ブラック企業であるかどうかは、自分のとらえ方次第なのか?

 「ブラック企業」という言葉の認知度が高まるにつれて、「ブラック企業」という言葉に学生が振り回されることへの懸念も広がっている。ある企業がブラック企業であるかどうかは、結局のところ自分のとらえ方次第なのだろうか?

【日経「就活探偵団」の記事を素材に考える】

 ある企業がブラック企業であるかどうかは、結局は自分のとらえ方次第だ、といった記述は、あちこちにみられる。ネットに載っている就職支援者のアドバイスは、多くがそういう論調だ。そして、不確かなネットの情報に振り回されず、自分で直接話を聞いて判断を、と結ばれる。メディアの論調も、往々にしてそうなっていることが多い。しかし筆者はそのような論調には多いに疑問がある。

 ちょうどよい検討素材が出てきたので取り上げたい。日経電子版の「お悩み解決!就活探偵団」シリーズの3月5日付け記事「ブラック企業どう見分ける スパルタとの境界線」だ。これは会員限定記事だが、日経電子版の無料登録会員に登録すれば、月10本までは会員限定記事を読むことができるので、登録してまずは記事を読んでみてほしい(こちら)。

 どういう感想を抱くだろうか。「うん、そうだよな」と思うだろうか。それとも、はぐらかされているように感じるだろうか。

【日経記事の概略】

 記事の概略を紹介しておこう。最初は2つの事例の紹介から始まる。建築士の資格を持ち、建築関連の会社で働いていたが、うつ病になって退職に追い込まれた姉の体験を語るAさん。そして、「大手アパレル企業の子会社」に就職したBさん。

 次に、NPO法人POSSEがブラック企業を(1)選別型、(2)使い捨て型、(3)無秩序型に分類していることが紹介される。そして、Aさんの姉のケースは「使い捨て型」、Bさんは「選別型」に当てはまるだろうとしたうえで、「『使い捨て型』と『無秩序型』は論外だが、『選別型』企業は判断が分かれるかもしれない」と記事は述べる。そして、こう続く。

「Bさんは同期の半数が辞めたなかでも厳しい職場に耐え、店長に昇格した。この企業グループの店長は『業界でも仕事力は相当高い』と一目置かれる。見方によっては『短期間で鍛えられた』ともいえるわけだ」。

その後、ハローワーク職員やキャリアセンター担当者の声などが紹介され、最後に再びBさんの声が紹介される。「自分の入った会社を含め、労働時間が長い会社はブラック企業かもしれない。だが、チャンスもある。イメージだけで敬遠するのはもったいない。OBやOG、実際に働いている人とぜひ話して自分で情報を集め、そして判断してほしい」。そして、「世間からブラックと呼ばれた企業で働き、居場所をつくった先輩の言葉は重い」として、「確実なのは、現役社員に会って話を聞くこと」と締めくくられている。

【厳しい職場だが、ブラックではない?】

 つまり、Bさんの事例は、「労働時間が長い」「厳しい職場」であり、「世間からブラック企業と呼ばれた企業」だが、「チャンス」もあり、「イメージだけで敬遠するのはもったいない」事例である、したがって学生は、ブラック企業という言葉に振り回されず、「自分で情報を集め、そして判断してほしい」、というのが記事の趣旨であるように読める。

 しかし、Bさんの事例を本当にそのように紹介してよいのだろうか?

Bさんは記事の中で「店舗では労働時間を実際より短く申告するのは当たり前」と語っている。これが当たり前に職場でまかり通っているのなら、労働基準法違反だろう。「ブラックと言われる厳しい企業でも法令違反をしていないなら、一概にダメとは言えない」というキャリアセンター職員の言葉も記事では紹介されているのだから、記事中で法令違反を無視してよいはずがない。にもかかわらず、Bさんの事例は単に「厳しい職場」として語られていく。

 さらにBさんは店長に昇格する前の経験として「上司から電話がかかると3コール以内にとらないといけない。接客中でとれなかったと説明しても『ウソをつくな』。店舗にきたメールがフォルダごとに整理されていないと、『やる気あるのか』『死ね』と罵倒される。気持ちが弱って何事にも無関心になり、夢でもうなされるようになりました。楽しいことはひとつもなかった」と語っている。「死ね」と罵倒される状況が職場で放置されていたとすれば、それは記事が「論外」としている「無秩序型」には当たらないのだろうか。記事では「無秩序型」とは「労働市場からいくらでも人材を確保できるため、パワハラやセクハラを放置している会社」と紹介されているのだが。

 使用者には安全配慮義務がある。そのことは労働契約法第5条に次のように書かれている。(条文はこちら

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

 この条文について、厚生労働省のパンフレット「労働契約法のあらまし」(PDFはこちら)には、「法第5条の『必要な配慮』には、心身の健康も含まれるものです。」と解説されている。

 「死ね」と罵倒される状況が職場で放置されていたとすれば、そして「気持ちが弱って何事にも無関心になり、夢でもうなされるようになりました」という状況にBさんが追い込まれていたとしたら、それは使用者が果たすべき安全配慮義務を怠っていたということではないのか。辞めたという半数の同期の中には、うつ病で離職に追い込まれた人もいるかもしれないと、記者は考えなかったのだろうか。

【ネットの不確実な情報と現役社員の声しか判断材料はないのか】

 さらにこの記事では、「ネットの不確実な情報」に振り回されず、「現役社員に会って話を聞くこと」が大事だと締めくくられている。この記事だけでなく、多くの人がそのように助言する。しかし、ネットの不確実な情報と現役社員の声しか判断材料はないのか?

 そんなことはない。客観的な判断材料は存在する。にもかかわらず多くの助言者はそれをほとんど無視する(※1)。そのことが筆者は不思議でしょうがない。

 筆者らブラック企業対策プロジェクトのメンバー3名(今野晴貴、常見陽平と筆者)は、2013年11月に「ブラック企業の見分け方~大学生向けガイド~」という無料冊子を公開した(こちら)。

 その中で筆者は「客観データから見分ける」方法を詳しく解説している。東洋経済新報社の『就職四季報』(※2)を使って、新卒入社3年後の離職率をチェックする、3年後離職率が無回答なら、平均勤続年数を調べたり、従業員数と毎年の採用実績数の比率を計算してみる(従業員数に比べて毎年の採用実績数が多すぎると、大量離職を見越した大量採用をしている可能性が高い)、他業種や同業他社をいろいろな指標で比べてみる、といった内容だ。

ブラック企業プロジェクト「ブラック企業の見分け方」より(例は架空企業)
ブラック企業プロジェクト「ブラック企業の見分け方」より(例は架空企業)

 もちろん、『就職四季報』に掲載されている企業数は限られている。その中でも応募が集中する企業と、知名度が低く倍率がそれほどではない優良企業が存在するので、自分が知らない業種・知らない企業の情報も見てみることをお勧めしたいが、とはいえ、地方で就職したいという学生のニーズには合わないかもしれない。

 しかし、この「ブラック企業の見分け方」冊子の目的は、「ある企業がブラックか否か、一目で判別する」ことではない。むしろ、「様々な手がかりからブラック企業を見分ける目を養う」ことを目的としている。そのため、まずは一通り目を通してみてほしい。新聞データベースや雑誌記事データべースなどの活用も解説している。

 また、「就活生が気づきにくい、募集要項の落とし穴」(記事はこちら)に記したように、企業がネット上で公表している募集要項の内容も大事な判断材料だ。その見方については、記事で紹介した「企業の募集要項、見ていますか?―こんな記述には要注意!-」冊子(こちら)を参考にしてほしい。

【現役社員に何を聞くべきか】

 『就職四季報』その他に志望企業の情報が掲載されていない場合、もしくは掲載されている場合にも、現役社員に話を聞くことが有益であることは筆者も否定しない。しかし、大事なのは何をどのように聞くかだ。

たくさんの同期が辞めていても残りつづけたBさんのような社員に話を聞く場合、新聞記者並の取材能力がなければ、頑張ってその企業に残った自分の選択を肯定する語りを聞くだけに終わる可能性も高い。初対面の学生に向かって、「店舗では労働時間を実際より短く申告するのは当たり前」「『死ね』と罵倒される」「同期の半分は辞めてしまったと思います」といった話を自分から積極的に話してくれるとは想像しにくい。そうすると、話を聞き終えて、「ブラック企業とか言われているけれど、イメージと実際とは違うんだな」という印象を受けるかもしれない。

 だから、「話を聞いて自分で判断せよ」というだけのアドバイスは危険だと筆者は考える。働き続けられるような労働条件や職場環境であるのか、それを推し量れる客観的な判断材料を、忘れずに尋ねよ、とアドバイスすべきだ。

 筆者は「ブラック企業の見分け方」の中で、次のような質問例を列挙してみた。

● 毎日の残業はどのくらいあるか。しばしば長時間の残業がある場合、なぜそうなっているか。

● 休日出勤はどのくらいあるか

● うつ病など、体調を崩している人が職場にいないか

● 新入社員はどのぐらい定着しているか。辞める人はどのような理由で辞めているか

● 仕事の量や難易度に無理はないか。ノルマの内容や程度は

● 適切に指導してくれる上司がいるか

● 残業代は適切に支払われているか

● 裁量労働制など、特別な働き方が行われているか

● 賃金の中で、仕事の成果に応じた部分はどの程度の割合を占めているか

● ボーナスは年間で、どのくらいか

● 有給休暇は取りやすいか。どの程度取っているか

● 病気やけがなどの際、助け合って休みがとりやすい職場か

● 育児休業は取得しやすいか。取得実績は

● 女性社員と男性社員の仕事は異なっているか。女性社員の育成や昇進の実情は

● 社長の経営方針や人材育成方針は

 「仕事は大変ですか」という聞き方だと、曖昧な返答しか返ってこない。上記のような質問にも曖昧な返答しか返ってこないかもしれないが、そのときの反応を注意深く観察してみれば、およそのことはわかるのではないだろうか。

 ただし、こういう話はなかなか企業説明会では率直に聞けないし、会社から紹介された社員に聞いたら企業側に筒抜けになってしまうかもしれない。そこは戦略的に行動しよう。

 大学のキャリアセンターにOG・OB名簿があるなら、それを利用して、先輩に連絡を取ってみよう。あるいは、ゼミやサークルの先輩、ゼミの先生や親に相談してみよう。つてを頼って誰かを紹介してくれるかもしれない。必ずしもその会社に働いている人でなくても、同業他社で働いている人なら、他社のこともある程度は知っている場合もある。また、同業他社や同職種で働いている人に話を聞けば、その業界やその職種に共通する「きつさ」もある程度はわかる。

【言葉を勝手に解釈せずに実態を見よう】

 上記の日経の記事では、「選別型」企業がブラック企業かどうか、判断がわかれるかもしれない、としている。しかし、POSSEが言う「選別型」とは、同記事に書かれているように「半分以上が辞める前提で大量採用。企業にとって使える人、従順な人だけを残してそれ以外は辞めることが折り込み済み」というような企業だ。できる人だけが昇進していく、といった話ではない。

 まともな企業は採用選考の段階で慎重に「選別」をしている。本人の意欲、能力、人間性、業界・企業・仕事の理解度などを、時間とコストをかけて見極めて厳選採用する。その上で、採用した社員についてはしっかりと育てようとする。そのような入社前の「選別」を行う企業と、大量離職を見越して大量採用し、その上で入社後に「選別」を行う企業とは区別されるべきだ。「選別」にしろ、「厳しい」にしろ、どうもこの記事では言葉が独り歩きしてしまっているように思わざるを得ない。

 日経電子版の「お悩み解決!就活探偵団」には良い記事もある。2011年11月30日「学生狙う違法インターンシップの実態」(こちら)と同年12月7日「こうして学生は違法インターンにはまる」(こちら)では、学生の意欲を逆手にとって、最低賃金も下回る報酬で社員のようにノルマを課して働かせ、不払い残業も強いている例などを批判的に取り上げている。違法インターンシップであることを自覚しつつ経験重視で働いているという学生の声も紹介しつつ、「違法インターンシップを求める学生もいるが、法律は守ろう」と締めくくっている。ブラック企業問題についても、「厳しい職場」などという言葉でごまかさず、ブレない姿勢での記事を期待したい。

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※1

実はこの記事でも中盤では、東京新卒応援ハローワーク統括職業指導官の細田誠氏による「ブラック企業チェックポイント」が紹介されている。その中には「社員数の割に募集人数が多い」などの客観的な判断材料が示されている。にもかかわらず、記事のまとめ部分では自分で社員に話を聞くことばかりが強調されており、何を聞くべきかの例示もない。

※2「総合版」「女子版」「中堅・中小企業版」の3冊が毎年発行されている。「四季報」というと『会社四季報』を連想する方も多いだろうが、『会社四季報』とは異なり、就職する学生向けに役立つ採用関連情報や労働条件などを整理したものである。就職ナビに掲載されている情報は企業が掲載料を支払っている「広告情報」であるが、『就職四季報』は読者の書籍購入費に支えられた「独自調査に基づく客観情報」である。ただし、募集要項で30時間分程度の残業代を組み込んだ初任給を提示している企業は、『就職四季報』でも、固定残業代込みのその額を初任給欄に回答している場合があり、比較の際には注意が必要である。