「迷い」を振り払うドローゲーム 橋本健人も躍動/レノファ山口(J2第4節)

左サイドでボールを持つ橋本健人(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 J2レノファ山口FCは3月21日、山口市の維新みらいふスタジアムでファジアーノ岡山と対戦し、0-0で引き分けた。

明治安田生命J2リーグ第4節◇レノファ山口FC 0-0 ファジアーノ岡山【得点者】なし【入場者数】3276人【会場】維新みらいふスタジアム

理想と現実の間で

 決して雨雲に覆われているわけではないが、レノファには薄くとも重層的な迷いの雲が掛かっていた。プレッシャーの掛け方や戻るべき場所の小さな齟齬が、結果への到達を拒んでいた。ただ、今節はいくばくか迷いが消え、薄雲の間から、日差しが感じられる試合になった。まるで、試合中の現実の天気が、小雨から陽光届く春の空へと移ろったように――。

 「守備においては多少なりとも、一人一人の迷い、決断の遅さにつながるものを取り除いていく。翌日のトレーニングマッチでもそれに関したミーティングをしてトライし、トレーニングもそれをベースに構築している」

 試合3日前の3月18日、渡邉晋監督は練習後のオンラインでの囲み取材でそう語った。前節のアルビレックス新潟戦では相手の起点やサイドのプレーヤーに対して規制を掛けることができず、レノファ陣内への進出を許してしまっていた。もちろんそれは自陣から抜け出せないビルドアップの緩さと同列で語られるべき問題で、攻守両面で意図が噛み合わない場面が出てきていた。

 現時点での着地点は、渡邉監督が目指すスタイル▽それをまっさらな状態でトライしている新加入選手が表現できるスタイル▽昨年までのプレースタイルを知る既存戦力のスタイル――の三つの平均値だろう。できることを整理し、徐々に新色に染めていかなければ、色むらができるか空中分解してしまう。「私の理想を押し付けるつもりは全くない」とも発言した渡邉監督の言葉には、強い意志が見えた。

今季初先発の小松蓮(右)
今季初先発の小松蓮(右)

 試合で出る現象から課題を見いだし、次の試合までに修正するという一種のPDCAサイクルが続く新生レノファ。今節の岡山戦では、昨シーズンからレノファでプレーする小松蓮、田中陸、それに昨年も特別指定選手としてプレーした橋本健人(慶応大在学中)がスタメンに並んだ。スタメンに占める既存戦力は5人で、開幕戦に比べて2人増加。渡邉戦術が浸透してきていることもあるが、岡山の戦い方に対応できる力があり、なおかつ理想と現実の最適解を表現できるスタメンがこの11人でもあった。

スペースを生かす橋本健人の真骨頂

 小雨混じりの中で始まった試合。前半は今シーズン初先発の橋本が主役となって、流れをレノファに引き寄せる。

 「サイドバックも最後の局面で前に関わる部分が大きい。サイドの裏に飛び出してクロスで終わったり、得点につなげるという役割を持って試合に入った」(橋本)

 昨シーズンから橋本は左サイドと中央の中間(ハーフスペース)に顔を出してボールを受け渡していたが、渡邉監督の戦術にもフィットして躍動。前節の新潟戦で石川啓人が見せていたプレーと同様、巧みなキックで草野侑己や小松を相手ディフェンスの背後へと走らせ、前半24分に入った飲水タイムまでに少なくとも3回のチャンスを作り出す。

 飲水タイム以降は自由度は下がるが、守備では厳しいチェックを継続し、相手のプレー精度を下げさせていく。もっとも守備強度の高さは他の選手も同じで、岡山の連動した攻撃を前半を通じてほぼ封じる。岡山らしい連動性が見られたのは、宮崎幾笑の右サイドへの展開から上門知樹のシュートへとつながった同22分の攻撃くらいだろう。前半はレノファが攻守で相手を上回っていた。

橋本健人は慶応大在学中。自在に動いて好機に絡んだ
橋本健人は慶応大在学中。自在に動いて好機に絡んだ

 ただ、ボールを持っていたレノファだったが、単発のロングカウンターで終わる機会も多く、前半は無得点。15分の短いインターバルを使って渡邉監督は「エラーがいくつか出ていたため修正した」とボールと人の動かし方を微調整し、攻撃面では選手の背中を強く押す。

 「個人個人の立ち位置を明確にし、それによって相手の食いつきがどうなるかを見て前進していく。最後の(相手の守備を)破る部分に関してはもっとダイナミックさを出し、勇気を持って入ろうという話をした」(渡邉監督)

 対する岡山も右サイドハーフを関戸健二にスイッチして、橋本や高井和馬が猛進するサイドの強度を保つ。それでも、橋本のリズムは不変。雨が上がり、西日が照るようになった後半もレノファが試合の主導権を握る。

シュートシーンの質と回数に課題

 後半5分には右の高い位置でフリーキックを獲得。佐藤謙介が蹴ることが多い場面だが、橋本が左足でゴールに向かう方向にボールを送る。このクロスにニアサイドで高木大輔がヘディングで合わせてコースを変え、ファーサイドで小松が飛び込んだ。しかし、わずかに及ばず、ボールはピッチの外へと消えていってしまう。

右サイドでボールを動かす高木大輔(中央)と石川啓人(左)
右サイドでボールを動かす高木大輔(中央)と石川啓人(左)

 なおも同13分にはロングカウンターで橋本がドリブル突破。巧みに中央を抜けていくと、右サイドを上がった高木にスルーパスを送る。この時、瞬間的にはGKと1対1になったが、岡山守備陣のブロックが間に合い、高木のシュートもゴールとはならなかった。橋本が絡んだこれらの場面がこの日最大の決定機。ダイナミックさは確かに出ていたとはいえ、若きサイドバックのお膳立てを得点へと結びつけることはできなかった。

 「一番決めるべきシーンだったのは、フリーキックのニアで(高木)大輔くんがそらしたところ。ファーサイドで詰め切れなかった。ボールが来るというのは感じていて、そこに突っ込んだが、触れなかったのはストライカーとしては甘いと思う。もっとチーム全体としても、個人としてもシュート数を増やしたい」(小松)

 後半16分には再びカウンターの好機をつかみ、草野がスピードに乗ったドリブルで相手陣内に侵入。その左外をスプリントした高井が草野からのパスを回収すると、そのままの勢いでペナルティーエリアの中まで入り、左足で低いクロスを送る。しかし、クロスは岡山のDFの左手に当たったあとクリアされ、ファーサイドの高木には通らなかった。レノファの選手たちはハンドをアピールするも判定は変わらなかった。

高井和馬のクロスは相手DFの左手を直撃
高井和馬のクロスは相手DFの左手を直撃

 試合終盤は両チームにこれらを上回る決定機は訪れず、0-0のスコアで閉幕。ピッチコンディションや天候がめまぐるしく変わる試合は、勝ち点1を分け合った。

奪いどころを整理 守備に手応え

 公式記録によるレノファの後半のシュート数は9本で、前半の3本をはるかに上回る数字を記録した。しかし、述べてきたように決定機はロングカウンターやセットプレーから作られたものが多く、それらも橋本や石川のアイデアに懸かっていたと言える。

 ショートカウンターよりもロングカウンターが目立ったのは、奪いどころの変化に起因する。今節も前線からのチェックは効いていたが、ボールを奪ったのは相手陣地ではなく、自陣に作った網の中だった。それでも、追うところと、奪うところが整理され、これまでの試合に比べて守備が飛躍的に安定した。

 ただ、攻撃の開始地点が低くなるという現象も同時に発生。小松が「ボールが来ていない部分は見直さなければいけない」と語るように、相手のディフェンスラインを崩壊させるような動きは見られなかった。渡邉監督も試合後、攻撃面での物足りなさを次のように率直に語った。

 「あの数のチャンスを作ってダメなのであれば、チャンスの数を増やさなければならない。一発で仕留められる質の高さも求められる。これは、どのチームも、あるいは日本サッカーもずっと抱えている問題だが、意図的なチャンスは、数としてもっと増やしたい」

 戦い方を整理し、まずは無失点で試合を閉じた。この状態を維持しながら、チャンスの質を上げ、シュートの回数を増やしていかなければならない。

 まだシーズンの全体を占う時期ではないが、4試合を終えて0勝というのは不本意な成績だ。「一試合一試合、目の前の試合を大事に振り返り、反省していかないと、このまま勝てず、順位も上がらないままで1年が終わってしまう」(小松)と危機感も募る。現実に寄り添いながら理想へと近づくために、PDCAのサイクルもスピードアップしたい。

 レノファは次戦はアウェー戦で、3月27日に敵地でジュビロ磐田と対戦する。次のホーム戦は4月4日午後2時から、維新みらいふスタジアムに栃木SCを迎える。チームを覆おうとしていた迷いの雲のいくつかは消え、日光は差してきている。そろそろ勝ち点3の果実に手を伸ばしてもいい頃だ。