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4試合ぶり白星。勝利を呼んだ指揮官とセンターラインの「判断」/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
決勝点の山下(右)などレノファの選手たち=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 J2レノファ山口FCは9月14日、維新みらいふスタジアム(山口市)で愛媛FCと対戦し、2-1で白星を飾った。三幸秀稔と山下敬大が前半の早い時間帯でゴールを決め、後半は愛媛の猛攻を耐え抜いた。

明治安田生命J2リーグ第32節◇山口2-1愛媛【得点者】山口=三幸秀稔(前半12分)、山下敬大(同23分)愛媛=藤本佳希(前半44分)【入場者数】4674人【会場】維新みらいふスタジアム

レノファのスタメン。高宇洋(16番)はボランチで先発した
レノファのスタメン。高宇洋(16番)はボランチで先発した

4バック継続。オフェンシブなゲームに集中

 3連敗で試合を迎えたレノファ。前節からはメンバーを入れ替え、U-22日本代表の北中米遠征から帰ってきたばかりの高宇洋をスタメンに戻したほか、累積警告のために出られない楠本卓海に代わって、右サイドバックを主戦場とする前貴之をセンターバックに配置した。

 レノファは第28節ヴァンフォーレ甲府戦からフォーメーションを3-4-3から4-3-3に変更した。3-4-3では両サイドを張る選手(ウイングバック)の重心が下がり守備的になるが、4-3-3の場合は攻撃に人数を割きやすくウイングも飛び出しやすい。幅を使った攻撃と相手陣地でのポゼッションを狙うレノファにとって、4-3-3は最適解の一つと言えるだろう。

 ところが、チャンスは作れてもゴールがなかなか奪えず、第29節V・ファーレン長崎戦以降は黒星続き。カウンターからの失点も相次ぎ、とりわけ開始10分以内に失点が集中。ゲームの入り方とカウンター対応への修正は喫緊の課題だった。

先発布陣は4-3-3。前貴之がセンターバックを担った
先発布陣は4-3-3。前貴之がセンターバックを担った

 霜田正浩監督は試合を4日後に控えた9月10日の練習で、「失点をしているからと守備的な戦い方を志向すれば積み重ねてきたことがなくなってしまう」と話し、ディフェンシブな戦いに徹する可能性は否定。選手たちには「前からプレッシャーを掛けるが、いつも前からプレッシャーを掛けなければいけないんだという固定観念はない。やりたいサッカーができないとき、それよりももっと大事なことがあるときには、そちらを選択してもいい」と伝え、失点減に向けてピッチ内での最善の判断を促した。

 今節、霜田監督は中盤の形をドイスボランチ(ダブルボランチ)にしたものの、攻撃的な4-3-3を継続。「今まで通りプレッシャーを掛けるところは掛ける。相手のゴールに矢印を向けた攻撃も守備もする。だけれども、臨機応変に、状況に応じて対応を考えるように」と念を押して選手たちを送り出した。

三幸と山下が連続ゴール。池上は2アシスト

 ゲームの立ち上がりからワンサイドに主導権を握ったのはレノファだった。守備的には入らず、高いライン設定と幅を使った攻撃で相手陣内でゲームを展開。右ウイングで先発した池上丈二が「張るときは思い切ってサイドを張る。その中でも中央で受けるという自分のやりたいプレーも意識した」とボールを受ける動きを巧みにこなし、右サイドからチャンスを作っていく。

 立ち上がりの魔の時間帯を相手に攻められることなく無失点で切り抜けると、前半12分には先制点が決まる。

先制点のシュートを振り抜く三幸秀稔(中央)
先制点のシュートを振り抜く三幸秀稔(中央)

 佐藤健太郎がハーフウェー付近でボールを奪うと、右サイドに振って池上に供給する。受けた池上はそのままペナルティーエリア内の中まで入り込み、シュートモーションを絡めた巧みなフェイントでブロックを打破。マイナス方向のラストパスに反応したのが三幸秀稔で、「いいボールが来るだろうと思って走った」とタイミング良く引き出し、右足でシュートを振り抜いた。

 1-0としたレノファ。なおもコンパクトな陣形を保って相手陣内でサッカーを続ける。同23分には相手陣の高い位置でボールをつなぎ、宮代大聖がやはり右サイドの池上にパス。池上は今度はクロスを選択してゴール前に送り、左ウイングで先発した山下敬大が打点高く頭を振った。

 「アシストが素晴らしくて池上選手に感謝したい。前線の選手がしっかり点を取って結果を残していかないと、勝ちにつながらないと思う。試合に出た以上、責任を持って結果を出していきたい」

 そう話す山下はこれが今シーズン10得点目。最初のターゲットとしていた二桁台にゴール数を伸ばした。

佐藤健太郎も中盤の安定に貢献した
佐藤健太郎も中盤の安定に貢献した

 追いかける愛媛は前半のうちに最終ラインに西岡大輝を投入。一時的に4-4-2として、ゲームに変化を加えた。これが奏功し、愛媛が前半40分頃からレノファ陣に人数を割けるようになる。同44分には右サイドを茂木力也が突破し、最終ラインの裏を狙って放物線を描くクロス。ここに飛び込んだ藤本佳希がGKとの競り合いを制してゴールに送り込んだ。

ゲームを動かした「ピッチ上の判断」

 2-1のスコアで迎えた後半は、3-4-2-1に戻した愛媛がゲームを優位に進める。ボールポゼッションにも特徴がある愛媛は、レノファが前半に見せたような逆サイドへの長いボールを使って展開。コンビネーションが合い、ほとんどボールを失わずにペナルティーエリアの中まで運んだ。

 これに対してレノファはクロスを跳ね返したり、シュートブロックに入ったりしてギリギリのところで耐えていくが、ボールを奪ってもパスがつながらず、二次攻撃、三次攻撃を受けてしまう。後半20分を過ぎる頃からは愛媛の神谷優太にフリーでボールを持たれる時間が長くなり、クロスバーを直撃するようなシュートも浴びる。

激しく競り合う前貴之(左)
激しく競り合う前貴之(左)

 レノファの攻撃の質が落ちていたのに加え、愛媛にフォーメーション上のギャップを突かれていたのも明白だった。動いたのは危険を感じ取った選手たちで、霜田監督に自分たちのフォーメーションに手を加えたいという策を持ちかけた。すなわち愛媛のシステムに合わせた3バックに変更したいという相談。この時間帯の動きを、前が試合後、次のように振り返った。

 「センターバック、ボランチ、トップ下のセンターラインが(試合の流れを)感じ取って、(フォーメーション変更を)判断した。それで失敗して負けてしまったら自分たちの責任だが、変えてみてダメだったらはじめのやり方に戻す。苦しい戦いの中や相手がスカウティングする中での戦いでは、そういう選択肢の多さを持たないといけない」

 練習の中から選手に判断を促していた霜田監督は、ゲームの流れを左右しうる大きな提案に対しても「選手たちの判断を優先すべきだ」と受け入れ、同35分、ドストンを投入して3-4-3に変更。前は3バックの中央、三幸と佐々木匠はドイスボランチで相手の攻撃陣に立ち向かった。

 アディショナルタイムを含めた15分間はカウンター以外の攻め手を欠くことになったが、「こういうゲームは年に何回かしかできないと思うが、選手たちが自分たちで判断し、残り15分をどう戦うかを共通理解を持って戦ってくれた」(霜田監督)。アディショナルタイムには枠内に飛ぶシュートを立て続けに打たれるが、GK吉満大介もファインセーブでフィールドプレーヤーの奮闘に応えた。

 2-1でレノファが4試合ぶりの勝利。順位を14位に上げた。

「センターバック」の前貴之。存在感再び

 今節は全員のハードワークが光った試合だった。その中でゴールを確実に決めきった三幸と山下も目立ったが、2ゴールをアシストした池上とセンターバックでプレーした前は値千金の活躍だった。

2得点ともにアシストした池上丈二
2得点ともにアシストした池上丈二

 池上は今シーズンは負傷離脱が続き、ゲーム体力が完全には戻っていない中での出場だった。しかし、右サイドの深い位置やペナルティーアーク付近など多彩な場所で持ち前のボールを受ける動きを発揮。精度の高いクロスでゴールシーンをお膳立てした。

 前が4バックの布陣でセンターバックを務めたのは2回目。一つ前は1-0で勝利した甲府戦で、出場停止の菊池流帆に代わってセンターバックに入り、大きなピンチを作られることなく零封した。今節は楠本の代役を担い、前半はラインを高く設定して主導権掌握に貢献。後半は守備に追われたが、シュートブロックに入ったり、声を出し続けてピンチをはねのけ、ボランチなどと話して布陣変更にも踏み切った。

 4バックの中央を担った試合は2戦2勝。ただ、結果を呼び込んだからといって前を残り試合もセンターバックに置くというのは考えにくい。身長172センチの前が188センチの菊池と187センチのドストンを従えてタクトを振るのは、やはり前のサッカーIQに頼った窮余の策と言うべきもの。前は攻撃に出て行けるポジションで目立つべきプレーヤーだ。

 この試合では、前半から攻勢に出て行くという霜田監督の判断と、ゲームを守備的なシステムで閉じようとするセンターラインの判断が噛み合った。冒頭で述べたように、判断は霜田監督が選手たちに期待している部分。「やりたいサッカーができないとき」のゲームの流れを変える大きな判断も、細かく選手を動かす小さな判断も中心を担うのはセンターラインで、とりわけ多くの選手をチェックできるセンターバックが積極的に頭を働かせる必要がある。

 今節は機能したが、来週以降は再び楠本や菊池、あるいはドストンがセンターバックに戻ってゲームを動かすことになるだろう。前は「今日はセンターバックだったのでボランチの選手やヒデ(三幸)などと話しながらできた。サイドバックから言うのはなかなか難しい。センターバックが自覚してやらないとチームとしても、個人としても成長はない」と明言し、本来のセンターバック陣に一層の積極性を出すよう促す。このあとの試合で本職のセンターバック陣が前のような振る舞いができるか。自陣内での攻守を安定させたいレノファにとって、浮揚への糸口が若いセンターバック陣のプレーにあると言っても決して言い過ぎではあるまい。

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 シーズンは残り10試合。判断する力を養い、勝利を重ね続けたい。霜田監督は「数字の可能性がある以上は一つでも上を目指す。諦めない姿勢を全ての試合で見せる。無駄にできる試合はなく、残り10試合を突っ走っていきたい」と熱を込めた。次戦はアウェー戦で、9月21日午後7時から石川県西部緑地公園陸上競技場でツエーゲン金沢と対戦する。次のホーム戦は同28日午後7時キックオフ。維新みらいふスタジアムにアビスパ福岡を迎える。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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