは、様々な個別法に「労働生産性の向上」という指標が組み込まれていき、個々のプログラムに「労働生産性の向上」という指標が組み込まれていくことにつながらないだろうか。

 もしそうなると、割増された助成金を得るためや、プログラムへの参加資格を得るために、個別企業が労働強化や人員削減によって労働生産性の向上を図ろうとすることにもなりかねない。

 この問題について、阿部正浩・職業安定分科会長は

ここでいう「労働生産性の向上」は一人当たりの付加価値あるいは産出物を増やすということだ。確かに指摘されたように、労働強化や長時間労働による場合もあるかもしれないが、ここで望まれているのは、技術革新による生産性の向上、あるいは適材適所による生産性の向上、つまり「全要素生産性」を上げることによる生産性の向上だ。政府が考えているのは労働強化や残業促進ではない。ただし、こう書くと懸念があるのはわかる。懸念点を踏まえて法的にどう書けるかは検討したい。

と引き取った。

 事務局(厚生労働省)からも

「労働生産性の向上」という言葉は、「働き方改革」のキーワードの1つであり、1つの大きな柱だ。そのため、法律(雇用対策法の改正案)の中に入れ込みたい。入れ込む際には、懸念が払しょくされるようにしたい。

という言及があった。

 しかし冒頭に見たように、いま予定されているスケジュールでは明日8日には7本の法案を束ねた一括法案の要綱が示されるのであれば、改めてこの職業安定分科会で書き方を検討する機会は持てないのではないか。

 労働基準法改正の一本化に対する労働団体・野党の反対を押し切って法案を成立させるために7つの法案を一本化して諮問しようとしている事情や、秋の臨時国会への提出に間に合わせようと手続きを急ぐ事情が、重要な基本法の慎重な検討を阻害しているように思われてならない。

 なお労働者代表委員からは、近年、労働生産性の向上が実質賃金に反映されておらず、公正な配分が行われていないことについても、「労働経済の分析」に言及しつつ指摘されていた。

「働き方改革」の2つの柱:労働参加率の向上と労働生産性の向上

 ところで、先ほど紹介した事務局(厚生労働省)の説明をもう一度見てみよう。

少子高齢化が進む中で、様々な事情を抱えている方にも労働参加してもらうことと、労働生産性の向上は、「働き方改革実行計画」の2つの柱だ。

 「働き方改革」の2つの柱がそれだと言われて、「そうなのか?」と思う人も多いのではないだろうか。

 報道においては「長時間労働の是正」のための「時間外労働の上限規制」と、正規・非正規の処遇の格差の改善のための「同一労働同一賃金」が2つの柱のように紹介されてきた。実際、「働き方改革」に関連する法改正として検討されてきた大きな項目は、この2つだ。

 しかし、何のために「時間外労働の上限規制」や「同一労働同一賃金」に取り組むのかと言えば、「様々な事情を抱えている方にも労働参加してもらうことと、労働生産性の向上」のためである、というのが「働き方改革」の実際なのである。

 そういう観点で「働き方改革実行計画」を読み直してみると、確かに随所に「労働参加」や「労働生産性の向上」という言葉が見られる。なぜなのか。

 安倍政権は経済最優先で「世界でいちばん企業が活躍しやすい国」を目指すとしていた2013年当時(※3)から、「働き方改革」に力を入れて取り組むようになった今日にかけて、企業寄りの姿勢から労働者寄りの姿勢に、大きく姿勢を変えたかのようにも見える。

 しかし改めて「働き方改革実行計画」を読み直すと、目指されているものは「日本経済再生」であることがわかる。「日本経済再生」のためには、少子高齢化の中での労働力供給の制約という課題に取り組む必要がある。そのために女性や高齢者のように「様々な事情を抱えている方」も労働参加できるよう、「長時間労働の是正」が必要なのであり、非正規でもやる気をもって生産性高く働いてもらえるよう、正規・非正規の処遇格差の改善をめざす「同一労働同一賃金」施策が必要とされているのだ(※4)。

 そう理解すると、「長時間労働の是正」をうたいながら過労死ラインの上限を設定したり、長時間労働の促進の恐れが強い「高度プロフェッショナル制度の創設」や「裁量労働制の拡大」にこだわったりしていることもうなずける。「働き方改革」における「長時間労働の是正」は、労働側が求める「過労死ゼロ」「働く者の命と健康」のためではないのだ。

「多様な就業形態の普及」が意味するもの

 こう見てくると、労働者代表委員がもう一つ疑問を呈した「多様な就業形態の普及」という文言も、重要な意味を持っていることが浮かび上がってくる。

 上記の「概要案」にあるように、「国の講ずべき施策」に追加すべき条項の中に、この文言は現れる。再掲しておこう。

労働者が仕事と生活の調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就業することができるようにするため、労働時間の短縮その他の労働条件の改善、多様な就業形態の普及、雇用形態又は就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保等に関する施策を充実すること。

 この規定における「多様な就業形態の普及」について、鎌田耕一・公益委員から

「非雇用型の就業も含まれてくるだろう」

という指摘と共に、

働く人の選択肢を増やすという意味でよいが、雇用類似の働き方をしていながら労働法の適用対象にならない人が出てくることが考えられる。「多様な就業形態の普及」だけでなく、就業環境の整備も考えていく必要がある。

という指摘がなされた。

 それに対し、事務局(厚生労働省)からは、

働き方改革実行計画では、「非雇用型テレワーク」にも言及がある。「多様な就業形態」の環境整備も重要だ。「多様な就業形態の普及」には、当然のことながら環境整備の施策も含まれる。

という説明があった。

 つまり「非雇用型」の働き方が「多様な就業形態」には含まれる、ということだ。「非雇用型」を含みこむために、「雇用」という言葉を付した「雇用対策法」という法律名称も変えようとしており、先に見たように目的規定にも「多様な事情に応じた就業」が盛り込まれ、そして「国の施策」には「多様な就業形態の普及」が盛り込まれる。

 これは実は大きな労働政策の方向性の転換につながるものではないのか。

 この点について、労働者代表委員からは、

ここでいう「多様な就業形態の普及」というときは、短時間かフルタイムか、といった違いであって、非雇用まで含むとは理解していない。非雇用まで含むのであれば、この法律の中で「普及」という言葉まで書き込むようなものなのか、違和感がある。

という意見が表明された。

 しかし、非雇用まで含むことは事務局サイドから否定されていない。否定されていないのみならず、次のような発言も事務局サイドからは見られた。

委員ご指摘の「多様な就業形態の普及」という場合、ちゃんとした保護のあり方が議論される前から普及ということはない。今の時点で、普及を図るのは雇用型テレワーク。非雇用型の普及を図るのであれば、「働き方改革」の中での普及とのバランスを図った上で、だ。いずれにしろ、何の普及を図っていくかは、「働き方改革」の中で検討する。

 つまり、「働き方改革」の中で「非雇用型」の働き方の普及が図られてゆく可能性を見越して、雇用対策法の改正案の中に「多様な働き方の普及」という文言が盛り込まれようとしている、と見ることができるだろう。

 「働き方改革実行計画」を確認してみると、p.15-17に

5.柔軟な働き方がしやすい環境整備

(1)雇用型テレワークのガイドライン刷新と導入支援

(2)非雇用型テレワークのガイドライン刷新と働き手への支援

(3)副業・兼業の推進に向けたガイドラインや改訂版モデル就業規則の策定

という内容が盛り込まれており、このうち(1)の雇用型テレワークと(3)の副業・兼業については、推進の方向で記述がされている。

 一方で(2)の非雇用型テレワークについては、

インターネットを通じた仕事の仲介事業であるクラウドソーシングが急速に拡大し、雇用契約によらない働き方による仕事の機会が増加している。

という事実認識は示されているものの、

こうした非雇用型テレワークの働き手は、仕事内容の一方的な変更やそれに伴う過重労働、不当に低い報酬やその支払い遅延、提案形式で仮納品した著作物の無断転用など、発注者や仲介事業者との間で様々なトラブルに直面している。

という問題が指摘され、

非雇用型テレワークをはじめとする雇用類似の働き方が拡大している現状に鑑み、その実態を把握し、政府や有識者会議を設置し法的保護の必要性を中長期的課題として検討する。

と、トラブル対応の必要性が前面に出た書きぶりとなっており、「普及」を図る方向性は書かれていないように見える。

 しかし全体としては、「5.柔軟な働き方がしやすい環境整備」というくくりとなっており、環境整備を通じた「普及」が見通されていると見ることができる。

「働き方の未来2035」に描かれた「新しい労働政策」に向けた布石としての法改正か

 「働き方改革」は3月28日の「働き方改革実行計画」に書かれた内容だけにとどまるものではなく、冒頭に見たように「改革のモメンタムを絶やすことなく、長期的かつ継続的に実行していくことが必要」とされていた。

 ではその方向性はどこに向かうのか。

 ここで注目されるのが、「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)より前に厚生労働省の「懇談会」から出されている「働き方の未来2035」(2016年8月)だ。

 「働き方の未来2035」には、「非雇用型」でおこりがちなトラブルにはほとんど言及がない一方で、2035年における働き方として

2035年には、企業の内外を自在に移動する働き方が大きく増えているに違いない。(p.9)

個人事業主と従業員との境がますます曖昧になっていく。(p.10)

個人が、より多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっていることだろう。(p.14)

といった働き方が展望され、

このような変化を前提に考えると、2035年においては、狭い意味での雇用関係、雇用者だけを対象とせず、より幅広く多様な働く人を対象として再定義し、働くという活動に対して、必要な法的手当て・施策を考えることが求められる。今までの労働政策や労働法制のあり方を超えて、より幅広い見地からの法制度の再設計を考える必要が出てくるだろう。前の章で述べた、より多様な働き方も、何らかの形での契約が結ばれ、活動が行われている。その点から考えれば、すべての働くという活動も、相手方と契約を結ぶ以上は、民法が基礎になる。当事者間の自由で対等な契約が存在する場合には、その枠組みのもとで、自由な経済活動と競争が起こり、それぞれが、精神的な充実感等の非金銭的なものも含めて、多様な目的をもって充実した活動ができるのが、理想的な形である。(p.14)

働くという活動に対して、民法(民事ルール)の基本的枠組みによる対処だけでは、何が不十分でどのような手当てが必要かという根本に立ち返った検討も必要である。(p.24)

などの方向性が提示されている。

 これは、非雇用型のトラブルにいかに対処するか、どうやって法的な保護を拡大していくか、という視点ではない。むしろ、雇用関係を前提とした労働法制を抜本的に見直し、そのうえで民法の基本的枠組みを基盤としつつ不十分な部分についてのみ必要な手当てを考えていこうという、大きな発想の転換が提唱されていると見ることができないだろうか。

 こう見てくると、雇用対策法の改正によって「多様な就業形態の普及」を「国の施策」の1つとして位置づけるということは、労働法制の大幅な規制緩和の方向に進めていくにあたっての布石であるようにも思われる。

 

 この9月1日の職業安定分科会の様子を連合通信は次のように伝えたが、それは上記に見たような方向性をとらえた上でのものだっただろう。

個人請負の「普及」へ/雇用対策法の見直し審議開始 (連合通信 2017年9月5日配信)

生産性向上を法の目的に盛り込んだことや、雇用関係によらない働き方を普及するとの文言が入ったことに、労働側が違和感を繰り返し表明した。(同記事より)

実際は労働者と同じような働き方なのに、労働法の保護が受けられない労働者が増えかねない。(同記事より)

静かに進められようとしている労働法制の枠組みの転換

 先に見たように、雇用対策法とは雇用対策に関わる基本法であり、国の施策の基本的な方向性を示すものである。その基本法の目的が変わるということは、今後の労働政策の方向性が変わるということだ。

 どのような方向に労働政策を転換していくのか、それは「働き方改革」関連の一括法案を秋の臨時国会に提出するといった直近のぎりぎりのスケジュールの中で、拙速に決めるべきことではない。

 先に見た「働き方の未来2035」は、いまの時点では「懇談会」がとりまとめたものにすぎず、閣議決定された計画のように今後の政策の方向を規定するものではない。

 しかし労働政策審議会に新たに設置された労働政策基本部会の第1回の会議(2017年7月31日)では、「働き方の未来2035」の方向性に向けた規制改革を、この基本部会が主導していこうという方向性での発言が、複数の委員から出ていたことが、傍聴した記者などから伝えられている。

 雇用対策法の改正は、いわば、レールのポイント切り替えのようなものではないか。それが今、行われようとしているのではないか。

 改正されれば、それが規定路線になっていく。そのような方向性の転換が、ほとんど気づかれずに行われようとしているのではないか。

*****

(※1) 7つの法案とは、(1)「時間外労働の上限規制」のための労働基準法改正案と、既に2015年に国会に提出されており、反対が強く審議されずにいた「高度プロフェッショナル制度の創設」と「裁量労働制の拡大」を盛り込んだ労働基準法改正案を一本化した労働基準法改正案、(2)「同一労働同一賃金」に関わるパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正案、(3)勤務間インターバル制度の努力義務化に関する労働時間等設定改善法の改正案、(4)産業医による面接指導の強化などに関する労働安全衛生法の改正案、(5)改革の理念を盛り込んだ基本法である雇用対策法の改正案、を指すものと考えられる。

(※2) 「働き方改革実行計画」をとりまとめた「働き方改革実現会議」のメンバー構成や会議の進め方の問題点については、下記を参照されたい。

「働かせ方改革」ならぬ「働き方改革」のためには、「残業代ゼロ法案」の撤廃と「休息時間確保権」の保障を(上西充子) - Y!ニュース (2017年4月2日)

(※3)「第183回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説」(2013年2月28日)より

(※4)「平成28年版労働経済の分析」の第3章「人口減少かの中で誰もが活躍できる社会に向けて」の冒頭には、次の記述がみられる。

少子高齢化が進展し、生産年齢人口が減少し、労働力の減少が見込まれる。このような構造的な要因に加えて、現在は、景気回復などを背景とした労働需要の増加による雇用情勢の改善により人手不足の状況にある。労働力の希少性が高まる一方で、その量的確保をできる限り図るとともに、質を高め、能力発揮が可能となるような環境を整備することが必要となっている。

 この記述は、9月1日の職業安定分科会における事務局(厚生労働省)の説明(下記)とよく整合していることがわかる。

少子高齢化が進む中で、様々な事情を抱えている方にも労働参加してもらうことと、労働生産性の向上は、「働き方改革実行計画」の2つの柱だ。

****************

【追記(2017年9月10日 15:00)】

 上記の記事の公開後の9月8日に行われた第140回労働政策審議会労働条件分科会において、「働き方改革」に関する8つの法改正案を1つにまとめた法案の要綱が示された(上記の※1に記載した7つの法改正に「じん肺法」の改正を加えた8つ)。

 それによれば、雇用対策法の改正について、法律名と第1条「目的」の第1項は、次の形で提示されていた。

筆者作成
筆者作成

 「労働生産性の向上」は、「2つの柱」のうちの1つという位置づけではなく、促進すべきもののうちの1つという位置づけに改められていた。ただし、現行法に新たに加えられているという点においては、概要案を引き継いでいる。

 また、第4条の「国の施策」に概要案で付け加えられていた「多様な就業形態の普及」は、下記の通り、文章に多少の変更は加えられているものの、そのまま残されている。

筆者作成
筆者作成

 8日の労働条件分科会では法案要綱のうち、同分科会に関連する事項のみが検討された。雇用対策法の改正については、改めて別途、職業安定分科会に法案要綱が示され、検討されるものと思われる。

 なお、法案要綱は9月8日の労働条件分科会の「資料等」の欄に掲載される予定であるが、現在のところ、まだ掲載されていない。