学生アルバイトにもユニオン結成が必要な理由

東京新聞2014年8月2日朝刊

学生アルバイトにもユニオン結成が必要な理由

都内の学生らが8月1日、「ブラックバイトユニオン」を結成した。このニュースは東京新聞が8月2日に朝刊1面トップで伝えるなど、メディア各紙で報道された。

  • NHK(8月1日)“ブラックバイト”労働組合結成労働組合結成(こちら)
  • 朝日新聞(8月1日)ブラックバイトに労組で対抗 大学生ら、3日に電話相談」(こちら)
  • 毎日新聞:長時間労働強制:「ブラックバイトユニオン」結成」(8月1日)(こちら)
  • 産経新聞:「ブラックバイト」に対抗、大学生ら労働組合結成(8月1日)こちら
  • 東京新聞「ブラックバイト許さない 学生ら労組で対抗」(8月2日)こちら

なぜ長時間労働に従事してしまうのか?

ある学生が記者会見で語った体験は、NHKニュースでは次のように伝えられている。

1日、メンバーが記者会見を開き、このうち大手衣料品メーカーで販売員のアルバイトをしていた大学3年生の男性は「週に70時間の勤務があり、授業があっても休みをもらえなかったうえ、制服として販売している洋服を買い取らされた」と体験を話しました。

週に70時間勤務というのは、正社員でも長時間労働であり、なぜ学生アルバイトがそんなに、と多くの大人は考えるだろう。産経の記事では「授業に出席できず、単位を落とし」とも記されており、単位を落としてまで働くのは本末転倒ではないか、という疑問も生じるだろう。

しかし、朝日新聞の記事によれば、その学生は「代わりを探さないと交代できない」と言われたという。また東京新聞の記事によれば、「勤務可能日として申告した日すべてが勤務日となり、出席日数が足りずに単位も落とした」という。

つまりは、シフトを組みやすいようにと学生側が店舗側の事情を慮って勤務可能な日を多めに申告したところ、意に反してめいっぱいのシフト勤務を入れられ、希望の頻度と異なることを訴えても、既に組んでしまったシフトは「代わりを探さないと交代できない」と言われたため、やむなく長時間勤務し、単位を落とす結果に至った、といったところが実情のようだ。

学生がもっと強く交渉しなければダメだ、という見方もできるだろう。しかし、まじめで責任感が強く、口答えしない学生がいれば、相手が「学生」であるという事情などに構わずに正社員の長時間労働並みの勤務を求めてくる、そのような企業側の姿勢にこそ注目すべきだろう。

「学生であることを尊重しない」アルバイト

「ブラックバイト」の言葉を広めた大内裕和・中京大学教授は、ブラックバイトを次のように定義している。

学生であることを尊重しないアルバイトのこと。フリーターの増加や非正規雇用労働の基幹化が進むなかで登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い。

鈴木絢子、大内裕和他「ブラックバイトへの対処法」ブラック企業対策プロジェクト発行、2014年(http://bktp.org/news/1051

「学生であることを尊重しない」アルバイトである、というところが1つのポイントだ。授業に出る、部活動やサークル活動に参加する、ゼミ合宿や各種のセミナーに参加する、といったこととアルバイトが両立可能であるかどうか。

たとえば東京ディズニーリゾートのキャスト募集において、学生向けの働き方として提示されているのは次の働き方だ。

週2~4日勤務のタイプ 学生の方・他の仕事との組み合わせの方におすすめ

1. 土日専門(普段は土日のみの勤務で、休暇シーズンは土日両方を含む週3~4日)

2. 週2~3日(月~金の週2~3日/土日どちらかを含む週2~3日)

※勤務曜日はシフト発表時に確定となり、毎週異なる可能性があります。

特定曜日の固定休希望は受け付け致しかねますので、ご了承ください。

東京ディスニーリゾートキャスティングセンターHPの応募要項より(こちら

学生の方におすすめ、とは言っても、2の働き方は、シフトが入る曜日を固定できず、勤務日が毎週異なる可能性があるということであるから、授業と両立することは難しい。そうすると、1の働き方となるが、休暇シーズン以外でも土日両方とも毎週バイトが入ることになるため、部活動やサークル活動は無理だろう。学部行事やゼミ行事などとの両立も難しい。休暇シーズンにはさらに勤務日が増えるため、ゼミ合宿や友達との旅行なども日程調整が困難だろう。

ここまで条件がきつくなくても、土日のいずれかは必ず入るという条件でないとアルバイトが見つけられないというケースは多い。アルバイトの面接で何度も断られたという経験がある学生も多いが、それは学生生活を前提としてアルバイトをしたいという学生側の意向と、フリーターと同じように働くことを求める企業側の意向とが折り合わないことが大きな要因と考えられる。

非正規比率の高まりの中で、補助労働という立場にはとどまれないアルバイト

なぜ学生アルバイトを働かせるときに「学生」であることを尊重できないのか。それは、彼らが補助労働力ではなく、メインの労働力として組み込まれていることによる。彼らが働く現場における、非正規雇用への依存度が高くなっているのだ。

非正規雇用への依存度の高さは、下記の就業構造基本調査結果(2012年)からうかがうことができる。産業計では「正規の職員・従業員」以外の非正規比率が38.2%だが、学生の多くがアルバイトとして働く「宿泊業、飲食サービス業」では、非正規比率は73.3%にも及ぶ(※)。

総務省統計局「平成24年就業構造基本調査 結果の概要」の表1(ローマ数字)-13より作成
総務省統計局「平成24年就業構造基本調査 結果の概要」の表1(ローマ数字)-13より作成

正社員の割合が3割を切るような状況では、非正規労働者を補助労働力と位置づけていたのでは業務は回らない。その中で主力となる労働力は、フリーターなど既に学校を離れている若者である。時間の制約なく働くことが可能な彼らの働き方に合わせて、企業側が1日あたりの勤務時間が長いシフトを組み、また業務の繁閑に応じて柔軟にシフトごとの人数を増減したいと考えると、学業との両立を図りたい学生は苦しい立場に追い込まれていくのだ。

NHK NEWS WEBが示した4つの類型

8月1日のNHK NEWS WEBは「深知り」で「“ブラックバイト”実態は 背景は」を取り上げた(こちら)。首都圏青年ユニオンの神部紅事務局次長がゲスト出演した。

そこでは「罰金型」「ノルマ型」「拘束型」「名ばかり型」の4つの類型が紹介された。

NHK NEWS WEBより
NHK NEWS WEBより

このうち「ノルマ型」については、おでんの自爆営業の事例などを、水島宏明が下記で詳しく紹介している。

  • 大学生のブラックバイト おでんやコーヒー券がノルマ! コンビニ、カフェのチェーン店は特にどす黒い(水島宏明)- Y!ニュース(こちら

本稿冒頭で紹介した男性の事例は「拘束型」だろう。

「名ばかり型」とは、わずかな時給のアップと引き換えにシフトリーダーなどの役割を担うことを求められるものだ。何が責任として新たに加わるかはケースによって異なるが、アルバイトの指導やシフトの作成、金銭管理や鍵の管理、商品の発注、クレーム対応など、様々な責任が重くのしかかってくる。

「罰金型」とは、遅刻したこと対する罰金の他、レジの金額が合わない場合に弁償させられる、なども含まれる。

そのほか、番組でも紹介されていたように、タイムカードを切ってから後片付けをさせられる、本来1分単位の時給が15分単位で計算され、14分までの勤務が切り捨てられる、などの不払い労働も横行している。

嫌なら辞めて他に移ればいいか?

番組の中では視聴者のツイートが紹介されるのだが、実態に驚くツイートと、うちもブラックだというツイートが対照的だった。

アルバイトのノルマや責任が重くなっている現状に対して、番組では、嫌なら辞めて他に移ればいいのでは、という疑問も提示されていた。それに対して神部事務局次長は、辞めたくても辞められないケースがあることを説明していた。辞めた後の求人コストを請求される、これまでのミスを報復的にあげつらって損害賠償される、といったこともあると。

そこまで酷いケースでなくても、学生が辞めたくても辞められないケースは多い。辞めると収入が途絶えてしまう。経済的に厳しい状況にありながら大学に通っている学生も多く、収入が途絶えることは日々の生活に直結する。

他にいくらでもバイト先はあるではないか、と思われるかもしれないが、学生生活と両立可能なアルバイトを見つけることは現状ではかなり難しい。もちろん融通を利かせてくれるバイト先もあるが、そのようなバイト先ではアルバイトの定着状況が良いため、新規の求人は出てきにくい。常にアルバイトを募集しているようなところは、アルバイトを続けにくい何らかの事情が存在していることが多いのだ。そのため、多少のトラブルやプレッシャーがあっても、なんとか学生生活と両立できている現在のバイト先にとどまりたい、という気持ちが働く。

また、店長が限界状況の中で働いているために、自分が辞めてしまったら店長が体を壊すのではないか、頑張っている同僚にも迷惑をかけるのではないか、といった躊躇もある。現場の労働者が疲弊しているのは企業の労務管理の問題なのだが、自分が辞めることによって引き起こされる現場の混乱を、自分の責任として背負い込んでしまうのだ。

戦略的な行動の必要性

こうしてみてくると、過剰なシフト勤務を求めたり、販売ノルマの消化を求めたり、リーダーとしてより重い責任を担うことを求めたり、もっと長く、もっと密度高く働くことを求めてくるアルバイト先の要請に、いかに抵抗しながら働くか、という課題に学生たちが直面していることがわかる。しかし多くの学生は、そのような要請に対する悩みを一人で抱え込んでいるのが現状なのだ。

だからこそ、学生アルバイトを対象としたユニオンが結成されることには意義がある。学生生活とアルバイトを両立させたいという学生の悩みは、フリーターから見ればぜいたくな悩みのようにも見える。しかし、学生であることを尊重した働き方ができないのであれば、彼らが学生として学ぶという基盤そのものが切り崩されていく。その彼らが自分達のニーズに即しながら働いていくには、「辞める」「我慢する」以外の選択肢として、一人で悩まず専門家に相談し、労働法を学び、戦略的な行動を模索し、仲間と共に声を上げていくことが必要な局面に至っているのである。

筆者らブラック企業対策プロジェクトは、7月に弁護士によるQ&A解説冊子「ブラックバイトへの対処法」を無料公開した(こちら)。8月10日には東京で、その冊子をもとにしたセミナーの実施も予定している(こちら)。セミナーには、今回結成されたブラックバイトユニオンの佐藤学・共同代表も参加する。学生が自分達の働き方を自ら問い直して学び行動する場としての学生のユニオン活動の今後に注目したい。

(※)「宿泊業、飲食サービス業」の雇用形態別雇用者(役員を除く)の割合は、「正規の職員・従業員」が26.7%、「パート」が35.1%、「アルバイト」が31.2%、派遣社員や契約社員、嘱託などが7.0%となっている。なお、「パート」,「アルバイト」等の雇用形態は勤め先での呼称による。