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変わる「街までバス」 西鉄の北九州地区、連節バス拡充と路線再編へ

上田真之介ライター/エディター
新たに導入する「桜色」の連節バスと運行区間(記事中の写真は筆者撮影)

 西鉄バス北九州(西鉄)は7月31日にダイヤ改正を実施し、北九州市小倉北区の中心部から小倉南区を経て恒見(門司区)へと向かう主力路線に連節バスを導入する。小倉南区東部では路線網を幹線と支線に分割する大規模再編を同時に行い、運行の効率化を図る。運転士不足が社会問題化する中、バス王国などとも表現される北九州市や福岡市でも「街までバス」のライフスタイルは転換点を迎える。

連節バス導入の特快10番

 小倉南区エリアは需要の変化に合わせて毎年のように路線改廃を繰り返してきたが、今夏はシンボリックな連節バスが導入され、主力の10番系統小倉-恒見線を含めた再編となったことから、ダイヤ改正のインパクトは大きい。

 路線体系は大きく変わり、幹線と支線にはっきりと分割。パターンダイヤ化を進め、10番台全体で大通りを走る区間は等間隔での運行となる。10番台は国道10号線やJR日豊本線方面に伸びている路線群で、小倉側の端点は砂津か青葉車庫。かつては砂津発着と青葉車庫発着でそれぞれにパターン運行していたが、現実の利用状況に沿った効率的な運用になっていく。

 ただ、不変とも言えるのが並走する鉄道との関係だ。一部の駅ではJRやモノレールと連携関係を築いているが、基本的には競合関係が維持される。

特快10番の運行区間と関連するバス路線や鉄道網(筆者作図)
特快10番の運行区間と関連するバス路線や鉄道網(筆者作図)

 連節バスは10番系統の特快として導入され、JR日豊本線や北九州モノレールと並走する区間は、駅に近いバス停に止まる(上図参照)。一見すると鉄道とバスの乗り継ぎを図るように感じ取れるが、駅と駅の間にあるバス停には止まらないため、実際には真っ向勝負の状態。西鉄が案内する支線系統への結節点も駅ではなくバス停を指し示すなど、競合と言える状況は続く。

「街までバス」の路線網

 地域子会社を含むいわゆる「西鉄バス」は路線設計が独特だ。大都市圏の路線バスは通常、鉄道を補完する存在である場合が多く、住宅地から最寄りの駅まで乗客を運ぶというフィーダー路線に徹している。しかし、西鉄では「駅までバス」という路線は少なく、「街までバス」という路線が大半を占める。北九州市や福岡市では放射状の路線網が都市中心部から直接、時にJRと並走しながら、郊外の住宅地へと伸びている。

 北九州地区の路面電車代替路線や福岡地区の26A系統(天神-赤間)など長距離にわたって鉄道と並走する路線もあり、郊外のJRの駅前は鉄道とバスを乗り継ぐターミナルとしてはそれほど機能していない。

 それでも住宅地からダイレクトに都市中心部まで行けるため、利用客にとっては乗り換えを考えずに勤務先や商業地へと移動できる。小倉や天神から遠く離れた住宅地でも都市高速道路を使って直結しており、結果的に中心部がバスであふれてしまうことになるが利便性は高かった。

 しかし、運転士不足や沿線環境の変化などで従来のようなサービスを維持しにくくなってきているのも事実だ。折しもJR九州が都市部の減便に方針転換するなど、公共交通機関全体の疲弊が報道されるようになってきていた。

連節バスという切り札

 バス路線の根幹を維持しようとする場合、どうしても利用客の減少した路線を廃止したり、末端区間を減便したりするのが一般的な手法となってしまう。小倉-恒見線の周辺に着目すると、珍名として一部の愛好家では知られた「あげ」を含む区間を廃止したり、かつては県境を越えて大分県中津市まで伸びていた系統を大幅短縮したりと、他社同様の手法も採用している。

 ところが、モータリゼーションの進行よりも運転士不足のほうが深刻度を増し、近年は枝葉を切り落としたり、税金を投入したりするだけでは解決できない問題も表面化してきた。

末端区間の多くは分割や廃止が続いた。左は2015年撮影の行橋市内。当時は小倉の中心部まで乗り換えが不要だったが、先んじて寺迫口付近で分割。右は「あげ」(2007年)で、コミュニティー交通に転換済み
末端区間の多くは分割や廃止が続いた。左は2015年撮影の行橋市内。当時は小倉の中心部まで乗り換えが不要だったが、先んじて寺迫口付近で分割。右は「あげ」(2007年)で、コミュニティー交通に転換済み

 北九州市は2017年12月、市議会の建設建築委員会で連節バスを用いた拠点間BRT(バス・ラピッド・トランジット=バス高速輸送システム)の検討状況を報告し、資料で「公共交通利用者については減少の一途をたどっていたが、近年では、横ばいとなっており、減少に歯止めが掛かりつつある」と説明。将来的な利用客の減少は避けられないが、運転士不足が喫緊の課題となり、「人口減少、超高齢社会、バス乗務員不足に対応した持続可能な公共交通ネットワークの再構築」(市公式サイトの記述)を迫られた。

 客はいる。しかし、動かす人がいない――。難問を抱えた市とバス会社にとって、1両あたりの定員が飛躍的に増える連節バスは救世主だった。2018年から3路線で試験走行を実施。このうちの2路線で右左折時の区画線逸脱などが起きないことも確認され、2019年7月には基幹路線の一部で本格運行を開始した。

連節バスで運行している小倉-黒崎間の特快1番系統。定員は128人で、通常の大型バス(78人など)から大幅に増えた
連節バスで運行している小倉-黒崎間の特快1番系統。定員は128人で、通常の大型バス(78人など)から大幅に増えた

 市内最大の基幹路線、1番系統(小倉-黒崎など)では徐々に連節バスの運行便数を拡大し、2021年7月時点で毎時2往復を連節バスで運行している。導入前はデータイムで毎時11往復程度のバスを走らせていたが、連節バスの導入で通常車両による運行を7往復程度に削減。単純計算で毎時2往復分の車両と人員の削減に踏み切った。減便による混雑を激しくさせずに運転士不足を解消するという難題に、連節バスが答えを出せる可能性を示したのが、1番系統への導入だった。

10番台全体での再編

 次の導入先として10番系統が選ばれたのは、狭隘(きょうあい)区間がなく、連節バスを走らせやすいという点が挙げられるが、西鉄は「主要幹線軸と周辺地域のバス路線の効率的な組み合わせで地域の実情に応じたバスネットワークを再構築し、公共交通サービスの維持に努めてまいります」(プレスリリース)と説明しており、一定の成果があれば、路線構成が似ている小倉南区西部や八幡西区の住宅地へと広げる可能性もありそうだ。

 今回の再編を具体的に記述していくと、支線へと衣替えするのは13番、16番、17番の各路線。いずれも青葉車庫(青葉営業所)を端点に、小倉の中心市街地を通って郊外の住宅地へと伸びている路線だったが、10番や15番と同じルートを走る区間が長く、今回の改正で重複区間をばっさりと切り落とし、支線化する。

赤色の枠で示した路線が「支線」となる(筆者作図)
赤色の枠で示した路線が「支線」となる(筆者作図)

再編によって大通り区間の運行便数を削減。データイムで約1往復分を減らす(筆者作図)
再編によって大通り区間の運行便数を削減。データイムで約1往復分を減らす(筆者作図)

 注目したいのは幹線と支線の結節点だ(冒頭の地図を参照)。西鉄は結節点として「安部山入口」や「寺迫口」などのバス停を示して、支線から幹線、幹線から支線への乗り換えを推奨。特快10番との接点がない17番の利用客向けには、チラシで「津田第二」での乗り換えを図示した。バスはJR下曽根駅にも止まるものの、JRとの接続には「乗り換えて向かうこともできます」と書くにとどめた。

 鉄道との接点があっても、自社のバス路線に接続できるなら、まずは自社路線を使ってほしいというのは事業者としては当然のこと。支線化によってダイレクトアクセスでの「街までバス」ではなくなるが、決して「駅までバス」にするのではなく、今のところは「『街へのバス』までバス」を促そうとしている。

 もっとも、弥生が丘営業所発着の支線にとって結節点となる「津田第二」の周辺はバス停が分散し、交通量の多いバイパスを渡る場合もあるなど、乗り換えは簡単ではない。同一バス停で乗り換えられ、上屋も整備された「寺迫口」とは大きく異なる。

 現実的には「津田第二」で乗り換えるのではなく、JR下曽根駅で乗り換えたほうが小倉方面との移動はスムーズだが、チラシの奥歯に物が挟まったような書き方には考慮しなければならない事情もある。

津田第二のバス停と、バス停に提げられたチラシ。ここでの乗り換えは高齢者などには大変かもしれない
津田第二のバス停と、バス停に提げられたチラシ。ここでの乗り換えは高齢者などには大変かもしれない

西鉄とJR、連携の限界

 2019年10月、西鉄とJR九州は輸送サービスの利便性向上に向けた覚書を締結。2020年3月には、まさにJR下曽根駅周辺で事業者の枠を越えた連携に乗り出したのだ。

 西鉄は下曽根駅を経由して弥生が丘営業所と恒見営業所を結ぶ路線を新設したほか、既存路線の一部はJRと接続するダイヤに変更。バス車内のディスプレーにはJRの時刻表を表示し、JRも下曽根駅構内にバスの接近情報を表示する大型ディスプレーを設置するなど、相互に乗り換えがしやすい環境を整備した。

 「輸送サービスにおける事業環境は転換期を迎えています。こうした時流のもと、交通事業者は、これまでの事業のあり方に捉われない、大きな変革が求められています」(プレスリリース)

 覚書の締結に際して、そう現状を分析し、「お客さま目線での利便性の高い輸送サービスの実現に取り組む」とした両事業者。下曽根駅での連携には「利便性の高い公共交通ネットワークの構築に向けた取り組みの第1弾」との意気込みを示し、「モデルケースとして利用状況をみながら改善を図るとともに、その他の駅での連携についても今後検討、展開してまいります」とした。

上はバスの時刻表が表示された下曽根駅のディスプレー。下は北九州モノレールの香春口三萩野駅。定期券継続購入機の設置や時刻表の相互案内など、西鉄はモノレールとも連携を始めた
上はバスの時刻表が表示された下曽根駅のディスプレー。下は北九州モノレールの香春口三萩野駅。定期券継続購入機の設置や時刻表の相互案内など、西鉄はモノレールとも連携を始めた

 あらゆる分野やエリアで競合してきた両事業者にとって歴史的な事業で、今年7月22日にはコロナ禍が後押した形となり、JRと西鉄電車、西鉄バスの乗車券がセットになった「天神・博多 乗(の)レール買(か)エールチケット」を販売するなど、局所的な連携が見られるようになってきた。

 ただ、バスと鉄道を棲み分けるようなドラスティックな再編には発展していない。やはり交通機関全体の利便性を高めるための連携と、利用客をみすみす手放してしまうような連携には大きな隔たりがある。もしバス会社の採算が全く合わなかったり、運転士不足への解決策が打てなくなっているのであれば、行政の強い介入を視野に積極的な連携を図るべきだが、バス王国が「JRでどうぞ」と白旗を揚げるにはまだ早すぎる。手は携えるが、がっしりと握りはしないという絶妙な距離感が、今回の路線再編にも表れている。

バスは選ばれ続けるか

 利用客にとっても急激な再編で選択肢が失われるよりは、適度な競合関係があるほうが都合は良いだろう。それでも今回の再編で乗り換えが必要となる利用客は、これまでの「街までバス」を諦めて、「バスとバス」か、「バスと電車」か、「それ以外」かを選ばなければならない。

 西鉄にとっても選ばれ続ける保証はないが、改正の目玉となる桜をモチーフにした連節バスは「乗ってみたい」という第一印象は与えられている。だが、実際の乗車行動に結びつくかは、インパクトではなく、現実の利便性に懸かっている。

 「街までバス」というライフスタイルが息づく北九州市や福岡市。バスを動かせる人たちが減る中で、まずは「『街へのバス』までバス」という変化が訪れようとしている。これが不便なら、「駅までバス」へと雪崩を打って進んでいくかもしれないし、端(はな)からバスが見放されるかもしれない。もちろん利便性が損なわれなければ、乗客が増えていく可能性もある。

 バス王国はどこへ向かうのか。10番台の路線再編は西鉄の未来像に向けた重要な試金石となる。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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