就職・採用活動は一律のスケジュールでは進まない現実を踏まえて、冷静な対応を

 今朝(2月23日)の日経新聞の大学欄には「新・就職戦線 異状あり?」という記事が掲載されている(ネットでの閲覧は日経電子版有料会員限定)。「45%『すでに選考受けた』」「インターン参加で『優遇』」「中小も視野 早い時期に」と小見出しがあり、これを読んだ現3年生には焦りを感じる人もいるだろう。しかし、むやみに焦るのは禁物だ。

 もっとも避けたいのは、焦ってあちこち受けまくり、そのことによって疲れてしまい、1つでも内定が出たら、その企業について深く調べることもなくその後の就活をやめてしまうことだ。就活というストレスフルな活動から早く解放されたい、という気持ちは理解できるが、長く働き続けることができない職場への就職を決めてしまうと、あとで苦労することになりかねない。

日経朝刊で紹介されているのは、あくまで「都内の就活生276人」の調査結果に過ぎない

 この日経の記事で紹介されているのは、日経HRが1月下旬に、都内の就活生276人を対象にした調査結果でしかない。「都内の就活生276人」はどういう属性の学生を対象とした調査なのか、詳細情報はこの記事にはなく、日経HRのホームページにも今のところニュースリリースは公開されていない。

 現3年生にとっては、就職活動・採用活動の時期がこれまでとは異なるため、どういうタイミングで選考が進むのか、見通しにくいことは事実だ。直近の動向をタイムリーにとらえておく必要もあるだろう。しかし、個々の学生にとっては初めての経験である就職活動も、採用側にとっては毎年実施しているものであり、スケジュール変更はあるものの、大きな傾向は変わらないものと思われる。ここで言う大きな傾向とは、

(1)上位大学の学生の方が、早い時期に内定を得やすい

(2)都心部と地方では、都心部の企業の方が、採用活動が先行する傾向がある

(3)大手企業の内定出しのあとに、中堅・中小企業の採用活動が本格化する傾向がある

といったものだ。

 上記の日経HRの調査がどういう属性の学生を調査したものかは「都内」であること以外は今のところわからないが、もし「都内」の上位大学の学生、もしくは、日経カレッジカフェに以前から登録していた学生を対象とした調査であるなら、大学生全体の傾向ではなく、大手企業が積極的に獲得に動きたい一部の層の学生の動向であると言えるだろう。

 そのような学生の動向は、大手企業や上位大学の学生にとっては有益な情報かもしれないが、大学生一般にとって有益な情報かというと、疑問が残る。上記(1)~(3)のような傾向があるために、すべての学生が同じスケジュールで選考を受け、内定を得るわけではないからだ。

大学ランクによる内定獲得状況の差

 上記のうち、「(1)上位大学の学生の方が、早い時期に内定を得やすい」をデータで紹介しておこう。

 海老原嗣生『就職、絶望期』(扶桑社新書、2011年)のp.89には、HRプロ「HR戦略資料2010」から、「4月末時点での所属大学別内定獲得数(文系)」のグラフが紹介されている。著作権の関係があるので、図表をここに掲載するのは控える。各自で書店に立ち寄って確認してほしい。

 これは選考開始(※1)が4月1日とされていたかつてのスケジュールにおける調査結果だが、大学ランク別の違いがはっきりと表れている。4月末時点で「旧帝大クラス」「早慶クラス」では、8割ほどが1社以上の内定を得ているが、「上位国公立大クラス」「上位私大クラス」では1社も内定を得ていない者の割合が「旧帝大クラス」「早慶クラス」よりも高く、「その他国公立大学」「中堅私大クラス」「その他私立大学」では半数以上の学生が4月末時点では内定を得ていない。

なぜこういう差が生じるか。2つの要因が考えられる。

(A) 上位大学の学生の方が早くから活発に就職活動を行っているため、早くに内定が得られるのではないか

(B) 上位大学の学生の採用プロセスが他の大学の学生の採用プロセスと異なるために、早くに内定が得られるのではないか

 このうち(A)については、上位大学の学生の方が、就職活動に乗り出す時期が早く、応募数も多いなど、就職活動を活発に行っていることを示す調査結果がある(※2)。

 また、(B)については、大手企業がリクルーターを通じて上位大学の学生への接触を図ったり、企業説明会の参加受付で上位大学の学生に対してより多い定員枠を割り振ったり、より早期に開催される企業説明会に呼ぶなど、大学ランクによって異なった対応を従来から行っている場合が少なくないことは、海老原嗣生や常見陽平など、企業の採用活動の情報を得やすい立場にある者が明らかにしている(※3)。

 では、上位大学に所属していない学生が、上位大学の学生の就活をまねて、早期から活動を始め、たくさんの企業に応募すれば、上位大学の学生と同様の結果を得ることができるのだろうか。濱中義隆が全国の人文科学・社会科学系の学生7559名を対象とした調査データの統計分析によって明らかにしたのは、それらの学生が「早く」「たくさん」活動することの有効性は疑わしい、ということだ(※4)。

 このように非銘柄大学の学生の就職活動は、就職支援サイトや就活マニュアル本が提示する「標準的な就職活動」(大企業中心モデル)とは、スケジュールや活動内容において乖離が見られるだけでなく、標準的な活動プロセスに「乗る」ことが必ずしも活動の「成功」を導いてくれるわけでもない。・・・ここで強調しておきたいのは、標準的な「就職活動」からの乖離の原因を非銘柄大学の学生の就職への取り組みに対する消極性のみに帰すべきではない、ということである。かれらが就職活動を行っている企業は、そもそも「標準的な就職活動」が想定している企業群とは異なっているがゆえに、活動方法やタイミングがずれているとみることが必要である。

出典:濱中義隆「現代大学生の就職活動プロセス」p.46-47

 「標準的な就職活動」と言われているものが、必ずしも「標準的」ではないこと、上位大学の学生の就職活動をまねることが、必ずしも「成功」にはつながらないこと。そういうことは、これまでなかなか学生には届いていない情報だったのではないか。

焦らせる情報に振り回されないように

 どの企業も同じ時期に採用活動をするわけではないし、どの学生も同じ方法、同じスケジュールで就職活動をするわけではない。

 にもかかわらず、そのような差異があることがあまり考慮されることなく、「今年の就活・採用活動はこうなっている」という報道がされがちである。そこで示されているスケジュールに自分が乗れていない、もしくは、そこで示されているような結果を自分が得られていないからといって、むやみに焦ってしまうことには注意が必要だ。

 確かに今年の採用選考は、短期集中になると言われているため、「焦らずじっくり取り組もう」と言うことは、無責任な発言になる恐れがある。しかし、焦ってバタバタと就活に走り回って、疲れてしまい、「内定を出してくれる企業ならどこでも良いから、早く結果を得て解放されたい」という気持ちになるとしたら、それは避けるべき事態だろう。

 

 学生が登録する民間就職ナビサイトは、ともすればよりたくさんの登録、よりたくさんの活動を奨励しがちである。それに踊らされず、キャリアセンターで自分の大学・自分の学部の卒業生の就職先を調べてみるなどして、自分にとってより現実的な就職活動の在り方を考えたい。

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※1 ここで言う「選考開始」とは、実質的には「面接」の開始を意味しており、エントリーシートの提出やWEBテストの受検などは、それ以前から行うことが従来のスケジュールでも可能であった。

※2 濱中義隆「現代大学生の就職活動プロセス」(小杉礼子編『大学生の就職とキャリア ―「普通」の就活・個別の支援』勁草書房、2007年、第1章)

※3 海老原嗣生『なぜ7割のエントリーシートは、読まずに捨てられるのか?』(東洋経済新報社、2015年)および常見陽平『「就活」と日本社会 平等幻想を超えて』(NHK出版、2015年)を参照

※4 上記※2に同じ