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レノファ山口:福島に3-0。FW岸田和人、Jリーグ記録の9試合連続弾

上田真之介ライター/エディター
9試合連続ゴールを決めた岸田和人
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明治安田生命J3リーグは7月29日、第23節の6試合が行われ、首位のレノファ山口FCは福島ユナイテッドFCを3-0で下した。9試合連続ゴールのJリーグ新記録が懸かった岸田和人は後半30分、黒木恭平の折り返しをしずめて記録達成。山口が2戦連続の無失点試合で勝ち点を54に伸ばす一方、FC町田ゼルビアが黒星、AC長野パルセイロとSC相模原が勝ち点1を分け合う足踏みで、山口との勝ち点差が広がった。

J3第23節:山口3-0福島▽得点者=前半36分島屋八徳(山口)、後半30分岸田和人(同)、同47分平林輝良寛(同)▽4715人=維新公園陸

ヒーローインタビューに臨む岸田和人
ヒーローインタビューに臨む岸田和人

試合後のゴール裏。岸田和人は何度も拳を突き上げ、そうして手を合わせ深く一礼した。9試合連続ゴールを決めた背番号「9」は満面の笑みでサポーターの声援に応えていた。山口に来て2年目。昨季も17ゴールでJFLの1年卒業を牽引し、今季もJ3得点ランキングを独走する。ついに20ゴールにも達した。

誰もが認める不可欠のフィニッシャーだ。ただ、上野展裕監督は「順調に成長してきているが、まだまだもっと伸びると思う。これで満足する選手ではないと思うので、どんどん伸びてほしい」とさらに成長を促す。岸田本人も「本当に嬉しかった」と話す反面、「ボールが来ると自分が自分がとなってしまった。もっとパスを出していれば入った場面があったと思う。自分で決められればいいが、決められなければパスを出して詰めるということを徹底してやっていきたい」と振り返った。首位をひた走っていてもここはまだJ3。「チームの優勝を目指していきたい」と記録に浮かれない頼もしさもあった。

連続得点記録:これまでは1997年から98年にかけてのJリーグ戦でサナリス(横浜マリノス=当時)が記録した8試合連続が最長

疲労色濃く、主導権は相手に

福島の厳しいチェックで、前半の山口はボールを運べなかった
福島の厳しいチェックで、前半の山口はボールを運べなかった

苦しいゲームだった。山口は3日前の7月26日、35度近い気温に達した相模原市でSC相模原と対戦。3-0で白星を掴んでいたが、午後1時キックオフの暑さがもたらした疲労は想像以上だった。福島を迎えた29日も維新百年記念公園陸上競技場がある山口市は気温が上がり、ほぼ無風の蒸し暑いコンディションでゲームが始まった。明らかにパフォーマンスは悪く、全員守備、全員攻撃を可能にしてきた山口の豊富な運動量はエネルギーを失っていた。加えて、福島は積極的にボールを奪いに行き、山口のパスコースを限定。「前半、立ち上がりから行こうという中で、いいゲームをやってくれた」(栗原圭介監督)と指揮官も認める福島イレブン奮闘で、山口は横パスに終始したり、ボランチとセンターバックとのパス交換からなかなか抜け出せなかった。

山口は何度もカウンターを食らうピンチも招いたが、GK一森純がファインセーブを連発。山口移籍後2試合連続で先発している代健司、3試合連続出場となったサイドバックの香川勇気らで構成した新しい最終ラインも身体を張り、薄氷をふむようなギリギリのところを耐え抜いていく。我慢のあとにチャンスが訪れるのも山口らしさ。前半36分、相手のクリアミスを香川が拾うと、岸田を経由してMF島屋八徳が先制弾。「苦しい時間に1点取れてチームのためになれた」という島屋のゴールで山口は押され続けた展開から少しずつ脱却していく。

厳しい展開も、徐々に打開

ペナルティエリア左端をドリブルで突く黒木恭平
ペナルティエリア左端をドリブルで突く黒木恭平

後半に入ると山口が敵陣内でボールを回す時間帯が増えていく。しかし、前線に人数を掛ける分、相手のカウンターもさらに効きやすくなり、幾度となくゴール前まで持ち込まれてしまう。ここでも一森の好判断をはじめとする守備陣の個の対応力と、相手のシュートがバーを叩くといった運によってなんとか防ぐと、『その時』は後半30分に訪れた。

ペナルティエリア周辺に人数を割いていた山口は、黒木恭平がエリアの左端を沿うようにゴールラインそばまで深くドリブル。鋭く折り返したボールに岸田和人が飛び込んで記録のゴールとなった。「(黒木が)見てくれていた。僕もダッシュして、ボールを出してくれればいけるなと」と岸田。息のあったコンビネーションで9試合連続弾を奪い取った。

岸田和人に飛びついて喜ぶ山口の選手たち
岸田和人に飛びついて喜ぶ山口の選手たち

岸田はプレッシャーに打ち勝っての樹立。そのハートの強さには秘訣があり、4試合連続ゴールが懸かった6月20日のYSCC横浜戦で、岸田は自分自身に得点ができるかどうか意図的にストレスをかけて臨んでいた。果たして4試合連続弾。このプレッシャーに立ち向かう強靱さが新記録を打ち立てた7月29日のゲームにも発揮された。

前半は上述のとおり「自分が自分が」と得点を焦っているシーンや、疲れの表情が浮かぶ場面もあったが、岸田はそこで折れることなく試合の中で自ら修正を加えた。パスを出すべきは出し、受けるべきときはスペースに走ってポジションを確保する原点に回帰。コンビネーションの中からゴールを奪っただけでなく、最終盤にはMF平林輝良寛のだめ押しの一撃を好アシストした。メンタルの強さに加えて、どう自分が振る舞えばいいかを判断し変えていける冷静さも、厳しい試合を重ねるたびに付けてきている。「チームが勝つことが一番なので、チームの一員としてやっていきたい」。9番の目には飽き足りぬチームを勝たせるための成長欲が覗いた。

4715人の後押し

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また、水曜のナイトゲームにもかかわらず、維新公園には同日のJ3ではトップの4715人が来場。同日開催されていたJ1の各試合には及ばないが、多くのサポーターがオレンジ色を着てゴール裏を中心に声援と手拍子を送った。圧倒的なホーム感。上野監督は「今日は4700人を超える皆さんが平日の夜にも関わらず来てくれて、ありがとうございました。その後押しのおかげで最後の得点や、岸田の得点ができたんじゃないかなと思う」と話し、ゲームキャプテンの島屋も「熱気が伝わった。次のホーム戦に向けてもサポーターと一緒に頑張っていきたい。今の順位に満足せず一試合一試合全力で勝ちに行き、J3優勝を目指してこのまま勝ち進みたい」と力を込めた。

首位独走には理由がある。個の努力、努力を引き出す巧みな戦術、戦術表現を鼓舞する大きなサポート。あらゆるオレンジ色の戦士たちが足を止めることなく歩み続けている。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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