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レノファ山口:首位発進! 新体制初陣飾る4ゴール。積極守備が奏功

上田真之介ライター/エディター
追加点の小野瀬(8番)を丸岡などが祝福。霜田監督(左)はガッツポーズで駆け寄った

 4ゴールで快勝のレノファ山口FCが、第1節ながらクラブ史上初めて明治安田生命J2リーグの首位に立った(順位表-スポーツナビ)。レノファは25日、山口市の維新みらいふスタジアム(維新百年記念公園陸上競技場)でロアッソ熊本と開幕節を戦い、オナイウ阿道の先制弾などで4-1で勝利。霜田正浩監督の初陣を白星で飾った。

明治安田生命J2リーグ第1節◇山口4-1熊本【得点者】山口=オナイウ阿道(前半2分)、高木大輔(同9分)、小野瀬康介(後半22分)、三幸秀稔(同30分) 熊本=皆川佑介(後半41分)【入場者数】7456人【会場】維新みらいふスタジアム

 Jリーグ参戦4年目、J2に昇格してからは3年目となるシーズンが始まった。霜田正浩監督は選手に質と強度を求め、チームとしては全員守備、全員攻撃のアグレッシブな戦いをしていくとしてきた。ただ、一週間前の2月18日に開催されたプレシーズンマッチでは、「想像以上に多かった」(霜田監督)というパスミスが響いてサンフレッチェ広島に惜敗。主導権を掌握しようにもミスでボールを失い、カウンターを食らっていた。プレシーズンマッチを受けて、練習では主導権を握れるパスワークを復習し、全員守備も徹底。迎えた開幕戦を指揮官は「50パーセント」の体現率としたが、目指すサッカーの形を十分に示した。

新加入からは6人が先発した(筆者撮影。この記事の他の写真も)
新加入からは6人が先発した(筆者撮影。この記事の他の写真も)

前半10分で2得点。主導権を握る

 試合は早い時間から動く。前半2分、センターアークの付近からのフリーキックを三幸秀稔が左の高い位置に蹴り出し、このボールを瀬川和樹がクロス。一度はDFに当たるが、「ボールに一番早く反応できた」とオナイウ阿道がこぼれ球を逃さず、左足で強く振り抜いて先制点を挙げた。さらに同10分には、高い位置からプレスを掛けて高木大輔がボールを奪い、そのまま相手に渡すことなくシュート。「前線からプレスを掛けていくというコンセプトがある。相手もそこで取られたら失点するのは分かっているが、そこで行くからには取る気持ちで行った」と気迫を見せ、追加点のネットを揺らした。

ゴールを決めたオナイウ阿道(左)と高木大輔
ゴールを決めたオナイウ阿道(左)と高木大輔

 立ち上がりの10分で2点を手にしたレノファは、なおも前線からボールを奪いに行きチャンスメーク。得点には至らずともシュートで終わるシーンが目立ち、前半12分に瀬川のクロスに大崎淳矢がヘディングシュート、同44分には小野瀬康介が自らドリブルで持ち込んでシュートを放った。いずれも熊本のGK佐藤昭大に阻まれたが相手に脅威を与えていく。中盤からのボール回しでも広島戦であったイージーミスが減り、主導権を握った状態のまま2-0で前半を閉じる。

 反撃したい熊本は後半10分までに田中達也と安柄俊を投入。ターゲットが増えたとはいえ簡単には放り込まず、ボールを保持しながら前線の活性化を図った。これに対してレノファも全員守備を緩まずに続け、ゴール近くまで持ち込まれても坪井慶介などDF陣が落ち着いて対応する。流れはレノファに傾いたままで、後半22分、オナイウ阿道の横パスを小野瀬康介が引き出して右隅に決めると、その8分後には今度は小野瀬のクロスから三幸秀稔がミドルシュートを突き刺し、リードは4点に拡大した。

5点目を目指す交代カード。レノファらしさ再び

 セーフティーリードとされる3点以上のギャップになり、試合の大きな流れは決した。三幸の得点時点で残り15分となり、守備的な選手を注ぎ込んで引き気味に守っても勝利は堅かった。だが霜田監督は守備的な交代カードは選択せず、残り2枚になっていた交代枠はいずれもFWの山下敬大と岸田和人に使ったのだ。「もっと点を取りたかった。交代の選手の使い方で、まだ攻めるんだというのが選手に伝わった」(霜田監督)。交代カードが示したのは、J2初年に見せたような最後まで得点を取りに行くサッカーの遂行だった。結果的には5点目は決められなかったものの、小野瀬のクロスに山下が合わせてゴールを狙うなど終盤まで攻め込んだ。

チーム3点目となるシュートを放つ小野瀬康介
チーム3点目となるシュートを放つ小野瀬康介

 熊本の反撃をカウンターからの1点に抑え、レノファが4-1で快勝。2月中の試合とはいえ、順調な仕上がりを内容とスコアで見せつけた。複数の得点に絡んだ小野瀬は「相手の動きを見ながら間で受けたり、サイドで開いて貰ったり、考えながらプレーしていた。前半早い時間帯で若い2人が決めてくれたので、チームとしても落ち着いてプレーできた。先制できたのが大きかった」とコメント。得失点差で水戸ホーリーホックと並んだが、総得点で上回ったレノファが首位に。キャプテンでもある三幸は「まだ点を取れるところがあったし、失点はしてはいけなかった。まだ1試合しかやっていないが、追われる立場。ホームで2連戦できるので、連勝していい流れでいきたい」と引き締めた。

ハイプレスで表現した「全員守備」

試合後のラインダンス。スタメンを掴んだGK藤嶋栄介が飛び出した
試合後のラインダンス。スタメンを掴んだGK藤嶋栄介が飛び出した

 勝利に繋がった直接的な要因はハイプレスだ。高木大輔をはじめ、前線の選手が追い込み、ボールを相手陣内で奪い返した。ハイプレスは奪えばショートカウンターに繋がって得点になりやすく、実際にレノファのゴールはその形から生まれた。

 ショートカウンターのためのハイプレスは、現代サッカーのセオリーの一つ。ただ、攻撃も守備も切り離さないとしている霜田監督は、ハイプレスをゴールを取る手段に留めているわけではない。

 試合後の記者会見で守備面の評価を聞かれた霜田監督は、「失点を減らしたい。去年の戦い方を踏まえ、失点をどう減らすかが課題だ」と話し、こう続けた。「守備をディフェンスの選手だけに押しつけるのではなく、全員で守備をし、全員で攻撃をする原点に立ち返る。(前線が)守備をしなくていいという時代ではない。前からプレスを掛けることで、1人目、2人目で取れなくても、3人目や4人目。6人目、7人目で取れればいいと話をしている」。

 レノファは決して個の力が突出しているわけではなく、霜田監督が指摘する通り、11人全員が分担して守備をしなければ失点は減らない。もっともフィールドプレーヤー全員が自陣に引いて、ブロックを築くのも全員守備と言える。だが、レノファが実践するのは陣形をコンパクトに保ったままプレスを続けること。前線からのチェックで少しでも時間を作れれば、一つ後ろの選手も守備に余裕を持てる。最終ラインは体力を削られずに済み、ここぞというタイミングのために力を蓄えておくこともできる。

 三幸は「前からボールを取りに行く。相手に脅威になる守備をやっていこうと監督も話をしていたので、それをうまく表現できて、10分で2点取れたのも自信になった」と話す。霜田監督が目指す全員守備、全員攻撃の「情熱的なサッカー」。この試合では、ショートカウンターを狙うと同時に、守備負担の分散も狙いとするハイプレスでスタイルを表現し、結果を呼び込んだ。

 もちろんまだ1試合が終わったばかりで、真価を測る段階にはない。今後の試合では11人で守備に当たっても、守り切れない状況も出てくるだろう。霜田監督も「毎週こういう内容ができるとは思わないので、いろいろなことを反省しながら次のゲームに挑みたい」と強調。「まだ攻撃の形はできていないし、ボールは落ち着かせないといけない。もう少し主導権を握る戦いをしたい」と攻撃のオプションも増やしていく構えだ。しかし、次なる課題が出現したとしても、可能な限り全員守備、全員攻撃を続け、総力戦で壁を乗り越えたい。

 初陣快勝。小雨の夕さりに、いずれ維新旋風となっていく最初の風を吹き込んだ。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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