厚生労働省は労働法啓発冊子で労働組合の説明を削除!

厚生労働省が昨年末に開設した総合情報サイト「確かめよう労働条件」で提供している冊子には、労働組合の役割に関する説明がない。厚生労働省は労働組合の意義を認めないのか?

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厚生労働省は2014年11月23日に「確かめよう労働条件」という総合情報サイトを開設した(こちら)。「労働者・ご家族の方へ」「事業主・労務管理担当の方へ」「大学生・専門学校生・高校生・中学生等の方へ」とそれぞれの対象者向けに労働法をわかりやすく紹介した冊子が公開され、Q&Aや裁判例などもその後追加されてきている。

このようなポータルサイトができたのは良いこと、と思っていたのだが、冊子の中身を見て驚いた。従来はあった労働組合の解説が、冊子から抜け落ちているのだ。

従来の冊子「知って役立つ労働法」と比較してみると

厚生労働省が従来から発行していた一般向けのわかりやすい労働法の解説冊子として「知って役立つ労働法~働くときに必要な基礎知識~」がある。2010年9月に公開され、その後随時改訂されてきたもので、学生、学校関係者、労使団体、NPO等が幅広く利用できるよう版権フリーでPDFが公開されている(こちら)。

その「知って役立つ労働法」(厚生労働省発行。48ページ)の目次と、総合情報サイト「確かめよう労働条件」で公開されている「知っておきたい働くときのルールについて」(厚生労働省労働基準監督局監督課発行。28ページ)(こちら)の目次を比べてみると、下記の通りだ(コラムは省略)。

目次の比較
目次の比較

とても良く似た構成になっているのだが、赤字の項目が新しい冊子では削除されている。ページ数が48ぺージから28ページに圧縮されているので、説明が省略されるものが出てくることは仕方がないとしても、労働組合に関する説明が労働法の解説冊子で省略されてもよいものだろうか?

労働組合は労働条件の維持・向上のために重要

新しい冊子ではすっかり削除された「労働組合とは」という説明は、「知って役立つ労働法」では下記の通りであった(注1)。

「知って役立つ労働法」より
「知って役立つ労働法」より

ここに記されているように、労働組合とは「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体」である。

労働基準法をはじめとする各種の労働法が労働時間や最低賃金、割増賃金、休憩、有給休暇、産前・産後休業、育児休業などを定めていても、それが自動的に守られる保証はない。それらの規定を使用者にしっかりと守らせるためには、労働者が使用者と対等な立場で交渉ができなければならない。

労働者個人では対等な立場での交渉が難しいため、労働組合の存在意義がある。そして労働組合が不当に弾圧されないように、日本国憲法第28条では「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と定め、労働組合法は不当労働行為を禁止している。

さらに労働組合には、法が定める最低基準以上の労働条件を実現する役割が期待されている。労働基準法の第1条は、次のように労働者を鼓舞している。

(労働条件の原則)

第一条  労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

○2  この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

つまり、労働条件の維持・改善のために労働組合が果たすべき役割は非常に重要なのであり、だからこそ「知って役立つ労働法」では第1章「労働法について」に「労働組合とは」という項が含まれていたのである。しかし、新しい冊子ではそれがばっさりと削られているのだ。

これは単にページ数の問題ではなく、冊子作成にあたっての基本的な考え方の違いの問題だと考えられる。2つの冊子の「はじめに」を読み比べると、その違いが見えてくる(太字は筆者による)。

「知って役立つ労働法」 はじめに

このテキストは、みなさんがこれから就職をし、働く際に知っておきたい労働法に関する基本的な知識について、わかりやすくまとめています。ここに書かれていることは全てではありませんが、働いていく上でいざというときに役立つ知識ですので、困ったときはぜひ読み返してみて下さい。また、テキストの最後の部分では、困った際の相談先を紹介していますので、ご利用下さい

「知っておきたい働くときのルールについて」 はじめに

このパンフレットは、みなさんが働くときに知っておきたい労働法に関する基礎的な知識について、労働基準監督署という厚生労働省の第一線機関で扱っている事項を中心に分かりやすくまとめています。テキストの最後の部分では、労働基準監督署の問い合わせ窓口についても紹介していますので、御利用下さい。

「知って役立つ労働法」の記述には、困ったとき、いざというときにこの冊子を役立ててみずからの労働条件の改善に努めてほしいという、読者の対処能力への期待が感じられる。それに対して、「知っておきたい働くときのルールについて」の「はじめに」の記述には、そのような期待が感じられない。

労働法違反や劣悪な働かせ方がこれだけ蔓延している中で、「知識」だけでは現状は改善できない。労働基準監督官の数も問題の大きさに比して限られており、労働基準監督官に任せておけば職場の労働環境が健全に保たれるわけでもない。にもかかわらず、労働組合の役割に冊子が言及しないということは、労働者自身による労働条件改善の芽を育てることを厚生労働省が放棄することになるのではないか?

学生向け委託事業冊子でも労働組合の説明はなし

前述の総合情報サイト「確かめよう労働条件」には、学生向けのより詳しい冊子「就職前に知りたい!労働法のこと~働く前に知っておくべき さまざまなルール~」も公開されている(こちら)。こちらは厚生労働省の委託事業で東京海上日動リスクコンサルティング株式会社が作成したものであり、71ページにわたっており、主な判例までもが紹介されている。

しかしこの学生向け冊子にも「労働組合とは」という項はない。目次は下記の通りだ。

「就職前に知りたい!労働法のこと」目次
「就職前に知りたい!労働法のこと」目次

「労働組合」もしくは「労働組合法」という言葉は、2ページ、28ページ、29ページに登場しているが、労働組合とは何であり、どのような役割を持つものかの説明は一切この冊子にも含まれていない。

「就職前に知りたい!労働法のこと」というタイトルの冊子に労働組合の説明がないというのは、労働組合という存在とその役割は、就職前に知っておくべきではないことだという位置づけなのだろうか?

総合情報サイト「確かめよう労働条件」には、「学生のための労働条件セミナー2014」開催の案内(こちら)もある。全国の大学等で出張授業を行うほか、全国の一般会場でもセミナーを実施してきたようだ。この事業も冊子作成と同じ東京海上日動リスクコンサルティング株式会社が委託を受けて実施している。上記の「就職前に知りたい!労働法のこと~働く前に知っておくべき さまざまなルール~」冊子を用いてセミナーが実施されているのだろう。当然、セミナーでも労働組合の役割には触れられないのだろう。

なお、総合情報サイト「確かめよう労働条件」では、前述の「知って役立つ労働法」冊子は紹介されていない。

事業主向け冊子にも労働組合の説明はなし

さらに総合情報サイト「確かめよう労働条件」にある事業主・労務管理担当者向けの冊子「やさしい労務管理の手引き」(こちら)(厚生労働省労働基準監督局監督課発行)の目次にも、労働組合の項はない。労務管理の上でも、労働組合に関する知識・理解は不要ということだろうか?(注2)

厚生労働省は労働組合を排除したい?

総合情報サイト「確かめよう労働条件」のすべてのページを確認したわけではないが、ざっと確認したところでは、労働組合に関する記載は他の情報ページでも見当たらない。さすがにここまで労働組合に関する記載が消されていると、こう疑いたくもなる。

「厚生労働省は、労働組合を排除したいのですか?」

まさか、とんでもない、という答えが返ってくるだろう(そうであってほしい)。しかし、せっかく便利な総合情報サイトができたと思っていたら、そこから労働組合の存在が周到に消去されていたというのは、あまりに問題が大きい。厚生労働省には早急にこの総合情報サイトの改善を求めたい。

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(注1) 

さらにこれに加えて、「労働委員会」と「労働協約」についても「知って役立つ労働法」では説明されている。また、東京都労働産業局が作成しPDF公開している「ポケット労働法2014」(こちら)では、労働組合の役割について、より詳しく10ページにわたって解説されている。

(注2)

東京都労働相談情報センターが作成しPDF公開している「使用者のための労働法」(こちら)には、「労働組合ができたら」という6ページにわたる解説がある。そこでは労働組合について、「使用者としては意思疎通のチャンネルあるいは話し合いの場を設けて、冷静に付き合い方を考えていくことが大切です」「労働組合と意思疎通ができ、話し合いの場ができれば、使用者にとって労働組合がメリットになることも少なくありません」と記されている。