ワタミ理念集の改訂版『働くとは生きることそのものである』を読んでみよう

「理念集」改訂を伝えるワタミ株式会社の文書

ワタミ株式会社が「理念集」にあった「365日死ぬまで働け」の表現を「働くとは生きることそのものである」に改訂した。ワタミ株式会社のホームページには、ワタミ過労死裁判の第3回口頭弁論が開かれた平成26年5月19日付で、「重要」のマークと共に、「理念集の改訂について」という文書(こちら)が公開されている。

同文書では

理念集119ページには「365日24時間死ぬまで働け」という表現がありました。上司が部下に愛情を持って接して欲しいというメッセージになっており、365日24時間死ぬまで働くことを従業員に求める内容ではありません。また、120ページには、【私も本気で「365日24時間」働いて欲しいなどと考えていません。】と本意を交えた記載が元々ありました。

しかしながら、理念集の当該ページに書かれている本意が伝わらず、従業員をそのように働かせているという誤解のもと、理念集が紹介されることがありました。

などとした上で、「365日死ぬまで働け」の表現を「働くとは生きることそのものである」に改訂した旨が記されている。

その上で、表題の表現を改訂した『働くとは生きることそのものである』(3.1.23)の全文が、同文書の別添で公開されている。

理念集改訂に関する渡邊美紀議員の言及

この理念集の改訂については、創業者の渡邊美紀参議院議員が同日5月19日のフェイスブック(こちら)で

(略)

「完全週休二日宣言」も含めた「本意」が、

創業者の理念でありワタミ理念集です。

これまで、文章の一部だけを切り取り、

一方的に誤訳され悪意を込めたイメージ攻撃を受けて参りました。

今回、この理念集の改訂を自ら申し出ました。

理由は

●あまりにも「本意」が誤解されている。

●第三者委員会からも「理念集の見直し」の指摘を受けた。

●そして何より、過労死認定されたご遺族様の心情を察し

「死」と言う表現にはこれまで以上に慎重にまた配慮が必要と感じている。

(中略)

ワタミ理念集には元々「完全週休二日宣言」との明記があり、今年の新卒新入社員は1名も辞めていないこと、

「事実は事実」です。

何卒、正しくご理解頂ければと思います。

と記している。

「正しくご理解」のためには「完全週休二日宣言」の内容も合わせて公開いただけると理解が促進されると思うのだが、「完全週休二日宣言」の内容は公開されていない。

とはいえ、改訂版の『働くとは生きることそのものである』は、同文書の別添で公開されているので、そこに記された「本意」を読み解くべく、同項目の全文を読んでみよう。

改訂版『働くとは生きることそのものである』の内容

改訂版『働くとは生きることそのものである』には

「働くとは生きることそのものである」という言葉がワタミにはある。この20年間、私自身が言い続けてきた言葉である

出典:「理念集の改訂について」所収の『働くとは生きることそのものである』より

「働くとは生きることそのものである」これは本当の愛が背景にある時にのみ使える言葉である。 時代とはマッチしない言葉だが、10年後も20年後もこの言葉が飛び交う「ワタミ」でありたい。

出典:「理念集の改訂について」所収の『働くとは生きることそのものである』より

と、表現だけを差し替えたことにより、文章上齟齬が生じている箇所がある。が、そのこととは別に、注目されるのは下記の箇所だ。

月に一度、G-1研修(グループ入社1年未満社員研修)が開かれる。先日のG-1研修のこと。居眠りする社員が多数。それぞれ顔色がすぐれず、辛そうな顔、々、々。昨日の営業の通し明けかなあと心配し、彼らをながめる。

出典:「理念集の改訂について」所収の『働くとは生きることそのものである』より

先日社員旅行へ行った。あるエリアマネージャーから「社長はそう言うけど、人事異動が早すぎて寄り添っている暇がありませんよ」と言いわけを言われてしまう。

出典:「理念集の改訂について」所収の『働くとは生きることそのものである』より

当時社長であった渡邊氏には、新人の「顔色がすぐれず」、「辛そうな顔」をしているという現実が見えていた。また、エリアマネージャーから「人事異動が早すぎて寄り添っている暇がありません」という声も聞いていた。

しかし、では渡邊氏は、そういう現実に社長として真摯に対応したのだろうか。

同文書を読むと、「顔色がすぐれず」、「辛そうな顔」を見せていた社員については、

「通し明け」の朝の研修会、だれもが眠い、そして疲れている。君は部下に一言声をかけているだろうか。「大変だけど頑張れよ」大好きで心配で成長と幸せを、祈るように願っている上司ならば、自然とその言葉は出てくるに違いない。

出典:「理念集の改訂について」所収の『働くとは生きることそのものである』より

と、上司が部下に声かけすることを求めている。

「だれもが眠い、そして疲れている」状況を目にし、「部下のことが大好きで大好きで、部下のことが心配で心配で」あるのなら、社長として行うべきことは、上司から部下への声かけを求めることよりも、社員の労働条件を見直すことではないのか。

人事異動が早すぎるというエリアマネージャーの訴えに対しても、

先日社員旅行へ行った。あるエリアマネージャーから「社長はそう言うけど、人事異動が早すぎて寄り添っている暇がありませんよ」と言いわけを言われてしまう。 (中略) 人事異動のスピードが早いと、上司は部下に寄り添えないのか。そんなはずがあるわけがない。その部下が部下になった日から、その部下のことを好きになればよい。

出典:「理念集の改訂について」所収の『働くとは生きることそのものである』より

とあるように、訴えを「言いわけ」と退け、さらに「人事異動のスピードが早いと、上司は部下に寄り添えないのか」と、上司のあり方の問題だと位置づけている。

人事異動が早すぎるという現象を改善するためには、出店計画の見直しや店舗ごとの人員配置の見直し、社員の定着率促進のための労働条件の改善などが必要であり、それらにもっとも責任を負っていたのは当時社長であった渡邊氏本人ではないかと筆者は考えるのだが、渡邊氏はそうは考えないのだろうか。

渡邊氏にとっては、だれもが眠く疲れていることも、人事異動のスピードが早く上司が部下に寄り添えないことも、乗り切るべき「所与の現実」ととらえているようであり、自分が人事労務管理の見直しを通して改善すべき現実であるとは認識されていないようだ。

あなたに子どもが生まれたら(いや、今いるかも知れないが)その子にワタミに入社して欲しいと願うだろうか。もしそう願わないのであれば、願うようになる為の不足部分を埋めていくのが、私たちの仕事である。

出典:「理念集の改訂」所収の『働くことは生きることそのものである』より

という記述もあるが、ここでの主体は「私」ではなく「私たち」とされている。社長である渡邊氏がやるべき仕事は、「私たちの仕事」の中に埋もれており、読み取りにくい。

求められていたのは、理念集の内容の再検討であり、業務改革であった

理念集改訂にあたってのワタミ株式会社の文書に転載されている通り、「外部有識者による業務改革検討委員会」は調査報告書(こちら)の中で、

上場企業の代表者(当時)の発言としてはより慎重な言い方が適当と考えるとともに、理念集の内容を再検討することが望ましい。

出典:「外部有識者による業務改革検討委員会」調査報告書

と求めていた。

ここで求められていたのは、単なる「より慎重な言い方」への差し替えではなく、「理念集の内容を再検討すること」であった。しかし、渡邊氏の意を受けてワタミ株式会社が行ったことは、単なる表現の差し替えであった。

渡邊氏は言及していないが、「外部有識者による業務改革検討委員会」の調査報告書では、ワタミの労務管理に様々な問題があることが指摘されている。例えば以下の通りだ。

労働基準監督署からの是正勧告及び指導票については、平成20年4月から平成25年2月までであるが、その間に是正勧告が24件、指導票が17件発出されていた。

(中略)

これらの是正勧告及び指導票については、ワタミフードサービスから労働基準監督官に対して是正報告が提出されているが、例えば労働基準法32条違反、34条違反、37条違反等の条項で全国各地の店舗で時期を異にして違反を指摘されており、法違反の状態の是正が各店舗に委ねられているのではないかと推察されることが判明した。

ここでは労働基準法が言及されているが、32条とは「労働時間」、34条とは「休憩」、37条とは「時間外、休日及び深夜の割増賃金」に関する条文(こちら)である。

労務管理をめぐって様々な「是正勧告及び指導票」が出されていたことがここからうかがわれる。

そして同調査報告書の「提言」では、下記の通り、本社が必要な措置を講ずべきことが記されていたのだ。

このような悪循環を断ち切るためには、本社において、各店舗に設定されている予算が適切なものとなっているのかを調査するとともに、各社員が、労働時間の途中で休憩時間を取得し、年次有給休暇を取得しやすい環境、すなわち店舗に配属される社員を増加することや人事考課制度を構築すること(例えば、是正勧告を受け、その原因が社員による指示に基づく場合には、当該社員について人事考課上マイナスに評価する項目を設ける。)等の措置を講ずるべきである。

このように、「外部有識者による業務改革検討委員会」の調査報告書では、社員一人ひとりの意識改革ではなく、本社主導の「業務改革」が求められていたのだ。

「理念集の内容を再検討することが望ましい」という同報告書の助言も、その文脈で理解することが必要であろう。

しかし、ワタミ株式会社は、「365日死ぬまで働け」の表現を「働くとは生きることそのものである」に差し替えたものの、「理念集の内容の再検討」は行わなかったのである。

そして、渡邊氏は今回の理念集の改訂に際しフェイスブックで

これまで、文章の一部だけを切り取り、一方的に誤訳され悪意を込めたイメージ攻撃を受けて参りました。

出典:渡邊(わたなべ)美紀 Facebook 2014年5月19日

と記し、「本意」を正しく理解していただきたいと記している。

ならば、私たちも、この改訂版の文書から「本意」を理解するしかないだろう。

なぜ渡邊氏は「外部有識者による業務改革検討委員会」調査報告書に積極的に言及しないのか

なお、1つ付言しておきたい。

渡邊氏は参議院議員選挙出馬表明後、ワタミ株式会社が外部委員会を設けたことにたびたび言及していた。「第三者による検討委員会(仮称)」の立ち上げをワタミ株式会社が2013年6月10日に発表し、その翌日の6月11日には渡邊氏がフェイスブックでその検討委員会の立ち上げを紹介している。

しかし、その「外部有識者による業務改革検討委員会」からワタミ株式会社へ上記のような調査報告書が提出されたことについては、2014年1月17日のワタミのホームページでは報告されたものの(こちら)、渡邊氏は1月17日から5月18日までのフェイスブック投稿において、(筆者の確認漏れがなければ)いっさい言及を行っていない。理念集の改訂に関する5月19日の投稿に対しみずから行ったコメントで、「外部有識者による業務改革検討委員会」報告書に言葉の上で触れているのが、おそらくはフェイスブック上での初めての言及である。

渡邊氏は「事実は事実」と繰り返し言及されているが、これもまた、「事実」である。

■2014年5月21日追記■

タイトルおよび本文中の記載の一部において、「仕事とは生きることそのものである」と記載していましたが、筆者の不注意による誤記載でした。正しくは「働くとは生きることそのものである」です。失礼しました。タイトルおよび本文の該当箇所の記載を訂正しました。