働きながら通学できる新聞奨学生制度の整備を―職業安定法の改正を受けて―

シンポジウム「負けるな! 新聞奨学生」(2014年7月6日)資料より

 新聞奨学生という制度をご存じだろうか。働きながら大学や専門学校などに通うことを希望する若者に向けて、住まいと学費資金を提供し、新聞配達業務に対して賃金を支払う制度だ。進学のためのお金がない、家庭の事情により家を出て生活を立て直したい、そういった若者にとっては、早朝の配達業務など仕事の厳しさはあるものの、みずからの将来への機会を開く制度である。

新聞奨学生制度をめぐるトラブルと労働組合の取り組み

 しかしこの新聞奨学生制度で、事前の説明と実態が違うという問題が起きている。チラシの折り込みや配達が事前の説明より長時間かかる、集金業務はないコースで契約したのに集金業務も求められた、販売拡張業務も求められる、等々。

 働きながら通学できるのが新聞奨学生であるはずなのに、業務に追われる生活になると、学校に通うことが難しくなる。辞めるとなると貸し付けを受けた奨学金を一括返済しなければならず住まいも失うことになるため、辞めることも難しい。逃げ場がない状況の中では、深刻なパワハラも起こりうる。そうした中で、留年や中退に追い込まれる学生も少なくないらしい。

 さらに深刻な事例では、過労死や追い込まれた末の失踪も起きている。

●黒藪哲哉「ある新聞奨学生の死」(『週刊金曜日』1998年4月10日)(こちらよりPDFへのリンクあり)

産経新聞奨学生パワハラ事件(2012.2~2014.7)(新聞労連 新聞通信合同ユニオン)

新聞奨学制度のヤミ~パワハラうつの被害当事者が立ち上がる(レーバーネット日本2014年3月25日)

 こうした問題に対し、新聞労連や新聞通信合同ユニオンなどの労働組合は、個々の事案に対して団体交渉や救済申し立てなどの取り組みを行うと共に、広く問題の解決に向けて、提言・要請やシンポジウムの開催を行ってきた。

「産経新聞奨学生パワハラ事件」救済申請に際して新聞奨学生制度に対する提言と要求(2014年3月24日)(新聞労連)

●シンポジウム「負けるな! 新聞奨学生 -発行本社の責任逃れを許さない-」(2014年7月6日開催)(主催:新聞労連、東京地連、新聞通信合同ユニオン)(川名ゆうじ氏のこちらのブログに紹介記事あり)

産経新聞奨学生の労働問題解決へ救済申し立て(2016年11月1日)(新聞労連 新聞通信合同ユニオン)

 これらの取り組みを行ってきた関係者が8月6日、「新聞奨学生と求人詐欺~改正職安法は学生を守れるか?」というシンポジウムを開き、筆者はゲストとして招かれ報告を行った。

<シンポジウム概要>

シンポジウム「新聞奨学生と求人詐欺~改正職安法は学生をまもれるか?」(2017年8月6日)(主催:新聞労連 新聞通信合同ユニオン)

<シンポジウムの内容を伝える記事>

土屋トカチ:「新聞奨学生と求人詐欺」解決の道は?~「改正職安法」めぐり討論(レイバーネット日本 2017年8月7日)

「過酷な新聞奨学生 新聞労連シンポ 募集内容から逸脱」(しんぶん赤旗 2017年8月7日)

「新聞労連が新聞奨学生の問題でシンポジウム、『求人パンフレットに書いてあることと、実際の労働実態が異なっている』」(MEDIA KOKUSYO 2017年8月7日)

「改正職安法で新聞奨学生守ろう/労働条件明示で虚偽求人撲滅へ」(連合通信 2017年8月10日)

川名ゆうじ:新聞が書かない新聞の闇  新聞奨学生は求人詐欺!?(武蔵野市議 川名ゆうじ blog 2017年8月11日)

 このシンポジウムにおける筆者の役割は、3月に成立した改正職業安定法によって求人トラブルへの対処が強化されたことを受け、新聞奨学生問題の解決に活かす提案を行うことであった(※1)。

 この記事では、当日の筆者の報告内容を、加筆・整理の上で紹介したい。あらかじめ結論を端的に述べれば、次の通りである。

(1) 新聞奨学会は、職業紹介事業者と考えられる。職業紹介事業者として、各販売店と協力し、募集時に適切に労働条件を明示するなど、責任と役割を適切に果たすべき。

(2) 各販売店は、求人者として、適切に実際の労働条件を新聞奨学会に示すべき。

(3) 厚生労働省は、募集時の労働条件明示が職業紹介事業者である新聞奨学会において適切に行われているか、また、求人者である各販売店が適切に労働条件を伝えているか、実態把握を行い、是正に向けた取り組みを行うべき。

職業安定法の改正

 改正職業安定法は2017年3月31日に一括法案である「雇用保険法等の一部を改正する法律」の一部として可決・成立した。今回の求人トラブルに関連する部分は2018年1月1日施行となっている。この法改正に関連した省令と指針は2017年6月30日に定められた。こちらも施行は2018年1月1日である。法律・省令・指針の内容は、下記の厚生労働省サイトから確認できる。

平成29年職業安定法の改正について(厚生労働省)

職業紹介事業者としての新聞奨学会

 新聞奨学生問題を職業安定法との関係でとらえる際には、学生、販売店、新聞奨学会の三者の関係が問題になる。雇用契約は学生と販売店の間で結ばれる。その関係を仲介するのが新聞奨学会だ。

 新聞奨学会の制度は、「朝日奨学会」など、各紙の名称を付した新聞奨学会から学生に案内される。新聞奨学会のホームページやパンフレット等で新聞奨学金制度に関心をもった学生は、新聞奨学会に資料の取り寄せを行い、内容を検討して新聞奨学生の申込みを行う。進学する学校が決まったあとで、勤務する新聞販売店が決められ、学生に連絡される。

 「朝日奨学会【首都圏版】」の場合、ホームページの情報によれば、

「お申込み」→「受付」→「面談」→「進学校の決定」→「勤務先の決定」→「赴任・研修」

という流れが示されており、「勤務先の決定」欄には

勤務先に決まったASAからご連絡させていただきます。

「雇入通知書」や「誓約保証書」がご指定の住所に届くので、

「履歴書」などと一緒に赴任までに記入しておいてください。

と記載されている。

 学生がみずから勤務先を探すのではなく、勤務先となる特定の販売所から連絡が来る形だ。販売所も独自に学生を探すのではない。ではその両者を取り持つのは誰であるか。上記の説明では明記はされていないが、新聞奨学会が学生と販売店の関係を仲介していると考えるのが自然だろう。

 そのような仲介の役割を新聞奨学会が果たしているのであれば、新聞奨学会は、職業安定法に照らし合わせれば「職業紹介事業者」にあたると考えられる(※2)。

 職業安定法によれば「職業紹介」とは

求人及び求職の申し込みを受け、求人者と求職者の間における雇用関係の成立をあっせんすること

とされている(職業安定法4条1項)。

 なお、「職業紹介事業の業務運営要領」によれば、あっせん」とは

求人者と求職者との間をとりもって雇用関係の成立が円滑に行われるように第三者として世話すること

をいう。

「連合通信」ニュース(2017年8月10日)より
「連合通信」ニュース(2017年8月10日)より

 新聞奨学生制度の場合、新聞奨学会が職業紹介事業者にあたり、販売店が求人者、学生が求職者にあたると考えられる。以下の記述はこの判断を前提とする。

 職業紹介事業を行うには有料・無料にかかわらず厚生労働大臣の許可が必要となっている。シンポジウム主催者に聞いた限りでは、各新聞社の新聞奨学会の中には、職業紹介事業者としての許可を得ているところとそうでないところがあるらしい。まずは、職業紹介事業者としての許可を得て、職業紹介事業者としての規定に基づく事業運営を行うことが必要だろう。

募集時に明示されていない労働時間

 新聞奨学会を職業紹介事業者と位置付け、販売店を求人者と位置付けた場合、現行の職業安定法5条の3により、新聞奨学会は求職者たる学生に対し、従事すべき業務の内容や賃金、労働時間などの労働条件を明示しなければならない。また同条2項により、販売店は新聞奨学会に対し、学生が従事すべき業務の内容や賃金、労働時間などの労働条件を明示しなければならない。

 そして、業務の内容や労働契約の期間、就業の場所、労働時間、賃金などの事項は、基本的に書面の交付によることが職業安定法施行規則(4条の2)に定められている。

 しかしここで主要紙の新聞奨学会ホームページにおける労働条件の記載を見ると、奇妙なことに気づく。各社いずれのホームページにおいても、「労働時間」に相当する項目が設けられていないのだ。

朝日奨学会(首都圏版)

毎日育英会 

読売育英奨学会

日本経済新聞育英奨学会

 

 一例として、日本経済新聞育英奨学会の【待遇】欄は下記の通りである。

(「定期健康診断」「カウンセリング」「その他」欄は省略した)
(「定期健康診断」「カウンセリング」「その他」欄は省略した)

どのNSN(引用者注:販売店のこと)に入店しても、NSN間の格差を感じることなく、安心して勉強と仕事が続けられるよう、全NSNが同一の就業規則を制定し、実行しています

との記載が「生活と待遇」のページにあるにもかかわらず、基本的な労働条件であり、かつ明示が本来は必要である労働時間の記載がない。これは実に奇妙だ。

 新聞奨学生になろうとする学生は、働きながら学校に通うことを目指して申し込むのだから、仕事と通学との両立が可能かどうかにかかわる労働時間の情報は、きわめて重要な情報だ。にもかかわらず、その情報の記載がないのだ。

 職業安定法施行規則4条の2は、労働時間にかかわって明示すべき事項として、

始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働時間の有無、休憩時間及び休日に関する事項

をあげている。

 上記の「待遇」の記載では、朝夕の配達に何時から何時までの勤務が求められるのか、その他の業務を行う必要があるか否か、その他の業務を行う場合にはどのような労働時間を要するのか、まったくわからない。賃金の記載はあるが、これが月給か日給か時給かもわからず、実際の労働時間に応じた賃金が支払われるのか、所定労働時間内の労働時間に対応した賃金が支払われるのかも、わからない。

 もっとも日本経済新聞育英奨学会の場合、このページとは別に「仕事の内容」というページが設けられてあり、そこでは仕事の内容は「配達」「配達に関する付随作業」「チラシ広告の折込作業」「PR宣伝物の配布」であると記されており、あわせて「セールスの強制はありません」「集金業務はありませんが、希望者には別途手当を支給します」との記載がある。

 また、同じく「仕事の内容」のページには、朝刊配達と夕刊配達についての「タイムスケジュール」が示されているが、

あくまで参考例です、各店のNSNによって異なります

という注記があり、労働条件の明示とは認めがたい。また、朝刊配達業務については3:00に「準備作業後朝刊配達へ出発」とあり、「チラシ広告の折込作業」などの「準備作業」が何時から始まるのかは、このタイムスケジュールではわからない。

 さらに、「1日の仕事時間は、朝夕刊と付随業務を合わせて5時間程度です」という記載があるが、上記のタイムスケジュールでは「準備作業後朝刊配達へ出発」が3:00、朝刊の「配達終了」が6:00、「夕刊配達出発」が15:00、夕刊の「配達終了」が17:00なので、これだけで5時間を要してしまう。朝刊配達前の「チラシ広告の折込作業」などの「準備作業」に要する時間を加えると、5時間は超えるのではないかと思われるのだが、その点についての記載はない(※3)。

 また、この日本経済新聞育英奨学会の場合はセールスの強制や集金業務はないとのことだったが、集金業務や付帯業務を伴う仕事を紹介している新聞奨学会もあり、その場合、それらの業務にどのくらいの時間を要するのか、はっきりとした記載は見られない。

 実際には本記事の冒頭に記したように、チラシの折り込みや配達が事前の説明より長時間かかる、集金業務はないコースで契約したのに集金業務も求められた、販売拡張業務も求められる、等々のトラブルが各紙の新聞奨学生制度で起きているという。集金業務については、相手が留守であれば、何度も出向く必要も出てくる。「付帯業務」についても、その内容がはっきりしておらず、いきなり業務を割り振られ、販売店主との関係性から断れなくなる場合もあるようだ。

 新聞奨学生は販売店との関係においては、あくまで労働契約のもとに働く労働者である。販売店の意向に応じて、好きなようにいくらでも使える労働力ではない。通学を保障するという意味でも、労働法を遵守するという意味でも、募集時に労働時間を明記し、実際にもその労働時間の範囲に就労を限定することが重要だ。そのために新聞奨学会が果たすべき役割は大きい。

職業安定法の改正により、求人者に対する規制が追加された

 ここまでは現行法の職業安定法や労働基準法などの労働法に基づいて論じてきた。続いて、2018年1月1日施行の改正職業安定法(省令・指針を含む)による変更点に注目したい。

 新聞奨学生問題に関連してまず注目されるのは、求人者に対する規制が追加されたことだ。

 第1に、法改正により、虚偽の条件を提示して求人の申し込みを行った者に対する罰則が追加された(職業安定法65条の改正)。

 これまでも、虚偽の広告や虚偽の条件提示によって職業紹介や労働者の募集を行った者に対する罰則は設けられていた。しかし、求人者が職業紹介事業者に対し、虚偽の条件を提示して求人の申し込みを行うことに対する罰則はなかった。それが追加されたのである。

 募集時の労働条件と実際の労働条件が違うという問題は、これまで「求人詐欺」として注目されてきたが、この問題は職業紹介事業者に対する規制を行うだけでは解消されない。求人者が虚偽の労働条件を提示して求人申し込みをした場合、それが虚偽のものであるか否かを、職業紹介事業者が適切に判断することは困難だからだ。そのため、職業紹介事業者に対する罰則に加え、求人者に対する罰則が新たに設けられたのだ。

 ただし罰則を適用する場合には「虚偽」性が明確である必要があり、実際に罰則を適用することは容易ではないという。従来、実際に罰則を適用した実績はないとも聞いている。そのため、罰則だけでなく、指導・助言や改善命令等、幅広く是正に向けた働きかけを厚生労働省(職業安定行政)が求人者に対して行える条件を整えることも重要だ。その点についても以下に見る通り、今回の法改正は踏み込んでいる。

 第2に、法改正により、指導および助言の対象に、従来からの職業紹介事業者などに加え、求人者が追加された(職業安定法48条の2の改正)。

 第3に、法改正により、改善命令の対象に、従来からの職業紹介事業者などに加え、求人者が追加された(職業安定法48条の3の改正)。

 第4に、法改正により、厚生労働大臣に対する申告の対象にも、従来からの職業紹介事業者などに加え、求人者が追加された(職業安定法48条の4の改正)。

 これらの規定によって、職業紹介事業者や求人者が適切な労働条件明示を行わない場合に、厚生労働省(職業安定行政)が幅広く是正に向けた働きかけを行うことが可能となる。職業安定行政は、これらの規定を活かして、適切に労働条件明示を行っていない販売所(求人者)や新聞奨学会(職業紹介事業者)に対し、是正指導等を行っていただきたい。他方で販売所や新聞奨学会は、是正指導を受けずとも、自ら労働条件明示の適正化に向けた取り組みを進めることが求められる。

募集時の労働条件と労働契約時の労働条件の相違についても新たな規定

 今回の法改正では、求人トラブル対策として、募集時の労働条件と労働契約時の労働条件の相違についても新たな規定が設けられた。

 下記の図に示す通り、労働条件明示は募集時の労働条件明示(職業安定法5条の3)と労働契約締結時の労働条件明示(労働基準法15条)の2種類の労働条件明示義務がある。問題なのは、その2つが必ずしも同一でなくてもよい、ということだ。

画像

出所:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律の概要(参考資料)」

 例えば基本給25万円の求人を出していたが求める能力水準や経験に満たない求職者が現れた場合、求人者と求職者の交渉によって「基本給22万円なら雇ってもよい」「基本給22万円でも働きたい」という合意が成立すれば、募集時の労働条件とは異なる基本給22万円という労働条件で労働契約を締結してよい。法律上はそういうことになっている。

 しかしそれを悪用して、最初から基本給22万円でしか雇うつもりがないのに、基本給25万円の求人を出して求職者をひきつけ、最後になって条件を下げて合意させようとする悪質な使用者も存在する。これがいわゆる「求人詐欺」だ。

 この問題に対処するために今回の職業安定法改正では、上の図に示した通り、「当初の明示」と異なる内容の労働条件を提示する場合などには、労働契約締結の前に新たな明示を書面等によって義務付けることとした(職業安定法5条の3の改正)。

 ただしこれだけだと、「当初の明示」では実態と違う好条件を示し、最後の最後になってから「実は・・」と異なる労働条件を提示することもまかり通ってしまいかねない。そのため今回の法改正では、「当初の明示」が故意に虚偽の条件を提示したり一部の条件を隠したりするものではないことを保障するため、また条件提示の在り方に問題がある場合には適切な是正指導を行うことを可能にするため、次のような規定も設けている(※4)。

 第1に、省令により、求人者は当初(募集時)の労働条件明示の内容等に関する記録を、その明示にかかる職業紹介が終了する日まで保管しなければならないこととなった(職業安定法施行規則4条の2の改正)。

 第2に、指針により、職業紹介事業者は、原則として、求職者等と最初に接触する時点までに労働条件を明示することを求めた(改正後の指針の「第三」の「一」の(四))。

 第3に、指針により、職業紹介事業者は、明示する労働条件が労働契約締結時の労働条件等と異なる可能性がある場合には、その旨を併せて明示し、異なることとなった場合には速やかに求職者に知らせることを求めた(改正後の指針の「第三」の「一」の(五))。

 第4に、指針により、求人者は求職者に対して、当初に明示した労働条件を変更する場合等には、その変更点等を明示しなければならないこととした。またその明示にあたっては、求職者が変更内容等を十分に理解することができるよう、変更内容等を対照することができる書面の交付などの方法によることを求めた。さらに、変更等の明示は、求職者がその労働契約を締結するかどうか考える時間が確保されるよう、可能な限り速やかに明示することを求めた。さらに、変更の理由について求職者に質問された場合には、求人者は適切に説明することを求めた。さらに、当初の明示は、そのまま労働契約の内容となることが期待されているものであり、その明示内容を安易に変更するなどしてはならないことを定めた(改正後の指針の「第三」の「三」)。

 これらの規定は、

募集時の労働条件明示は労働契約時の労働条件明示の内容と違っていても、あとで説明すれば大丈夫だから、見た目の良い条件を提示しておこう。

と安易に考える使用者がいることを念頭に、それを防ぎ、対処するための規定とみることができよう。

 以上の通り、当初の労働条件明示の在り方、それを変更する場合の手続き、当初の労働条件明示やその変更などについて問題があった場合の是正指導、などの規定が今回の職業安定法の改正(省令・指針を含む)によって設けられている。厚生労働省はこれらを周知し、求人者や職業紹介事業者に適切な対応を取るよう求めていくことが必要だろう。また新聞奨学生問題に立ち戻れば、職業紹介事業者たる新聞奨学会と求人者たる販売店は、法改正に向けて適切な対応を取っていくことが必要だ。

まとめ

 以上、現行の職業安定法に照らして、また改正職業安定法に照らして、新聞奨学会、販売所、厚生労働省、それぞれが果たすべき役割を見てきた。まとめると下記の通りである。

(1) 新聞奨学会は、職業紹介事業者と考えられる。職業紹介事業者として、各販売店と協力し、募集時に適切に労働条件を明示するなど、責任と役割を適切に果たすべき。

(2) 各販売店は、求人者として、適切に実際の労働条件を新聞奨学会に示すべき。

(3) 厚生労働省は、募集時の労働条件明示が職業紹介事業者である新聞奨学会において適切に行われているか、また、求人者である各販売店が適切に労働条件を伝えているか、実態把握を行い、是正に向けた取り組みを行うべき。

 なお、この記事では新聞奨学会を職業紹介事業者とみなして論述してきたが、学生から見れば新聞奨学会は、単なる職業紹介事業者以上の存在である。奨学金(学費資金)を受け取るのも新聞奨学会からであるし、就労開始後に労働トラブルが起きた場合の相談先も新聞奨学会だろう。新聞奨学会は、学生を販売所に紹介すれば終わり、というわけではなく、募集時の労働条件が販売店において適切に遵守されるように、また実際の就労において労働基準法をはじめとする労働法が適切に遵守されるように、指導する役割を負うべきだろう。

 また新聞発行本社と新聞奨学会は別会社である場合も多いようだが、学生から見れば、新聞発行本社の社会的立場を信頼しているからこそ、その新聞発行本社の名称を付した新聞奨学会に申し込みを行うのであるから、新聞奨学生制度をめぐって事前の説明と実態が違うという問題に対しては、新聞発行本社もより一層の責任を負うべきだろう。

 冒頭部分に示した通り、新聞労連は2014年に「新聞奨学生制度に対する提言と要求」を発表している。

「産経新聞奨学生パワハラ事件」救済申請に際して新聞奨学生制度に対する提言と要求(2014年3月24日)(新聞労連)

 職業安定法が改正されたこの機会に、改めて新聞本社と新聞奨学会が、法律の規定を踏まえ、また上記の「提言と要求」も参照し、新聞奨学生問題に適切に対応するよう求めたい。

*****

(※1) 筆者は2017年3月の職業安定法改正に際し、3月14日に衆議院厚生労働委員会で参考人意見陳述を行い、その後も国会審議に関わる論点整理をヤフー個人ニュースにておこなってきた。詳しくは、こちらの記事一覧を参照されたい。

(※2) 「職業紹介事業者」ではなく「募集受託者」にあたるという可能性も考えられるが、「労働者募集業務取扱要領」によれば、

求人者に紹介するため求職者を探索した上当該求職者に就職するよう勧奨し、これに応じて求職の申し込みをした者をあっせんするいわゆるスカウト行為を事業として行う場合は職業紹介事業に含まれる。

事業として反復継続して労働者募集の受託を受ける場合は、複数の募集を同時並行的に取扱い、募集に応じようとする労働者を選別して最も適切と思われる募集にあっせんするという職業紹介の実態に該当することが通常

とあり、これらの記載から、やはり職業紹介事業者にあたると考えられる。また、詳しい説明は省略するが、単に求人広告を掲載するだけの「募集情報等提供事業者」ではなく、「募集情報等提供事業」と「職業紹介事業」の違いに関する規定に照らし合わせても、新聞奨学会は「職業紹介事業者」にあたると考えられる。

 「労働者募集業務取扱要領」における上記の記載内容とほぼ同じ記載は、今回の職業安定法改正を踏まえた指針(職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取り扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針の一部改正)に盛り込まれた。

 なお、今回のシンポジウム主催者はこれまでに、東京労働局需給調整事業部に対して、新聞奨学会は職業紹介事業者にあたるのか募集受託者に当たるのか問い合わせを行っているが、返答は得られていないという。

(※3) 実態としては1日平均5時間以上を要している場合が多いと思われるにも関わらず、1日平均5時間という記載を多くの新聞奨学会が行っている背景には、外国人留学生の就労が1週間につき28時間以内とされていることと関係しているのかもしれない(出入国管理及び難民認定法19条および出入国管理及び難民認定法施行規則19条5項)。

 販売所では現在、外国人留学生が重要な労働力となっている場合も多く、さらに実態としては1週28時間の上限を超えて働くことが常態化しているようだ(下記の記事を参照)。

出井 康博「もはや外国人の「ブラック労働」なしでは成り立たない新聞配達の過酷な現場」(現代ビジネス 2016年8月26日)

(※4) ここに紹介した内容のほかに、今回の職業安定法の改正による大きな改善点として、募集時に明示すべき労働条件として、新たに固定残業代の明示や裁量労働制の明示が指針によって求められたことが挙げられる。この点については、後日、改めて別の記事で紹介したい。