JR九州ダイヤ改正:減便とともに深刻な「区間短縮」。都市近郊にも影響

JR九州の普通列車(811系更新車)=北九州市小倉北区(筆者撮影、他の写真も)

 JR九州は3月17日のダイヤ改正で117便を減便する。ローカル線では通学の足への影響が避けられず、当然のように見直しを求める声が上がった。ただ、改正後の時刻表や大分市が市民から募った意見からは、減便とは異なる実態も浮かび上がる。減便同様に大きな影響が出てきそうなのが、九州一円で「聖域」なく行われる区間短縮や最終列車の繰り上げだ。

大分から遠くなる山陽新幹線

特急ソニック。大半の列車は博多-小倉-大分間で運転されている
特急ソニック。大半の列車は博多-小倉-大分間で運転されている

 大分市が1月末から2月上旬にかけて行った意見公募では、98人から186件の意見が寄せられた。このうち59件が日豊本線の特急列車に関わるもので、実に52件が2本の列車に集中した。

 3月17日の改正で、大分と小倉(北九州市)や博多(福岡市)を結ぶ特急ソニックの一部が見直され、運行区間が短縮される。とりわけ始発列車と最終列車は大分県北部の中津発着に縮められ、別府や大分には踏み入れなくなる。市民からの意見は減便列車ではなくこの「区間短縮」の2本に矛先が向けられた。

 改正前は午前4時43分に大分を発車する特急ソニックがあり、これは小倉で始発の東京行きのぞみ2号に接続。9時前には新大阪に着くため、出張などに向く便利なダイヤ設定だった。しかし運転区間短縮で最初の接続列車はのぞみ6号に後退(臨時列車を除く)。大分空港発の伊丹行きの始発便(10時50分着)よりは早いものの、新大阪着は1時間遅い9時38分となる。もちろん京阪神方面以上に往来が頻繁な福岡市や北九州市への利用時も滞在時間が短くなり、影響は避けられない。

図1:特急ソニックの深夜時間帯の改正後時刻 (プレスリリース、駅時刻表をもとに筆者作図。他の図も)
図1:特急ソニックの深夜時間帯の改正後時刻 (プレスリリース、駅時刻表をもとに筆者作図。他の図も)

 意見が集まったもう一つの列車は、博多を23時ちょうど(改正後は23時1分)に発車する特急ソニック61号だ。この列車は小倉では山陽新幹線の上下両方向からの最終列車に接続していたため、平日はビジネス客、週末はコンサート帰りの若者などの乗車が目立っていた。このたびの改正でソニック61号の運行区間は中津止まりに短縮。大分に向かう特急は博多22時5分発が最終列車となり、改正前より約50分早くなる。

 大分に顔を出さなくなるこの2便は、列車としては「中津発博多行き」と「博多発中津行き」として存続するため、減便には含まれていない。だが、実際は中津から大分の区間で始発列車と最終列車が削られた形となり、あわせて2時間弱も利用客の行動に制約が発生する。特にソニック61号は宮崎空港まで夜通しで運行していた特急「ドリームにちりん」が源流にある伝統のダイヤ。意見の多さが示すように出張時の足などとして定着していた。

見直しに聖域なし。乗客増の鹿児島本線も

 減便と区間短縮は北九州市や福岡市近郊の都市部でも見られる。

図2:日豊本線普通の下り最終列車
図2:日豊本線普通の下り最終列車

 小倉を発着する普通列車で見ていくと、改正前は柳ヶ浦(大分県宇佐市)まで運行していた日豊本線の最終列車は、運転区間を行橋(福岡県行橋市)にまで短縮。運転時刻も10分繰り上がり、下関方面からの最終列車を待たずして発車することになった。また、影響は限定的と考えられるが、日本一早い始発列車として話題になっていた柳ヶ浦4時17分発の上りの普通列車(門司港行き)も行橋発に短縮される。

 北九州市、福岡市、久留米市など大都市を結ぶ鹿児島本線も聖域ではない。通年運行だった博多午前0時10分発の小倉行き特急きらめき28号(改正後は22号)は休前日などに運行日を限定。博多午前0時15分発の長洲(熊本県長洲町)行き特急有明5号は削減され、同0時25分発の原田(福岡県筑紫野市)行き普通列車は、福岡市内の南福岡止まりに区間短縮される。

 日中の時間帯も途中駅で運行を打ち切る列車が増える。例えば博多を挟んで門司港と久留米などを結んでいた中距離列車の一部は、福間(福岡県福津市)や二日市(同筑紫野市)までの運行に短縮。これによって、北九州市内の小倉-折尾間は1時間あたりの普通・快速列車が5往復から4往復に減少、二日市以南も同様に6往復から4往復に減る。いずれのケースも運転区間を短縮して途中駅止まりにしたことが減少理由で、減便総数の117本には含まれない。また図3に示すように列車の大半が「区間快速」となり、運転パターンは現行以上に複雑なものとなる。

図3:鹿児島本線上り列車の1時間ごとの運転パターン(日中時間帯。鹿児島県内および鹿児島本線に乗り入れる列車と特急列車を除く)
図3:鹿児島本線上り列車の1時間ごとの運転パターン(日中時間帯。鹿児島県内および鹿児島本線に乗り入れる列車と特急列車を除く)

高速道延伸が原因か。否めぬ説明不足

 JR九州はAll Aboutなどに対して「高速道路の延伸による他輸送機関との競争激化、人口減少、少子高齢化による厳しい状況が続く」と減便理由をブリーフィング(記事)。発足時(1987年)に比べ運行便数を1.7倍に増やしたが、輸送人員は1.3倍の増加にとどまるとしている。

 ただ、輸送人員は単純な右肩上がりではなく(図4参照)、精査が必要だ。JR九州の輸送人員は96年頃に最初のピークがあり、その後は毎年のように減少。2009年にようやく底を打ち、九州新幹線の博多-鹿児島中央間が全線開業した11年以降は上昇が続く。実質的な減便となる北九州市内でも09年で下げ止まった。それ以降は横ばいで推移するが、日豊本線沿線の城野、下曽根などは乗客数が大きく増加。国土交通省が発表したデータによれば、小倉に向かう日豊本線や博多に向かう鹿児島本線の普通列車は、朝ラッシュ時で混雑率が100パーセントを超す。朝は7両以上の編成が運用に就いているが、混雑は激しくなっている。

図4:JR九州の輸送人員の推移
図4:JR九州の輸送人員の推移

 JR九州といえば観光列車が注目されているが、駅ビル開発も各地で行ってきた。小倉(98年)を皮切りに、長崎(00年)、鹿児島中央(04年)、博多(11年)、大分(15年)など各駅で次々に大規模なビルを建設。沿線では新駅を開設したり、分譲マンションを販売したりして、人の移動を生み出す仕掛け作りを進めてきた。乗客数の伸びは、九州新幹線の全線開業のほか、都市部で細かなニーズを掘り起こしてきた成果と言える。

大分駅(16年撮影)は商業施設やホテル、シネコンなどが入る大型ビルにリニューアル
大分駅(16年撮影)は商業施設やホテル、シネコンなどが入る大型ビルにリニューアル

 JR九州の青柳俊彦社長は佐賀新聞のインタビューで「他事業の黒字で埋めるのではなく、コスト削減と増収に取り組むことが鉄道を永続させることにつながる」と語っている。鉄道事業単体で黒字構造を作るのは容易ではないが、報道や最近の動きをみれば、観光列車開発などで新たな収入源を築くとともに、列車削減や駅員の配置見直しなどでの経営スリム化がカギになるのだろう。

 だが、乗客数が堅調に推移し始めた中でのダイヤ見直しは、JRを日常的に使ってきた沿線住民にとってはハシゴを外されたようなもの。高速道路の延伸が都市部の通勤・通学需要を左右しているとは言えず、人口も都市部に集中してきている今、都市近郊で区間短縮や減便をする理由としてJRの説明が十分とは考えにくい。

東九州道はほとんどの区間で暫定2車線で供用。北九州-大分、大分-宮崎などの区間で高速バスが走る
東九州道はほとんどの区間で暫定2車線で供用。北九州-大分、大分-宮崎などの区間で高速バスが走る

 都市間輸送の説明としても不十分だ。特急ソニックが発着する大分市は九州内各地と大分道や東九州道で繋がり、確かに高速道路に起因した自家用車、高速バスとの競争はある。しかし、大分道は霧による通行止めが多いほか(参考:国土交通省 高速道路の通行止めワーストランキング)、東九州道も対面通行区間を残す。

 その他の高速道路でも、例えば九州道に並行する区間は九州新幹線が走っていたり、長崎方面へは新幹線・長崎ルートの建設が進んでいたりと鉄道インフラが整備されてきている。九州各地で競争にさらされているのは事実だが、定時性や速達性の面でJRが著しく不利な立場にあるとは決めつけられない。

 一連の減便や区間短縮に沿線自治体が反発し、JR九州に申し入れを行った。自治体がJRに対して要望を出す事例は全国的に見られるが、今回は他例と少し異なる。述べてきたように都市部への影響さえも避けられず、大分市もさることながら、減便とは無縁だった自治体までがJRに足を運んだ。

 山口県下関市の前田晋太郎市長は2月1日、JR九州本社を訪れて減便を見直すよう求めた(読売新聞)。JR九州の列車が乗り入れる下関駅は、1日あたり2万人超の乗降客数があるが、小倉発の終電が繰り上がるほか、毎時3往復あった下関-小倉間の日中のダイヤが同2往復に削られる。

乗客の増加傾向が続くJR日豊本線の城野駅(北九州市小倉南区)。今回の改正で日豊本線は区間短縮や減便が相次ぐ
乗客の増加傾向が続くJR日豊本線の城野駅(北九州市小倉南区)。今回の改正で日豊本線は区間短縮や減便が相次ぐ

 鹿児島本線や日豊本線などの幹線を抱える福岡県では、自治体や商工団体で構成する県地域交通体系整備促進協議会が1月30日、JR九州に要望書を手渡した(毎日新聞)。同県内では述べてきた列車のほか、日豊本線では日中の運行削減や下り快速列車の廃止などが行われ、とりわけ新田原(福岡県行橋市)以南の区間で影響が拡大。福北ゆたか線(篠栗線・筑豊本線)、香椎線など都市部への足になっていた路線も削減対象となった。

 寝耳に水の事態に各地の自治体トップが自ら動くなど、波紋は利用の多いエリアをも巻き込んで広がっている。

新たな交通網の台頭も

 今回の減便とは関係しないが、競合関係にある交通機関の動きも活発で、JR九州の乗客を奪う可能性がある。例えば北九州市と福岡市の間はJR西日本の山陽新幹線とJR九州の在来線が競合。JR西日本は週末に使える割引きっぷを発行したり、3月のダイヤ改正では朝の運転間隔を調整して混雑緩和を図ったりと、サービスを改善する。

 西鉄グループも高速バスを高頻度に運行する。バス乗務員の不足などから今春はJR九州同様に大規模なダイヤ改正を実施するが、攻めの姿勢も続く。近年は両市を結んでいる主力路線のうち、一部の便を博多バスターミナル経由に変更。JRの一大拠点になっている博多駅前に顔を出し、乗客を取り込もうとしている。

 都市の内部でも動きがある。北九州市は拠点間BRT(バス高速輸送システム)の導入を検討中で、今年1月には西鉄が所有する連節バスを使って走行実験を行った(西日本新聞)。本格導入は2019年度になる模様だが、試走した道路はJRと並走する区間が長く、運行頻度や運賃設定次第では乗客が流れる可能性がある。

 また、福岡市では1月、市営地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線の直通運転に向けた新案が報道された。西鉄貝塚線は千早と和白の各駅でJR駅が近接。西鉄香椎駅もJRの香椎駅とは徒歩圏内にある。直通運転は市が検討している段階に過ぎないが、実現すれば交通機関同士の競争は避けられない。

反応を受け止め、真摯な対応を

 地方都市ではJRは自家用車などの身近な交通手段との競争にさらされている。その一方で北九州市や福岡市など人口の多いエリアでは、他の鉄道や路線バスとも競合。両市は市営の交通機関を抱え、ダイヤ改正や延伸などで利便性を向上させてきている。JRのサービスが低下すれば、乗客が私鉄や公営交通を選んだり、他の地方都市同様に自家用車を選んだりする傾向は強まるだろう。

 乗客離れに繋がらないようにするため、改正以降の乗客数の推移や混雑状況をつぶさに検証し、適切に実態把握する必要がある。もっとも冒頭で述べたソニック61号などは次の改正を待たずに再見直しを検討するか、説明を丁寧に行うべきだ。意見の多さや自治体の反応は、それだけJRが頼りにされているという証拠でもある。

40年近い車齢の車両も多いが、関門鉄道トンネルを通過できる電車(交直流電車)の新製は進んでいない
40年近い車齢の車両も多いが、関門鉄道トンネルを通過できる電車(交直流電車)の新製は進んでいない

 117便の減便と、その陰に隠れて見えにくくなっていた「区間短縮」。対象となった列車は多く、影響は蓋を開けてみないと分からない。しかしながら、未だに不揃いの運転間隔になっているダイヤパターンを見直したり、編成数を増やして着座率を上げるなど、便数は変えなくともサービスを改善できる部分はある。座席シートの改良や老朽化した電車の更新も一手だ。上場企業とはいえ、公共交通機関でもあるJR九州。マイナス方向のダイヤ改正が与える影響を見極め、知恵を絞って、利便性の維持に努めてほしい。