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FA人的補償の隠れみの!? 育成なのに年俸数千万円!? 「抜け道」になり始めた育成契約の健全化を

上原浩治元メジャーリーガー
(写真:ロイター/アフロ)

 ルールや規約にはつくられた当時には予期できないような〝抜け道〟ができてしまうことがある。そのこと自体を責めることはできない。ただ、問題が明らかになれば、変えていく必要はあると思う。

 プロ野球の育成選手契約とフリーエージェント(FA)移籍で獲得した選手の「人的補償」の関係だ。

 巨人は今オフ、DeNAからFA宣言した梶谷隆幸外野手と井納翔一投手を獲得した。FA選手は旧所属の球団の年俸順位(外国人選手と直近のドラフトで獲得した選手、育成選手を除く)によって、獲得する選手の年俸によってA~Cにランク分けされ、選手が所属していた旧球団はランクに応じて移籍先の球団に金銭や人的補償を求めることができる。

 Aランクは旧球団の年俸上位1~3位、Bランクは4~10位、11位以下がCランクで、人的補償の対象はAとB。今回は梶谷選手がBランクで、DeNAは巨人がプロテクトした28人を除く支配下選手の中から1人を獲得することができる。補償の対象となる選手は、FA移籍した選手の契約締結についてコミッショナーから公示された日から2週間以内に提示される。

 人的補償は、言うまでもなくFA移籍による戦力ダウンを補う制度だ。主力選手がプロテクトされるため、若手有望株がターゲットになるケースが多い。巨人は過去、FA選手の獲得の代償として、13選手が人的補償でチームを去った。DeNAから巨人にFA移籍した山口俊(現ブルージェイズ)の人的補償となった平良拳太郎投手は移籍4年で15勝をマーク。ベテラン選手が対象になることもあり、広島から丸佳浩外野手を獲得した際には、長野久義外野手が指名された。

 球団にとっては、プロテクトできない選手の中にも、できることなら人的補償に選ばれたくない選手がいるのは事実だろう。今回は育成契約がプロテクト以外の〝抜け道〟になっているのではないか、と疑わざるを得ない状況が生まれている。

 巨人がともに高卒2年目で1軍経験もある直江大輔投手と山下航汰選手、2017年ドラフト1位の鍬原拓也、昨年同1位の堀田賢慎両投手を合わせた若手4選手をいったん自由契約とし、その後に育成選手として再契約を結んだ。いずれも故障が理由で育成での契約になったと報道されているが、育成選手は人的補償の対象外だ。一部の報道でも「育成を隠れみのにしたのでは」と疑う声があり、私と同じ巨人OBでもある中畑清氏もスポーツニッポンのコラム「キヨシスタイル」でこの点を取り上げている。

 私自身、左膝を手術した18年オフに巨人を自由契約になった後、再契約を結んだとき、「のちに再契約する密約」があってプロテクトに入れなくて済むように自由契約になったという疑いをかけられたが、巨人からそんな話はなかった。いま考えても、バカげた報道だった。今回も巨人の考えははっきりとは言えないが、育成契約が「グレーゾーン」であることは間違いない。

 この問題を解決するには、育成契約を本来の趣旨に沿った選手のみを対象とするように見直すことが第一だと思う。

 育成選手はドラフトで支配下選手としては獲得するレベルにはないが、一芸に秀でていたり、将来的に成長できる可能性がある選手が「夢」を勝ち取るために挑戦できるための制度であるはずだ。

 けがをした選手の「避難先」にしないためにも、育成選手の年俸は厳密に2軍選手の最低年俸(440万円)以下にすればどうだろうか。例えば、育成で再契約を結んだ巨人の高木京介投手。再起をかけることはもちろん応援するが、報道された推定年俸は2500万円。はたして、育成選手と呼べるのか。

 FAの人的補償選手との兼ね合いで言えば、育成選手も人的補償の対象に入れればいいと思う。人的補償を支配下なら1人、育成なら2人獲得できるようにすれば、〝抜け道〟の疑いをかけられることもないだろう。

 育成選手はソフトバンクでエースに成長した千賀滉大投手や強肩で正捕手を射止めた甲斐拓也選手など多くのレギュラーを発掘したことで注目され、過去に山口鉄也投手や松本哲也選手らを発掘した巨人は今秋のドラフトで大量12人を指名した。選手発掘に意欲的なことはいいことだと思うが、結局のところは、選手の練習場所や寮の完備などを考えると、資金力の差が育成選手の獲得数にも影響しているように思う。

 プロ野球は新規参入の道が限りなく閉ざされた、いわば12球団が運命共同体として発展していくことが求められる世界でもある。そのことにあぐらをかく球団があってはいけないが、経営努力ということで補強を突出させる球団があると「戦力均衡」が許容範囲を超えてしまう。

 さじ加減は難しいけれど、育成選手も含めた年俸総額で、12球団の中で5、6位あたりの平均的な球団の総額を上回った球団にはメジャーのように「ぜいたく税」を課し、下位球団が補強費に回せるような制度も必要なのかなと思う。巨人を批判したくて書いているわけではない。せっかくできた育成制度なのだから、うまく活用していけるようになってほしい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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