若者雇用対策法で「労働条件の的確な表示」と「職場の就労実態情報の積極的な提供」は、どこまで進むか

若者雇用対策法案、注目ポイントは4点

今月召集の通常国会での若者雇用対策法案提出に向けて、どのような対策を充実すべきか、労働政策審議会の部会で検討が進められています。1月9日の労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会では、次回会議でとりまとめられる報告書の概要が明らかになりました(配布資料はこちら)。

会議前の報道ではブラック企業求人のハローワークにおける不受理だけが注目されていましたが、9日の会議後の報道では、より幅広い内容が紹介されています。

筆者はこの9日の部会を傍聴したのですが、報告書案の注目ポイントは下記の4点と考えています。

(1) 労働条件の的確な表示の徹底

(2) 職場の就労実態情報の積極的な提供

(3) ハローワークにおける、法令違反企業の求人の不受理

(4) 新卒者の定着状況などが一定水準を満たしている中小企業の認定制度の創設

報告書案の「はじめに」において、

若者が、次世代を担うべき存在として活躍できる環境整備を図るため、若者雇用対策に総合的かつ体系的に取り組むことが必要である。

(資料1-1, p.1-2)

と記されていることからわかるように、この若者雇用対策は、若者が活躍できるための「環境整備」に焦点が当てられています。

筆者が委員として参加した2012年の雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)(会議の資料と議事録はこちら)では、同様に「若者雇用戦略」が議題でありながら、「自ら職業人生を切り拓ける骨太な若者への育ちを社会全体で支援」することに焦点が当たっていたことと比べると、ようやく、「ブラック企業」問題に代表される若者の「働かせ方」の問題に正面から取り組む動きが生まれてきたことが注目されます。

求人不受理や認定よりも重要なのは、「労働条件の的確な表示の徹底」と「職場の就労実態情報の積極的な提供」

上記の4点のうち、(3)は法令違反企業の求人から若者を守るための方策、(4)は良好な企業の求人に若者を積極的にマッチングさせていくための方策、とみることができます。

これらに注目があたりがちですが、筆者はそれらよりも、(1)「労働条件の的確な表示の徹底」と(2)「職場の就労実態情報の積極的な開示」が重要であると考えます。

(3)の法令違反企業の求人不受理について言えば、これはハローワーク求人に限った取り組みであり、新規学卒者の多くが利用する民間就職ナビサイトに問題企業が求人広告を載せることを規制するものでは全くありません。

また、ハローワークで求人を不受理とする対象企業についても、9日の資料では、労働基準関係法令について、「同一条項の違反について、繰り返し(例:過去1年間に2回以上)、是正指導を受けた場合」や、男女雇用機会均等法及び育児介護休業法に違反して公表に至った場合が対象として考えられており、問題があるとみなす基準が非常に限定的です。

さらに、「考えられる不受理期間」としては、「法違反が是正されるまでの期間に加え、一定期間(6か月経過するまでの期間)とされており、不受理期間もそれほど長期にわたるものではありません。

そのため、実際に不受理となるのは非常に限られた求人だけとなることが想定されます。にもかかわらず、こうした規制があるからハローワーク求人はもう安心できる、と若者が考えるなら、それはかえって危険、とも言えるでしょう。

(4)の認定制度についてみると、これも一部の企業だけを認定するものであり、個々の学生が応募する様々な企業の良し悪しを見分ける目安には必ずしもなりません。

また、新卒者の定着状況などが一定水準を満たしている企業を認定する仕組みのため、従来からの「若者応援宣言企業」に比べ、より望ましい企業が認定されることが見込まれますが、「若者応援宣言企業」を残したまま新たな認定制度を設ければ、混乱を招く恐れが強く、また、一定水準を満たしているということを客観的にどう確認できるのかといった問題もあります。

したがって、より幅広い若者が様々な企業の求人を検討する際に役立つのは、(1)「労働条件の的確な表示の徹底」と(2)「職場の就労実態情報の積極的な開示」なのです。報告書案では、「マッチングの向上に資する情報提供」という項目の中でこれらが並列的に掲げられており、どちらも重要だと位置づけられています。

これらについて、報告書概要がどこまで踏み込んでいるか、また、どういう課題があるかを、以下に見ていきます。

「労働条件の的確な表示の徹底」は、民間就職ナビサイトでも進むか?

まず「労働条件の的確な表示の徹底」について見ると、現在、次の問題があることが記されています。

求人者から示される労働条件は、若者が就職先企業を決定する際の重要な情報であるが、一部の求人においては、求人票記載(募集時)の労働条件と労働契約締結時に明示された労働条件が異なる、労働契約締結時に明示された労働条件と実際の労働条件が異なるといった状況があるとの指摘があった。

(資料1-1, p.3)

これは「求人票4割 厚遇『ウソ』 ハローワーク 苦情9000件調査」(読売新聞2014年12月25日朝刊)などと報じられている問題です。ハローワーク求人の問題、と思われがちですが、民間就職ナビサイトの求人広告でも同じ問題があります。ハローワークとは異なり、民間では問題求人の件数の調査・公表が行われていないだけです。

とりわけ近年問題が顕在化しているのが、「固定残業代」をめぐるトラブルです。例えば給与が20万円と示されていても、その中にこっそりと残業代を忍ばせており、そのことを求人段階では明示せずに、入社してから、残業代が別途払われないことに気付く、といった問題です(この問題については、渡辺輝人弁護士による、わかりやすくかつ専門的にしっかりとした解説がこちらこちらこちらにあります)。

この固定残業代については、その制度を設けている場合にはハローワーク求人票の特記事項欄に「固定残業代には○時間分の残業手当を含む。○時間を超えた場合は別途残業手当を払う」旨を記載するよう指導しており、その取り組みを徹底すると、報告書案では記されています。

固定残業代の問題を正面から取り上げていることは評価できますが、ただし、これもやはりハローワーク求人票に限定した話で、民間の求人広告の記載の規制にまで及ぶものではありません。そして、前に示した通り、民間の求人広告会社の業界団体である公益社団法人全国求人情報協会は、求人広告において固定残業代を明示させる方向にはまだ踏み出していないようです。

今回の報告書案では、ハローワーク求人に限定しない対策としては、労働者の募集にあたっての労働条件の明示義務等の現行法の規定の順守を徹底するために、事業主等に係る指針を定めることが記されており、どのような指針が定められるのか、注目されます。

「職場の就労実態情報の積極的な提供」には、使用者側がなお抵抗

もう一方の「職場の就労実態情報の積極的な提供」について。これについては、

新規学校卒業者の適職選択とともに企業が求める人材の円滑な採用に資するよう、労働条件に加えて職場の就労実態に係る情報が、積極的に提供される環境を整備することが重要である。

具体的には、

(ア) 募集・採用に関する状況

(過去3年間の採用者数及び離職者数、平均勤続年数、過去3年間の採用者数の男女別人数等)

(イ) 企業における雇用管理に関する状況

(前年度の育児休業、有給休暇、所定外労働時間の実績、管理職の男女比等)

(ウ) 職業能力の開発・向上に関する状況

(導入研修の有無、自己啓発補助制度の有無等)

が、情報として提供されることが有効である。

(資料1-1, p.4)

と報告書案には記されています。

離職者数や平均勤続年数は、ブラック企業を見分ける重要な指標であり、学生の関心も高まっています。また、有給休暇や所定外労働時間の実績がわかれば、長時間労働が常態化している職場かどうかがわかるでしょう。育児休業実績や管理職の男女比がわかれば、女性が働き続けやすい職場か、女性も活躍できる職場かがわかるでしょう。

これまで、企業側はこのような就労実態に関する情報の開示に積極的ではありませんでした。前述の雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)では、2012年4月26日の第3回会合で、浜名篤委員(関西国際大学学長)が企業に対し求人段階での3年未満離職率の公表義務付けを政策提言として示したのに対し、川本裕康委員(日本経済団体連合会 常務理事)は、「採用については選考の方法も含めて企業に幅広い裁量権があると思っておりますし、こういうデータの公表を義務づけるのは適切ではない」「離職率については、離職に至る背景には個々の労働者によって様々な理由があるわけで、これもただ離職率を公表することは非常に間違ったメッセージになりかねないので、賛同しかねる」と真っ向から反対の意見を表明していました(資料3および議事録p.20)。

この会議では、厚生労働省が既にもっている雇用保険データを活用して、産業別・規模別の離職率データを公表するところまでは持って行けたのですが、それを1つのステップとして、今回の報告書案では個別企業の「職場の就労実態に係る情報」の「積極的な提供」が重要である、というところまでようやく踏み込むこととなったわけです。

しかしながら現在においても、やはり企業側としてはそのような「職場の就労実態に係る情報」の「積極的な提供」には非常に難色を示しているということが、報告書案と同日の会議の意見交換からうかがわれました。

報告書案では、積極的な情報提供を求めるものの、情報提供を「義務」とすることについては、かなり限定をつけています。

まず、義務とする情報提供の対象は、「当該求人への応募者 又は 応募の検討を行っている者(氏名、連絡先等が示されている者)」とされています。求人票や求人広告における情報提供が義務付けられているわけではなく、氏名・連絡先を明らかにした応募者が自ら情報提供を求めなければいけない、ということです。

応募者はまだ選考のプロセスの中にいますので、「離職率を知りたいと言ったら、選考からはずされるのではないか・・・」といった懸念をもつでしょう。応募者が自ら情報提供を求めなければならない、というのは、かなり高いハードルです。

さらに、9日の会議の中では、応募者とはどの段階の者を指すのか、「なりすまし」対策はどうするのか、情報の「機密性」はどう保障するのか、といった懸念が使用者側委員から表明されました。

応募者とはどの段階の者を指すのか、というのは、様々な企業の求人を見比べている段階の学生も含むのか、「エントリー」だけをした段階の学生は含むのか、それともエントリーシートや履歴書を提出した段階の学生を対象とするのか、といった問題です。情報提供の対象となる学生はできるだけ絞り込みたい、というのが使用者側の意向なのでしょう。

「なりすまし」対策とは、本当はその企業に就職したいとは考えていない学生や、あるいは学生になりすました第三者が、情報提供を求めてくる可能性に対してどう予防するのか、という問題です。

情報の「機密性」の問題とは、提供した情報が、その応募者本人以外から外部に漏れることをどう予防するか、という問題です。

「職場の就労実態に係る情報」の積極的な提供を、という社会的要請に対して、採用の自由という観点から従来通りつっぱねるわけにはいかなくなっているものの、情報提供を「義務」とすることに対しては、極力限定的かつ慎重に、という使用者側の姿勢がうかがわれます。

9日の会議の中では、村上陽子委員(日本労働組合総連合会非正規労働センター総合局長)から、ここで項目として上がっているような情報は、「機密」情報には当たらないものであり、積極的に開示していくべきものではないか、という意見が表明されました。筆者もその意見に賛同します。「機密」情報であるから、その情報を知り得たものは第三者にその情報を漏らしてはならない、といった制約がもしつくのであれば、たとえ学生が勇気をもって情報を得たとしても、その情報をどう読み解くか、キャリアセンター職員やゼミの先生、保護者などにも相談ができなくなります。第三者に見せられないような情報であれば、それが本当に就労実態を正しく反映した情報なのかの信頼性の確認もできません。

さらに、報告書案では、

具体的な情報提供の項目については省令において列挙し、その中から、事業主が業種等の事情を勘案して適切と考え選択した項目を提供することが適当である。

(資料1-1, p.4)

とされています。

つまり、学生が離職者数を知りたいと思って情報提供を求めても、企業側が離職者数は出したくないと判断すれば、離職者数の替わりに「過去3年間の採用者数の男女別人数」を提供すればそれで「義務」は果たした、ということになってしまう可能性があります。

情報提供を「義務」としているとはいえ、できるだけ情報提供したくない企業側の意向に極力配慮した案と言えます。

このあたりは、報告書の最終とりまとめの段階で、さらには法案の作成と審議の段階で、駆け引きが続いていくものと思われます。

「努力義務」としての職場の就労実態情報の提供促進は、私たちの関心次第

もう一点、職場情報の積極的な提供について注目されるのは、「当該募集に対する応募者及び応募の検討を行っている新規学卒者」からの求めがあった場合に情報提供を「義務」としているのに加え、「それ以外の者」に対しても「(ア)~(ウ)の情報の提供に努めるものとする」とされていることです。

「それ以外の者」の範囲は特に示されていませんが、例えば、民間就職ナビサイトにおける求人広告について大学キャリアセンターが問い合わせた場合や、民間就職ナビサイトにおける求人広告に企業がみずから主体的に情報提供する場合、などが考えられるでしょう。

たとえ「義務」の範囲がかなり限定的なものとなっても(残念ながらたぶんそうなるでしょう)、法律の中で職場情報の提供の重要性が指摘され、その情報の提供が努力義務として求められることとなれば、それは従来に比べれば大きな一歩です。そしてその「努力義務」を企業側が果たさなければならない、と思うようになるかどうかは、その情報を私たちがどれだけ積極的に求めていくか、によるでしょう。情報提供が重要といくら法律に記しても、それを後押しする世論がなければ、情報提供は進みません。

現在、東洋経済新報社発行の『就職四季報(総合版/女子版/優良・中堅企業版)』には、離職率または離職者数の記載欄があり、企業によってはその欄を無回答(NA)としています。総合版では4分の1の企業が、離職率を無回答としているようですが(※)、離職率が無回答である企業を学生が警戒する度合が強くなれば、企業側も情報開示をした方がよいと考え、開示できる数値を出すために労務管理を見直していくかもしれません。

同様に、現在は民間就職ナビサイトの求人広告では就労実態に関する情報提供が極めて限定されているわけですが、それを積極的に開示しないということに対する私たちの目が変わっていけば、サイトや企業側の姿勢も変わっていくことが期待できます。

以上、若者雇用対策法案に向けた現在の検討内容の注目ポイントと考えるものを紹介しました。学生や学校関係者が、この問題に関心を持つことが、求める動きを促進するとなると考えます。メディア報道においても、ブラック企業求人の不受理や新たな認定制度だけに注目するのではなく、「労働条件の的確な表示の徹底」と「職場情報の積極的な提供」こそが重要なのでは、という観点からの分析を望みます。

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※森 智彦(『就職四季報』編集長「『3年後離職率』が低い200社ランキング」によれば、『就職四季報』総合版に掲載している1247社のうち、離職率の回答があったのは937社だという。