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スタートラインに立つ勝利 浮田が鮮やかな決勝点/レノファ山口(J2第8節)

上田真之介ライター/エディター
アシストした小松蓮に抱きつく浮田健誠(筆者撮影。この記事他の写真も)

 J2レノファ山口FCは4月17日、維新みらいふスタジアム(山口市)でザスパクサツ群馬と対戦し、浮田健誠の決勝点で1-0で勝利した。ホーム戦では今シーズンの初白星。暫定16位に浮上した。

明治安田生命J2リーグ第8節◇レノファ山口FC 1-0 ザスパクサツ群馬【得点者】山口=浮田健誠(前半34分)【入場者数】2256人【会場】維新みらいふスタジアム

※第6節のレビューの末尾で今節のマッチレビューのコラムは掲載しない旨を記しておりましたが、予定を変更し、簡単に試合を振り返ります。

両サイドを総入れ替え

 レノファは前節から両サイドのメンバーを入れ替えた。右サイドは途中出場が多かった池上丈二と川井歩のコンビで先発し、左も今季初出場となったヘナンと今季初先発の浮田健誠で縦関係を築いた。対する群馬もフォーメーションは4-4-2でレノファと同じ。メンバーは二人を入れ替え、古巣対戦となった渡辺広大などが先発したが、両サイドは変更せずに臨んだ。

 カギを握ったのはサイドでの攻防。とりわけ、レノファのアプリ(レノファプラス)に掲載のプレビューでも触れた右サイド(群馬の左サイド)でのゲームメークが軸となり、レノファは池上と川井が持ち前のコンビネーションを発揮。群馬は加藤潤也など推進力のある選手を生かしてボールを運び、サイドからのクロスで大前元紀らFW陣に供給する。

ボールを追う川井歩(左)
ボールを追う川井歩(左)

 そのように一つ一つの攻撃はサイドで構築されていくが、試合をマクロの視点で見るなら、時間によって流れがはっきりとしたゲームになった。試合を四分割すれば、モメンタムは群馬、レノファ、レノファ、群馬といった色分けとなるだろう。

 前半25分頃までは群馬の時間帯で、加藤がドリブルで仕掛けたり、サイドバックの平尾壮が加藤を追い越してクロスを上げたりしてチャンスを作る。最後のパスやシュートの質が上がらず得点は挙げられなかったが、群馬がレノファのゴール近くまで迫った。

流れを変えた右からの仕掛け

 劣勢のレノファだったが、前掛かりに攻めてくる相手の後背へと川井が効果的にスプリントするようになる。潮目となったのが同32分のプレーだ。センターバックの菊地光将が自陣でボールを確保すると、相手を引き寄せてから右サイド奥のオープンスペースへと展開。川井がスピードを上げて追いつき、すぐさま出したクロスから小松蓮がシュートを放った。

 ダイレクトで放ったショットはGKにセーブされるが、ここからレノファが相手にほとんどボールを渡すことなく攻撃を続ける。

 待望のゴールは同34分だった。センターバックの渡部博文が敵陣の右サイドへとフィードを送ると、その落下点に再び川井が入り、同サイドに流れてきた小松に向けてヘディングで中継する。小松はドリブルで仕掛けることもできたが、躊躇(ちゅうちょ)なくファーサイドへのクロスボールを選択。一直線にペナルティーエリアに走り込んできた浮田がダイレクトで合わせ、ゴールの右隅へと流し込んだ。

 「FWとはタイミングをずらしてゴール前に入っていこうと思っていた。いいボールが来た」と今季2ゴール目の浮田。ニアサイドで草野侑己と川井が相手を引きつけていたのも奏功し、よどみのないゴールシーンとなった。レノファが流れを引き寄せていた時間帯でしっかりと先制する。

7分の追加時間を耐え抜く

 1点をリードして後半を迎えたレノファだったが、後半8分に草野が右足を負傷してしまう。そのため、比較的早いタイミングでFWの河野孝汰をピッチに送り出し、さらに同22分にはケガで戦列を離れていた島屋八徳を7試合ぶりに投入する。

 起用に応えるように河野がクロスからヘディングシュートを放ったり、渡部の縦パスから島屋がミドルシュートを打ったりと、途中出場の選手たちも積極的にゴールを狙うが、なかなかゴールネットまでは揺らせず、1-0のまま終盤戦へ。

 後半30分過ぎからは群馬がいくつかのシュートチャンスを創出。渡辺や途中出場の進昂平がセットプレーやその二次攻撃からゴールへのチャレンジを繰り返す。レノファも体を張ったディフェンスで応戦。GK関憲太郎が身を挺(てい)しての好セーブを見せるなど、気迫あふれるプレーでゴールを守り続ける。

ゴールを守る関憲太郎(写真は前半のプレー)
ゴールを守る関憲太郎(写真は前半のプレー)

 ただ、気温の高さとフィジカル勝負のタフな局面が多かったことが重なって、負傷による試合中断も散発。5分の掲示だったアディショナルタイムは7分近くに延びてしまう。試合終了のホイッスルが鳴ったのは、後半51分52秒だった。

 待ちに待ったホームスタジアムでの勝利。選手は久しぶりに肩を組んでラインダンスを踊り、スタンドも大きな拍手が起き、歓喜に沸いた。

ホイッスルが鳴った瞬間の島屋八徳とレノファのゴール裏観客席
ホイッスルが鳴った瞬間の島屋八徳とレノファのゴール裏観客席

一体感を取り戻した90分間

 渡邉晋監督も試合後、「サポーターの方が喜んでいる姿を見ると非常に嬉しく思う」と目を細めたが、笑顔も束の間で、「次に勝たなければ意味がない」とすぐにチームを引き締めた。

 「この3連戦が序盤戦の山場。ここでしっかりポイントを取っていかないと、我々が然るべき場所にたどり着く資格がない。そう言ってチームを奮い立たせ、準備してきた。3連戦の頭を取れたのは喜ばしいが、どんどんと次に目を向けて進んでいきたい」(渡邉監督。試合後の記者会見で)

 相手の戦い方を考えれば、流れが行ったり来たりするゲームになるのは想定外かもしれない。レノファはもっとボールを保持し、自分たちのリズムでゲームを動かせたはずだ。この90分間だけで戦術を大いに語るわけにはいかないだろう。

 しかし、「手にしたのは結果だけ」と切り捨てるような試合ではない。

 今節のピッチに出た選手たちは戦術では語れないプライドを示した。島屋は気概を感じさせるプレーでボールを追い、ヘナンは前線との連係不足はあったものの、サイドバックで奮闘。草野が負傷退出する際にはわざわざ駆け寄って手を差し出すなど、チームの一体感を行動で表現した。

今季初出場となったヘナン(中央)
今季初出場となったヘナン(中央)

 浮田のゴールシーンではパスによる連係に加え、川井と草野の犠牲的なランニングがラストショットを放つ選手をフリーにさせている。チームのために走るという姿勢が勝利を引き寄せる原動力になったのだ。前節の東京ヴェルディ戦はちぐはぐさが際立つ内容となったが、1週間でかなりのリカバリーができた。これが一番の収穫ではないか。

 レノファの根底に流れているスピリットが、汗を流して泥臭く戦うという野心と、仲間を信じて歩んでいく協調性だとしたら、今日はそれを思い出させてくれる90分になった。2021年シーズンの「チーム」としての戦いは今、ようやく緒に就いた。ここからが勝負の時だ。

 次戦はアウェー戦で、勝ち点1差のギラヴァンツ北九州と4月21日にミクニワールドスタジアム北九州(北九州市小倉北区)で対戦する。その4日後の同25日はホーム戦。維新みらいふスタジアムに京都サンガF.C.を迎える。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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