小林マジックでV字回復。J3北九州、5連勝で再び昇格圏 6日に2カ月ぶりホーム戦

ミクスタの勝利後は恒例のハイタッチ=筆者撮影、この記事の他の写真も

 明治安田生命J3リーグで3年目を戦うギラヴァンツ北九州。このカテゴリーで藻掻いてきたチームは今年、小林伸二監督を迎えて息を吹き返した。前節までに5連勝を飾り、昇格圏内の2位に再浮上。昇格争いは一つの負けが命取りになりかねない大混戦だが、勝負にこだわるとともに、チームのスタイルを確立し、残り10試合を戦い抜いていく。

ポゼッション力で、ゲームを支配

昇格請負人とも言われる小林伸二監督。J3チームを率いるのは初めて
昇格請負人とも言われる小林伸二監督。J3チームを率いるのは初めて

 序盤戦は堅守速攻の形で勝利を重ね、チームの成熟とともに次第にハイプレスとポゼッションでゲームを支配する。同サイドのコンビネーションから好機を作ったり、クロスからシュートにつなげる形も徹底。左右のサイドバックもタフにアップダウンを繰り返し、いくつもの攻撃パターンを構築した。

 今季新加入の岡村和哉、3年ぶりにギラヴァンツに復帰した寺岡真弘を中心とした守備も安定。GK高橋拓也のポジショニングも、以前にギラヴァンツで活躍した佐藤優也(J2ジェフユナイテッド千葉)をほうふつとさせる意欲的なもので、全体の押し上げに一役買う。

 昨年までとはひと味もふた味も違うゲーム内容で、昇格圏を快走。しかしゲームを圧倒的に支配しながら、少ないチャンスを相手に決められたり、数多くある決定機を逃したりとあと一歩が及ばなくなり、シーズン中盤戦で失速してしまう。

 FW陣にフォーカスすると、ギラヴァンツは今年、ベテランの池元友樹、大卒ルーキーのディサロ燦シルヴァーノ、J1横浜F・マリノスから加入の町野修斗、それに2年目の佐藤颯汰の4枚看板でシーズンイン。開幕戦では池元のクロスからディサロが豪快なヘディングシュートを決め、この2トップで安定するかに見えた。

 しかし、池元を除けば若い選手ばかりで、経験の少なさからチャンスを外す場面が散見。シュートレンジにはタイミング良く入るものの、決定力がなかなか上がらなかった。それでもリーグ最少失点を誇るディフェンス力がチームを下支えし、ロースコアながら上位に踏みとどまった。

チームが取り戻したサッカーへの「自信」

ギラヴァンツ北九州の玉井行人社長
ギラヴァンツ北九州の玉井行人社長

 シーズン開幕前、クラブも小林監督も必ずしもJ2復帰を絶対目標には掲げなかった。過去2年間、短期的な復帰を掲げて戦ったものの、結果は惨憺たるものだった。とりわけ昨シーズンは戦術と外国籍選手の補強が合致せず、夏に監督を解任。強化部長も北九州を去った。さまざまな形で支援してきた北九州市も2年連続で補助金を減額し、経営改革を促した。(リンク先は西日本新聞)

 今年1月の新体制発表会見で、クラブの玉井行人社長は「2019年シーズンを起点に中長期的な観点からチームの基盤作り、土台作りに取り組んでいく」と明言。小林監督に「アカデミーの育成からトップの強化まで携わるスポーツダイレクターを兼務」(玉井社長)させた。

2月に鹿児島県でキャンプ。フィジカルから鍛え上げた
2月に鹿児島県でキャンプ。フィジカルから鍛え上げた

 昇格請負人とも言われる小林監督も「土台作り」に言及し、昇格圏ではない「6位」を最初のターゲットに据えた。

 「スポンサーにあいさつに伺うと、ものすごく期待してくれている。成績が悪くても期待してくれている。J2から落ちて2年間、(当時の)監督もおそらくそういう言葉を受け、本当に1年でJ2に上がろうと感じたと思う。上がりたい。しかし、そのためにはやはり土台を作らないといけない」

 小林監督は「攻守の切り替えが早い、コレクティブ(集団的)に戦えるサッカー」をしていくとし、6位を第一目標とした理由を次のように説明した。

 「Aクラスの順位を目指して、早く自信を取り戻してほしい。目の前のするべきことをするのが早道で、6位で『行けるぞ!』となったときには、(昇格圏の)1位、2位が近い数字になる」

 ギラヴァンツの顔ぶれを眺めれば、十分にJ2以上で戦える戦力が揃う。J3でくすぶっているチームではなく、6位という「Aクラス」に入れば、既存戦力が自信を取り戻し、チーム全体が活性化するのではないか--。

シュート20本で1点。決定力不足が課題に

 小林監督はシーズン序盤戦、上述したように安定した守備をベースにゲームメークし、開幕からの4試合で4連勝を飾る。

 その後はJ3の上位クラブとの対戦が続き、4月は0勝2分1敗で終えることになるが、ゲーム内容は一変。この頃からはチームの成熟を背景に、パスコンビネーションを生かして主導権を握るようになる。5月5日のザスパクサツ群馬戦で1-0で勝利すると、翌週のカマタマーレ讃岐戦はこれまで以上にゲームを支配。だが、シュートはほとんどが枠を捉えられず、1-1のドローに終わってしまう。

多くの熊本サポーターも訪れた6月2日の九州ダービー。今季6勝目を懸けたが…
多くの熊本サポーターも訪れた6月2日の九州ダービー。今季6勝目を懸けたが…

 ターニングポイントになった試合が、上位対決となった6月2日のロアッソ熊本戦だ。

 「今日はジャンプしよう」

 5勝3分1敗で迎えた試合で、小林監督は選手に言い聞かせた。

 「これからは際(きわ)の戦いがやってくる。今日はその第1回目。去年は6勝だったので、6勝目に早く到達しよう。まず1回目のジャンプはここだ。自分たちで取る。悪くなって取るのではなく、いい状態のときに無理してバンバン行く。それが道が開ける楽な方法だ」

 自分たちからアクションを起こして、目標を引き寄せる。それができるか否かが問われた試合で、ギラヴァンツは明らかに相手を上回る内容で試合を進めていく。國分伸太郎のスルーパスからディサロ。藤原奏哉のくさびの縦パスから池元。新垣貴之のクロスから町野。多彩な攻撃でシュートまで持ち込むが、最後までFWの表情は笑顔には変わらなかった。

 熊本にシュート3本で2失点。ギラヴァンツはアタッカーの茂平が追撃点を挙げたものの、相手の6倍以上、計20本のシュートを放ちながら苦杯をなめた。

 「攻撃しているときのリスク管理と、ボールを奪われたときの強いプレスは物足らなかった。脚を攣(つ)っている選手はなく、選手はたくましくなっている。そこは褒めてあげたいが、そういう中で冷静に仕留めるという部分は今後の課題。そういうことができるチーム、そういうことができる選手を作り上げたい」

 試合後、小林監督はそう誓った。

 ただ、J2に匹敵する戦力があり、本稿執筆時点でも上位に位置する熊本に善戦した手応えは大きかった。カウンターに頼らず、パスとポジショニングというチーム戦術を軸としたサッカーを継続。翌節のY.S.C.C.横浜戦で2-0で快勝するなど、熊本戦の敗戦以降は5戦負けなしで上位をひた走る。

 しかし、この試合で見え隠れした決定力不足という課題に、蓋はできなかった。夏場に差し掛かり、リーグ最少失点を誇ってきた守備陣に疲れが見え始める。黒星にはならなかったが、6月29日のグルージャいわて盛岡戦と、翌節のAC長野パルセイロ戦でともに複数失点。ついに7月14日のセレッソ大阪U-23戦では1-2で敗れてしまう。ボールの支配率やシュート数を考えれば2点目や3点目は奪えたはずだが、熊本戦と同様にゴールが遠く、これまでの守備陣の奮闘に応えられなかった。

新戦力躍動。北川柊斗が4試合5得点

 J3リーグは8月中旬から下旬にかけて、3週間のブレークが入る。それまでにギラヴァンツは6位という第一目標はクリアし、選手たちに戦えるという自信は戻ってきていた。勝利を重ね自信を取り戻し、次第に組織的で長く戦えるスタイルに移行。昇格圏に入る挑戦権があることを、選手だけでなく、サポーターも意識するような前半戦の戦いぶりだった。

夏場を過ぎても練習時間は長い。フィジカル、技術、連係それぞれにアプローチする
夏場を過ぎても練習時間は長い。フィジカル、技術、連係それぞれにアプローチする

 足りない部分も明らかだった。決められるチャンスで決められない。ゴールを十分に守れるピンチであっさり失点してしまう。両ゴール前という重要なエリアや、試合の入りや終わりという重要な時間帯での戦い方が未熟で、勝ちきれなかった。

 改善への最短経路は経験豊富なベテランを補強することだが、予算が削られる中で基盤作りを図らなければならないギラヴァンツは、可能性がある若手の発掘とチーム力の深化に重点を置く。

 サマーブレークはちょうどいいタイミングで回ってきた。J1やJ2で出場機会が少なかった若手3選手を補強するとともに、開幕前のキャンプと同じような二部練習を繰り返し、リーグ戦と同じスケジュールでの練習試合も編成。短期集中のトレーニングで、選手たちの強化と融合を図った。

 「しっかり守備をした中で(前から行く)クオリティーの高い選手が入ってきて、点を取ってくれているというのは効果的な形になっている。新しく来た選手は、出たくても出れなかったというモチベーションの高さや(他の選手と)少し違うというところを見せてくれている」(小林監督。第22節FC東京U-23戦の試合後記者会見で=公式サイトより)

取材に対応する北川柊斗。4試合で5ゴールを挙げ、地元メディアも注目選手としてピックアップ
取材に対応する北川柊斗。4試合で5ゴールを挙げ、地元メディアも注目選手としてピックアップ

 再開試合となった9月1日のヴァンラーレ八戸戦では、既存戦力の池元がゴールを挙げて先制すると、新加入の高橋大悟と北川柊斗がそれに続いた。ハイラインを保つ守備陣のリスクマネジメントも奏功し、3-0で完勝。9月はラグビー・ワールドカップの関係で4戦すべてがアウェー戦という厳しい日程となったが、それでもギラヴァンツは勝利を重ねていく。

 とりわけJ2モンテディオ山形から期限付き移籍で加入した北川が4戦連続途中出場(総出場時間98分)で計5得点と爆発。20分に1点というペースでゴールネットを揺らし、4戦4勝を記録する9月白星街道の原動力となった。他のFW陣も復調し、池元も4試合で2得点。町野はゴールこそなかったが、9月29日のSC相模原戦では池元のゴールをアシストし勝利に貢献した。立て直しを図った守備陣も粘りを見せ、9月は計2失点に抑えている。

 一時は昇格圏外の4位まで落ちていた順位も、圏内の2位まで戻した。

残り10試合。コンセプトの確立を

町野修斗と池元友樹。コンビネーションは徐々に深化している
町野修斗と池元友樹。コンビネーションは徐々に深化している

 J3リーグは2014年創設。J2リーグに昇格したのは7チームで、これらのうちJ3でも圧倒的な力を誇ったチームが、昇格初年度を中心にJ2を席巻している。

 2016年のJ3で優勝した大分トリニータはJ2も2年で突破し、再びJ1に戻った。「関門海峡ダービー」の相手でもあるレノファ山口FCは2015年のJ3で36試合96得点と大暴れし、勝ち点78、得失点差プラス60をマークするという記録的な快進撃で昇格している。山口はJ3時代までにチームのスタイルを確立。指揮官は当時の上野展裕監督から霜田正浩監督に交代しているが、攻撃力で圧倒するというコンセプトを堅持し、今なおJ2で異彩を放っている。

 逆にコンセプトが固まらないクラブは浮き沈みが激しい。ギラヴァンツは最初のJ2昇格(2010年)以降、コンセプトが大きく揺れ動いた。与那城ジョージ監督、三浦泰年監督時代はショートパスを多用した攻撃的なスタイル。その後は堅守速攻にシフトし、J3に降格してからは迷走と言ってもいいような状態に陥った。

 ギラヴァンツがJ2へ、そしてJ1へと道を切り開いていくには、やはり「これがギラヴァンツのサッカーだ」というものを誇示し、なおかつライバルの追随を許さないような戦いが必要。基盤ができないままにJ2以上のカテゴリーで迷走すると、降格や下位低迷が待ち受けている。今年こそ、堅固な土台の上に明確なチームカラーを作り上げたい。もちろん、チームの構築だけでなく、市が補助金を減らす中、クラブの自立もJ3で戦う間にクリアしておきたい課題だ。

 今週末は8月10日以来のホームゲーム。ミクニワールドスタジアム北九州(ミクスタ、北九州市小倉北区)に迎えるセレッソ大阪U-23はユースから昇格した選手が中心だが、前節の試合ではJ2やJ1での出場経験がある澤上竜二(オーバーエイジ枠)や圍謙太朗(同)、丸岡満も出場するなど手強い。前回対戦でも惜敗を喫した。昇格圏内に再浮上したギラヴァンツにとって、越えていかなければならない壁と言えるだろう。試合は10月6日(日)午後2時キックオフ。

サポーターの期待は大きい
サポーターの期待は大きい

 また、残り10試合のうち6試合はホームゲームだが、アウェー戦となる4試合はいずれも難敵が相手となる。首位ザスパクサツ群馬、3位藤枝MYFC、4位ロアッソ熊本との対戦もすべてが敵地での開催。昇格に向けてはホームゲームで勝利を続け、アウェー戦では確実に勝ち点を手にしていきたい。

 昨季は最下位に沈んだギラヴァンツが、小林監督のしたたかなシーズン戦略でV字回復を遂げている。リーグ戦もいよいよ佳境。もっと強くなるのだという覚悟や上位カテゴリーで戦いたいという意地を見せつけられるか。チームとクラブが強い意志を示すべき今季の最終章が始まる。