Yahoo!ニュース

さんま×桑田佳祐&ユーミンによる伝説的音楽番組『メリー・クリスマス・ショー』がもたらしたもの

てれびのスキマライター。テレビっ子
貴重な映像が放送された『誰も知らない明石家さんま』(番組HPより)

「あの番組に携われたのは俺、ホンマに幸せやね」

明石家さんまがそう語る番組が1986年と1987年のクリスマス・イブのゴールデンタイムに放送された『メリー・クリスマス・ショー』(日本テレビ)だ。

桑田佳祐の呼びかけで、アン・ルイス、チェッカーズ、Char、吉川晃司、小泉今日子、BOOWY、THE ALFEE、忌野清志郎、米米CLUB、中村雅俊、鈴木雅之、泉谷しげる、爆風スランプ、鮎川誠、山下洋輔、そして松任谷由実らがレコード会社の垣根を超えて集結した音楽バラエティだ。31歳だった明石家さんまは、この個性の塊のような豪華アーティストたちを司会としてまとめあげた。

30年以上、再放送もされていなかったというこの番組の貴重な映像の一部が12月1日の『誰も知らない明石家さんま』(日本テレビ)で放送された。

流されたのは、この番組のために桑田佳祐が作曲し、松任谷由実が作詞してつくられた「Kissin' Christmas (クリスマスだからじゃない)」をエンディングに出演者全員で歌うシーン。この曲は長らく音源化すらされていなかった(2012年7月18日発売の桑田のベスト・アルバム『I LOVE YOU-now & forever-』に収録)。

昨年末の『NHK紅白歌合戦』(NHK)で桑田とユーミンがキスしたシーンでこの曲を思い出した人も多かったのではないだろうか。

倒産の危機を招く大赤字

この番組を演出したのが制作会社「フルハウス」(現・ハウフルス)の菅原正豊。

『出没!!おもしろMAP』、『愛川欽也の探検レストラン』、『タモリ倶楽部』(以上、テレビ朝日)、『どっちの料理ショー』(読売テレビ)、『チューボーですよ!』(TBS)、『出没!アド街ック天国』(テレビ東京)、『秘密のケンミンSHOW』、『世界はSHOW by ショーバイ!!』、『THE夜もヒッパレ』(以上、日本テレビ)などなど、バラエティの名作を世に送り出し、80年代末には『いかすバンド天国』(TBS)で空前のバンドブームを、90年代後半には『ボキャブラ天国』シリーズ(フジテレビ)から「キャブラー」と呼ばれる若手芸人ブームを生み出した男だ。ジャンルは多種多様だが、一発で彼の番組だとわかる「スガワラ色」の強さも特長のひとつだ。

そんな中であっても『メリー・クリスマス・ショー』は異色。わずか2回の放送ながら、見た人の記憶に深く刻み込まれている伝説的な番組だ。

しかし、この『メリー・クリスマス・ショー』は、フルハウスに倒産の危機を招いた番組でもあったのだ。

『イカ天』や『夜もヒッパレ』など音楽番組でも大ヒット作をつくった菅原だが、『メリー・クリスマス・ショー』を手掛けるまでは、本格的な音楽番組などやったことがなかった。

ミュージシャンたちの発想は、菅原にとって思いもよらぬものばかりだった。

打ち合わせの段階で、そのユーミンと会って、何がやりたいか聞いてみると、“(国道)246の車を全部止めて、そこに何百人もダンサー集めて、上から雨を降らせたい”なんてとんでもない発想でくるんですよ。ミュージシャンを一人一人まとめるのは大変なんです。音にはこだわりますしね。

出典:『ザテレビジョン』1996年12月27日

この番組の準備で3ヶ月近く、ずっと桑田と一緒にいた菅原は、「桑田はやっぱり天才だった」と言う。

「普通ミュージシャンだったら、やっぱり音楽をちゃんとやりたいって思うと思うんですよ。でも、そうじゃなくて、テレビというものをわかって、テレビをつくりたいと言っている。そこがおもしろかったね」

出典:『新潮45』2017年7月号

たとえば、セットも今までにないものをつくりたいと思っていた。だが、美術からあがってくるセットはどうしても既存の音楽番組のそれを壊すものではなかった。

「普通の音楽番組だな……」と菅原がつぶやくと、桑田も「なんか違うね」と頷く。すると桑田は思いもよらない提案をした。

「これ、裏返して使っちゃおうか」

なんと、セットを裏返した状態で歌ってしまったのだ。桑田は「テレビの面白いところも、ダサいところも見抜いていた」という。

グランドピアノに水をかけて使い物にならないものにしてしまったり、高価な皿を割ってしまったりした。

やりたい放題な上、そうした新しいものをつくるというこだわりを貫いたため、この番組で、5000万円を超える大赤字を抱えてしまった。

結果、社員を雇い続けるのが困難になり、菅原ひとりを残し、社員を他の制作会社に預けることになってしまったのだ。

「予算をはみ出すことも大事だと思うんですよ。仕事だから予算内の中でやらなきゃいけないと思うけれども、僕が評価されたのは、予算はみ出してやったものなんです。別にそれは金をかけたかどうかじゃなくて、そこまで菅原は頑張るんだということが評判になって仕事が来たりするわけ。苦しいですけどね。結果的にうちの会社のターニングポイントで必ず赤字番組が出ている。だから多分、それが会社のエネルギーになっているんだろうなとは思うね。『おもしろMAP』がそうだったし、『タモリ倶楽部』もずっと赤字だったし、『メリー・クリスマス・ショー』もどうしようもなかったし、『探検レストラン』もずっと赤字だった」

出典:『新潮45』2017年7月号

実際にそれらの番組での評価が次の仕事につながり、会社は息を吹き返し、預けた社員もわずか数年で戻すことができた。

そんな中で、社名も愛着のある「フルハウス」から「ハウフルス」という人を食ったような名前にあっさりと変えた。こんな時でも茶目っ気を忘れないのが菅原という男だ。会社も「ちょっと可愛らしくて笑えるから」という理由だけで麻布十番の商店街のど真ん中に構えている。こうして、「フルハウス」改め、新生「ハウフルス」の快進撃が始まった。

いわば、『メリー・クリスマス・ショー』は、新生「ハウフルス」を生んだ番組のひとつなのだ。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

てれびのスキマの最近の記事