苦戦する「のんびり路線」 BRT化検討のJR宇部線

真夏の宇部市を走るJR宇部線の車両=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 今年1月、JR宇部線と小野田線のBRT(バス・ラピッド・トランジット、バス高速輸送システム)への転換を含めた本格調査が始まるという話題が報じられた。宇部市とJR西日本が検討しているもので、市当初予算への調査費計上と、他の沿線自治体への協議参加の呼びかけなどが地元紙で伝えられている(2019年1月16日付山口新聞)。

 災害で不通になっているわけではない現役JR路線のBRT転換は他例がなく、その直後からインターネット上では妥当性に賛否両論が飛び交った。もっとも鉄道や軌道の廃止区間をバス専用道に転換した路線は多く、鹿島鉄道線の跡地を専用道に転換した「かしてつバス」など類似した例が皆無というわけではない。

 一方でJR線をLRT(ライトレール・トランジット、次世代型路面電車)に転換したり、その検討をしている事例はいくつかある。

 BRT化や路線バスへの転換、LRTへの変更、それに既存の宇部線や小野田線の利便性を高めて延命を図るなど、さまざまに検討は重ねるべきで、必ずしもBRTありきで結論を急ぐ必要はないだろう。

 宇部線と小野田線の利用客が減っているとはいえ、現在地はきちんと把握していなければならない。市議会での市の答弁や各種のデータをもとに、路線の今と苦戦を強いられる理由を追った。

宇部線と小野田線の路線図
宇部線と小野田線の路線図

宇部市とJR西日本 昨年度から勉強会

 「新たな基幹公共交通軸となるBRTなどの導入に向けた調査や、自動運転の実証など、次世代交通システムの検討・調査に積極的に取り組んでいく」

 宇部市の久保田后子市長は2月、市議会での施政方針演説で新たな基幹交通網の検討を前向きに進めると表明。市街地活性化や地域福祉などの主要政策が並ぶ重点プロジェクトの中に、BRTの調査を盛り込んだ。これを受けた3月定例会では複数の市議が質問し、検討内容の一部が明らかになった。

 議会議事録などによると、田中文代市議は「宇部市地域公共交通網形成計画や、その翌年(2017年)に策定されて国土交通省の認定も受けた市地域公共交通再編実施計画の中には(BRTが)全然出てこない。言ってみれば、降って湧いたような話だ」とし、「宇部市交通創造コンソーシアムという組織が設立されているが、今回のBRTの件はそのメンバーにとっても寝耳に水の案件かと思われる」と問いただした。

 これに対して安平幸治・市総合戦略局長は、「2018年5月から西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)と勉強会を行い、19年度は関係市も含め、導入の可能性について検討」すると答弁。「勉強会と並行して、コンソーシアムに次世代交通システムのプロジェクトチームを新設し、調査・研究や事業化の方策のための検討を進めていく」として、二つのグループで検討する意向を示した。

 具体的な内容にも話が及び、兼広三朗市議の質問に末次宣正・副市長が次のように述べている。

宇部新川駅前のバスターミナル。「新山口駅」「阿知須」など宇部線沿線地域に向かうバスも発着する
宇部新川駅前のバスターミナル。「新山口駅」「阿知須」など宇部線沿線地域に向かうバスも発着する

 「実現に向けての課題として、住民の利便性を高める基幹公共交通軸を担うことができるのか、採算性など事業の継続性、導入に向けた関係市との合意形成などがある。そのための作業として、(19年度は)JR宇部線とバス路線が並走している交通網の現状、概略の整備費や運営経費などの調査を西日本旅客鉄道株式会社とともに行い、BRT導入の可能性を関係市と検討していきたい」

 末次副市長はこれらに加え、BRTのメリットとして、専用の走行路と一般道路の両方で走行可能▽定時性・速達性に優れている▽連節バスなどで鉄道並みの輸送力を確保できる▽将来、専用路での自動運転の実現可能性がある--などを挙げている。

草江駅は山口宇部空港まで徒歩5分ほど
草江駅は山口宇部空港まで徒歩5分ほど

 他の自治体との連携を不安視する声も上がった。河崎運市議は、草江駅(宇部市)や阿知須駅(山口市)を念頭に、「空港の最寄りに鉄道の駅がなくなる」ことと、山口きらら博記念公園でのイベント開催時に「BRTのバスでは車両数が足りなくなる」ことを懸念。「山口市や山口県の了解はとれると考えているか」と投げかけた。

 市の安平局長は「今後の合意形成については、4月から山陽小野田市、山口市も含めて検討する」と答弁。山口宇部空港最寄りの草江駅は「BRTを導入しても、草江駅の停車場という形では残ると考えている。将来的には空港へ直接、乗り入れていくということも可能になる」とした。

 また、大量輸送が必要な場合に、「隊列で続けて走っていくということもできる。鉄道と違って柔軟に臨時便なども出すことができる。柔軟に対応できるのではないか。利便性が上がるのではないかと考えている」と答えている。

 こうした市議会での発言をまとめると、現在の宇部線を舗装するなどして専用道に転換し、連節バスを走らせるという構想が検討の出発点だと考えられる。将来的な空港への乗り入れや自動運転なども議論されるようだ。

BRTとは? 言葉の定義

 詳しく見ていく前に、言葉をきちんと整理しておきたい。

 述べなければならないのは、連節バスとBRT(バス・ラピッド・トランジット)は必ずしもイコールでつなげる言葉ではないということだ。

 ラピッド(Rapid)は「速い」、トランジット(Transit)は「輸送」などの意味で、BRTの中に乗車人員の多寡を定義づける単語は入っていない。実際に気仙沼線・大船渡線BRTは通常タイプの長さの路線バスを充当。BRTの日本語訳も行政資料や新聞各紙では「バス高速輸送システム」と表現する場合が目立つ。(参考:JR東日本「気仙沼線・大船渡線BRT」

 重要なのはどのようにして「ラピッド」(速い)を確保するかで、バス専用道やバス専用レーン、信号を制御してスムーズな運行を図る公共車両優先システム(PTPS)の整備などが各地で具体策に挙げられている。

「BusRapidTransit」の略で、専用レーンや公共車両優先システム(PTPS)を使うことで、路線バスの定時性・輸送力を確保でき、「バス高速輸送システム」ともいわれる。東日本大震災で被災した三陸沿岸部のJR路線の復旧に導入されて注目され、東京都中央区など各地で導入・検討が進んでいる。

出典:朝日新聞

単線で電化。宇部線と小野田線の今

 ここからは宇部線と小野田線の現状を述べていく。

宇部線から降りる利用客。高校生や学生が多い(宇部駅)
宇部線から降りる利用客。高校生や学生が多い(宇部駅)

 宇部線は新山口駅(山口市)を起点に、旧阿知須町の中心部や宇部市の市街地を経て山陽本線の宇部駅に至る33・2キロの単線の電化路線。小野田線は宇部線の居能駅から分かれ、小野田駅で山陽本線に接続する単線の路線で、本山支線と呼ばれる盲腸線を含めて全長13・9キロ。宇部線と同じく全線で電化されている。

 産炭地だったことから歴史は長く、宇部線は1914年に開業した軽便鉄道を起源に持ち、43年に国有化されるまでは宇部鉄道などが運営する私鉄線だった。小野田線とともに石炭やセメントの運搬を担ったほか、国鉄転換後も工業地帯への通勤需要を満たす足となった。(参考:宇部興産「翼」第9号

 私鉄発祥路線ゆえに駅数が多く、土地買収の費用を抑えるためと考えられるが特に小野田線は細かなカーブが多いのも特徴の一つに挙げられる。

 似ている路線ながら、運行本数や利用状況には違いがある。

主力車両の123系と105系(宇部新川駅)
主力車両の123系と105系(宇部新川駅)

 宇部線はおおむね1時間に1往復程度の便数があり、105系や123系の1~3両編成で運行される。沿線に複数の高校や山口大学の一部のキャンパスがあるほか、新山口駅や山口宇部空港(草江駅)などの交通結節点を経由するため、朝夕を中心に混雑する。

 かつては貨物輸送も行われ、九州からは4両編成の旅客列車が乗り入れていた時期もある。今でも山陽本線を経由して厚狭駅や下関駅まで直通する列車が設定されており、運賃計算上は幹線の扱いを受けている。

 山口県統計年鑑によれば、2017年度の路線全体の1日平均乗車人員は4276人で、県内では山陽本線、山陰本線、山口線に次ぐ規模の路線となっている。1989年の1万365人、1996年の8565人に比べると大きく減っているが、2014年の4021人を底に近年は下げ止まり、現在は横ばいで推移している。

 乗車人員よりも実態を正確に表しているのが1キロ当たりの平均乗客数(平均通過人員、輸送密度)で、JR西日本が公表しているデータによると2017年度は2528人。やはり1987年の5568人に比べれば大きく減っているが、これは山陰本線の小串駅-幡生駅間(2879人)とほぼ同じ。この物差しを基準にすれば、地図上から多くの鉄道が消えてしまうことには留意しなければならない。

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 一方、小野田線は原則として123系の1両編成で運行されている。こちらも沿線に山口東京理科大学や大型ショッピングセンターがあり、本山支線を除く全ての列車が宇部線の中心駅・宇部新川駅(宇部市)まで乗り入れている。運行本数は少なく、日中は2時間程度、運行がない時間帯があるほか、本山支線は1日3往復のみで閑散としている。通学の足になっているとはいえ、小野田線全体の輸送密度は460人で宇部線の5分の1にも満たない。

特徴的な「のんびり」路線

 宇部線に着目すると、小野田線よりも利用者は多いがピーク時に比べて利用者が離れているのは事実。なぜBRT転換の話が出るほど、「列車」が顧みられなくなったのか。

 単純で直接的な要因は、沿線の車社会化だ。全国の地方都市と同じで、モータリゼーションが鉄道離れを引き起こしているのは言うまでもない。ただ、二つの面で「運行ダイヤ」が時代に対応できていないという面もある。

 ひとつは列車の運行時間帯

 宇部新川駅を例に挙げると、同駅は宇部市の中心部にあり、宇部興産の工場群があったり、オフィス街や歓楽街も近いが、これらの地の利を生かせるようなダイヤ設定になっていない。退勤時間帯の運行本数は少なく、宇部駅での山陽本線との接続も悪い場合がある。終電は宇部行きは午後9時45分、新山口行きは同27分と早く、途中の阿知須まで向かう終バスが午後10時だという点と比較しても早すぎる設定(平日ダイヤ)。「飲んだ帰りは電車で」とするにも厳しく、現代の需要を満たしているとは言えない。

 もう一点が所要時間の問題だ。

 宇部線は新幹線駅の新山口駅と宇部市の中心部を結び、一見すると需要の高そうな路線に見える。しかし、現在は快速列車の設定がなく、新山口駅から宇部新川駅まで各駅停車の列車で約50分を要している。当地に縁がないとイメージしにくいかもしれないが、沿線から見れば「意外と時間が掛かる」という印象を受けるのではなかろうか。

 車であれば、2012年に無料化された高規格道路の山口宇部道路を経由すれば約30分で着く距離で、宇部市営バス(宇部市交通局)が運行する特急バスも同区間を最速38分で結んでいる。50分と30分台では大きな開きがあり、列車以外の選択肢を採れるなら、あえてJRを使うというメリットを見つけ出しにくい。

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 実際、この区間の表定速度は時速約32キロで、国鉄時代のディーゼルカーが走るJR山口線の新山口駅-山口駅間よりも遅い列車があるという不名誉な記録が計算から導き出せる。

 表定速度は運行距離を所要時間で割り、60を掛ければ求められるので、もしイメージが難しければ時刻表を手がかりに身近な路線で計算してほしい。

 例えば湘南新宿ライン新宿駅-横浜駅間の普通列車は時速約64キロ、東海道本線(JR京都線)の京都駅-大阪駅間の新快速列車は時速約91キロ。宇部線の対岸を走る日豊本線の小倉駅-行橋駅間は普通列車で時速約45キロなどと数字を求められる。

 のんびりさは車社会化が進む地方都市ほど深刻な問題だ。容易に車という選択肢を選べるため、付加価値が車の利便性を上回らない限り、乗客を戻すのは難しい

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 鉄道の付加価値の一つが「のんびり」の対極にある速達性。このメリットを引き出すには停車駅を減らす快速運転が得策だが、宇部線は快速運転には向いていないという事情も横たわる。

 宇部線沿線は、宇部新川駅周辺を除けば、規模の小さな市街地や集落が連続する。必ずしもまとまった需要にはならないが、通過もできない--そういった景色が続いている。

 宇部新川駅から新山口駅に向かう場合、次の琴芝駅と東新川駅は市街地の中にあり、大きな需要を生む高校が近い。その次の宇部岬駅は大型ショッピングセンターや工場が徒歩圏内でやはり一定の需要がある。草江駅は山口宇部空港の最寄り駅。次の常盤駅は住宅地の中にあるほか、観光地の「ときわ公園」にも近い。床波駅は周辺で宅地開発が進み、金融機関や商業施設も多いエリア--。このように宇部市東端の岐波駅や山口市に入ってすぐの阿知須駅まではいずれも駅があるべくしてあるという状態で、通過するという判断は下しにくい。

 快速列車が設定されていた時期はあり、新幹線「のぞみ」が新山口駅への停車を始めた2003年、JR西日本は宇部線に停車駅を絞った快速列車「のぞみリレー号」を導入した。だが、そもそもの使い勝手に問題があったとはいえ、停車駅を絞ったことで散在していた需要を拾いきれず、のちに停車駅を拡大したものの09年に廃止された。04年に誕生したJR山口線の快速が、減便しながらも「通勤ライナー」として生き残ったことに比べれば、宇部線がいかに快速運転に向いていないかが分かる。

市街地の中を走り細かく需要を拾っていく(宇部新川-琴芝間)
市街地の中を走り細かく需要を拾っていく(宇部新川-琴芝間)

 宇部線の需要分散を検証すれば、宇部市の都市機能そのものの分散という構造的な問題にも突き当たってしまう。このほか宇部線、小野田線ともに極端に制限速度を抑えている区間があり、今なおのんびりとした運行は変わることなく続いている。

 BRTに転換したとしても、この状況がある限りは「のんびり路線」は続くだろう。むろん鉄道の付加価値は速達性だけではない。結論を急ぐ前に、鉄道だからできることを探り、需要を掘り起こすべきではないだろうか。

 本稿は連載し、次回ではBRT化を検討する際に考慮すべき点や宇部線の振興策などを詳しく述べることにしている。