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『タモリ倶楽部』の終わらせ方――1939回分の1の最終回

てれびのスキマライター。テレビっ子
『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)公式HPより

最終回の予告

先週の『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)の次週予告はこんな画面から始まった。

タモリ倶楽部

#1939

そして「必ずごま油でやってください。ない場合は作らないで下さい」「こんなうるさいところで料理したくないよ」といったタモリの音声を挟みながら「次回はズバリ『タモリの料理』。一体どんな料理が完成するのか」と企画が説明され、サイドのテロップには「9年ぶり!ネコ好きのあの大物芸人」「1939回目もゆるーくやってます!」と記されていた。

もちろん、既報のとおり、今夜放送のこの回で『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)は最終回を迎える。だが、予告ではナレーションでもテロップでも「最終回」という言葉は一切使わなかった。

それは最終回1週前の回も徹底されていた。

看板企画「空耳アワー」の少なくともレギュラー放送最後の回。1992年から2020年まではほぼ毎週放送(途中、休止されたときもあったが、投稿が止まらなかったこともあり復活した)され、毎週の放送が終わった後も定期的に放送される「空耳アワード」として継続していた。

最後はこれまでの傑作選などにしそうなところ、ほぼオール新作で構成され、最後まで「最後」という言葉も発しなかった。

「ソラミミスト」として長年パートナーを務めていた安齋肇も筆者の『週刊SPA!』での取材に、「空耳」最後の収録をこう振り返っていた。

「最後も普通でしたよ。『じゃあ、また来週~』みたいな。僕は終わっちゃったよぉって、一瞬怯んだんだけど。『普段通りに』っていうタモリさんの生き方が見えるようで、カッコよかった」(『週刊SPA!』23年4月4日号)

思えばタモリは、9年前の、奇しくも同じ3月31日に最終回を迎えた『笑っていいとも!』(フジテレビ)でも、最後の言葉はいつもと同じ「明日もまた見てくれるかな?」だった。

記念日などを嫌うタモリらしさを『タモリ倶楽部』は貫いていたのだ。

タモリ倶楽部に宿る遊びの精神

そんな『タモリ倶楽部』は、『笑っていいとも!』と同じ年、同じ週に始まった。『いいとも』で「お昼の顔」となるタモリの「夜」の部分を残したかった所属事務所・田辺エージェンシーの社長・田邊昭知の強い後押しがあったとも伝えられている。

タモリは500回記念で番組が『FLASH』に特集された際、珍しく取材を受け、以下のように答えている。

「ダラダラやってますからね。 500回っていっても、ただ11年やっていますからね。(略)始めたころから基本的には変わらないですよ。ウチ(田辺エージェンシー)の社長(田辺昭知氏)の発想で、 テレビはビチビチと間を詰めた密度の濃いものが普通だったけど、逆に深夜は薄いスカスカな番組を作ろうということが、そもそもだったんだ。ただ、通常だと番組にならないような、まぁそういった意味では画期的であるし、スカスカなところが私に合ってね、やる気のないダラダラするのがピッタリだったと思います。(略)いつまで続けられるかっていうと、タレントがやりたいっていっても局の都合でいくらでも終わっちゃいますからね。それまでダラダラやってんじゃないかな。 別に苦にならないし、面白いですから、もうあなた任せでやりますよ」(『FLASH』1993年3月16日号)

まさに「通常だと番組にならないような」部分にこそ我々視聴者は惹かれたのだ。それはキャスティングにも反映されていた。「ソラミミスト」に安齋肇を起用したことが象徴的だ。安齋は一度タモリに次のように言われたことがあるという。

「タレントだったらいっぱいいる、もっとできる人もいる、音楽評論家だっているけど、あんたみたいに何やっている人か分からない変な人がこういうコーナーやっているのが良いんだよ」(『Girlie』vol.07)

まさしく『タモリ倶楽部』は通常のバラエティ番組には出演しない「何やっている人か分からない変な人」がたくさん登場した番組だった。

『タモリ倶楽部』とはタイトルが示す通り、同好の志が集まった「倶楽部」だった。そこで彼らは「大人の遊び」を見せてくれた。粋な大人とは、即ち、大人げないほどに子供のような遊び心を持ち続けている人だということを『タモリ倶楽部』は示していた。

タモリはかつて「遊び精神」についてこのように語っている。

「ぼくはもともといつも日常が遊びであれば、と思っている男です。“遊び精神”がゴチゴチの常識を破る…それをゲリラ的にやっていく痛快さがこたえられないんです」(『ヤングレディ』77年4月12日号)

そんな精神は『タモリ倶楽部』の中にも宿っていた。

きっとその最終回は、1939回分の1回の普段どおりの『タモリ倶楽部』のまま粋に終わっていくに違いない。

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ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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