身近にうつの高齢者がいたら―声かけ5つの基本

画像はイメージ(写真:アフロ)

 家族や親しい友人でうつ状態で苦しんでいる高齢の人がいたら、どう対応し、何と声をかければいいか。5つの基本を知ってほしい。

 ここで扱う「うつ」は、現実的な悩みやつらい出来事に苦しんでいる「心理性うつ」ではなく、現実の悩みやいやな出来事は過ぎ去ったのになぜか落ち込み、おっくうになり、眠れなくなる「うつ病=身体性うつ」(高齢者の「身体性うつ」は服薬が不可欠を参照)である。仕事や恋愛をほぼ卒業した高齢世代には、「心理性うつ」より「うつ病=身体性うつ」がずっと多い。

1.「正論」アドバイスをせずに話を聴く

 うつ病になると、ふだんふつうにできていたことができなくなる。そのことに苦しんでいる。そういう人の話を聴いてあげることは大事だが、大半のアドバイス、とりわけ「正論」アドバイスはほとんど意味がない。

 「閉じこもってばかりいたら気持ちは晴れない」「気分を切り替えて前向きにならないとだめだ」「しっかり食べないと元気出ないよ」――健康な人の生活にとっては「正論」であろう。うつ病の人だってそんな「正論」はとっくに承知だ。いいことだとわかっているのに、それができないで苦しんでいるのである。それを「やりなさい」とアドバイスされたら、できていない自分の姿に直面させられ、うつ病の人はさらに苦しむ。相手が自分のことを思って言ってくれていると感じるから、余計につらい。

 話を聴くなら、「そうなんだね」「それはつらい」「できないんだね」と相づちを打ちながら、共感する姿勢で聴くだけでよい。余分なアドバイスは逆効果である。

2.体の不調の訴えを「わがままだ」と言わない

 高齢のうつ病では、ほとんどの人が、うつ病による身体的不調に苦しむ。体がだるい、息が苦しい、胸が苦しい、頭が重い、脚がしびれる、腰が痛いなど、人によってさまざまな訴えが出る。周囲も最初は心配して病院(内科や総合診療科)に連れて行くが、検査で異常は何も出ず、「どこも悪いところはない」と言われてしまう。身体の病ではなく、うつ病という精神の病から生じた症状だから当然である。

 それでも苦しいので、なんとか治りたい。「医者に連れて行ってほしい」とくり返し、「救急車を呼んで」と言う人も珍しくない。本人にとってはそれほど切迫したつらさなのである。何度も要求されてどうしていいかわからない家族は、「病院で何でもないと言われたのに、わがままばかり言わないで」などと、ときに叱責してしまう。本人はさらに苦しむことになる。決して「わがまま」などではない。それほどの苦しさを与えるのがうつ病なのだ。

 身体の病はなくても、うつ病は身体の症状で人を苦しめる。ときにはがまんできないほどつらい。それを周囲は理解し、可能な対応をしてあげたい。

3.「うつ病は、怠けや性格のせいではない」

 うつ病の人は多かれ少なかれ自分を責める。自分が怠けてばかりいたからこうなった、ふだんの性格や心がけが悪かった、他人に悪いことをしてきたからだ。などと思い込むことが多い。ときにはそれが発展して、「大きな罪をおかした。警察に捕まる」「この病は死ぬまで治らない」という妄想になることもある。

 周囲もつい、数年前の連れ合いの他界や昔の友人とのもめ事などを思い起こして、「あの悲しみを引きずっている」「気にしすぎる性格が災いした」などと、以前の出来事とつなげ心の葛藤の結果として理解しようとする。しかし、それはたいてい当たらない。

 こう話しかけてあげたい。いまのつらい状態はうつ病という病で、あなたの行いや生活の仕方のせいなのではない、うつ病はだれでもなる可能性がある。あなたは何も悪いところはない、と。

 高齢者のうつ病は、軽い病気やケガの後、悩みごとが解決した後に起こることが多い。体の病気で入院し無事治って退院した後に出ることもある。原因は不明で、脳の働きが変調を起こすためだと考えられている。

4.「運動や外出はせず休んでいていい」

 高齢者の健康には、運動が大事と盛んに言われる。認知症予防になると奨励している自治体もある(医学的に確かな証拠はない)。元気が出なくなって、すべてにおっくうになっているうつ病の人に対して、周囲の人は良かれと思って運動を勧めがちだ。「散歩すれば元気も出てくる」「外出して太陽を浴びないとますます悪くなる」などという言い方が多い。

 うつ病の人は運動したくてもその気力がなくて苦しんでいる。外出が健康にいいと重々わかっているのに、できなくてつらいのである。真面目で几帳面な人なら、運動が大切だという思いがさらに強いので、ますます苦しむ。

 うつ病の治療には体と心の休養が非常に重要だ。1日数回軽く体を動かすのはよいことだが、無理して運動することは禁物だ。「無理な運動や外出はいまは健康に悪い。体を休めることが第一」と話してあげたいのである。

5.「精神科を受診し薬を飲めば必ずよくなる」

 うつ病の人のつらさを聴いたら、すぐにこう言って精神科受診を勧めてほしい。「必ずよくなるから精神科で診てもらおう」

 よかれと思ってあれこれアドバイスすることが、苦しみを重ねることになるのは前述の通りだ。食事の工夫やサプリメントの類に確かな効果のあったためしもない。

 高齢者の「うつ病=身体性うつ」は基本的に治る病気である。現実の悩みに苦しむ「心理性うつ」と違い、脳の不調を服薬で治すことが不可欠である。一部に治りにくい病気のタイプがあるほか、衰弱の進行など身体的問題が重いと十分な治療が行えず回復困難なときがあるが、それは少ない。抗うつ薬治療を続けて効果がないときには、電気けいれん療法という「最後の頼み」がある。頭部に通電する治療で、全国の大学病院や精神科病院で麻酔をかけて安全に行われている。「必ず治る」は慰めではなく、医学的事実に基づいた言葉である。

 精神科医にかかったら、家族は医師を見極めることを忘れずに。きちんと治療してくれないと感じたときには要望をはっきり述べたほうがよい(高齢者うつ 精神科こう診てほしい6カ条を参照)。