アイアンシアター:枝光の民間劇場、大幅リニューアル。地域と芸術「一緒に、平行に」

北九州市八幡東区にある民営の演劇向けシアター「枝光本町商店街アイアンシアター」でこのたびリ大幅なリニューアルが行われ、5月22日にお披露目を兼ねた記者発表が行われた。公演は6月に再開する。

念願のリニューアル

光タクシー(同区)が所有する旧福岡銀行枝光支店ビルに設けられた民間劇場。枝光地区のコミュニティ交通を運行している同社が08年、地域振興のためにビルで劇団による芝居公演を開催したことがシアターへと生まれ変わる契機になった。

枝光本町商店街アイアンシアター。外観は銀行時代の面影が残る
枝光本町商店街アイアンシアター。外観は銀行時代の面影が残る

現在も建物は光タクシーが所有しているが、運営は地域活動に特化した「株式会社枝光なつかしい未来」の鄭慶一さんと高橋夏帆さんが中心となって担っている。「民間の劇場は少なく、県外でもこのくらいの規模(席数約80)のキャパシティの劇場は多くはない」(鄭さん)ことから注目が集まり、市内外の劇団が毎週末のように公演。稼働率が伸びる反面で銀行だった建物を改装したビルは「不十分な点もあった」。14年末に経済産業省の補助金も受けてかねてから計画していたリニューアルに着手。消防設備や客席、音響、照明など演劇空間のハード面の充実を図った。

シアターの再開を心待ちにしていた利用者も多い。6月に語り劇を上演する「演劇作業室 紅生姜」の山口恭子さんもその一人。「アイアンシアターの良さはちっちゃいということ。お客さんに唾がかかるくらいの近さでできる。一生懸命の物語作りをするのにちょうどいい」と規模を生かした作品作りに熱を込める。また、13年に北九州市に拠点を移した劇団「village80%」の高山力造さんは「2階に稽古場があり、客演の滞在場所もある。(劇場と)同じ場所に稽古場と泊まれる場所があるのは九州でもそんなにない」と絶賛し、こけら落とし月間に2年ぶりとなる新作をぶつける。

上演作を説明するvillage80%の高山力造さん
上演作を説明するvillage80%の高山力造さん

このほか、6月は気鋭の若手劇団・ブルーエゴナクが「テンションの高い作品」(穴迫信一代表)という新作「POP!!!!」を上演。東日本大震災のボランティア活動にあたった役者がその体験をベースに演劇化した「イシノマキにいた時間」の北九州公演も行われる。

〔6月の上演作〕

演劇作業室紅生姜・菩提樹の蔭】原作=中勘助、脚色構成=山口恭子 5日=午後7時半、6日=午後2時▽同6時 

ブルーエゴナク・POP!!!!】作・演出=穴迫信一 12日=午後7時、13日=午前11時半▽同7時、14日=午後1時(ハイパーテンション公演)▽同6時 

イシノマキにいた時間】作・演出=福島カツシゲ (北九州公演)19日=午後7時半、20日=午後1時▽同6時半、21日=午後1時 

village80%・彼女についてわたしたちが知っているいくつかのこと。】構成・演出=高山力造 27日=午後3時▽同7時、28日=午後1時

改装に大学生のアイデア

劇場の事務スペースのリニューアルには大学生も参加した。作業に当たったのは建築を学ぶ学生たちで構成された多大学間コミュニティ「トニカ」。リニューアルには西日本工業大(福岡県苅田町)と九州工業大(北九州市戸畑区)の8人がメーンで携わり、15年1月から手狭になっていたスペースを鄭さんの要望を引き出しながらゼロから再構築していった。

「優しさを出した」という台形のイスに触れる(左から)鄭さんと山内さん
「優しさを出した」という台形のイスに触れる(左から)鄭さんと山内さん

中心メンバーの山内朗裕さん(西日本工大4年)は「座学の中では具体的にアウトプットするということは難しい」と話し、講義では味わいにくいリアルな場作りに意欲を燃やした。トニカが挑んだ事務スペースは鄭さんの顔なじみの商店主や学校帰りの小学生たちがふらりと立ち寄って、劇の話から学校の話まで賑やかに過ごしていく。事務だけができればいいのではなく、さまざまなお客さんを包み込む必要があった。「鄭さんと高橋さんの優しい雰囲気を出したい。明るく開放感のある感じにした」と山内さん。合板を組み合わせたイスは直方体にせず台形に。壁を取り払ったり、天井の高さを整えたりして、外光や風が入り込む空間にしていった。

地域の劇場。一緒に、平行に

リニューアルの概要を説明する鄭さん
リニューアルの概要を説明する鄭さん

舞台まわりのリニューアルと、エントランスや事務スペースの改装を終え、多くのニーズに応えられるようになったアイアンシアター。鄭さんは「芸術文化の発信のためにいろいろな場所にアプローチしたい」と意気込むとともに、シアターの正式名称が「枝光本町商店街アイアンシアター」であるように近くに商店街や市場があり、歩調を合わせることがシアターの肝となる。10月にはシアターの自主事業として、今年で2回目となる「枝光まちなか芸術祭」を開催。ダンスグループや劇団などを招へいし、歩行者天国にした道路や近隣施設でダンス公演、ワークショップなどを行う。

ただ、シアターが商店街に"寄り"すぎてプロフェッショナルの芸術が色を損ねてはいけない。適切な距離感も大事にしている。鄭さんは「(運営団体の)枝光なつかしい未来はアイアンシアターの運営以外にまちづくりにも携わっている。その意味でも日本でも特殊な事例」としたうえで、「運営は地域と一緒にやっていくが、地域活動と芸術活動をあまりミックスせずに平行させていきたい」と見据えた。銀行を改装しただけの雰囲気が色濃かったアイアンシアターは今年、本格的に「劇場」としてのスタートを切る。地域に生かされながらも、新しい芸術を取り入れチャレンジしていく。第二幕の緞帳が上がろうとしている。