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吉濱が直接FKから同点弾。ミスをカバーし、チームに一体感/レノファ山口

上田真之介ライター/エディター
同点ゴールを決めた吉濱と駆け寄る楠本=筆者撮影、この記事の他の写真・図も

 明治安田生命J2リーグ第17節のうち7試合が6月8日、各地で行われた。レノファ山口FCはホームの維新みらいふスタジアム(山口市)で横浜FCと対戦。リードを許したが、吉濱遼平の直接FKで追いつき、勝ち点1を得ている。

明治安田生命J2リーグ第17節◇山口1-1横浜FC【得点者】山口=吉濱遼平(後半49分)横浜FC=レアンドロ・ドミンゲス(後半42分)【入場者数】6054人【会場】維新みらいふスタジアム

若い顔ぶれで「3バック」継続

 1週間前の前節・水戸ホーリーホック戦でレノファはシステムを4-3-3から3-4-3に変更した。5バックの守備的な陣形になりやすいフォーメーションながら、両ウイングバックに入った瀬川和樹と高木大輔が果敢な攻撃参加を見せたほか、3バックの右で出場した前貴之も高木、三幸秀稔などとの連係から攻撃に加わり、レノファらしいオフェンシブな姿勢を維持。菊池流帆の決勝点で6試合ぶりの勝利を飾った。

小野原和哉(後列一番左)が先発した
小野原和哉(後列一番左)が先発した

 レノファはその前節からはほとんどメンバーを入れ替えなかったが、攻守の要の前貴之が累積警告で欠場するため、このポジションにボール奪取力の高い大卒ルーキーの小野原和哉を起用した。霜田正浩監督は「今日の3バックはどちらかというと守るというよりも攻撃の起点にしたいので、しっかりボールを蹴れる、つなげる、攻撃参加できる小野原にトライをした」と狙いを紐解き、攻撃の嚆矢(こうし)となっていた前と似たようなプレーを求めた。

レノファの先発布陣
レノファの先発布陣

 前提にあったのは横浜FCが手数を掛けない攻撃をストロングとし、重心が低い分だけ守備から攻撃に切り替わったときのプレッシャーが掛かりにくいという読み。最終ラインは大卒ルーキーの小野原と菊池、プロ2年目の楠本卓海という若手での構成となったが、十分にボールを出せるだろうという積極的な「トライ」だった。

 実際に楠本を中心にラインコントロールし、小野原がボールを出す場面はあったが、思い切ったハイラインにはできなかった。相手の長身FWイバは脅威で、齋藤功佑などからもプレッシャーが掛かり、攻撃に出るよりも守備に力を割くことになる。

 さらにはボランチの佐藤健太郎と三幸も厳しくマークを受け、攻撃局面では意図したようにボールを動かせなかった。それは横浜FC・下平隆宏監督が中盤とトップに指示した「三幸選手と佐藤選手からなるべく配給させないようにする。まずはそこをコンパクトにして、彼らに自由に配給させないようにというタスクを与えた」という狙いがはまったとも言え、中盤をほとんど経由しない長いボールも目立った。

右サイドでは高木大輔の上下動が光った
右サイドでは高木大輔の上下動が光った

 それでもレノファは大きな展開から左サイドの高い位置で瀬川が回収すると、高井和馬とのコンビネーションから何度かクロスを送ってチャンスを創出。前半22分と同31分にはGKとディフェンスラインの間を狙って瀬川がセンタリングを入れたが、先発した工藤壮人を捉えられなかった。単発で終わる攻撃が多く、「前半の最後のほうでラインを後ろが上げることで、(工藤)壮人くんと(池上)丈二くんが前からプレッシャーに行けるようになった」(楠本)と修正が進むまでは、厚みのある攻撃とはならなかった。

 横浜FCも状況は似ていて、ストロングのイバが徹底したマークを受け、サイド攻撃に対してもレノファの両ウイングバックなどがチェック。レノファ同様に二次攻撃、三次攻撃が発生するような展開にはできなかった。互いに守備力は発揮したものの、攻撃での持ち味を出せないままの前半45分間となった。

先制されるも、攻撃姿勢を維持

 後半に入ると、横浜FCに決定機が増えていく。ハーフタイムで大きな修正が加わったわけではなかったが、下平監督はインターバルで「相手のプレッシャーでできるスペースを見つけること。攻撃のルートは相手が教えてくれる」と選手たちにクレバーにプレーするように指示。レノファのパスミスを突いてショートカウンターに転じ、後半は15分までに4度の決定機を作る。

 このうちCKからのシュートはGK吉満大介がセーブ。カウンターから放ったイバの3本のシュートはいずれも枠を捉えきれず、決定機を逸してしまう。

 レノファにとっては耐える時間帯が続く。奪ったボールがつながらず、「相手のビルドアップで崩されたというよりも、うちのビルドアップで変な失い方をしてカウンターを食らう。そのカウンターがシュートまで行かれてしまう」(霜田監督)という状況をなかなか変えられなかった。

ヘディングシュートを放つ瀬川和樹
ヘディングシュートを放つ瀬川和樹

 前の欠場によってボールを落ち着かせられるところが減り、上述したように三幸と佐藤のダブルボランチがまともにプレッシャーを受けていたのが一因だ。それでも試合が進むにつれて運動量でレノファが勝るようになる。

 後半29分には右の深い位置まで攻め上がった高木がクロスを送り、うまく合わせることはできなかったが高井が反応してチャンスメーク。続く攻撃から小野原がアーリークロスを振り入れ、瀬川がヘディングシュートを放った。このシュートはわずかに右に逸れるも、着実に流れはレノファに傾いてきていた。

 ところが同41分、カウンター攻撃から横浜FCが左のCKを獲得すると、ファーサイドでの競り合いで中里崇宏が倒され、PKに。このチャンスに途中出場のレアンドロ・ドミンゲスがボールをセット。右脚で左隅を突き、最終盤で横浜FCが先制した。

 痛恨の失点となったレノファ。1点のビハインドに奮起したのが、途中出場した吉濱遼平だった。「霜さん(霜田監督)からは点を取ってこいと言われていたので、点を取ることだけを意識した」。そう話す吉濱は相手のブロックをかいくぐるようにコースを切り開き、同46分に瀬川のパスからシュート。これは上に逸れるが、なおもバイタルエリアでボールを受けようと試みる。

 レノファは吉濱と同じように途中からピッチに立った山下敬大も奮起。同47分にミドルシュートでゴールを脅かすと、その次の攻撃ではドリブルで抜け出そうとして引っ掛けられ、ペナルティーエリアのすぐ外側でFKのチャンスを手にした。

 ラストチャンスと言ってもいい時間帯。横浜FCの分厚い壁の手前でボールを置いたのが吉濱と池上丈二だった。

左足でシュートを放つ吉濱遼平
左足でシュートを放つ吉濱遼平

 「練習で蹴っている位置だし、本当に(蹴る前から)絶対に決まったなと思った」(吉濱)。左利きのキッカーは頭の中にコースを思い描き、右利きの池上も「遼平くんが蹴る気満々だったし、壁の位置を見て、僕は判断して譲った」と話して、最終的には吉濱のキックを選択した。両選手ともに高精度のプレースキックを持っているが、練習しているからこそ分かる「吉濱のレンジ」という共通理解があった。

 シュートは弧を描いてゴール右隅に吸い込まれ、土壇場で同点に。ホームで勝ち越すまではできなかったが、1-1で強敵相手に勝ち点1をつかんだ。「壁の上を越すだけだったが、本当に決まると思っていた」と話す吉濱は、全員で取ったゴールだったと強調。「負けられないという空気の中で練習をやっているし、絶対に負けたくないという気持ちがみんな出ていた」と力を込めた。

主力不在が生んだ「一体感」

 今節は前のほか、トゥーロン国際大会に出場している川井歩、国際親善試合に招集されたドストンが不在だった。とりわけ大きな穴となったのが前のポジション。昨シーズンから前が欠場した試合ではなかなか主導権を握れず、今節も個々の場面を見ていけば、やはり攻撃でのクオリティーやリスクマネジメントに前の存在の大きさを感じる試合になった。

引き分けに終わったが土壇場の同点劇に拍手が沸き起こった
引き分けに終わったが土壇場の同点劇に拍手が沸き起こった

 しかし、最終ラインで一つだけ年上の楠本は「流帆とオノくん(小野原)のポテンシャルは大学のときから知っていた。そこは信頼して、あとは声を掛け合ってやれれば二人ともしっかりできると思っていた」と自信を持ってゲームに臨み、さらに年上の選手たちが若いディフェンスラインをカバーしようと動いた。ボランチのポジショニング、ウイングバックの上下動にそれは現れたが、結果に直結したところだけを拾い上げても、PKに絡んでしまった小野原のミスを山下や吉濱のプレーで取り返している。

 コンビネーションと全員のハードワークこそがレノファの生命線。霜田監督は「今までであれば誰かがミスをしてそのままゲームが終わっていたが、それをチームとして取り返す。そういうようなチームとしての一体感がちょっとずつ出てきている」と前を向いた。

 レノファは次戦はアウェー戦。6月15日午後7時から、岡山市のシティライトスタジアムでファジアーノ岡山と対戦する。引き続いてトゥーロン国際大会に出場している川井は不在で、レノファにとってはチームの地力が問われる試合が続く。次のホームゲームは同22日開催で維新みらいふスタジアムにFC岐阜を迎える。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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