職業安定法改正案における求人トラブル対策:省令等で定めるべき事項についての論点整理

厚生労働省HPより

はじめに

年度末が迫ってきた。国会はいろいろと混乱しているが、職業安定法の改正案を含む「雇用保険法等の一部を改正する法律案」は、4月1日施行の内容を含むいわゆる「日切れ法案」であるため、3月末までの成立が見込まれている。

この法案によって求人トラブル問題に適切に対策をとることができるのか、筆者は下記の通り、法案の内容を検討し、国会の質疑を追い、論点を整理するとともに課題を指摘してきた。

審議中の職業安定法改正案で固定残業代問題や求人詐欺問題は果たして改善に向かうのか?(参考人意見陳述)(上西充子) - Y!ニュース(2017年3月14日)

求人トラブル防止のための労働条件明示。しかし「募集時」とは労働契約締結の直前までの時期を指す??(上西充子) - Y!ニュース(2017年3月17日)

「募集時とは労働契約を締結するまで」という政府参考人による法解釈は、やはりおかしい(上西充子) - Y!ニュース(2017年3月19日)

法案が成立すれば、ただちに労働政策審議会において省令案等の検討が開始されることが見込まれる。まだ審議日程は残されているが、これまでの国会審議における質疑・答弁の内容が省令等に的確に反映されるよう、また残された課題についても今後の審議の中で検討が行われるよう、これまでの審議を踏まえ、下記に論点を整理しておきたい。

1. 職業安定法5条の3に定める労働条件等の明示について

(1)固定残業代、試用期間、および派遣社員としての雇用に関する明示事項に加え、裁量労働制についても、明示事項として省令で追加すること。

職業安定法5条の3(労働条件等の明示)には、労働政策審議会の建議を受けて、法改正後に固定残業代、試用期間、および派遣社員としての雇用に関する明示事項が省令で追加されることが予定されている。そのことは、3月15日の衆議院厚生労働委員会における井坂信彦議員(民進)の質疑および3月23日の参議院厚生労働委員会における山本香苗議員(公明)の質疑に対し、鈴木政府参考人が答弁している通りだ。

これに加え、裁量労働制の適用対象であるか否かも「求職者側から見て死活的な条件」、つまりその情報が応募の意思決定を左右するような条件であり、明示事項に含めるべきである旨が3月15日に井坂議員から指摘されている。3月23日にも改めて倉林明子議員(共産)から裁量労働制についても明示事項とすべきことが指摘され、その際には塩崎大臣より、「裁量労働制であるかどうかを明示事項に追加することについては、改正法の成立後、その施行に向けて検討を進める中で検討してまいりたい」との答弁が行われた。

この答弁を踏まえ、建議に記されている固定残業代、試用期間、および派遣社員としての雇用に関する明示事項に加え、裁量労働制についても、明示事項として省令で追加されたい。

(2)固定残業代が含まれているか否か、裁量労働制か否かなどが判別でき、給与と諸手当の区別も明確な、マギレのない形での労働条件の記載方法を省令等で定めること。また、モデル求人票の作成および普及の取り組みをあわせて進めること。

3月23日の参議院厚生労働委員会において、山本議員からは、ハローワークの求人票が固定残業代の有無やその詳細、試用期間の有無や期間等を記載する形式となっており、いわば今回の法改正に伴う措置を先取りしたような形になっているため、これを民間で幅広く活用いただけるよう厚生労働省から積極的に働きかけることを求める発言があった。あわせて、来年度開設予定の総合的職場情報提供サイトにもこのハローワークの求人票を掲載するよう求める発言があった。

これに対し橋本副大臣からは、「ハローワークの求人票を参考とするよう勧奨をしていくように、いろいろな方法でしていきたい」との答弁が行われている。また同じく橋本副大臣からは、総合的職場情報提供サイトは平均勤続年数や研修の有無等の企業の職場情報を一覧的に掲載することを想定しているが、そこに求人票のひな形を載せておくことによって求職者が求人情報を比較しながら検討することに役立つ旨の見解が示され、サイトにハローワークの求人票を掲載することを含め、どのように活用していくのがよいかぜひ検討していきたい旨の答弁も行われている。

それを受けて山本議員からは、ひな形となる求人票、モデル的な求人票をさらに普及させることを求める発言が行われている。

これらの質疑・答弁を踏まえ、現在のハローワークの求人票をベースに、新たに上記(1)に記した追加の記載事項を加え、適切な形での労働条件の記載を促すモデル求人票を作成し、総合的職場情報提供サイトにひな形として掲載していただきたい。その際には、そこに記載した労働条件を「最低保証」とするチェック欄も、ぜひ設けていただきたい。さらに、そのモデル求人票の形式に沿った求人票の普及に取り組んでいただきたい。

また、モデル求人票に準拠しない記載を行う場合にも、固定残業代が含まれているか否か、裁量労働制か否かなどが判別でき、給与と諸手当の区別も明確な、マギレのない形での労働条件記載が求職者保護の上では重要であるため、適切な労働条件の記載方法を定める省令等の制定が求められる。

(3)労働条件等は応募の前に的確に明示されていることが求職者保護のために重要であることを再確認し、当初からの的確な労働条件明示を、具体的に省令等で定めること。

職業安定法5条の3に定める労働条件等の明示はいつまでに行わなければならないのかという点について、審議の中ではやや混乱が見られた。3月15日の井坂議員の質疑に対して鈴木政府参考人は「全体としましては、労働契約を締結するまでに明示をしろという解釈になっております」と答弁した。募集時の定義を問うた3月23日の倉林議員の質疑に対しても鈴木政府参考人は「現行の職業安定法に基づきましては、職業紹介、労働者の保護に当たり労働条件を明示しなければならないとありまして、この明示につきましては労働契約を締結する前に行う必要があるというのが現行の解釈であります」と答弁した。

しかしながら、現行の職業安定法において労働条件等の明示の義務(5条の3)を設定した理由を倉林議員が問うた際には、鈴木政府参考人は「働く方が労働条件等を認識したうえで応募でありますとか事業主等との労働契約の締結に向けた交渉などを行うことができますよう、労働条件等の明示を義務付けているところ」だと答弁している。

一対一のインフォーマルな交渉の中で労働条件が決まっていくようなケースも含めた「全体として」の解釈としては、労働条件の明示は「労働契約を締結するまで」「労働契約を締結する前に」という解釈もやむを得ないのかもしれない。

しかし、求人サイトや自社ホームページなどに掲載された募集要項を確認して応募するケースやハローワークの求人票を確認して応募するケース、民間職業紹介事業における求人情報を確認して応募するケースなどでは、応募の前に確認できる形で労働条件が提示されていることが通常である。

このような場合には、当初から、言い換えれば応募のタイミングより前から、5条の3に定める労働条件等が的確に明示されていることが求職者保護のためには不可欠である。現行法も基本的には、当初における労働条件の明示を求めていると解釈するのが適切であろう。

したがって、5条の3に定める労働条件等の明示について、「労働契約を締結するまで」という現行の解釈は、求職者保護のための法の設立趣旨にかなうように、募集広告を通じた募集の場合や職業紹介事業による求人の場合等、それぞれのケースに応じて適切に当初の明示のタイミングが限定されるべきである。当初の明示のタイミングについて、省令等に具体的に定めることが求められる。

3月15日の質疑で井坂議員は労働条件の明示について、「いつまでにという部分が非常にルーズ」だったことを指摘し、「ここが一番大事ですから、いつまでに明示しなければ意味がないんだというところをしっかりと定めていただきたい」と指摘している。この指摘をしっかりと受け止めていただきたい。

(4)記載スペースに制約がある場合などにも重要な労働条件が求職者に的確に明示されるよう、記載事項と明示の時期を省令等で定めること。

職業安定法5条の3に基づき労働条件等を明示する場合、記載スペースの制約等を理由として重要な明示事項が省略されることが懸念される。そのような懸念は、3月15日に井坂議員より、また3月23日に倉林議員より、表明されている。

現行法においても、3月15日に井坂議員の質疑に対して塩崎大臣が答弁されているように、職業安定法に基づく指針(※)において、労働条件の事項の一部を別途明示することとするときは、その旨を併せて明示することとされているものの、別途の明示事項があることが示されるだけであれば、求職者保護にはつながらない。

とりわけ現状においては、固定残業代を賃金に含んでいることが当初の労働条件において明示されていないことが多く、そのことが求人トラブルの横行につながっていることを考えれば、たとえスペースが限られているとしても、賃金に固定残業代を含んでいるということが最低限わかる表示を、当初から行わせることが必要であろう。例えば、「月給25万円(含固定)」のような記載である。そのような必須の記載事項を、裁量労働制なども含め、省令等で限定列挙して記載方法とともに定めることが求められる。

そのうえで、固定残業代の場合であればその時間数と金額などの詳細は、求職者からの電話を受けるファースト・コンタクトの時点もしくは面接日程の確認時点など、現実的かつできるだけ早い時期に明示されるよう、これも省令等で定めることが求められる。

なお、交渉が節目なくゆるやかに進行し、募集を行う者が労働条件を提示するタイミングが特に確定しがたいようなケースについても、適切な労働条件明示の在り方については、省令等で定めることが求められよう。

さらに、ケースごとに様々なタイミングが考えられることから、労働条件の明示が必要な期限に関する曖昧さを取り除いていくためには、例えば次のような形で概念の整理を行った上で、ケースごとに労働条件の明示を行うべきタイミングを具体的に規定していくことも必要であろう。

●募集開始時:求人情報の公開によって不特定多数の求職者に募集の意思を表示する時点

●募集内容確認時:特定の求職者との電話等によるファースト・コンタクトの時点

●採用交渉開始時:特定の求職者との面接・交渉の開始時

●募集期間:募集開始時から、労働契約の締結に至るまでの期間

2. 労働条件の変更を安易に許容しないために、変更の場合に「合理的な理由」の明示を省令等で義務付けること。また、しっかりとした是正指導を行えるだけの法的根拠を省令等に適切に定めること。さらに、変更明示の時期についての適切な線引きをケースごとに省令等で定めること。

今回の法改正をめぐる審議では、労働条件が変更された場合にその変更点の明示を新たに義務化することよって、変更点を十分に理解したうえで労働契約を締結できるようにする、それが働く人の保護に資するという答弁が塩崎大臣より繰り返し行われた。

しかしながら、3月15日の質疑で井坂議員が強調したように、何度も面接を経た後の労働契約締結の直前になってから労働条件が変更されるような事態は、法の趣旨にかなうものではなく、避けなければならない。

また、3月23日の質疑で川田龍平議員(民進)が指摘しているように、労働契約締結時に変更点を明示さえすれば求人票といくらでも異なる労働条件で契約締結してもよいという間違ったメッセージを、今回の法改正が与えるものであってはならない。

さらに、3月23日の質疑で倉林議員が指摘しているように、変更明示さえすればよいとみなして「見かけの良い求人」で求職者をひきつける「求人詐欺」が合法化され、「求人詐欺」がますます増加するような事態は、何としても避けなければならない。

塩崎大臣も3月23日の川田議員に対する答弁の中で、「今回の改正は、募集広告あるいは求人票等で示された労働条件の変更を安易に許容するということでは決してない」と述べているが、その実効性を省令等によって担保していくことが重要である。

そのためには、3月23日の質疑で川田議員が提案しているように、当初に明示した労働条件から変更する場合に「合理的な理由」を明示させる義務を新たに設けることが、有効な方法として求められよう。

この点について鈴木政府参考人からは、一律に「合理的な理由」を明示させる義務をつけることは、負担が大きいという見解が示されているが、さらに審議・検討を深めていただきたい。

また、「合理的な理由」なく当初の労働条件から変更された場合には、「虚偽」であることの立証が困難であるケースも含めて、当初の労働条件明示が不適正であったとみなし、しっかりと指導によって是正を図っていくことが重要である。次項「3」に取り上げた新卒向けの対策と同様の、従来よりも踏み込んだ対策を、新卒に限定せずに取っていけるよう、法的な根拠を省令等で定めることが求められる。

さらに、変更明示の時期について、当初の審議では労働契約締結直前の明示であっても違法ではないような答弁も行われたが、直前の時期であれば、納得できなくても受け入れざるをえないということは十分にありうる。

そのため、3月15日の井坂議員の質疑では、「ここまでの時期であれば、法律の意味がなくなるからだめだ」ということを、省令等でしっかりと線引きすることが求められていた。

塩崎大臣からは変更明示の時期について、働く方の保護の観点から、「可能な限り速やかに行われることがのぞましい」との判断が繰り返し示されている。この「可能な限り速やかに」というタイミングについても、ハローワークの求人票による場合や次に挙げる新卒就職の場合など、ケースごとに適切な線引きを省令等で定めることが求められる。その際には、上記「1」の(4)に示したような概念整理を行うことが、合わせて必要であろう。

3. 新卒に特有の事情への対応として、当初の労働条件の適切な明示を厳しく求めていくこと。不適切な労働条件の変更に対しては改善命令や勧告、それに従わない場合にはその旨の公表など、厳正な対処を省令等で定めること。また、実態調査を行い、その結果を踏まえてさらに省令等を整備していくこと。

3月15日に井坂議員は、新卒に特有の事情を勘案したルールづくりを求めている。特有の事情として井坂議員は次の2点を挙げていた。第1に、採用内定の際が本来は労働契約の締結時であるにも関わらず、内定時には労働条件の明示が行われていないことが一般的であると考えられること、第2に、新卒就職は一回限りの機会であり、募集時からの労働条件の大幅な変更が内定直前や入社直前になって判明するのでは、やり直しができず、人生を左右しかねない問題であること、この2点である。

この新卒に特有の事情については、3月23日に山本議員も取り上げ、普通の場合よりも厳しい対処やさらなる対策の強化を求める質疑を行っている。これに対して塩崎大臣からも、新卒の場合には、労働契約締結時になってからその労働条件が募集時の労働条件から変更されていることに気づいたとしてもやり直しがきかず、「職業生活に与える影響は極めて大きい」という認識が示されている。

そのうえで塩崎大臣からは、次の通りの踏み込んだ対策をとることが答弁されている。

新卒採用におきましては、労働契約締結時の労働条件が募集時の労働条件から仮に変更された場合には、そもそも募集時において労働条件の明示義務に違反をしていたというおそれがあるとして、事業主に対して改善命令や勧告、そしてこれに従わない場合にはその旨を公表するとともに、悪質な場合には虚偽の条件を提示したものとして刑事告発を行うというような形で対策を強化することによって、こういうことがおきないようにしてまいりたい。

この答弁に示されたような踏み込んだ対策が可能となるよう、省令等で定めることが求められる。

また、このような踏み込んだ対策は、新卒に限らず、悪質性が疑われる形で労働条件の変更が見られる場合には、幅広く行えるよう、省令等で定めることが必要である。そのような対策の強化によって、今回の法改正が「改悪」となることを防ぐことが求められる。

また、前述の「1」の(3)でケースごとに労働条件の明示の適切なタイミングを定めるべきことを記したが、新卒の場合には募集要項の公開時や求人票の公開時に、必要な明示事項を網羅した明示が適切に行われるべきことを、省令等で定めることが求められる。

さらに、新卒の就職活動においては、先の3月15日の井坂議員の質疑に見たように、内定時に労働契約が成立するにもかかわらずその際に労働条件の明示が行われていないことが一般的と考えられる。その点に関連して、塩崎大臣も同日の答弁において、新卒における労働契約締結の実態を調べることの必要性を指摘している。

このため、新卒の就職活動における内定時や入社時の労働条件の明示について、実態調査を早急に行うことが必要である。さらにその実態調査を踏まえ、適切な労働条件の明示の方法について、今後、省令等の整備が求められる。

おわりに

以上、求人トラブル問題が重点的に取り上げられた3月15日と3月23日の審議の内容を踏まえ、法改正後に省令等で定めていくべき事項を検討してきた。

これまでの質疑と答弁の内容がきちんと省令等に反映されるように、議員の方々にはぜひ、適切な付帯決議を設けていただきたい。政府には、国会の審議と付帯決議を適切に踏まえた省令案を作成していただきたい。

また、法改正後にはただちに省令案の検討が労働政策審議会で行われるものと思われるが、職業安定法改正にかかわる省令案の検討は、拙速を避け、慎重に行っていただきたい。

今回の「雇用保険法等の一部を改正する法案」は一括法案であり、4月1日施行の内容も含まれているが、求人トラブルにかかわる職業安定法の改正条項については、施行は2018年1月1日となっている。

年度末にあわただしく審議することは避け、年度をまたいで慎重な検討を行っていただきたい。

(※)職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号

【3月27日16:20追記】

・上記(※)の指針の情報を追加し、あわせて下記の通り記載を修正した。

1の(3)の見出し

(訂正前)労働条件等応募の前に

(訂正後)労働条件等は応募の前に

1の(3)の本文

(訂正前)質疑の中ではやや混乱が見られた

(訂正後)審議においてはやや混乱が見られた

2の本文

(訂正前)ここまでの時期であれば、法律の意味がなくなるからだめだということを

(訂正後)「ここまでの時期であれば、法律の意味がなくなるからだめだ」ということを