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「吉村の何が良いの?」平成ノブシコブシ・吉村崇の真価

てれびのスキマライター。テレビっ子
吉村をドッキリにかけた『水曜日のダウンタウン』『金曜★ロンドンハーツ』の番組ロゴ

「ねえ聞くよ、この際。吉村の何が良いの?

マツコ・デラックスは9月19日に放送された『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)の中で、プライベートでもロスのディズニーランドに一緒に行くなど平成ノブシコブシの吉村崇と仲の良い有吉弘行に向かって、そう尋ねた。

その問いに爆笑しつつ、有吉はその理由を語る。

有吉「吉村は何がいいかっていうと、テレビでみてると伝わらないだろうし、おもしろくないだろうし、イライラもするしうるさいだろうって事もよくわかってんだけど、カメラが回ってない、『さぁ終わりです、さぁ、いまから皆さんご飯食べ行きましょう』っていうとき、めちゃめちゃおもしろい(笑)」

マツコ「でもこんなこといま聞きましたけど…実はアタシ、数少ない、複数回メシを食ったことある芸人さんなんです。実は仲いいんです、吉村とアタシも

有吉「気遣いもできるし

マツコ「なんでこの良さがテレビに出ないんだろう?  もっとみんな仕事していい人よ」

有吉「女優さんとかがいても、あいつがいるとガンガン行くから、円滑に回るから」

出典:『マツコ&有吉 かりそめ天国』18年9月19日

2人が語るように吉村の魅力はテレビでは伝わりづらい。一般的には「うるさくておもしろくない」「賑やかしだけでテレビにたくさん出ている人」というようなイメージだろう。だから「吉村の何が良いの?」という疑問を持っている視聴者は少なくないはずだ。奇しくもそんな中、その疑問の回答を示すかのように、テレビタレントとして、あるいは人間としての彼の良さを映したドッキリが10月に立て続けに放送された。

「パーフェクト」な立ち回り

そのひとつが吉村のテレビタレントとしてのスゴさを満天下に示した、10月3日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS)だ。

この日は「生中継先に現れたヤバめ素人のさばき方で芸人の力量丸わかり説」の検証ドッキリが行われた。

ドッキリは説のタイトルどおり、生中継に“ヤバい”不審者があらわれるというもの。

ニセのネット番組の生中継に、無言・無表情で映り込んでくる不審者。それにどう対応できるかを検証したのだ。ターゲットになったのは三四郎・小宮やあばれる君、パンサー・尾形ら。彼らは対応に四苦八苦し、当然ながらスタッフに助けを求めていた。

だが、吉村は違っていた。

吉村は男と目が合うと「おー!」と一瞬驚きつつも、すぐに「いやいやいや素晴らしい!」などといつものハイテンションに戻り、自然に男の肩を掴み動きを制していく。不審者のレベルは上がり、手には角材を持っている。

スタジオから「吉村さん、大丈夫ですか?」と問われれば「大丈夫ですよ。やはり釣り堀ということでみなさんもテンションが上がっておりますから」と笑顔を向ける。

テレビでございます!生放送でお送りしておりますよ!」と不審者に「生放送」であることを強調しつつ、近くのカップルに話を聞くために移動。なおもついてくる不審者を背中で押さえ、危害を加えないように制す。

すると、男が突然「あーーーーー!」と奇声をあげる。

見るからにいつ何かがあってもおかしくない危険な状態だ。何しろ、男は手に角材を持っているのだ。

そんな男を、吉村は「おーっし、よしよし!」と言いながら抱き寄せたのだ。

なかなかできることではない。

これにはVTRを見ている松本人志も拍手をおくった。

それでも奇声をあげる男に「楽しんでるねえ」と笑いながら「いったんCMということでこちらで解決しときまーす!」と、笑いを作りつつ自然に中継を切り上げる見事な立ち回りを見せたのだ。

中継が再開するも、再び奇声をあげつつ不審者があらわれると、吉村の機転が冴え渡る。

見てください! 素晴らしい月が出てます!

そう言ってカメラを上空に向けさせたのだ。その隙に男から角材を奪う吉村。

再び「吉村さん、大丈夫ですか?」とスタジオから声をかけられると「大丈夫です! もう懐いちゃって」と返す。

そうして「そろそろ終わりですか? もうこちら大盛り上がりということでございます!」と締めくくった。

どんなピンチでも笑顔を崩さずハイテンション。そのトラブルをも視聴者に楽しんでもらえるように不穏な空気をしっかりと伝えつつ、周囲に危害を加えないように相手をコントロールする。

松本も「パーフェクトやったね」と絶賛する見事な仕事人っぷりだった。

吉村は『週刊女性』の自身の連載でこのドッキリを「普通の行動をとっただけ」と振り返っている。数多く経験した舞台やロケでヤバい人が現れたことは1度や2度ではない。そのたびに、どうやって笑いに変えようと考えるのが楽しかったという。

仮にヤバい人に殴られていたとしても、流した血の分だけ賠償金を払ってもらえばいいと思っていたので、ラッキーですよ

出典:『週刊女性』18年10月30日号

“吉村塾”の信頼関係

一方、10月26日に放送された『金曜★ロンドンハーツ』(テレビ朝日)は、吉村の人間としての魅力を映し出した。

渡辺直美にとって吉村は、10年来、兄のように慕う“恩人”だという。そんな彼は、たとえ直美が感謝を伝えてもはぐらかしてしまう。だから、ちゃんと感謝を伝えるためにドッキリが仕掛けられた。

仕掛け人はもちろん渡辺直美。彼女が「結婚し芸人を辞めたい」と報告するというドッキリだ。

まずは、レストランの個室で直美は「彼氏ができました」と吉村に報告。

吉村は少し驚いた表情を見せつつも「いいじゃん」と冷静。

一般の人で年下と聞くと「仕事、何やってんだ? カネ目当てじゃないのか?」「大丈夫か? その人の家に行ったか?」と父親のように心配する吉村。

そして、直美の表情を見て何かを察した吉村は「これで終わりじゃないだろう? その顔は」とまず食事をしてから話そうと提案する。

若手の起業家だという彼は、猫カフェならぬ「キリンカフェ」をやりたいと言っているという。そんな荒唐無稽な夢を聞いて一気に吉村の表情が曇った。

「キリンだけはなんとかしないと……、キリンが一番引っかかってる」とつぶやき、「ハァ……」と深いため息。

気が重い食事だな……。父親ってこういうことなのかな

その彼氏と合流すると深々とお辞儀をする吉村。

年下の彼にも終始敬語で丁寧に接する。直美がトイレに行き2人きりになると吉村は相手に配慮し言葉を選びながらも、直美の将来に対し心配である旨を伝えていく。

「直美も経験みたいなものもあんまりないですし、そういう面でいうと、傷つけてほしくないなって。どうでしょうかね、いま、海外(進出)も考えていたり、いろんな仕事を抱えているから、(結婚は)もうちょっと時間をかけて、お互い一息ついたところで改めて考えても僕はいいかなって思うんです。たぶんいま、来月結婚しようと言ったらひょっとしたらする心理状態かもしれませんし、テンションもあがってますから。そこのジャッジだけはよろしくお願いいたしますっていうことですね」

「吉村さん的には結婚はナシですか?」と問われると吉村は「全然それはアリですよ」と即答し続ける。

「引っかかってることでいえばキリンカフェ。他でも成功されているって聞きましたから、なのにそこで冒険するんだったら、直美も冒険してますし、お互い冒険している者同士はちょっと危険かなって。できれば、開さん(=彼氏)ご自身の人生もございますけど、直美の冒険を支えてあげられるような人のほうが直美にはいいのかなって思ったりしますけど」

そしてこう付け加えた。

「(直美は)僕だけじゃなく、いろんな人に愛されてて、もし何かあったときは…ってことですよ。我々が許しませんので」

今度は、直美と2人きりになり、結婚したら芸人を辞めると告げられる。

直美の選択を尊重し、口では「いいんじゃない?」と答えるも、宙を見つめ、涙をこらえる吉村。

「おめでとうございます」

と深々と頭を下げると「タバコ吸ってきます」と席を立った。

彼女のデビュー以来、ずっと一緒に歩んできて、大きく成功していく姿を見てきた。その芸人を辞めると彼女が選択したのがショックだったのだろう。

けれど、彼女の幸せも祝福したい。そんな引き裂かれた気持ちが伝わってきた。

「私は“吉村塾”に入って吉村さんとともに生きてきたと思ってるんですよ。芸人としても、人間としても。ハッキリ、吉村さんの思いを言ってください。私の気持ちとかを気遣って言ってないだけだと思う」

直美は、吉村から結婚を反対し、芸人を続けろと言ってほしかったのかもしれない。吉村の本心もおそらくはそうだっただろう。けれど、吉村は最後まで彼女の選択を尊重した。

「いや……喜ばしいことだよ、本当に。この日が来るんだっていう、驚きよね。まさか……、そうだよなぁ、考えてみれば30歳なのよ。何か若いつもりでやってたけどさ。全然、結婚に関しては時期なんかない。したい時にすりゃいい。ただ、力強くなるかもね。芸人としてエンターテイナーとして、好きな人と一緒に、さらに子供を授かったりした場合、もう一段階、二段階、上に行く可能性のほうが多い

そうやって結婚しても芸人を辞める必要はないんだという思いを含ませつつ「頑張ったなあ、頑張ったなあ……」と彼女をねぎらった。

そこには、2人が築き上げてきた信頼関係の強さや、吉村の優しさや思いやりが溢れ出ていた。

養成所時代、ボソッとしゃべったり、振られてエッジのきいた一言で笑いをとろうという人が集まっていた。吉村もそのひとりだった。だが、同期の中でその最高峰には又吉直樹がいた。「その競争に負けたから、いまみたいなキャラになった」(『オイコノミア』18年3月21日)という。

自らを「破天荒」と称し道化に徹してきた彼の裏に隠れていたテレビタレントとしての抜群の能力と、後輩から慕われ先輩からも愛される人間性。

もう「吉村の何が良いの?」と問う必要はない。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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