「募集時とは労働契約を締結するまで」という政府参考人による法解釈は、やはりおかしい

上西作成

<要旨>

職業安定法5条の3(労働条件等の明示)における明示のタイミングについて、3月15日の衆議院厚生労働委員会において政府参考人からは、「労働契約を締結するまで」を指すとの、驚きの法解釈が示された。

しかしそれは、職業安定法による労働条件の明示の規定を骨抜きにする法解釈であり、また、法改正案の提出に至るまでの労働政策審議会等における長期にわたる検討の中で行われてきた説明と矛盾する。労働政策審議会の検討においては、「当初の明示」を指すとされてきた。「当初の明示」でなければ、求職者は円滑な求職活動を阻害される。

厚生労働省は恣意的な法解釈の変更をただちに撤回すべきであり、従来の説明通り、募集時における労働条件の明示とは「当初の明示」を指すと訂正すべきだ。

参議院の審議でも、ここでいう労働条件等の明示は「当初の明示」であることを質疑を通して確認し、そのうえで、その「当初」の時期や「明示」の方法について、省令等で適切に規定することを求めていただきたい。

求人トラブルにかかわる内容を含む職業安定法改正案が一括法案(雇用保険法等の改正に関する法律)の形で国会で審議されている。3月16日に衆議院本会議で可決され、今後、参議院での審議が始まる。

3月15日の井坂議員の質疑概要

この法改正案のうち求人トラブルに関する問題について、3月15日の衆議院厚生労働委員会において民進党の井坂信彦議員が集中的に取り上げて質疑を行った。その模様は下記の記事に整理した通りである。

求人トラブル防止のための労働条件明示。しかし「募集時」とは労働契約締結の直前までの時期を指す??(上西充子) - Y!ニュース(2016年3月17日)

井坂議員が取り上げた論点は大きく3つある。

第1は、募集時の労働条件からの変更明示義務が法改正によって新たに設けられることとなるが、その変更明示のタイミングはいつまでか、という点だ。

これについて法改正案にはタイミングに関する記載がなく、労働契約締結の5秒前でも明示義務を果たしたことになってしまいかねないことから、井坂議員は、どの時点までに変更を明示するか、しっかり「線引き」を行うことを求めた。

第2は、職業安定法5条の3(労働条件等の明示)における「募集時」(※1)とはどのタイミングを指すのか、という点だ。法改正後には指針で固定残業代の明示などが新たに求められていく予定なのだが、その明示のタイミングがいつであるのか。固定残業代の有無のような重要な労働条件が少しずつ小出しにされたのでは、円滑な求職活動はできない。

これについて3月15日の質疑では、政府参考人より、募集時とは「労働契約を締結するまで」を指すとの驚きの答弁があった。この記事ではその点について次項より、詳しく検討する。

第3は、新卒就職の特殊性への配慮である。募集から内定・入社までの期間が長いことから、新卒については他のケースとはきちんと分けた形で、ルールづくりを求めた。

これについては、塩崎大臣より、新卒でもそうでなくても、考え方は同じという答弁が行われ、学生に労働契約という意識が希薄であるなどと、論点ずらしが行われた。

「募集時」の法解釈をめぐって

さて、問題の「募集時」の法解釈についてである。

普通、私たちは「募集時」といえば、下記の「解釈その1」のように考える。しかし答弁で示されたのは「解釈その2」のような解釈だ。

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具体的に見てみよう(YouTube「井坂信彦衆議院厚生労働委員会20170315」の13分頃より)。

井坂議員は前日のうちに厚生労働省の職員に確認する中で、問題に気付いたようだ。そこでこう問うている。

●井坂議員

(略) ところがですね、この募集時というのがまたくせ者でして、私の感覚では、募集時に、「固定残業代制ですよ」とか、あるいは「有期雇用ですよ」ということを明示されるといえば、当然、募集広告、募集・求人サイト、そういったところに、「25万円、ただし固定残業代含む」とか、あるいは「有期雇用」であるとか、そういうことが書かれているのが「募集時の明示」だというふうな感覚でおったんですが、どうもそうではないようであります。

この「募集時」の労働条件というのは、いつまでに明示をしなければいけないということになっていますか。参考人に伺います。

事前に通告された質疑であったようで、鈴木政府参考人(職業安定局派遣・有期労働対策部長)がこう答える。

●鈴木政府参考人

募集時につきましては、これにつきましては、募集広告等で明示されるケースもございますけれども、紙面の関係上でそれで明示できないケースで別途明示ということもございますので、全体としましては、「労働契約を締結するまでに」明示をしろという解釈になっております。

これだと、「募集時」の労働条件は、労働契約を締結するまでに少しずつ小出しにしてもいいようになってしまう。筆者が参考人意見陳述で例示したように、下記のように固定残業代を求人広告の段階で隠すこともできてしまうのだ。せっかく法改正後の指針で「募集時」に固定残業代の明示が求められるようになるというのに、それではその意味がなくなってしまう。

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質疑の中では、何回も面接を重ねたあとになって初めて、「実は募集広告には書ききれなかったが」と伝えても違法ではないということになってしまわないかとの井坂議員の事前通告通りの質疑に対し、塩崎大臣は話をそらし、誠実に答弁しようとしていない(前回記事を参照)。

それでもなお、井坂議員が問い続けると、塩崎大臣までもが

●塩崎厚生労働大臣

募集時の労働条件について、応募をしてきた方に対して、労働契約の締結よりも前のいつまでに明示をしなければならないと、一律に示すことは困難でありますけれども、一般論として、働く方の保護の観点からは、働く方を募集する際の労働条件の明示は可能な限り速やかに行われるということが望ましいというふうに考えております。

と驚きの答弁を行うのだ。

従来からこのような法解釈が行われてきたのか?

なぜ「募集時」とは「募集の当初」(求人票や募集要項の公開時、求人広告の掲載時、等)を指すというシンプルな答弁が行えないのだろうか。3月15日に、「募集時」とは「労働契約の締結まで」を指すと答弁されたが、果たしてそのような法解釈は認められるのだろうか。

そう疑問に思って、これまでの議論の推移をたどってみた。

一つの法律案が国会に提出されるまでには、しかるべき手順を踏み、長い議論の経過を経る(図を参照)。

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今回の一括法案のうち職業安定法の改正にかかる部分については、2015年3月に労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会が有識者による検討委員会を設けることを決め(※2)、その検討委員会が16回にわたる会議を開いて「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書」を2016年6月6日にまとめた。

その報告書を労働政策審議会の部会で検討したうえで改めて「職業紹介等に関する制度の改正について(報告)」を取りまとめ、職業安定分科会、労働政策審議会を経て2016年12月13日に労働政策審議会から厚生労働大臣に対して「建議」が行われた。

その「建議」に基づき法律案要綱が作成され、それが労働政策審議会に「諮問」され、その法律案要綱が部会で検討されて、2017年1月6日に大臣に「答申」が行われた。

そういう「行ったり来たり」のプロセスを経て、ようやくその「答申」に基づいて実際の法改正案が作成されて、国会への上程に至るのだ。

このプロセスのすべては資料と議事録が公開されている。

そこで、職業安定法5条の3の「労働条件等の明示」にかかわる検討過程の議事録を確認してみたのだが、募集の当初から労働契約を締結する前までの幅のある長い期間を募集時とみなすような説明が事務局(厚生労働省職業安定局派遣・有期労働対策部需給調整事業課)から行われた形跡はない。

逆に、職業安定法5条の3は「当初の時点」における労働条件の明示である旨の説明は繰り返し行われている。以下で確認していこう。

職業安定法5条の3について、建議までの段階で語られていたこと

まず、職業安定法5条の3の条文(現行法)を確認しておこう。募集を行う企業については、太字部分が特にかかわりのある個所だ。

(労働条件等の明示)

第五条の三  公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者(第三十九条に規定する募集受託者をいう。)並びに労働者供給事業者(次条において「公共職業安定所等」という。)は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対しその者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

○2 求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者又は供給される労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

○3  前二項の規定による明示は、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により行わなければならない。

これについて、例えば2016年11月9日の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会では、次の発言が見られる。

●松本事業調整課長

今回の相違についての明示についても、義務の範囲を明確にするという観点から、そのような対象と方法を、いずれも特定しなければいけないと事務局としては想定しておりました。具体的には、最初の広告なり最初の明示の時点で書面等の明示を義務付けている項目であれば、相違の明示についても同じ手段によるのが自然ではなかろうかと事務局としては想定しております。

ここでは「最初の広告なり最初の明示の時点で書面等の明示を義務付けている項目」と説明されている。

また、法律案の骨格となる建議「職業紹介等に関する制度の改正について」(2016年12月13日)では、「職業安定法第5条の3第1項の規定による当初の明示」という表現が用いられている。

5 労働条件等の明示、指導監督等 (1)労働条件等の明示 ア 求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者は、労働契約の締結に際して提示しようとする労働条件等(職業安定法第5条の3第3項の書面等による明示が必要な事項に限る。)が、次の場合に該当するときは、その旨を、当該労働契約の相手方となろうとする者が認識できるよう書面等で明示しなければならないものとすることが適当である。 (1) 職業安定法第5条の3第1項の規定による当初の明示(以下「当初の明示」という。)において明示していなかった労働条件等を新たに提示しようとする場合  (2)当初の明示において一定の範囲をもって明示した労働条件等を特定して提示しようとする場合  (3) 当初の明示において明示した労働条件等と異なる内容の労働条件等を提示しようとする場合

これに先立つ12月7日に労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会で建議を行う報告書案が検討された際には、松本需給調整事業課長が、上記の通りの職業安定法に新しく追加すべき内容に関して、次のように語っている。

●松本需給調整事業課長

基準法第 15 条はこれまでもずっと義務で、多くは履行されていると承知しています。一方で労働者又は求職者にとって、言わば双方に勘違いや思い込みが発生しないように、その当初の広告どおりと思い込んでいる又はそのはずであったといったことが生じないように、当初の広告、説明と違っているということを明示するという意味です。

●松本需給調整事業課長

今回義務付ける(1)(2)(3)のケースは、募集の時点で明示した、ここで言う当初の明示との違いについて明示するように義務付ける内容です。労働基準法は、労働契約締結に至った後、労働者と使用者との関係に至った後の最低基準を、罰則をもって規律する法令です。求人での、当初の明示と労働契約締結の際というのは、言わばこれは職業安定法の範疇ではなかろうかと思われて、このような御提案になっています

このように2016年12月13日の建議までの段階では、職業安定法5条の3に関して「最初の広告なり最初の明示の時点」「当初の明示」「当初の広告」「当初の広告、説明」「募集の時点」などの表現が用いられていた。

なにより、建議の報告書に「職業安定法第5条の3第1項の規定による当初の明示」と表記されていたことの意味は大きい。「当初」というのだから、普通に読めばここで示されているものは「解釈その1」のようにしか読めない。「解釈その2」のように読むことは無理がある。

法律案要綱の諮問から答申まで

次に法律案要綱の諮問と部会におけるその検討(2017年1月5日)の過程を見てみよう。

建議の報告書にあった「当初の明示」という表現は、法律案要綱(諮問文)には見られない。該当箇所は次の表現となっている。

第四 職業安定法の一部改正

一 労働条件等の明示

求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者は、それぞれ、求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者(以下「公共職業安定所等」という。)の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であって、これらの者に対して職業安定法第五条の三第一項の規定により明示された労働条件等を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合(注5)は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する労働条件等を明示しなければならないものとすること。(注6)

ただし、1月5日の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において、「当初の明示」というとらえ方から法解釈を変えたといった説明は、もちろん、ない。

さらに当日の議事録によれば、 石黒議員が「当初明示した労働条件」という表現を用いて質問を行ったのに対し、松本課長は「当初」に直接かかわる返答ではないものの「お考えの通りです」と答えており、「当初」とは限らない、などとは説明していない。

●石黒委員

確認です。 12 ページの労働条件の明示です。これは報告書の所でもいろいろ議論をしてまいりました。当初明示した労働条件と異なる内容の労働条件を提示する場合は、その相手方、労働者のほうに、そのことが認識できるように書面で明示しなければならないということで、ここを変更したということが分かるように明示するというのが報告書の趣旨であると私は理解しております。一方で、要綱の 12 ページでは、「当該変更する労働条件等を明示しなければならない」とされていますが、この文言で、「変更されていることがわかるように明示する」との趣旨が間違いなく読み込めるのかどうか、確認したいと思います。

●松本需給調整事業課長

松本課長 今の石黒委員のお尋ねにつきまして、お考えのとおりです。変更された後、 ( 注 5) の場合であることが分かるように明示していただくわけです。

したがって、法律案要綱の検討過程においても、職業安定法5条の3が指す時期についての解釈が変更されたとは認められない。

衆議院本会議における塩崎大臣による3月7日の趣旨説明 (この項のみ3月21日追記)

最後に、3月7日に衆議院本会議で行われた、「雇用保険法等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明」を確認しておこう。議事録がこちらに公開されている

趣旨説明は文章を読み上げているだけなので、同じ趣旨説明の文章はその後、3月8日の衆議院厚生労働委員会と3月17日の参議院本会議でも、塩崎大臣によって読み上げられている。

ここには次の表現が見られる。

求人票等で明示した労働条件を変更しようとする場合等に、変更内容等の明示義務を課すこととしています。

職業安定法5条の3(労働条件等の明示)が「求人票等で明示した労働条件」と言い表されていることが、ここから確認できる。

おわりに

以上みてきたように、職業安定法5条の3は、建議に至る検討過程で、また法律案要綱の検討過程においても、「解釈その1」として図示したように、「当初の明示」にかかわるものであると需給調整事業課長が説明し、検討を行う委員らもそのように理解してきたとみて間違いないであろう。

にもかかわらず、法改正案を検討する国会の場になって急に、「募集時」とは「解釈その2」に見るような「労働契約の締結まで」の時期を指すのだという、それまで全く示されてこなかった解釈を政府参考人が示すというのは、認められるものではない。

厚生労働省は3月15日の井坂議員の質疑に対する答弁で行った恣意的な法解釈の変更を撤回すべきだ。そして、従来の説明通り、募集時における労働条件の明示とは「当初の明示」を指すと訂正すべきだ。

参議院の審議では、議員の方々には、ここでいう労働条件等の明示は「当初の明示」であることを質疑を通して確認し、その「当初」の時期や「明示」の方法について、省令等で適切に規定することを求めていただきたい。

なお、なぜ国会審議の段階になって厚生労働省側が「募集時」の法解釈を変えて答弁したのか、その真意は明らかではない。しかし、井坂議員の事前通告による質疑であるため、厚生労働省側がうっかりして誤解に基づく答弁を行ったとは、考えにくい。

そうであるとするならば、何らかの理由により、意図的に法解釈を変えようとした可能性も否定できない。しかし仮にそうだとすると、それは労働政策審議会における検討過程に背く法解釈の変更を、断りなく行ったことになる。

事情はわからないが、この職業安定法改正案は、もとはといえば下記の(※2)に示したように、「規制改革実施計画」に基づいて求められた法改正であり、当初の検討事項のほとんどは、「規制緩和」と位置付けられる内容であった。そうでありながら、求人と実態が違うという求人トラブル対策の重要性が検討過程の中で繰り返し問題提起され、一定の規制強化の側面が法改正案に盛り込まれてきたという経緯がある。

つまり、この法改正案は、少なくとも潜在的には、緊張関係をはらんだものだと言える。国会における審議も、その後の政省令の労働政策審議会における審議も、ぜひ慎重に臨んでいただきたい。

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(※1) 正確に言えば、職業安定法5条の3の1項には、「募集時」という表現はない。「職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり」が、それに相当する。

(※2)2018年 6 月 24 日に閣議決定された。「規制改革実施計画」において、有料職業紹介事業等の規制の見直しについて平成 26 年度に検討を開始することとされていたことから、2015年3月に一連の検討が開始されたという経緯が、さらにその前にある。議事録がこちらに公開されている。