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オーキャンは成長の場。北九州でも学生主体に開催

上田真之介ライター/エディター
多くの学生が集うオープンキャンパス活動。写真は九州国際大のミーティング

大学生が打ち込む活動といえばサークルや大学祭といったものが思い浮かぶが、近年それらの活動に匹敵するほど学生が集まっているのが「オープンキャンパス」だ。従来は大学の教職員が中心となってカリキュラムや施設などを高校生に説明する場だったが、今や主役は学生たち。自分たちの大学の魅力をどうやって高校生や保護者に伝えるか、夏休み中の『シーズン』に向けて数ヶ月にわたって頭をひねったり、イベントやグッズを企画したり試行錯誤を重ねる。北九州市内でも学生主導で企画している大学も多い。大学にとってはオープンキャンパスの内容を充実でき、学生には活動を通じてリアルな『社会現場』を体験できるという効果が生まれている。

情報誌制作に人気。学生の成長も ~九国大

私立の九州国際大学(北九州市八幡東区)はオープンキャンパスのグループに87人が在籍。高校生を案内したり、PR動画を使って流したりといった役割を主体的に担う。中でも高校生に向けて発信する情報誌制作のプロジェクトが人気で、昨年に続いて2回目の発行となる今年は内容やメンバーをボリュームアップ。

九州国際大の情報誌制作をけん引する高田麻央さんと中村晋平さん
九州国際大の情報誌制作をけん引する高田麻央さんと中村晋平さん

6人だったメンバーは23人に大幅に増えた。

今年は6月に活動開始。A4判20ページを予定し、ファッションやカフェの紹介、大学が行っている読書普及活動などを中心に構成していく。オープンキャンパスや学校説明会に訪れる県外の高校生を想定。同大のある北九州市や福岡県をイメージさせるべく、ご当地ラーメン店のこだわりを取材したり、県内で人気の学内バンドグループを取り上げたりしている。

取材対象はもちろん関わる人の多くは学生ではなく社会人。6月27日に開いたミーティングにも印刷会社の担当者が訪れるなどあらゆるところに社会人との接点が生まれている。

九州国際大入試広報室の日浦英樹さんは「オープンキャンパスの活動に関わることで変化する学生は多い。下級生を持ったり社会人と接することで生まれる責任感が成長に繋がっている」と語る。昨年からのメンバーで今年は編集長を務める高田麻央さん(法学部2年)も「この活動をすることで他の雑誌のデザインやイラストにも注目するようになった」と話し、1年生への指導にも熱を込める。

北九州市や福岡県の話題を詰め込んだ情報誌「CHALETON」は8月発行予定。同大のオープンキャンパスや学校説明会で無料配布する。

九州国際大学 オープンキャンパス

大学ホームページ

ユニーク企画に学生力。前年の報告書も活用 ~北九大

北九州市立大の小島梓さん。「学生に気さくに声を掛けられる」ことが同大の魅力という
北九州市立大の小島梓さん。「学生に気さくに声を掛けられる」ことが同大の魅力という

北九州市立大学北方キャンパス(北九州市小倉南区)でも学生が主体となってオープンキャンパスに取り組んでいる。スタッフは46人で当日はさらに55人が加わる。同大では中心となっているメンバーを4つのグループに分割。昨年まではイベント班(当日の催しの企画)▽プロモーション班(広報活動)▽オペレーション班(人の配置)の3つだったが、広報物のデザインや動画作成などを一手に担うクリエイティブ班を新たに設けた。

「昨年の反省の中で4グループのほうがいいということになった。デザイン性の高いものを作れる人たちが集まって制作している」と話すのはプロモーション班のリーダーを務める小島梓さん(法学部3年)。北九大では活動終了後に報告書を取りまとめ、次年度に反映させているが、それが役立った。

今年は4月23日にメンバーを集めて活動再開。同大の学科・学類別に自慢のポイントを紹介しあうシンポジウムなどユニークなイベントも企画し、7月12、13日のオープンキャンパスに備えている。「学生に気さくに声を掛けられるのが北九大の良さ」と小島さん。オープンキャンパスもテーマにも「ありのままの北九大」と掲げ、学生の生の声を届ける構えだ。また小島さんたちは北九州市や下関市、田川市などの高校を中心に30校あまりにも訪問。2日間で3600人の来場を目指している。

将来は金融関係の営業を目指したいという小島さん。オープンキャンパスの広報活動を通して多くの社会人に触れ、「大学外の人と話したり、大学のいいところを高校生に伝えるのは楽しい。新しい価値観に触れてそれを取り入れていきたい」と思いを強くしている。

北九州市立大学 オープンキャンパス

「ありのままの北九大、魅せるのよ! ~少しも隠さないわ~」

公式フェイスブックページ公式ツイッター

オーキャンに学生が集まるワケ

北尾洋二さんは「違う価値観に触れる場になっている」と話している
北尾洋二さんは「違う価値観に触れる場になっている」と話している

サークルや大学祭のように「オープンキャンパス」にも学生が集うようになってきた。背景にはインターネット社会の広まりや大学の変化もある。

「情報化が進んだことで学生も関心が向く話題だけを集められるようになった。知る、分かる、やるをもっとやらないといけないが、糸口さえ探れないでいる」。新卒採用のコンサルティングや内定者研修などに携わって学生の変化に詳しいザメディアジョン・リージョナルの北尾洋二さんはそう指摘する。地域の祭りやボランティアなど学生が自主参加できる場は以前からあったが、今やボランティアのリスクもメリットも調べれば体験談を多く拾える。またボランティアを単位認定する大学が現れるなど「実利」を得られるケースも現れるようになった。自らの意志でリスクもメリットも度外視に「知る、分かる、やる」にトライする機会は失われつつある。

そうした中で脚光を浴びているのがオープンキャンパスや大学祭活動。単位を伴うものではないが、活動期間を見通すことができ、先輩学生のモデルケースも見えるため、学生にとっては参加しやすい活動と言えるだろう。北尾さんは「日本の大学教育では社会に出る訓練が圧倒的に不足しているが、オープンキャンパスが糸口となり、社会人に関って違う価値観に触れる機会になっている」と話している。

印刷会社の荒牧祐介さん(左)の話に高田さんらは聞き入っていた
印刷会社の荒牧祐介さん(左)の話に高田さんらは聞き入っていた

実際に九州国際大でのミーティングでは、情報誌の印刷を行う東筑印刷の荒牧祐介さんが学生に対して「写真を実際に置いてみて全体のイメージを掴んでみて」とアドバイス。学生たちはプロからの助言に熱心に聞き入り、レイアウトを再構築していた。交わしたアドバイスの中身こそレイアウトという具体的なものだったが、社会人の受け答えや仕事のやりくり、またどのような判断基準を持っているかなど、こうした場を通じて学生は意識するしないにかかわらず社会人のリアルな動きを感じ取ることになる。

オープンキャンパスという活動を扉にして、社会人のフィードバックを受けたり、自分とは異なる価値観に触れる。情報過多の副産物として怖いもの知らずで一人で飛び出して行くことが難しくなってきた中、彼らの活動がひとつめの選択肢になってきている。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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