就活は「自分の足で・目で」というアドバイスに欠けているもの―募集要項の確認と客観情報の活用を

石田眞・他『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)p.73

今年も就活が本格開始した。毎年気になることがある。下記の3月1日の毎日新聞社説に見られるような、お決まりのアドバイスだ。

先入観やイメージに振り回されず、合同説明会に足を運んでさまざまな業種の企業から話を聞いてみることも必要だろう。ウェブサイトで得られる情報は限られている。説明会で直接担当者から話を聞き、その企業が持っている雰囲気や文化に触れることも大切だ。

出典:2017年3月1日毎日新聞社説「就活スタート 視野広げて将来選ぼう」

「ウェブサイトで得られる情報は限られている」というときの、その情報とは何なのか。採用企業の見栄えの良いPR画像を鵜呑みにしたり、根拠の薄い噂に振り回されたりすることだけを想定していないか。このような書き方こそが、就職活動というものに対する「先入観やイメージ」ではないのか。

3月1日は「募集要項」の開示日

この社説には大事なことが抜けている。「会社説明会」と「エントリーシート」という言葉はあるが、「募集要項」という言葉がないのだ。

来年春に卒業する大学生・大学院生などの採用に向けた主要企業の会社説明会がきょう解禁され、就職活動(就活)が本格スタートする。

出典:同上

しかし3月1日とは何よりも、募集要項が開示される日として認識されるべきだ。そして、募集要項で労働条件を確認した上でエントリー(プレエントリー)(※1)を行ったり、会社説明会の参加申込を行ったりするという手順が、常識になるべきだ。

もちろん、それまで関心をもってこなかった業界や企業に合同企業説明会で目を向けることもあってよいだろう。しかし、募集要項も見ないで闇雲に企業説明会に足を運ぶことはお勧めできない。その、本来は当たり前のことが、この社説には抜けているのだ。この社説に限らないのだが。

「募集要項の確認」という手順が抜けている就活アドバイス

応募前に募集要項を確認するのは当たり前だろうか。調査結果が見当たらないので確かなことは言えないが、あまり当たり前ではないように思う。「募集要項をしっかり確認しよう」というアドバイスさえ、実はちゃんと行われていないことが多いのではないか。

たとえば「リクナビ2018」の「お役立ち」コーナーには「いつ? 何を? どうするの? 押さえておきたい就活スケジュール」という記事があるが、「自己分析」「企業研究」「エントリーシートや履歴書」「筆記試験」については説明があるものの、「募集要項」については説明がない。

「まあ、そりゃ、就職支援業者のアドバイスだから」というわけではない。大学のキャリアセンターから就職活動のガイドブックを配布されている学生も多いと思うが、その中身を確認してほしい。果たして「募集要項の確認」という手順は書かれているだろうか。「募集要項の見方」の説明はあるだろうか。実はそこがすっぽりと欠落しているのではないか。

「どこも同じ」ではない募集要項記載の労働条件

募集要項には賃金や労働時間などの労働条件が記載されている。各企業の情報欄のうち、リクナビなら「採用情報」、マイナビなら「採用データ」、キャリタス就活なら「採用情報」の欄を下にたどっていくと、該当の記載がある。

特に確認すべきは賃金に関する記載だ。

「大卒の初任給は、どこでもだいたい同じ」と思っている人もいるかもしれない。しかし実は、「だいたい同じ」に見せかけたり、「他より高い」と見せかけたりしている場合があることは知っているだろうか。下記のように。

出所:石田眞・他『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)p.73
出所:石田眞・他『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社)p.73

この図で、白の部分は基本給、水色の部分は残業代だ。本当はA社の基本給が最も高いにもかかわらず、残業代を初任給に含みこませることによって、B社はA社と同じ賃金であるように見せかけることができ、C社はより高い賃金であるように見せかけることができてしまうのだ。

固定残業代の詳細表示がようやく今回の募集要項では実現

このように賃金にあらかじめ一定額の残業代を含ませる制度は「固定残業代制」と呼ばれる。それが適切に表示されないと、上記のような誤認が生じる。そしてそのような誤認を招く初任給表示はこれまで横行していた。

それはさすがにまずいだろうということになり、2015年9月に厚生労働省が指針を出し、若者を対象とした求人では固定残業代の詳細を適切に表示することを求めた(※2)。

本来は今の4年生の就活が始まる2016年3月の段階で募集要項において適切な表示がされるべきだったのだが、一部の企業は対応したものの、適切に対応しない企業も多かった。そして就職ナビサイトも募集企業に対し、適切な記載を求めるという対応が不十分であった。

朝日新聞の調査により、新卒求人における固定残業代の詳細明示が不徹底である実態が判明(上西充子) - Y!ニュース(2016年5月27日)

では1年後の現在、2018年4月入社の現3年生向けの募集要項ではどうなっただろうか。1年前と比べると、どうやらようやく、適切な表示がされるようになったようなのだ。

マイナビ2017とマイナビ2018から、東証一部上場企業X社の募集要項における賃金の記載を比べてみよう。

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お分かりだろうか。マイナビ2017のX社の募集要項では「諸手当」欄に「時間外手当」と書かれているため、20万円前後の初任給とは別に実態に応じた時間外手当(残業代)が支給されるように見える。

しかしマイナビ2018のX社の募集要項と照らし合わせると、実はその20万円前後の初任給の中に30時間分の残業代が含まれていたことが分かるのだ。そして基本給は143,100円であることがマイナビ2018のX社の記載からは新たに分かるのだ。

マイナビ2018のX社の募集要項から振り返ってみれば、マイナビ2017におけるX社の募集要項の記載は、とても不誠実なものに思える。しかし今はそのことについては、それ以上は触れない。

ここでは、ようやく固定残業代の詳細表示が実現したことを評価したいと思う。そして、ようやくそのような詳細な情報が開示されたのだから、そこはしっかり学生に確認してほしいのだ。

就活についてアドバイスする大人も、募集要項を確認して、わからない記載があれば読み飛ばさずに、わかる人に聞くように、と伝えてほしい。

「ウェブサイトで得られる情報は限られている」と先の毎日新聞の社説は述べている。しかし、上記の募集要項の記載は、ネット上で誰にでも公開されている情報であり、とても大事な情報だ。マイナビ等に個人情報を登録しなければ見られない情報でもない。まずはそれをしっかり確認しよう、と呼びかけるべきではなかったか。

「初任給」ではなく「基本給」表示であることの意味

もう一つ、このマイナビ2018の表示で注目されるのは、従来は「初任給」という項目設定であったのに対し、今回は「基本給」という項目の設定に変更されている点だ。

「初任給」だと残業代や住宅手当、交通費などを含ませることもできてしまう。それを防いで正味の基本給額を学生に伝えようという明確な意図がマイナビ側にあったものと推測される。その点は評価したい。ちなみにリクナビとキャリタス就活では「初任給」項目のままだが、固定残業代の詳細表示はマイナビと同様になされているようだ(※3)。

もっとも「初任給」ではなく「基本給」を明示することは、従来から固定残業代制を採用してきた企業にとっては、抵抗感が強いだろう。下記のY社(こちらも東証一部上場企業)の事例は、固定残業代については一応詳細表示しているものの(※4)、基本給の明示については抵抗している事例のように見える。

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Y社についても、マイナビ2017における記載を見る限りでは、25万円という高めの初任給の中に残業代が含まれていることが推測できる記載はない。しかし実は45時間分もの残業代が含まれていたということが、マイナビ2018における記載からは分かる。

ただし、そこまでは情報開示しても、基本給の額については情報開示したくないようだ。そのため、「基本給」という項目であるにもかかわらず、「月給」という表示で25万円という従来通りの額が提示されている。25万円から5万5310円を差し引いた額が基本給なのか、それとも他のものも含んでいるのかは、ここからは判然としない。

このように、この3月に公開された募集要項における労働条件は、従来に比べて記載が詳しくなっており、かつ、記載の内容を詳しく比較してみれば、労働条件明示の方向に各企業がどこまで前向きに対応しているかという姿勢も読み解くことが可能なのだ。

各就職ナビサイトでは、募集要項を確認しなくてもエントリー(プレエントリー)と企業説明会の申込がそれぞれボタンひとつでできるようになっている。しかし、見落とすべきでない情報が募集要項にはあるということが分かっていただけただろうか。

職場実態に関する客観的な情報もネットからある程度は入手可能

ここまでは募集要項における労働条件の記載項目に着目すべきことを書いてきた。既に長くなってきたので以下は簡略な記載にとどめたいが、職場実態に関する客観的な情報もネットからある程度は入手可能だ。

各就職ナビサイトにも、一定の情報の掲載がある。たとえばリクナビ2018は、募集要項と同じ「採用情報」の欄に「参考データ」の項目があり、平均勤続年数や月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数などの学生にとって知りたい情報が開示されている。ただし、開示する項目は各企業が選んでいるようで、そのような項目をそもそも設けずに、過去3年間の男女別新卒採用者数のような、比較的開示に抵抗が少ない内容だけを開示している企業もある。

そのような情報開示の姿勢の違いは、一社の情報だけを見るのではなく、比較して初めて見えてくる。そのため、各社の募集要項記載があるページは、プリントアウトして比較し、保存しておくことをお勧めしたい。保存しておかないと、募集が終了するとその情報ページは消えてしまう。違う条件で労働契約を迫られるリスクに備えるためにも、情報の保存は重要だ。

他にも厚生労働省が「女性の活躍推進企業データベース」をネット上に公開しており、各企業における雇用管理区分(総合職、一般職など)ごとの労働者の平均残業時間など、男性にとっても有益な情報を得ることができる。

その他、ネット上のビジネス記事や図書館で利用できる新聞データベースなども就職活動に活用できる。またネット上ではなく有料の書籍になるが、東洋経済新報社が毎年出している『就職四季報』(総合版、女子版、優良・中堅企業版の3種類)も各企業における働き方にかかわる客観的な情報を得るためには非常に有益なツールだ。それらの情報活用については、下記を参照してほしい。

麓幸子「2018就活 正しい情報収集、会社選び…ポイントは4つ 働きがいはあるか? ブラック企業ではないか? ここをチェック」(日経ウーマンオンライン2017年3月1日)

募集要項で労働条件を確認すること、そして職場の実態にかかわる客観情報を活用することは、「自分の足で」「自分の目で」確認することと同様に大切なことだ。そのことは、そろそろ常識になってほしい。

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(※1)就活ナビサイトなどを通じて学生が個人情報を企業側に送り、その企業に関心があることを示すこと。マイナビやキャリタス就活は「エントリー」、リクナビは「プレエントリー」という言葉を使っている。その後、その企業から選考に関する案内がダイレクトに届くようになる。

(※2)固定残業代について、詳しくは石田眞・浅倉むつ子・上西充子『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年3月)の「残業代込みの月給、これってあり?」の項目(p.72-75)を参照していただきたい。なお、当該ページは旬報社の書誌情報ページから「立ち読み」機能を使って閲覧が可能となっている。

(※3)ただし、現在でもかたくなに固定残業代の存在を隠している企業があるかもしれない。そのような企業の実態は就職ナビサイト側も把握できないだろう。その点からも、募集要項のデータを保存しておき、説明が変わってこないか、労働契約の段階で違う労働条件が提示されないか、確認することが重要だ。

(※4)厳密に言えば、Y社の募集要項における記載は厚生労働省の指針に十分には従っていない。指針では「固定残業代を除外した基本給の額」の明示も求められているが、Y社はそれを明示していないからだ。指針について、詳しくは若者雇用促進法に関するページのリーフレット「青少年の雇用の促進等に関する新たな指針の適用が始まりました!」を参照されたい。

■3月6日追記■

上記の記事について、「うちはB社だ」「うちはC社だ」という反響もいただきました。B社やC社のような場合、一定の金額を「残業代」として示され、どれだけ長時間の残業があってもすでに残業代は支払い済みだから、という運用も実際には横行しているようですが、これは違法です。

「固定残業代」とは、「固定」という言葉から「残業代は固定でもしょうがないんだ」と誤解されがちですが、あくまでその固定額は一定時間の残業に対応しているものであり、それを超える残業時間に対しては追加の残業代の支払いが必要です。

そのため、上記のX社の募集要項でも、「超過分は発生都度支払い」という注記が添えられているのです。上記(※4)の厚生労働省の指針は、「固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うことなどを明示すること」を求めています(この点についてもY社の募集要項は指針が求める記載を欠いています)。

固定残業代を適法に運用するにはかなり高いハードルがあり、実際は違法な運用が横行しているといわれています。自分の会社もそうなのではないか、と思われる方は、ぜひ下記の嶋崎量弁護士(日本労働弁護団事務局長)の記事をご確認ください。なお、日本労働弁護団のホームページには、電話による無料相談の案内もあります。

嶋崎量「固定残業代は、ブラック企業が良く似合う?」- Y!ニュース(2014年7月21日)