派遣法改正、人を替えれば派遣労働者を使い続けられるのなら、直接雇用への道はむしろ狭まるのでは?

派遣労働者の受け入れ期間の上限を事実上なくす改正案

 派遣法改正案は、6月19日に衆議院厚生労働委員会にて可決され、同日に本会議でも可決された。これから審議は参議院に移る。

 この法案の一番のポイントは、企業が派遣労働者を受け入れる期間の上限を、事実上なくす点にある

 そのことは、法改正を歓迎する日本経済新聞と、法改正を警戒する毎日新聞が共に、衆議院における法案通過を伝える記事の冒頭でそのポイントに注目していることからも、うかがわれよう。

日本経済新聞2015年6月19日

労働改革ようやく前進 派遣法改正、成立へ

企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくす労働者派遣法改正案が19日の衆院本会議で自民、公明両党と次世代の党の賛成多数で可決された。維新、共産両党は反対した。政府・与党は24日までの今国会会期を2カ月超延長する方針で、成立は確実だ。改正案は安倍政権が岩盤規制改革とみなす労働法制見直しの柱。過去2回の国会で廃案になったが、実現に向けて前進した。

毎日新聞2015年6月19日

改正派遣法案:衆院通過…3年制限、事実上撤廃

企業が同じ職場で派遣労働者を使える期間の制限(最長3年)を事実上撤廃する労働者派遣法改正案は19日午前、衆院厚生労働委員会で自民、公明両党の賛成多数で可決された。

 しかし、法案の質疑の中では、

●正社員を希望する派遣労働者には、正社員への道を開く

●派遣で働き続けたい人に対しても、派遣元(派遣会社)によるキャリアアップの支援を行う

など、法改正すれば派遣労働者にとって状況は改善されるのだ、と印象づける答弁ばかりが、安倍首相や塩崎厚生労働大臣によって繰り返し行われた。

たとえば、衆議院本会議で法案の趣旨説明が行われた5月12日には、安倍首相が次のように発言している(議事録

まず、今回の改正案は、派遣就労への固定化を防ぎ、正社員を希望する派遣労働者についてその道が開けるようにするものであり、御指摘のような一生派遣をふやそうとするものではありません。

また、5月29日の衆議院厚生労働委員会において、塩崎厚生労働大臣は、法改正の主眼を次のように語っている(議事録)。

 その主眼は、先ほどお話がありましたが、いわゆる正社員になりたいという方にはその可能性を開いていくということで、可能性を増すための手だてというものを新たに幾つも入れられるということであり、また、派遣の状態がむしろ今の自分の人生にとっては必要なんだという方にとっては、さらに今よりも上の仕事ができるように、キャリアアップを図れるようなそういう手だても御用意をさせていただいて、働く人の権利も守り、そして企業にとってもよりよい人材が来ていただけるようにしていくということを実現していくことによって、これからのグローバルな戦いの中で日本経済が隆々といけるように、それは一人一人の国民の生活がよりよいものになるということにつながることだというふうに思います。

 果たして法改正は、正社員雇用を希望する派遣労働者に、その道を開くものなのだろうか?

雇用安定措置に「直接雇用の依頼」はあるが・・・

 答弁で強調されたのは、同じ業務に継続して3年間従事した派遣労働者(特定有期雇用派遣労働者)に対し、次の4つの措置のいずれかを派遣元が講ずることが義務づけられる点だ(詳しくは法律案新旧対照条文の改正案第30条を参照)。

(1)派遣先に対し、直接雇用を依頼する

(2)派遣労働者としての就業の機会を提供する

(3)派遣元において無期雇用する

(4)労働省令で定める、雇用の安定に必要なその他の措置を講ずる

 このうち、「正社員を希望する派遣労働者についてその道が開けるようにする」というのは、常識的に考えれば(1)のことだろう。

 ただし、(1)は「正社員雇用」を依頼するわけではなく、「直接雇用」を依頼するにとどまる。契約社員やパートも「直接雇用」である。

 また、(1)は直接雇用を「依頼する」に過ぎないので、派遣先がその依頼に従う義務はない

 さらに、直接雇用の依頼は、4つの措置のうちの1つでしかないので、派遣先への直接雇用を派遣労働者が希望する場合に、派遣元が必ず行わなければいけない措置でもないようだ。

 そうであれば、「正社員を希望する派遣労働者についてその道が開けるようにする」という安倍首相の答弁は、過大評価ではないか、という気がする。

 とはいえ、正社員雇用の道が従来は閉ざされていたのであれば、チャンスが開けただけでも画期的かもしれない。

 しかし現行法においても派遣労働を経ての派遣先への正社員雇用が禁止されているわけではないし、正社員雇用の実績もある

 労働政策研究・研修機構が2010年に行った調査結果によれば、派遣先事業所の4分の1は、過去3年間の間に、派遣労働者を「通常派遣を経て正社員へと転換」した実績がある。

 ならば、問われるべきは、正社員雇用(もしくは直接雇用)を希望する労働者にとって、法改正がチャンスを広げるのか否か、だろう。

人を替えれば派遣労働者を使い続けられるようになるのなら、直接雇用への道はむしろ狭まるのでは?

 そこで問題になるのが、法改正がなされれば、企業が派遣労働者を受け入れる期間の上限が、事実上なくなるという、最初に述べたポイントだ。

 どういうことか、具体的に見てみよう。

 下記をご覧いただきたい。

派遣法改正でどう変わるか(筆者作成)
派遣法改正でどう変わるか(筆者作成)

 現行法では、専門26業務の派遣労働者(この場合、佐藤さん)は、同じ業務に期間の制限なく就業し続けることができる(ただし実際には、数か月程度の短期の契約を反復更新している例が少なからずあり、雇用は安定しているとは限らない)。

 一方、自由化業務(それ以外の業務)については、派遣を受け入れるにあたっての業務単位の期間制限が原則1年、最長3年であるため、3年が過ぎればその業務を引き続き同じ派遣労働者(田中さん)に行わせることはできない。また、別の派遣労働者に置き換えることもできない。そのため、その業務がその企業にとって引き続き必要である場合は、次のような対策が必要になる。

(1)派遣で働いていた労働者(田中さん)を、直接雇用に切り替えて、引き続き就業してもらう

(2)新たに(田中さんではない)別の労働者を直接雇用し、その人に業務を行わせる

(3)既に直接雇用している労働者を別の部署から異動させ、その人に業務を行わせる

(4)業務をアウトソーシングする

 この場合、様々な可能性のうちの1つではあるが、(1)のように、派遣労働者が派遣先に直接雇用される可能性がありえた。そして、実際にそういう実績もあることは、先に見た通りだ。

 一方、改正法案が成立して施行されると、派遣元と有期雇用である派遣労働者の場合、専門26業務で働いていた佐藤さんも、それ以外の業務で働いていた田中さんも、いずれもその業務では3年を超えて働くことはできなくなる。個人単位で3年という上限がいずれの業務についても設けられるからだ。

 その3年というタイミングで、前述の雇用安定措置が講じられるのだが、派遣先から見た選択肢は、現行法の場合とは異っていることが重要だ。

 派遣先は、自由化業務の場合、現行法のもとであれば、その業務に派遣労働者を使い続けることはできない。しかし、法改正されれば、別の派遣労働者(山本さん)に、引き続きその業務を行わせることが可能になる

 3年の節目において、過半数労働組合の意見を聴かなければならないが、しかし、過半数労働組合が反対しても、別の派遣労働者にその業務を任せることが可能になる。

 さらに3年後にも、別の派遣労働者(太田さん)に業務を引き継がせることができる。

 更新の上限はないため、その業務については、人を替えさえすれば、恒常的に派遣を使い続けられるようになるのだ

つまり、派遣先にとっては、新たな第5の選択肢が生まれるのである。

(1)派遣で働いていた労働者(田中さん)を、直接雇用に切り替えて、引き続き就業してもらう

(2)新たに(田中さんではない)別の労働者を直接雇用し、その人に業務を行わせる

(3)既に直接雇用している労働者を別の部署から異動させ、その人に業務を行わせる

(4)業務をアウトソーシングする

(5)別の派遣労働者(山本さん)に、その業務を行わせる

 そうなると、直接雇用を回避するために派遣労働者を活用していた派遣先は、(1)の選択肢よりも(5)の選択肢を取る可能性が高いのではないか?

 言い換えれば、派遣労働者の田中さんにとっては、(1)のように直接雇用される可能性はむしろ狭くなるのではないか?

 従来の専門26業務についても、法改正されれば、派遣労働者(佐藤さん)は3年後にはその業務を派遣で続けることが不可能になるが、派遣先は別の派遣労働者(山田さん、松田さん、・・・)に、3年ごとにその業務を引き継いでもらうことができる。

 その場合、佐藤さんが専門性の高い業務を行っており、派遣先にとって不可欠な労働力だと判断すれば、佐藤さんが派遣先に直接雇用される可能性もあるが、しかし、同等のスキルを持つ別の派遣労働者(山田さん)の派遣を派遣元に依頼することも可能なのであれば、派遣先が佐藤さんの直接雇用に踏み切るかどうかは微妙なところだ。

直接雇用のチャンスが狭くなるかもしれないことに、向き合おうとしない答弁

 安倍首相や塩崎厚生労働大臣が「正社員を希望する派遣労働者についてその道が開けるようにする」と強調する一方で、上記のように派遣労働者の正社員雇用や直接雇用のチャンスが法改正によってむしろ狭まるのではないかという点とについては、衆議院の審議の中でも何度か問題にされている。

 しかし、その問題を問う質疑に、政府側は真摯に向き合おうとしていない

 衆議院本会議に法案が提出された5月12日に、既に維新の党の井坂信彦議員が次のように本質を突く形で問題を指摘している(議事録)。

それでは、なぜ派遣法改正が後半国会の対決法案と呼ばれるのか。

 その理由は、今回の法改正を経ても、派遣法には三つの懸念が残るからであります。

 一つ目は、望まない派遣労働者の雇用枠がふえるのではないかという懸念、常用代替防止の問題です。二つ目は、派遣労働者の低賃金、低待遇が続くのではないかという懸念、同一労働同一賃金の問題です。三つ目は、派遣労働者の雇用は極めて不安定なままではないのかという懸念、雇用安定化措置の問題です。

(中略)

 続いて、今回の法改正における三つの懸念の一つ目、望まない派遣労働者の雇用枠がふえるのではないか、常用代替防止の問題に入ります。

 これまで、専門二十六業務を除き、派遣先企業が、ある業務に三年間派遣労働者を配置したら、その業務には四年目以降は派遣労働者を配置してはいけないという期間制限がありました。

 今回の法改正で、派遣先企業は、労働組合や従業員代表の意見さえ聞けば、同じ業務に六年でも九年でも派遣労働者の配置を延長できるようになります。反対意見があっても対応方針さえ説明すれば延長可能、従業員代表の選び方の問題や、派遣業者に無期雇用されている派遣労働者は対象外になるなど、期間制限の事実上の撤廃と言える法改正です。

 一方で、改正案は昨年秋から修正され、新たに、派遣は臨時的、一時的なものであるという原則が明記されました。これは、派遣先企業から見て派遣労働者の使い方が臨時的、一時的という意味も含むと、既に厚生労働大臣から答弁を得ています。

 この仕組みでなぜ、派遣先企業による派遣労働者の利用が臨時的、一時的と言えるのか、期間制限の緩和と今回新たに追加された原則の矛盾について、総理の答弁を求めます。

 派遣先企業から見た期間制限は緩和されましたが、新たに設けられた個人単位の期間制限により、有期雇用の派遣労働者は三年ごとに必ず職場をかわらなければならなくなりました。これまで期間制限のなかったソフトウエア開発技術者やアナウンサーでも、三年で別の部署か別の会社に再度派遣されることになります。

 派遣労働者を一つの派遣先に固定しない方がキャリアアップにつながるんだと大臣は説明をされます。しかし、三年で必ずいなくなる派遣労働者に、派遣先企業が業務の本質的な技能を教えることはなく、派遣先が三年ごとにころころかわると、かえって派遣労働者の技能が向上しないおそれがあります。

 個人単位の期間制限があっても、派遣先企業は三年ごとにAさん、Bさん、Cさんと人をかえて、同じ業務に派遣労働者を配置し続けることができるので、常用代替防止の役には立ちません。

 個人単位の期間制限は、こうして考えると、一体誰にどのようなメリットがあるのか。派遣先企業、派遣業者、そして派遣労働者のそれぞれのメリットについて、大臣に伺います。

 これに対する塩崎厚生労働大臣の答弁は下記の通りである。

 今回の個人単位の期間制限を設ける目的についてのお尋ねがございました。

 今回の改正案では、派遣で働く方の同じ職場への派遣は、三年を上限として、節目節目でキャリアを見詰め直す機会を設けることとしており、派遣元が実施する計画的な教育訓練等と相まって、派遣で働く方のキャリアアップの契機としていただくこととしております。

 また、わかりにくいとの指摘がある現行の期間制限について、わかりやすい制度となるよう見直すことは、派遣元、派遣先の双方にとってメリットがあると考えております。

 「キャリアアップの契機としていただく」というが、3年の節目における直接雇用の可能性が法改正によってかえって狭まるのではないかという点には目を向けていない

 また、派遣元および派遣先については、「わかりやすい制度となる」というメリットだけが指摘されており、派遣先が人を替えれば同じ業務に派遣を使い続けることができるという、派遣先にとって大きなメリット(=直接雇用を希望する派遣労働者にとっては大きなデメリット)が生まれることにはあえて言及を避けている

 5月29日の答弁を見ても同様だ。

 この日は民主党の大西健介議員が、業務単位の受け入れ期間制限が直接雇用を促進していたと指摘している(議事録

最後に、参考人の一人、自由法曹団の鷲見弁護士が、現行法に定める業務単位の派遣受け入れ期間制限が、実は、直接雇用を促進する機能を持っていたんだということを述べられていました(※)。

 つまり、業務単位の受け入れ期間制限のもとでは、派遣先は、原則一年、最長三年の受け入れ期間の制限を超えると、その業務では派遣労働者を一人も使用できなくなる。例えば、製造ライン等で、百人単位の派遣労働者を使っているような場合に、一旦派遣労働者をゼロにしなきゃならない。そのために、多くの派遣労働者が直接雇用の申し込みを受けた事例が多数見られる、鷲見弁護士が今まで経験した中でもそういう事例がいっぱいあったというふうに言っていました。

 厚労省は、業務単位の受け入れ期間制限が直接雇用を促進する機能を持つことをお認めになるか、また、これまでのそのことをどう評価しているかについて、大臣の御答弁をお願いします。

(※)鷲見賢一郎が参考人として意見を述べたのは、5月28日の衆議院厚生労働委員会。議事録はこちら

 しかし、それに対する塩崎厚生労働大臣の答弁は、意図的に話題をそらすような答弁だった。

 先日行われた参考人の質疑の中で、現行法の業務単位の期間制限は、期間制限に達した際に業務自体はなくならないことから、その業務に従事していた派遣で働く方の直接雇用の契機になる旨の御指摘があったということだと思います。

 しかしながら、この業務単位の期間制限につきましては、いわゆる二十六業務は、これは全体の約四割を占めているわけでありますけれども、期間制限の対象外とされているほか、二十六業務に該当するかどうかがわかりにくいことから、二十四年の改正時の附帯決議でも見直しの検討を求められておって、個人単位と事業所単位というわかりやすい制度に見直すこととしたわけであります。

 なお、期間制限の仕組みを見直した場合においても、期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合には、本年十月に施行される労働契約申し込みみなし制度が適用されることとなっているところでございます。

 さすがに大西議員もあきれている。

 いや、聞いたことと全然違うことを答えるんですよね

 今言われた鷲見弁護士は、実際に自分が経験したとおっしゃっているわけですよ。だって、たくさんの派遣労働を使っていて、一人でも期間制限を超えたら、そこで一旦ゼロにしなきゃいけないわけですから、それが直接雇用の契機になる。これは、私はなるほどなと思いましたよ。これさえ何で素直にお認めにならないのかというのは不思議でならないわけですけれども

 続いて質疑に立った民主党の阿部知子議員も、大西議員の指摘を引き継いで、こう語っている。

 私は、この直接雇用の依頼をするには、二つの問題があると思います。先ほど大西委員がお述べになりましたが、これが業務単位であれば、三年たって、その業務はもう派遣の人を受け入れることができないというのが、業務単位の期間制限です。業務単位の期間制限とは、三年たったら、その業務にはどんな人であれ派遣は受け入れられない、だから誰かを正社員にしなきゃいけないということです。これが業務単位の期間制限です。

 これを人に変えました。人に変えた途端、同じ仕事が、Aさん、Bさん、Cさんでもよくなります。すなわち、業務単位の期間制限が持っていた、おのずと三年たったら正社員を入れなきゃいけないという役割が低下していますが、先ほど大西さんと少しやりとりがありましたが、私は不十分だと思います。

 この認識について、いかがですか。業務単位であれば、その業務は三年以降は人を正社員に置かねばならないということですよね、大臣。どうですか。 

 それに対し、塩崎厚生労働大臣は、「正社員」には限らないが「直接雇用」はありうる、と答えた上で、また話をそらしている。

 正社員という言葉がふさわしいかどうかは、少し違うのではないかというふうに思いますが、まず、業務単位の場合の、三年たったときにどうなるかということで、今、正社員でないと無理じゃないかというお話ですが、直接雇用ということはあり得るということですね。

 一方で、今までの業務単位の規制では、係をかえれば派遣の人がそのままいられるということになっていたということも事実で、それがために、今回は、事業所単位の期間制限と個人単位の期間制限で、両方とも入れるということで、一つは常用代替を回避するように、もう一つは個人単位で、三年ごとに御自身のキャリアを言ってみれば考えるということだと思います。

 3年後にその業務を別の派遣が担うことが法改正によって可能になる、という点をどう考えるか、塩崎厚生労働大臣は、答えようとしない。

 阿部知子議員は、さらにねばる。

 大臣、ここが今回の改正の最も問題であり、最も論議のあるところなんですね。

 大臣は、この業務が派遣を受け入れられないなら場所をかえればいいみたいな答弁でしたが、そうではなくて、今までの常用代替の防止、並びに、この業務については、正社員というのは私の表現がよくないですね、直接雇用にするというのは、必ずそのポジションは、この仕事は直接雇用の人しかやれないんですよ。そのことによって、誰かが直接雇用になれるんですね。

 でも、今度は、三年で人を、Aさん、Bさんにかえ、Cさんにかえれば、三人とも派遣なんですね、かわる人も。ここが一番大きな改正点なんです

 そうであると、大臣がせっかく直接雇用にしたいと思っても、チャンスが少ないんです。そのチャンスが極めて少なくなる、直接雇用の。おわかりになると思います、よく考えてください。だって、(現行法であれば、3年後には―引用者注)この業務にはもう派遣は置けないんですよ。そうしたら、誰かを直接雇用にするしかないんです。それが、三年単位の期間制限なんです。

 大臣、もう一度、しつこいようですが、でも、私が一番問題にしているのはこの点です。それから、二十六業務の人が一番不安に思っているのもこの点です。人に着目したからいいというふうに大臣は心底思われているんだと思いますが、実態はそうではありません。いろいろな業務があって、ここも三年たったら、どんな人もその業務は(現行法では―引用者注)派遣でやれないんです、直接雇用でしか。それが今までの法律であります。(しかし、法改正されれば―引用者注)人をかえて、みんな派遣で、だから全員派遣とか生涯派遣とか言われてしまうんです。  

 大臣、この私の趣旨、おわかりですか。

 このあと、渡辺委員長が「速記を止めてください」と発言しており、しばらく塩崎厚生労働大臣が答弁に窮したようだ。

 その後、塩崎厚生労働大臣が答弁するが、その業務を引き継ぐ人は、「基本的には多分中から来るというのが普通かな」と語っており、その業務を別の派遣労働者が引き継ぐ可能性については、なお言及を拒んでいる。そして、さらに話題をそらす。

 今までは係をかえればまた同じ人が派遣でいけるというふうなことがあり得たわけですけれども、今回は、正社員なりがやはりほかのところから来て、同じ業務は担わなきゃいけないということになって、それは、外から来るか中から来るかはまた別問題で、基本的には多分中から来るというのが普通かなというふうに思います

 ですから、一方で、今回は、御案内の意見聴取というプロセスを強化して、説明義務と周知義務というのをやって、その業務の中でどういうふうに派遣を続けるかどうかという問題については、意見聴取という、言ってみれば労使の自治を導入して、導入というか今もありますが、この説明義務と周知義務は新たに義務づけているわけでございますので、そこのところで歯どめをかけるということに私はなると思います。

 この答弁の不自然さがわかっていただけるだろうか

 上に示したシミュレーション図のように、専門26業務の派遣労働者である佐藤さんの仕事が、別の派遣労働者の山田さんや松田さんに引き継がれていくこと、自由化業務の派遣労働者である田中さんの仕事が、別の派遣労働者の山本さんや太田さんに引き継がれていくことについて、塩崎厚生労働大臣は、その可能性に言及することさえ執拗に拒んでいるのだ。

 のらりくらりと追及をかわそうとする塩崎厚生労働大臣に、阿部議員は、さらに念押しをしている。

 まず大臣、もう一回言いますが、この業務をやっている人が三年になったら、(現行法では―引用者注)この業務についてはもういかなる形でも直接雇用しかだめなわけですね。

 今大臣は、会社の中から持ってくることもあるでしょう、でも、外から持ってくることもあるでしょうとおっしゃったでしょう。そうしたら、外から持ってくる人は、ここで直接雇用になれるんですね。一つでもチャンスはふえるんです、この業務が三年以上派遣でやっていけなければ。いいですか、中から採ろうと外から採ろうと、外が例えば十対一でもいいです、そこで正社員になれるんです。同じこの派遣の人は、またこっちの係に行くということもあるかもしれません。でも、ここに直接雇用のジョブチャンスをふやすというのが業務単位の見直しなんです

 もう一方の、大臣の御答弁の多数派組合のお話は、これはあくまでも常用代替防止の、そして多数派組合の大半は、三年たってもそれでオーケーというような、ある意味でルールにもチェックにもならないんですよ。それは私も井坂さんも何度も申し上げたと思います。常用代替防止の仕組みは、正社員にとっての一つの保護であっても、派遣労働者にとっては保護はないんです、多数派の組合の意見を聞くというのは。それくらい固定しちゃっていると言ってもいいでしょう。

 そうすると、派遣労働者に残された、より多くの直接雇用になるチャンスは、業務単位の見直しなんですよ。ここの業務にもう派遣は置けないとなることが、チャンスは少ないかもしれないけれども、生まれるんですね、チャンスが(引用者注:そうであるのに、その現行法の業務単位の期間制限が法改正ではなくなる)。この点、大臣、本当によく理解していただきたいんです。

 私は、私もさっき申しましたが、自分が決して労働分野に強くない、そして、これをずっとこの法案が始まってから、何が問題か、何が問題か考えて、最後にたどり着いた結論、きのうの鷲見さんという弁護士さんがおっしゃったので、そうかと思ったところです。大臣が今それを自覚されなくても、私はまた次に、私だって時間がかかりましたから、大臣にも考えていただきたいです。でも、本当にここが大事なポイントなんです。

 しかし、その後の議論でも、業務単位の受け入れ制限が事実上撤廃されることが直接雇用のチャンスを狭めるのではないか、という重要な論点については、かみ合った議論が行われなかったようだ。

 すべての質疑を確認したわけではないが、質疑が終局となった5月19日の衆議院厚生労働委員会でも、日本共産党の堀内照文議員が、同じ問題を取り上げている。

 しかし、堀内議員の問い方が今一つ明瞭でなかったという問題もあるが、塩崎厚生労働大臣は、質問の内容を誤解しているようなそぶりで、別の問題についての答弁を返す、というちぐはぐなやり取りで終わってしまっている(議事録はまだない。インターネット中継の録画はこちら

参議院では、改めて業務単位の受入制限撤廃の影響の議論を

 結局、業務単位の受入制限が事実上撤廃されることによって派遣労働者が直接雇用されるチャンスは狭まるのではないかという重大な論点は、衆議院では正面から議論されないまま、法案が可決されてしまった。

 このまま、参議院で同じようなすれ違いの議論を繰り返して審議時間だけを積み上げ、数の力で採決に持ち込むことは避けなければいけない。

 野党の議員の方々の奮闘に期待する。

 また、私たちも、この論点に注目していこう。