派遣法改正、9月30日施行を強行するのは無理というもの

9月27日の国会会期末が迫る中で、安保法案と派遣法改正案という2つの与野党対決法案の行方が緊迫した状況になってきた。安保法案の審議も連日問題が噴出しているが、派遣法改正案の審議も混迷の度合いを深めている。

成立を急ぐ中での4つの問題

委員会採決への地ならしなのか、9月3日の参議院厚生労働委員会では午前中に2時間、安倍首相を迎えての質疑が行われた。その終盤での社民党・福島瑞穂議員の次の発言が、現在の問題を端的に示している(録画(注)の2:00:50すぎ)。

施行日をとっくに過ぎました。政省令41個、作らなければなりません。できないですよ。9月30日までやって、10月1日超えをさせないという、動機において不純であり、立てつけにおいて無理である、こんなアホなことはやめた方がいい、と思っております。

福島議員はここで何を指摘しているのか。簡単に説明しよう。

問題その1:法案に書かれた施行日は既に過ぎている

現在審議されている派遣法改正案は3月13日に国会に提出されたものであり、施行日は9月1日とされている(法律案要綱)。昨日は9月3日。つまり、既に施行日を過ぎた状態で、9月1日施行と記された法案の審議が行われているのだ。

施行日を9月30日に変更する修正案を与党は提出する予定とも報じられているが(下記の記事を参照)、まだ修正案は委員会に提出されていない。

派遣法改正、急ぐ政府 未成立で施行予定日 制裁、来月から新制度(朝日新聞9月2日)

施行日を過ぎた時点で自動的に廃案にならないのが不思議なのだが、審議は続けられている。

問題その2:施行日までに政省令は作れるのか

上記の通り、既に法案の施行日は過ぎているので、それでも法改正するためには、施行日を記した条文の修正が必要になる。その場合、参議院厚生労働委員会で修正案が提出され、採決が行われ、参議院本会議で可決されても、修正を施した改正案を衆議院で改めて可決しなければ法案は成立しない(衆議院本会議では9月1日施行とした法律案を6月19日に可決済み)。

そして、仮に法案が成立しても、関連する政省令を施行日までに整える必要がある。作らなければならない政省令は41項目に及ぶそうだ。作成にあたっては労政審の審議も必要になる。果たしてそれらの作業は9月30日施行に間に合うのか。

通常であれば、法案の成立から施行までは数か月の期間は設けられる。下記の記事のグラフに示されている通り、従来の派遣法改正では公布から施行まで、最短でも4.8ヵ月の期間が設けられていた。しかし、9月30日施行であれば、既に1ヵ月の期間も割り込んでいるのだ。

派遣法案の施行日、到来!! まぁ、まだ成立してないんですけど。(佐々木亮) - Y!ニュース

上記の佐々木亮弁護士の記事より転載
上記の佐々木亮弁護士の記事より転載

問題その3: 10月1日施行予定の内容を無効にするために、1日前の改正法施行を画策

2012年に行われた派遣法改正には、まだ未施行の条文があり、それは来る10月1日に施行することになっている。「労働契約申込みみなし制度」と呼ばれる内容であり、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたものとみなす制度だ。

現行法では専門26業務と呼ばれる業務に従事する派遣労働者は派遣の期間制限がないが、その他の一般業務は原則1年、最長3年という業務単位の期間制限が設けられている。しかし、派遣先がその期間制限を超えて派遣を使い続けている例も多い。そのため、未施行であった「労働契約申込みみなし制度」が10月1日に効力をもてば、期間制限違反の状態で派遣就業していた労働者は、派遣先に直接雇用を求めることができる。

それを阻止しようとして、なんとか10月1日より前に改正法を施行させようと躍起になっているのが現状だ。下記の記事は、「土壇場で当事者の希望を奪うやり方はひどすぎないか」と、そのような動きを批判している。

派遣法改正案 土壇場で希望を奪うのは(西日本新聞9月4日)

また、10月1日をまたぐ形で派遣契約が締結されている場合、その派遣労働者に対しては経過措置によって10月1日に「労働契約申込みみなし制度」が効力を持つのではないか、という議論もある。

【マニアック】派遣法案附則9条問題の解説と迫る強行採決の危険!(佐々木亮) - Y!ニュース

なお、施行日の前にその内容を無効にするための法改正が画策されているのは、極めて異例な事態であるらしい。

問題その4:すべての派遣労働者に対する、周知期間がとれない

今回の法改正案は専門26業務に従事している派遣労働者を含め、一律に個人単位の期間制限を3年とする大きな制度改正を含んでいる。派遣元に無期雇用される派遣労働者の場合は、期間制限の対象外となるというのも新たな変更点だ。一定の派遣労働者に対して派遣元による教育訓練が義務付けられるなど、派遣労働者が知っておくべき変更点も多い。しかし、法改正が行われていないため、「このように法改正されました」という派遣労働者向けのわかりやすいリーフレットなどは、当然ながらまだ公表されていない。

一方で、派遣労働者は3ヵ月などの短期間の細切れ契約を更新して同じ派遣先で何年も就業している場合も多い。そういう場合、10月1日に新たな派遣契約が締結されることもありうる。9月30日施行の法改正が行われれば、10月1日からの派遣契約は改正法が適用される。現時点でまだ周知も行われていない変更に基づく派遣契約の内容を、派遣労働者が十分に理解した上で、派遣元と雇用契約を結び、派遣先で就業すると想定することには、相当無理がある。

このような無理は審議の中で繰り返し指摘されているにも関わらず、法案に記された9月1日の施行日を修正して、何とか10月1日より前に改正法が施行できるようにと強行採決が画策されているのが現状のようだ。

次の審議は9月8日

参議院厚生労働委員会における次回の派遣法審議は9月8日の午前中に行われる予定。何が進行しているのか、注視していただきたい。

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(注)参議院インターネット審議中継のサイトから、9月3日の審議内容の映像を確認することができる。カレンダーで9月3日を選び、厚生労働委員会をクリックすると、映像を見ることができる。実際の委員会のやりとりを確認していただきたい。