求人トラブル防止のための労働条件明示。しかし「募集時」とは労働契約締結の直前までの時期を指す??

筆者作成

求人トラブル防止に向けて、働く者の保護につながると主張されている職業安定法改正案が本国会で審議されている。他の法律の改正案などとあわせた一括法案(雇用保険法等の一部を改正する法律案)として衆議院に提出され、厚生労働委員会での審議を経て3月16日に衆議院本会議で可決された。

この法改正案のうち求人トラブル防止にかかわる部分について、筆者は3月14日の衆議院厚生労働委員会において参考人として意見陳述を行い、この法改正案が求人トラブルの防止に実効性を持ちうるのかを問い、むしろ募集時からの労働条件の変更にお墨付きを与えかねないのではないかと疑問を呈した。その意見陳述の内容は、下記に記した通りである。

審議中の職業安定法改正案で固定残業代問題や求人詐欺問題は果たして改善に向かうのか?(参考人意見陳述)(上西充子) - Y!ニュース(2017年3月14日)

その翌日の3月15日に開かれた衆議院厚生労働委員会において、民進党の井坂信彦議員が30分の質疑時間のほとんどを使って、上記の意見陳述で筆者が提示した論点をとりあげてくださった。感謝申し上げたい。

井坂議員の質疑は主に、求人情報明示のタイミングにかかわるものであった。

その質疑の中での塩崎厚生労働大臣と政府参考人の答弁は、筆者の予想を超える驚きの内容だった。もっとも大きな問題は、「募集時とはいつの時点を指すのか、求人広告を出した時点か」という井坂議員の問いに対して、求人広告を出して数度の面接を経たあとの労働契約締結の直前ということもありうるという解釈が示されたことである

なぜそれが驚きの答弁であるのか、以下、順を追って説明していきたい。

法改正が求められるに至った立法事実 ~求人トラブルの多発と2つの類型~

まず、今回の法改正が求められるに至った立法事実を振り返ってみよう。問題であったのは「募集時の労働条件と実際の労働条件が違う」というトラブルの多発だ。「求人詐欺」「詐欺求人」などと呼ばれている。ここでは「求人トラブル」と呼ぶ。

【図表1:求人トラブルと現行法の規定】

画像

求人トラブルは大きく2つの類型に分けて考えることができる。1つは、募集時と異なる労働条件で労働契約の締結を求められる場合(※1)、もう1つは、募集時には隠されていた労働条件が、労働契約締結の段階で初めてわかる場合だ。便宜的に、前者を「第1類型」、後者を「第2類型」と呼んで話を進める。

【図表2:2つの類型の求人トラブル例】

画像

第1類型の求人トラブル:募集時の労働条件からの変更

このうちの第1類型、すなわち募集時と異なる労働条件で労働契約を締結することは、いちおう法的には許容されている。募集時の能力要件には満たない求職者について募集時よりも賃金を下げて採用に至ることや、短時間勤務を希望する求職者の求めに応じてフルタイムという労働条件を変更して採用に至ることなどもありうるからだ。

しかし、募集時と労働契約締結時の労働条件が異なることが法的には許容されていることを悪用して、そんな条件で採用するつもりがもともとないのに、見栄えの良い労働条件を募集時に提示して求職者を集める悪質な使用者が存在する。

下記の例だと、もとから「契約社員・販売職・月給17万円」で雇うつもりであったのに、募集時には「正社員・事務職・月給20万円」と表示して求職者を集める、といった方法がとられているのだ。

【図表3:第1類型の求人トラブル例(再掲)】

画像

ただしそれが、もともと「虚偽の労働条件」を提示していたのか、それとも求職者の能力・適性や希望に応じて労働条件を変更した事情があるのかは、客観的には判断しがたい。募集時に「虚偽の労働条件」を表示することに対しては職業安定法に罰則があるが(65条8号)、「虚偽」であることの立証は困難である。だからこそ、実際とは異なる見栄えの良い労働条件を募集時に提示する求人トラブルが多発する。

第1類型の求人トラブル(募集時の労働条件からの変更)に、法改正案は対処できるのか?

この第1類型の求人トラブルをどう防止するかが、第1の課題である。

今回の法改正案では、この課題に対応するために、募集時に提示した労働条件から変更する場合には、変更内容を明示する義務を新たに課している(※2)。

【図表4:職業安定法改正で目指されている(はずの)もの】

画像

一見したところ、この法改正によって「話が違う!」というトラブルが防止できそうに見え、結構なことのように見える。ただし問題は、では「その変更の明示はいつ行われるのか」、だ。

その点について筆者は3月14日の参考人意見陳述において疑問を呈した(意見陳述の第2項目)。もし労働契約締結の直前に労働条件の変更が明示されるのであれば、労働契約締結時に労働条件を書面で明示せよという現行法(労働基準法15条1項)と実質的には変わらないのではないか、と。

【図表5:「労働契約を締結しようとする場合」のタイミングに関する筆者の疑問(参考人意見陳述資料より再掲)】

画像

そして、実質的には変わらないにも関わらず、変更の場合にはそれを明示しさえすればよいと求人者に受け取られ、募集時における労働条件の明示義務(職安法5条の3)の意義がむしろ損なわれるのではないか、と疑問を呈した。

この点に関する筆者の懸念は、どうやら正しかったようである。

井坂議員の質問に対する塩崎大臣の答弁は、結局のところ、「労働条件の変更を明示するタイミングは、労働契約締結の直前もありうる」という内容であるからだ。

以下、具体的な質疑の内容を見てみよう(衆議院インターネット審議中継の録画映像より書き起こし。ただし、ある程度の要約と補足を施した。正確な質疑の内容については、後日公表される議事録をご確認いただきたい)。

井坂議員はまず、変更明示のタイミングが、法案には明記されていないことを指摘する。

●井坂議員

今回の法改正で、募集時の労働条件から変更がある場合は、変更内容の明示が義務付けられる。ただし、明示をいつまでにしなければいけないかは、どうも定められていないようだ。

そして、変更明示のタイミングは、極端に言えば労働契約締結の直前でもよいのか、と問う。

●井坂議員

労働契約を締結する、書面でいよいよ労働契約を交わす、その5分前、あるいは5秒前、そういうタイミングで、「いや、募集時の労働条件から、ちょっとここは変更があるんです。実は、募集時は25万円と言っていたんですが、20万円なんです」といった変更を、労働契約締結の5分前に求職者に告げて、変更内容を明示したとしても、それは「法律に従って明示をした」ということで、合法という扱いになるのか。

この井坂議員の質疑は、事前の通告に従ったものだったようなのだが、塩崎厚生労働大臣は正面からその質疑に答えようようとはしない。井坂議員が尋ねているのは、労働契約締結の直前になって、求人者の側が一方的に労働条件を変更してくるケースなのだが、塩崎大臣は求職者側の事情で変更する場合もある、とかみ合わない答弁を行っている。

●塩崎厚生労働大臣

労働契約の締結にあたって、個々の具体的な労働条件は、事業主と求職者との「交渉」などによって最終的に確定していくことになる。働く方の希望や能力などによっては、求人票で示された労働条件から変更される場合もある。家庭の事情とか、いろいろなことがある。

実際の労働条件が求人票などで示された労働条件から変更される場合であっても、働く方がその変更点を十分理解した上で、「納得」をしたうえで、労働契約を締結できることが大事。

「働く方の保護に資する」というのは、そういう「納得」ができて初めて契約するということにならないといけない。今回の改正では、働く方々の「納得」の上で労働契約が結ばれるようにするために、変更点の明示を新たに義務化しようということ。

労働契約締結の直前で、いきなり一方的にもともとの労働条件とは全く異なる労働条件が示されれば、「納得」するどころではないと思うのだが、変更点の明示が義務化されれば「納得」したうえでの労働契約の締結が可能となる、と言わんばかりだ(※3)。

とはいえ、全くかみ合わない答弁だったわけではなく、そのあとで塩崎大臣は次のように率直に語っている。

●塩崎厚生労働大臣

今回の改正で新たに義務化することとしている労働条件の変更点の明示は、「労働契約を締結する前」に行われていれば、もちろん違法ではない。

つまり、極端な言い方をすれば、労働契約締結の5秒前であっても、変更点を明示さえすれば、法改正による「労働条件の変更明示」の義務を果たしたことになり、違法ではない、というのが塩崎大臣の答弁なのだ。

だとするならば、今回の法改正案は、上述の図表4のようなイメージと全く違う。労働契約締結時に書面を見て、「えっ?どういうことですか?」と求職者が問い、「ああ、求人票とは変わっているけれどね」と求人者が明示すればいいことになってしまう。これでは第1類型の求人トラブルの防止には、全く寄与しない。

そのあとに塩崎大臣が語っていることは、法改正案の内容ではなく、「望ましい」あり方に対する見解の表明にすぎない。

●塩崎厚生労働大臣

働く方の保護の観点からは、労働条件が確定したのちに、「可能な限り速やかに」その変更点が求職者に伝わって、求職者が考える時間が確保されることが望ましい。

いきなり(労働契約の)寸前に出しても、考える余裕もなく、そのまま不利な契約を強いられるということが十分にありえる。(略)

改正法の施行に向けて、その(「可能な限り速やかに」という)旨を「指針」で明確化して、5分前、10分前に示したことが「事前」に示したということにはならないようにしていきたい。

もっとも、国会の場で塩崎大臣がこのように「望ましい」あり方を語るということは、今後定められる「指針」の内容に影響は与えるのだろう。その意味では、「望ましい」あり方を大臣が語ることは無意味ではない。

しかし、労働契約締結直前であっても変更明示義務を果たしたことになる、というのは筆者にとっては驚きの答弁だ。今回の職業安定法改正によって求人トラブルが改善されることを期待している多くの人にとっても、驚きの答弁だろう。

念のために付言すれば、この答弁は、塩崎大臣の誤解に基づく答弁ではない。井坂議員は、労働契約締結の直前でも変更明示の義務を果たしたことになるという解釈を、前日の14日に、担当者の方と確認されたそうだ。

●井坂議員

実は、昨日、担当者の方と1時間半ぐらい、この件を含めて議論した。担当者の方は、「5秒前でも合法です」と何度も言い切っておられた。

そのうえで、それではやはり問題だろうと井坂議員は指摘し、「望ましい」あり方に関する塩崎大臣の答弁を踏まえたうえで、

●井坂議員

このまま何もしなければ(5秒前の変更明示でも合法だと)、そういう法律になってしまっている。大臣の答弁のように、指針か省令で、ここまでの直前は、これは法律の意味がなくなるからだめだということを、しっかり「線引き」していただきたい。

と、適切な「線引き」を省令もしくは指針で示すことを、はっきりと求めている。

したがって、労働契約を締結する「前」というそのタイミングについて、省令もしくは指針でどのように「線引き」をするか、どのように条件をつけて制約するかが、今回の質疑によって、今後の課題として顕在化したことになる。

この点について、参議院厚生労働委員会では、審議を通してさらに検討を深めていただきたい。

第2類型の求人トラブル(募集時に労働条件を隠す)に、法改正案は対処できるのか?

次に求人トラブルの第2類型、すなわち募集時に労働条件を「隠す」という問題に移ろう。下記のようなケースだ。ここでは、月給20万円には最初から固定残業代5万円を含んでいるが、それを「隠している」例を挙げた。

【図表6:第2類型の求人トラブル例(再掲)】

画像

これは労働条件の「変更」ではない。第1類型の求人トラブルの場合は、「求職者の能力・適性」や「求職者の希望」によって変更した、という言い訳ができる。「君なら(20万円ではなく)17万ね」のように。しかし、「君なら、固定残業代5万円込みね」はあり得ない。

固定残業代込みで20万円なのに、固定残業代の存在を隠して「月給20万円」と表示する。これも「虚偽の労働条件」(職業安定法65条8号)にあたるように思われる。しかし「意図的に隠しているのではなく、求人票のスペースの都合で書ききれなかっただけだ」などと主張される可能性がある。

この第2類型の求人トラブルは労働条件の「変更」ではないために、労働条件を変更した場合に明示義務を課すという法改正案では対応できないのではないかと筆者は参考人意見陳述で述べた(意見陳述の第3項目目)。

【図表7: 労働条件の「変更」ではなく「省略」である場合についての筆者の疑問(参考人意見陳述資料より再掲)】

画像

また、これと関連して、今回の法改正案では成立後に「指針」が定められる予定となっており、その「指針」では賃金に固定残業代を含む場合はその時間数や金額などを「募集時」に明示することを求めることとなる見通しだが、「指針」で果たして実効性があるのかと、筆者は参考人意見陳述で疑問を呈した(意見陳述の第1項目目)。

これらの疑問を受けての井坂議員の質疑に対して、政府参考人の鈴木政府参考人(職業安定局派遣・有期労働対策部長)から、驚きの答弁が出てきたのだ。「募集時」とは、求人広告を出すなどした募集の開始時点だけを指すのではなく、求人広告を出したあとに数度の面接を経て労働契約の締結に至る、その期間すべてが「募集時」にあたる、と受け取られる答弁である。

わかりやすいように図示してみよう。常識的に考えれば募集時と労働契約締結時がいつの時点を指すかは、「解釈その1」の●印のように理解される。しかし、政府参考人と塩崎大臣の答弁によれば、募集時とは、「解釈その2」に示すように幅があるものだというのだ。

【図表8:「募集時」とはどのタイミングを指すか】

画像

実際の質疑を見てみよう。井坂議員は先ほどの第1類型の求人トラブルから話題を変えて、「そもそも募集時の労働条件を、いつ伝えなければいけないのか」を問い始める。

冒頭では、「募集時」に明示される労働条件とは何か、の確認を行っている。固定残業代が込みである、有期雇用である、派遣社員としての雇用である、裁量労働制の適用対象である、そういったことは求職者にとっては「重大な情報」である。そのような「重大な情報」は、募集時に明示しなければならないと義務付けられるようになるのかと井坂議員は問う。

それに対して、鈴木政府参考人が、有期雇用か無期雇用かについては、現行の職業安定法の施行規則によって、書面による明示が省令上、明確になっていると答弁している。さらに、固定残業代については、労働政策審議会の建議において、「指針」による明示の提言を受けていることを答弁している。派遣労働者であるか否かについても、同じく明示事項に追加すべしという建議を受けているので、法律の施行段階で、「指針、省令等」によって適切な対応をしていきたいと答弁している。裁量労働制については、現在は明示事項には列挙されておらず、建議等にも指摘がないが、今後、施行段階において、それを対象とするかどうかを含めて検討していきたいと答弁している。

その答弁を踏まえたうえで、井坂議員は、では「募集時」とはどの時点を指すのか、と切り込んでいく。

●井坂議員

この「募集時」というのがくせもの。募集時に、固定残業代であることとか、有期雇用であることを明示されるといえば、当然、私の感覚では、募集広告や募集・求人サイトなどに、「25万円、ただし固定残業代含む」とか「有期雇用」であるとか、そういうことが書かれていることが「募集時の明示」だという感覚でいた。しかし、どうもそうではないようだ。

この「募集時」の労働条件というのは、いつまでに明示をしなければいけないことになっているか。

それに対し、鈴木政府参考人は、「労働契約を締結するまで」という驚きの解釈を示す。

●鈴木政府参考人

募集時については、募集広告等で明示されるケースもあるが、紙面の関係上で明示できず、別途明示ということもある。全体としては、「労働契約を締結するまでに明示せよという解釈」となっている。

「募集時」とは「募集の開始時」ではなく、上掲の図表8の「解釈その2」のように、「労働契約を締結するまで」だというのだ。

政府としてはそういう解釈なんですね、と井坂議員は念押しをする。

●井坂議員

そうなんです。「募集時」と言いながら、「労働契約を締結するまでに」ということなので、先ほど大臣と議論した「変更を明示しなければならないタイミング」と、実は法律上は一緒なんですよ。

そうなのだ。先ほど見た塩崎大臣の答弁や、ここで見た政府参考人の答弁に従えば、募集時からの労働条件の変更明示も労働契約締結の直前でもよく、そもそも募集時の労働条件の明示でさえ労働契約締結の直前でもよくなってしまうのである。

これでは「募集時」の労働条件明示の意味が全くなくなってしまう。「募集時」というのが、募集広告や求人票・募集要項が出されるタイミングに限らず「労働契約を締結するまで」の幅のある期間を指すのであれば、求人広告等の労働条件は信用できないものとなる。求職者は「募集時」の求人広告や求人票・募集要項を見て、応募する企業を選び、面接を受け、その企業への入社の意思決定をするものなのに。

いざ入社しようという労働契約締結の段階までが「募集時」であり、その「募集時」に、先ほどみたような、固定残業代込みだとか、有期契約だとか、派遣社員としての雇用だとか、裁量労働制だとか、そういうことが初めて判明するのなら、そしてそのような対応が合法であるというのなら、指針で固定残業代の明示を新たに定めたとしても、今回の法改正案は、全く求人トラブル対策ではありえなくなってしまう。

これでは適切な求職活動を行うことは不可能だ。その点を井坂議員は問う。

●井坂信彦議員

募集時の労働条件の明示も、結局は労働契約締結より前は全部「募集時」だ、という扱いになってしまっている。

例えば求職者が、ある会社と2回、3回、4回と面接を重ねて、次はいよいよ労働契約の締結だというところまできた段階で、はじめて会社側が、

「いや、実は募集広告には書ききれなかったが、当初から有期雇用の求人だったんですよ」

と、当初の労働条件の詳細を、労働契約締結の直前に明示しても、これは違法ではないということになってしまいませんか。通告の通りの質疑です。

しかし塩崎大臣は、話をそらそうとしているのか、当初に明示した労働条件の「変更」について語り始める。

●塩崎厚生労働大臣

ご指摘のように、当初明示をしていなかった労働条件を後から追加するというのは、当初明示した労働条件の変更に該当する。この変更じたいは、現行でも今回の改正後でも、必ずしも違法となるわけではない。今回の改正では、このような場合に、働く方がその変更点を理解できないままではよくないということで、できるように明示しなければならないことにしている。

「変更」というのは、前に示した第1類型の求人トラブルだ。井坂議員がここで問うているのは、隠されていた労働条件(実は固定残業代を含んでいるとか、雇用形態について特に明示はしていなかったが実は有期雇用契約であるとか)が後出しで示されるという、第2類型の求人トラブルだ。

塩崎大臣は第1類型の求人トラブルも第2類型の求人トラブルもごっちゃにして答弁している。だから井坂議員は、ちゃんとこちらの質問に答えよ、と改めて問い直す。

●井坂議員

今議論しているのは、当初の労働条件の明示。(略)「言っていなかったかもしれないけれども、当初から有期雇用の募集だったんですよ」といったケース。

その当初の募集条件の明示が、結局労働契約の直前になっても、現行法では合法になってしまうのかどうか。

それに対し塩崎大臣は、曖昧な答弁を行う。

●塩崎厚生労働大臣

募集時の労働条件について、応募をしてきた方に対して、労働契約の締結よりも前のいつまでに明示をしなければならないと、一律に示すことは困難。

「いつまでに明示をしなければならないか」がはっきりしていないとなれば、どういう問題が生じるか。井坂議員は具体的なケースを想定して、なお食い下がって問題を再度指摘する。

●井坂議員

大臣、ここは一般論どまりではいけない。(略)

(普通であれば)当然、募集時の条件は(求人)広告に書く。広告に書けなければ、最初に面接するか、最初に応募の電話があったとき、つまりファーストコンタクトのときには、「広告には書いていないけれども、これは有期(雇用)の募集ですからね」などと、普通は言うと思う。

ただ、現行法上はそんな期限は全くなくて、契約締結の直前に、「いや、募集時から有期雇用でしたよ」「いや、書いていなかったけれども募集時からそういう条件でしたよ」と、合法的に言えてしまうことになっている。

そして井坂議員は、具体的な提案を行う。

●井坂議員

募集時の労働条件について、なんでもかんでも募集広告に全部書きなさいというのは、規制としてやりすぎ。実務上もスペースに書ききれないなど、あるだろう。

しかし、固定残業代込みだとか、裁量労働制だとか、有期雇用だとか、派遣社員だとか、そういう、求職者側から見て「死活的な条件」に関しては、言うならば、「有期だとわかっていたら、そもそも応募すらしていないわ」というような、そういう「死活的な条件」に関しては、「限定列挙」で、今申し上げたぐらいの項目でいいと思うが、それはやはり募集採用広告に書きなさいといったルールが必要なのではないか。

あるいは、募集採用広告にどうしてもスペース上の制約があって書けない、そういうやむを得ないときは、ファーストコンタクト、最初に電話をもらったときに、きちんと伝えなさい、といったルールが必要なのではないか。

「募集時の明示」なのだから、「募集時」なのに、ずるずると、「契約締結の直前まで募集時だ」みたいな今のルールはおかしい。(略)

ブラック求人をなくし、労働者を保護するという考え方からすれば、(今、提案したような)こういうルールをつくるのは当然だと思いますが、大臣、検討いただけないか。

ここでの井坂議員の指摘は、実にもっともなものだ。しかし塩崎大臣は、労働契約締結の直前では「募集時」の労働条件明示として不適切であるという井坂議員の指摘を肯定しない。

●塩崎厚生労働大臣

いずれにしても、労働条件等の明示で、本契約の前に示す、そこですべてのことは最終的に決まる。

それに対し、井坂議員は、「当初の募集時の労働条件」がちゃんと明示されることが非常に重要なのだと、重ねて指摘する。

●井坂議員

「当初の労働条件の明示」は「当初」ですから、その条件が自分の望むものでは全くないならば、そもそも応募はしない。応募するかしないか、その会社への求職活動に大事な時間を割くのか割かないのかを判断するための「当初の労働条件」ですから、これは広告に書く。どうしても書けないときはファーストコンタクトのときに伝える。これは当たり前だと思いますが、もう一度答弁いただけないか。

それに対し、大臣はようやく、

●塩崎厚生労働大臣

基本的な考え方は、そのとおりだと思う。

とのみ、答弁している。

求職者が応募先を検討し、具体的な求職行動を始める時点で的確に労働条件が明示されていることは、求職者保護のためはとても重要なことだ。

井坂議員がここで指摘しているように、有期雇用だとか、固定残業代込みだとか、そういう、「求職者にとって死活的に重要な条件」については、「限定列挙」したうえで、求人広告等の「当初」の時点で明示させるルールが必要だ。

そのようなルールが設定できるように、ぜひこの点も参議院厚生労働委員会において、審議を通してさらに検討を深めていただきたい。

新卒入社まで実際の労働条件がはっきりしないという問題について、話をそらした塩崎大臣

最後に井坂議員が触れたのは、新卒採用における契約締結にかかわる論点である。

「当初」の募集の段階で的確に労働条件が明示されるということは、新卒就職の場合は特に重要だ。募集要項の公開から内定まで、そして入社まで、長い期間があるからだ。

【図表9: 新規大卒採用の募集から入社までのプロセス(参考人意見陳述資料より再掲)】

画像

井坂議員はまず、新卒採用において労働契約締結時とはいつの時点を指すか、を問うた。

●井坂議員

新卒採用における契約締結時とは、いつの時点か。

それに対し山越政府参考人(労働基準局長)は

●山越政府参考人

新卒者については、採用内定時に労働契約が成立するケースがある。そういうケースについては、採用内定の際が労働契約の締結の際ということになる。

と答弁している。

次に問題になるのは、では内定時が労働契約締結時であるのなら、内定の時点で労働基準法15条1項により、実際の労働条件が内定者に書面で交付されなければならないはずだが、実際に書面交付が行われているのか、だ。

●井坂議員

内定時、内定をもらうときが労働契約の締結時ということになる。

ところがその新卒採用における内定時、このときに、労働基準法でしっかりと義務付けられた労働条件の明示、これが行われているか。また、書面の交付が行われているか。実態はどうか。

その問いに対して山越政府参考人は、労働基準法15条(労働条件の明示)違反は、平成27年に全体で15,545件あって是正指導しているが、新卒を区分けしていないので、その点の実態把握はしていない、と答弁している。

井坂議員は実態把握をしていただきたいと述べたうえで、

●井坂議員

個人的に知る限りでは、内定時に労働契約の締結、ましてそれを書面で、などということは、もう、ごくごく少数派だと思う。

と、現状の問題点を指摘している。

上記の図表9に示したように、新規大卒の就職活動では、3年生の3月に募集要項が開示される。ちょうどいまの時期だ。それに基づいて学生は応募先を決め、就職活動を行う。エントリシートを書き、適性検査を受け、何度も面接を受ける。

そういうプロセスを何社も繰り返してようやくたどり着いた内定時でさえ、実際の労働条件が書面で交付されず、入社時になって初めて実際の労働条件がわかるというのが実態であれば、それが当初に確認した労働条件と異なる場合、時間を巻き戻して就職活動をやり直すわけにもいかず、学生は厳しい状況に置かれてしまう。

だから、内定時にきちんと実際の労働条件が明示されることも大切であるし、また、長い就職活動プロセスの開始時点である3月の時期(=募集要項が公開される「当初」の時期)に、固定残業代の有無や正社員か否かなどの「死活的な条件」を含めた形で的確な労働条件が明示されることは、新卒就職の場合に特に重要だ。

そのため、井坂議員は

●井坂議員

一般論としての議論に加えて、新卒採用に関しては、まさに、本当に「募集時の条件」は「募集時」にははっきり明示をしていただかないと、これは人生を狂わす話になる。新卒はきちんと分けて、その深刻さも認識したうえでルールをつくっていくという考えを答弁いただきたい。

と求めるのだが、塩崎大臣は

●塩崎厚生労働大臣

これは新卒でも新卒じゃなくても、考え方は同じだろう。

と、新卒の特殊事情を見ようとしない答弁を行う。さらに、学生側に問題があるかのように、論点をずらす。

●塩崎厚生労働大臣

新卒一括採用というのが長らく続いているから、なんとなく内定を得ることが目的化してしまっている。(略)

本来は、学生で、新卒採用されるよう就職活動をするときも、労働条件ははっきり知っていたうえで労働契約を結ぶことが大事だが、今の学生さんは、あまり「労働契約を結ぶ」という発想が希薄だったと思う。今までは。

しかし、そういうこともしっかりと学んでいただきながら、労働条件はきちっと把握したうえで労働契約を結ぶというのが望ましい形だろう。

この塩崎大臣の答弁は、労働条件をちゃんと確認しない学生の側に問題があるかのような答弁だ。

しかし、これまで見てきたように、もし「募集時」とは労働契約締結の直前までの時期を指し、求人広告や募集要項が公表される段階では死活的に重要な労働条件が隠されたままでも法的に問題がないというようなことになれば、いくら学生が募集要項を丹念に確認しても、求人トラブルは起こり続ける。

それを分かっていながら塩崎大臣がこのように答弁したとすれば、きわめて不誠実な答弁だと筆者は考える。

井坂議員は質疑の時間の制約もあったのだろう。下記のように質疑を締めくくっている。

●井坂信彦議員

労働条件の明示、これが今回義務付けられるわけだが、「いつまでに」という部分が非常にルーズだった。ここが一番大事。いつまでに明示しなければ意味がないんだ、というところを、しっかりと定めていただきたい。

今後の課題

以上、長くなったが、3月15日の衆議院厚生労働委員会における民進党・井坂信彦議員と塩崎厚生労働大臣(および政府参考人)との質疑の内容を紹介した。非常に密度の濃い質疑であり、また、多くの課題が明らかになった質疑であった。

今後は参議院厚生労働委員会の審議において、下記の諸点が慎重に検討されなければならないだろう。

(1) 募集時の労働条件を変更する場合は、その変更点を明示するタイミングについて、省令などでしっかりと適切な「線引き」を行うべき

井坂議員が明らかにしたように、この法改正案だけでは、労働契約締結の直前であっても変更明示の義務を果たしており違法ではない、ということになってしまう。それでは求職者の保護には全くつながらない。

「可能な限り速やかに」というだけでなく、変更がある場合にその点について早期に求職者が理解し、他社への求職活動も含めた求職活動全般を適切に行えるよう、適切な「線引き」を行う必要がある。

(2)「募集時」とは「当初」の時点を指すと、適切に限定されるべき

求人広告を出した「当初」の時点から労働契約締結の直前までの期間すべてを「募集時」とするのであれば、募集時における労働条件の明示を定めている職業安定法5条の3は、その存在意義を失ってしまう。

そのような法解釈は許してはならない。「募集に当たり」という職業安定法5条の3の表現は募集の「当初」の時点を指すものであることが、適切に限定されなければならない。

なお、厚生労働省は若者雇用促進法の施行にかかわる審議過程で、労働政策審議会に下記の図を示している。ここでは「募集時」とは、「当初」の一時点を示している。募集開始から労働契約締結までの長い期間すべてを「募集時」とみなしているわけではない。

画像

出所:第66回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会(2015年9月18日)参考1のp.2

これが常識的な理解だろう。その常識的な理解に沿って的確な法解釈が行われるように、「募集に当たり」とは「当初」の時点を指すことが、適切に限定されなければならない。

(3)「募集時」を「当初」に適切に限定した上で、その「募集時」には死活的に重要な労働条件が確実に明示されるよう、記載事項と記載方法を省令で確定すべき

井坂議員が指摘していたように、賃金に固定残業代が含まれているのか否か、期間の定めのない雇用なのか期間の定めのある雇用(契約社員など)なのか、裁量労働制が適用された職種なのか否かなどの死活的に重要な労働条件は、「当初の労働条件」に的確に明示されなければならない。そうでなければ、求職者は適切に求職活動ができない。

そのため、「当初の労働条件」に必ず明示すべき事項については、限定列挙の上で、「指針」ではなく、強行規定である「省令」に定めるべきである。記載の方法や伝え方についても同様である。

また、その「当初の労働条件」の適切な記載方法について、筆者が参考人意見陳述で指摘したような「モデル求人票」を厚生労働省が作成し、その「モデル求人票」に従って適切に記載された求人票を「総合的職場情報提供サイト(仮称)」に掲載するように、各企業に促すべきである。

参議院厚生労働委員会では、ぜひここに記した論点や課題・提言を踏まえた審議をしていただきたい。また、時間的な制約の中で十分に審議を尽くせない部分については、必要な見直しを早期に行えるよう、付帯決議に明記していただきたい。

***

(※1) 実際は、労働契約の締結時に書面の交付も行われず、働き始めてから「話が違う」とわかる場合や、さらにあとになって最初の給与支給日になってからはじめて「話が違う」とわかる、という場合もある。ただし、今回は職業安定法の改正にかかわる問題であるため、その点には深入りせず、募集時と労働契約締結時の労働条件の相違に論点を絞って論じた。

(※2) 法改正案では職業安定法5条の3(労働条件等の明示)の2項のあとに、下記の3項が新たに追加されることとなっている(太字は筆者による)。

求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者(供給される労働者を雇用する場合に限る。)は、それぞれ、求人の申し込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であって、これらの者に対して第一項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(以下この項において「従事すべき業務の内容等」という。)を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令で定める事項を明示しなければならない

(※3)塩崎大臣はこの15日の答弁の中で何度も、求職者が「納得」したうえで労働契約の締結に至ることの重要性を強調している。それが今回の法改正案の意義であるかのように。その「納得」の意義を高めるためか、「納得」できないまま労働契約の締結を求められる「強要」という表現がそれと対比的に用いられている。15日の民進党・柚木道義議員による質疑の最後の部分で、塩崎大臣は答弁の中で「強要」という表現を二度使い、「強要」されて本契約を結ばされることは避けなければいけないと主張している。しかし、労働契約締結は、言うまでもなく「同意」に基づくものだ(労働契約法3条)。もし同意できない内容で労働契約の締結が「強要」されているのが問題だというならば、それは「募集時」の労働条件の明示にかかわる職業安定法に関する問題ではなく、「労働契約締結時」の労働条件の明示にかかわる労働基準法に関する問題だろう。「強要」される労働契約という想定と対比する形で「納得」という表現が繰り返されているということからは、今回の法改正案が、求人トラブルに対して実効性が薄いことを隠すためのキーワードとして「納得」が使われているのではないかと推測させる。

【3月18日付記】

●3月15日の衆議院厚生労働委員会における井坂信彦議員の質疑は、下記のYouTubeが見やすい。

井坂信彦衆議院厚生労働委員会20170315

●労働基準法15条(労働条件の明示)違反は、平成27年に全体で15,545件あって是正指導しているという山越参考人の答弁があるが、このデータは「平成27年労働基準監督年報」のp.40の最終行に記されている。