採用時期が分散した今年、「オワハラ」にどう対処するか

「オワハラ」(就職活動終われハラスメント)の実態と背景

売り手市場と言われる今年の就職活動。しかし、第一希望ではない企業から、他社の選考の辞退を迫られる「オワハラ」(就職活動終われハラスメント)の問題が学生を悩ませています。

政府の要請に従って経団連が「採用選考に関する指針」を公表し、面接開始を(表向きは)8月1日以降とした一方で、従来通りのスケジュールで内定を出す企業も多く存在し、そのように早めに内定を出した企業が、選考中の他社に内定学生を奪われないように、様々な拘束をかけるのが「オワハラ」です。

昨夜(7月8日)のNHKニュースでも「オワハラ」を取り上げたコーナーがあり、内定の握手を求められた直後に「携帯電話を出して」と言われ、「今すぐに他社の選考をこの場で断るように」と求められた学生の事例が紹介されていました。

その学生はその要求を拒否したのですが、すると後日に内定を取り消された、とのこと。

6月28日のNHK「おはよう日本」でも「オワハラ」の特集がありましたが、そこでは、大手の面接が集中することが見込まれる8月1日を含む形で、離島での研修を組んだ企業の事例が紹介されていました(企業側によれば、研修は参加必須ではないので、「オワハラ」とは考えていない、とのことでしたが)。

就職活動中の学生の声を聞いていても、面接のたびに、現在受けている他社の企業名と、選考がどういう段階にあるかを、すべて書き出すように求められている、という学生も複数います。

そういう攻勢にさらされると、学生は精神的にもまいってしまいます。

「オワハラ」への対処方法は、学生に伝えられているのか

にもかかわらず、6月28日の番組でも7月8日の番組でも、NHKは「オワハラ」が起きていることを伝えながらも、それに学生がどう対処すればよいかは、ほとんど伝えていませんでした。

企業側も内定者の確実な確保に苦慮していることを伝えると共に、6月28日の番組では、企業側も真剣なのだから安易な内定辞退はしないようにと学生に諭すセミナー講師の声を伝え、7月8日の番組では、「いずれにせよ、悔いのない就職活動を行ってください」的な無難すぎるコメントでまとめられていました。

しかし、企業側が様々な方策で学生をつなぎとめようとしている中で、学生がなんら法的な知識も持たずに対応に苦慮している、という状況は望ましくありません。

そこで本日、筆者の授業では、ブラック企業被害対策弁護団に所属する二人の若手弁護士(上田貴子弁護士・大久保修一弁護士)に来ていただき、労働契約と内定の関係、内定取消しと内定辞退強要、オワハラ、内定辞退などについてじっくり90分、解説いただきました。

すべてを紹介することはできませんが、「オワハラ」と内定辞退強要に絞って、講義で教わったポイントを以下に紹介したいと思います(一部、補足的な私見を含みます)。

誓約書を出しても就活は続けてよい

自社に内定者をつなぎとめようとして、誓約書を求める企業があります。

「他社の選考は辞退し、就職活動を終了させ、御社に就職します」といった誓約書にサインさせるのです。

誓約書を書いてしまえば、その企業に就職するしかない、と学生は思いがちですが、そんなことはありません。

誓約書を書いて提出しても、学生は、他社の選考を受け続けて構いません。

他社の選考を受ける中で、より志望度の高い企業に内定を得た場合、誓約書を書いた企業に内定辞退を申し出ても構いません。

誓約書に法的拘束力はありません。

誓約書を書いて提出したのちに、内定辞退を申し出ると、損害賠償請求すると言ってくる企業もあるようですが、ごくごく例外的な場合を除き、そのような損害賠償請求は認められません。

損害賠償請求すると言われたら、早めに専門家に相談しましょう。

学生側からの内定辞退はできる

誓約書の提出の有無にかかわらず、学生側からの内定辞退はできます。

入社後の労働者に、退職の自由があるのと同じです。

期間の定めのない労働契約の場合には、労働者側はいつでも2週間前の予告をもって退職できるのが原則なので、同じように、内定辞退もできるのです。

会社側が内定辞退を拒否することはできません。

拒否してきたり、損害賠償請求すると言ってきたりしたら、早めに専門家に相談しましょう。

内定辞退の意思表示は、意思表示の事実を客観的に残しておく方がよいでしょう。

口頭や電話ではなく、メールだと、意思表示を行ったことが客観的に記録として残ります。

(ただし、企業側も採用選考には多くの手間とコストをかけています。内定辞退する場合には、できるだけ早めに、また誠実に、その意思を伝えた方がよいでしょう。)

企業からの内定取消しは簡単にはできない

学生が内定辞退をできるのとは逆に、企業はいったん出した内定を安易に取り消すことはできません。

誓約書を提出するなど、「内定=労働契約の締結」(注)が成立したのちに内定取消しができるのは、学生が大学を卒業できなかった場合や、詐欺、窃盗、殺人、強制わいせつ等の破廉恥罪を犯した場合、業務に耐えられないほどの健康上の重大な異常が判明した場合など、かなり限定されています。

(注)どの時点で「内定=労働契約の締結」と判断できるかは、「ケースバイケース」です。詳しくは、

ブラック企業対策プロジェクト「知っておきたい内定・入社前後のトラブルと対処法」の第1章「内定とは?」をご覧ください。

事業がやや不調になってきたので、予定より採用人数を減らしたいとか、多めに内定を出しすぎて内定辞退者が思ったほどではなかったので人数を減らしたいとか、そういう理由による内定取り消しはできません。

内定辞退の強要に注意

内定取消しは簡単にはできないので、いったん内定を出した企業が採用人数を絞りたい場合、「内定辞退」を求めてくることがあります。

「内定取消し」と「内定辞退の強要」は異なることに注意が必要です。

「内定辞退」を求められ、それに応じてしまうと、「内定辞退」の求めに「同意」したことになってしまいます。

「強要」されて、仕方なく応じたのだとしても、「強要」されたことを証明するのは容易ではありません。

そのため、「内定辞退」を求められ、書面にサインを求められても、その場で同意せず、サインしないことが重要です。

「人生に関わる重要な問題なので、持ち帰って検討します」と言って、その場でサインせず、持ち帰って専門家に相談しましょう。

証拠・記録を残そう

就職活動のどの局面でも、書類は保存し、証拠・記録を残しておくことが大切です。

募集要項、企業説明会の配布資料、企業パンフレット、雇用契約書や採用内定通知書などを企業別に保管しておくと共に、いつ、どの企業のどのような選考を受けたか、メモしておきましょう。

メールは保存し、採用ページから届いたメッセージは、スクリーンショットを保存したり、画像を撮影したりして、保存しておきましょう。

電話についても、いつ、誰から、どのような指示やメッセージを受けたかを、メモしておきましょう。

より詳しくは

そのほかにも大事なポイントをいろいろと教えていただいたのですが、ここでは省略します。

内定をめぐるトラブルについては、

●ブラック企業対策プロジェクト「知っておきたい内定・入社前後のトラブルと対処法」

を同プロジェクトのHPでPDF形式で公開していますので、ダウンロードしてぜひご覧ください(全44ページ)。

「内定とは?」を法的に解説したのちに、21の想定されるトラブルをQ&A方式で解説しています。

宮里民平弁護士をはじめとする、ブラック企業被害対策弁護団の弁護士による力作です。

できれば各大学のキャリアセンターにも置いていただければと思います。

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また、東京都産業労働局も下記の冊子をPDFの形でHPで公開しています。

●東京都産業労働局「就活必携労働法-知っておきたい法律と相談窓口-」

学生の反応

授業を受講した学生からは、次のような感想が寄せられました。

・今まで知識がなかったので、就活生より企業が強いと思っていたが、実は私たちは法律で守られているのだと知った。

・会社側の要求は絶対ではないということが分かった

・内定取消しと、内定辞退を促されて辞退することは、まったく違うと分かった

このように学生が「知恵」をつけることは、効率よく採用活動を行おうとする企業にとっては迷惑なことかもしれません。

ですが、企業側は違法にならない範囲で様々な攻勢を学生にかけてくる、それに対して学生は対処の方法を知らず、誠実に事実を話すと内定が出なかったり内定を取り消されたりするかもしれないという恐れを抱きながら対応に苦慮する、そういう非対称な関係であることは望ましくないと考えます。

上に記したことはあくまで基本的な法的知識であり、実際にはより対処が困難なケースも様々に想定されます。

90分の授業でも、まだ、学生たちはいろいろと尋ねたいことがある様子でした。

各大学でも、このようなセミナーの機会を、積極的に設けていただければと考えます。

<追記>

大久保弁護士の指摘を受け、「誓約書には拘束されない」という見出しを「誓約書を出しても就活は続けてよい」に変更しました。

誓約書によって、会社が法的に拘束されることはありうる(内定が成立したことの裏付け、内定取消事由が記載されている場合等)が、学生が法的に拘束されることはない、ということを誤解なく伝えるための変更です。