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【マッスル坂井×松江哲明対談・完全版】それでも愚直に“文化系”で戦い続ける理由

てれびのスキマライター。テレビっ子
映画『俺たち文化系プロレスDDT』

現在上映中の映画『俺たち文化系プロレスDDT』。

これは、“文化系プロレス”を名乗るプロレス団体「DDT」を追った青春ドキュメンタリー映画だ。

メガホンを取ったのは、DDT所属のレスラーであり、前作『劇場版プロレスキャノンボール2014』のヒットも記憶に新しいマッスル坂井氏と、『童貞。をプロデュース』や『ライブテープ』などで知られ、テレビでも『山田孝之の東京都北区赤羽』、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(ともにテレビ東京系)の監督を務めた松江哲明氏。

この2人の対談が日刊サイゾーで行われ掲載されましたが、あまりに面白い話連発だったため泣く泣く削った部分が多々ありました。あまりにもったいないので許可を得て、「完全版」としてこちらに掲載します。

「勝利の方程式」松江の法則

マッスル坂井(以下、坂井): 昨日ね、テレビ局の食堂で打ち合わせしてたら、隣ですっごいオシャレな人たちが集まって話してたんですよ。いかにも仕事できそうな作家とか、大宮エリーっぽいプロデューサーとか……大宮エリーだったんじゃないかな、あれ(笑)。みんながアイデアを出し合ってて、その人たちが「フェイクドキュメンタリーやりたいんですよねー」って。「最初に『この番組はフィクションです』ってやれば、何やっても大丈夫なんですよねー」「ああー、わかる。やりたいよねー」っつって。よくよく聞いてみると、松江くんが監督した『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』のことを言ってるんですよ!

松江哲明(以下、松江): あああ(笑)。

坂井: 「クソッ!」て思いましたね(笑)。こんなところで作品が話題になるんだって。こんな大宮エリーみたいな人が、噂話とかで話してるんだって! オシャレテレビマンたちが、みんなマネしたがってるんですよ! バラエティ番組ではできないフェイクドキュメンタリーの手法を、「ドラマだ」って言って企画書を通して、テレビ局の人たちもみんなわかってるのに、騙されてるふりをして……。

松江: (爆笑)。

坂井: 11週もかけて『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)スペシャルで岡村(隆史)さんがやっていたような壮大なチャレンジものを松岡茉優さんでやっているわけですから。最後、ライブで完結するっていう。やってくれましたね!

松江: 完全に「オカザエル」ですよね(笑)。

坂井: やりやがったんですよ!(笑)

松江: でも今回の映画は、その逆をやろうっていうのはありましたね。テレビは仕掛けがある変化球のものをやりたかったんですけど、映画ではそれは通用しないので。映画を観るお客さんって、良くも悪くも選んで観に来る。交通費払って、この時間使うぞって身構えて観に来る人たちに変化球が通用しないことは17年間やっていて知っているので。この映画は、こっちも身を晒した直球じゃなきゃいけないって。

――そもそも『俺たち文化系プロレスDDT』に、松江さんが参加した経緯は?

松江: 高木三四郎さんから頼まれたんですけど、僕は「坂井さんと一緒なら」って。

――お2人とも「監督」とクレジットされていますが、役割分担は?

松江: レスラーの人たちの日常を追ったりしてくれたのは、坂井さんと今成(夢人)さん。僕が現場に行ってるのは、「#大家帝国」の興行を撮影したのと、新潟に行っているのと、あとはちょこちょこ。最初からべったり撮影にくっついてする気はなかったんで。

坂井: 完全に遠隔操作してましたよ(笑)。この映画を撮るって決まったのが昨年の春で、夏にいよいよ「映画どうしよう」ってなったときに、松江くんが「坂井くんが一番得意なことをやるべきだ」って。「一番得意なことはなんですか?」って聞かれて、「興行を自分で企画して、その興行を通してプロレスとは何かということを見せたり考えたりすることかなあ」って答えたら、「じゃあそれをどっかでやりましょう」って。興行なんてなかなかやらせてもらえないから、それをどうしたらできるかってところから考えていったんです。全体的な僕たちがプロレスをやる上でのモチベーション管理というか、指針作りをやってくれたんですよね。でなかったら、DDTでやってきた1年間の流れも変わってきてたと思いますね。

松江: たぶん高木さんは当初、もっと客観的なドキュメンタリーを期待してたんだと思うんですよ。けど、僕が作りたいプロレスのドキュメンタリーって「マッスル」なんです。興行って、やっぱりお客さんが体験するものじゃないですか。でも、ドキュメンタリーで撮ることによって、それとはまったく違う視点を作ることができる。だから、視点作りだけを僕がやって、何を見せたいとか、どういうことを表現したいかっていうのは、坂井さんがリングの上でやったんです。

坂井: 前作の『プロレスキャノンボール』の試写を松江くんに見てもらった後に言われた感想に、ハッとしたんです。完成まで編集にものすごく悩んで完成させたんですけど、僕らが悩む以前の問題というか、悩んでた部分を全部ひっくるめた答えをズバッと言われたんです。

松江: 僕、なんて言ったか覚えてないです(笑)。

坂井: 尺です。

松江: 尺ね! それは言いました。

坂井: 尺の公式があるんですよ、松江くんの中で。「勝利の方程式」が(笑)。

松江: 尺を決めると、テーマとか、何を描くかとか、何分目にこういう紹介をするとか、全部決まるんですよ。だけど、『プロレスキャノンボール』は2時間を超えていたんですよね。

坂井: そうそう。元が10時間以上ある『テレクラキャノンボール』だから、長さに対するリミッターが壊れてる部分があって(笑)。そこが、普通に劇場で公開する作品として考えが至ってない部分があったんです。長くても面白きゃいいだろって、昔の自分では思ってたと思うんですけど、あの時はスッとそれが入ってきて。

――今回は74分ですけど、その「勝利の方程式」に添っているんですね?

坂井: 法則の中のA~Dパターンがある中の、Cパターンの74分。そこに見事に入れてきたんですよ! 最初に東京国際映画祭で上映されたんですけど、みうらじゅん・プロデュース、安齋肇・初監督作品の『変態だ』と同時上映だったんです。この映画の主演が前野健太なんですけど、もともとはね、『ライブテープ』をはじめとして、“前野くんは松江くんの妻”ですよ!(笑) 別れた女が、別の男に抱かれているのを見せられるんですよ!

松江: 立ち位置、端っこ同士でしたね(笑)。

坂井: それが同じ日に、同じオールナイトで初公開されるっていう。結構ドキドキしながら俺がいなきゃって思ったんですけど、体調不良で行けなかったんですよ……。それを言うのは、僕の仕事だったんですけど。

松江: あのとき、いてほしかったですけど(笑)。

坂井: その2つの映画が、まさかの同じ尺っていう! どっかに「松江の法則」が効いてるんですよ!

公平な視点はいらない

――松江さんは「ドキュメンタリーは手法だ」とよくおっしゃっていますが、プロレスも虚実皮膜を行き来する部分など表現方法としてドキュメンタリーと近いですよね。そのプロレスをドキュメンタリーで撮ることに、やりにくさのようなものは感じませんでしたか?

松江: いや、それは感じませんでしたね。僕は映画を作るときに、何が真実で何がウソかっていうのは正直言うとどうでもよくて、撮れた素材にどれだけ真実味があるかっていうことのほうが大事なんですね。だから、素材の力が強いか弱いかが重要なんですけど、ヘタな芝居って、素材として弱いんですよ。それでいうと、今回の作品を編集してて面白かったのは、いい意味でレスラーの人たちみんながカメラを意識するんです(笑)。今成さんや坂井さんがカメラを回していると、高木さんがチラッとカメラを見てから「お前たち、覚悟しろよ!」とかやってくれたりする。それが完全に芝居かっていうと、そうではない。言いたかったことをカメラの前で誇張しているだけで。それを日常的にやってるから面白い。だから、普通にしゃべっているのが、いちいちセリフみたいに聞こえるんですよ。

――特に大家健選手なんかは、常に激情的で。

松江: そう! だから英語字幕版を見たときに、大家さんがすごいいいこと言ってるふうに聞こえる。あれはもともとの言葉が、そういうセリフっぽいからなんですよね。僕は別に被写体にカメラの前で自然でいてほしいとは思わない。ミュージシャンを撮るのが好きなのも、そういうところなんです。ミュージシャンがカメラの前で歌うのと、レスラーの人のエネルギーが一緒でしたね。

――本作は棚橋弘至選手とHARASHIMA選手の対戦が軸になっていますが、それは最初から決まっていたんですか?

松江: 最初は<DDTの1年間を追ったドキュメンタリー>という構成だったんですけど、素材としてDDTを象徴してるなって思ったのが、「#大家帝国」の試合でした。それでいうと、棚橋選手と小松(洋平)選手が、すごい巨大な存在としていて君臨していてくれたのがよかったですね。もちろん棚橋さんにインタビューを撮ったりもできたんですけど、それをやっちゃうと……。

坂井: 弱くなっちゃうんだよなあ。

松江: そうなんです。やっぱり“強い者”でいてほしい。説明より存在を強調したいんです。そんな人があそこで……という仕掛けもありますから。

坂井: そこでの公平な視点は、いらないんですよ。言い方は悪いけど、あくまで“いじめられっ子”の視点で見たほうがいい(笑)。

――今回の映画の性質上、いわば最初から「ネタバレ」をしている部分がありますが。

松江: そこは最初から心配していませんでしたね。「#大家帝国」の興行のラストで何が起きたのか、観客が知っていても全然いい。ただ、あの場で何が起こっていたのか、観客席からは見えない視点を作れる自信があったので。それは前後のドラマも含めてですけど。あの現場の出来事を、単に両国国技館の大会から始まった数カ月のドラマっていうのではなく、もっと以前の2000年代初頭からの坂井さん、HARASHIMAさん、大家さん、(男色)ディーノさんたちの関係性があっての一夜だったんだっていうのを、描ける自信はった。現に映画の中では、棚橋選手の言葉は切っていますし。むしろ、あそこで棚橋選手が何を語ったのかよりも、なぜ“あの展開にしたのか”のほうが重要だと思うので。そこの関係性を描けば、あの試合を見た人でもこの映画は楽しめるって確信してました。

――坂井さんや「DDT」にとって、棚橋選手の存在はどんなものだったんでしょうか?

坂井: 俺は今のプロレス界の象徴であり、正義だと思ってる。プロレスラーの規範。ヒールターンしたばかりの内藤哲也選手が『週刊プロレス』のインタビューで「新日本プロレスで一番偉いのは棚橋弘至で、マッチメイカーとかフロントの役員とか色んな人がいるけど、棚橋弘至の言うことが正義なんだ。棚橋が黒といえば黒だし、白といえば白だ」って言ってて、なんか分かるって思って。こっちが棚橋さんにお願いしたくても、「会社として新日本プロレスがなんて言うか……」って周りのみんなは言うんですよ。でも、それは違う。棚橋選手が「やる」って言ったら、会社も「イエス」って言うんですよ。器がでかいからこそ、こっちも飛び込みがいがある。棚橋選手も言ってるけど、良くも悪くも自分たちがやっているプロレスと棚橋選手がやっているプロレスっていうのは、「違うんだ」と。違うものをやっているという意識は僕の中にもあって、そういう意味では分かり合える部分もある。

――だから、最後の場面で棚橋選手に協力してもらうために、坂井さんが直接交渉されたんですね。その一部始終は、映画にはありませんでしたが。

坂井: だって俺、カメラをまいていきましたもん! 撮られたら危ないじゃないですか。「DDT」にバレたらいけないんです、あのミッションは。

松江: 監督なのに(笑)。僕は“監督だったらカメラ回してよ”って思いましたけど。ドキュメンタリーに、あの素材はあってもいいじゃないですか(笑)。

坂井: でも! あの場を成立させることが、勝ち負けを超えたなにかを見せることが俺の勝負だと思っているから、あそこはいらないんですよ!

松江: まぁ、結果を一番知っているのは坂井さんですからね。僕は新潟まで行きましたけど、「#大家帝国」でなにをやるのかは別に聞かなかったし、プロレスで本当に撮っていいものと、撮っちゃいけないものの最終的なジャッジは、坂井さんにお願いしてましたから。

坂井: アハハハハ。無いですからね、そんなの! あるがままを撮っているだけですから。

自分たちの物差しじゃなきゃ描けない世界がある

松江: この前、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)で「アイスリボン」が取り上げられたドキュメンタリーを見ましたけど、「こういう視点になっちゃうかー」と思いました。めちゃくちゃ腰引けてる。ああいうドキュメンタリーは一番撮っちゃいけないっていうのを見ましたね。

坂井: いつまで世間にプロレスはだまされ続けるんだって! 世の中に仕掛ける側であってほしいのに、なに仕掛けられてるんだよって。

松江: 「プロレスラーってこうなんですよー」ってノリで語っちゃうと、魅力が消えるんですよ。プロレスラーは常識人じゃないんだから。『ザ・ノンフィクション』である以上、日曜昼に見てる人に向けた「分かりやすさ」は絶対に崩せないんですよ。そこを崩せない以上、プロレスを撮るのは難しいと思いました。みんなが知っている1センチ、2センチ、3センチ……っていう物差しを持ってきちゃいけないんですよ。僕がマッスルとかDDTに教わったのは、俺たちの物差しは違うんだってことなんですよ。自分たちの物差しじゃなきゃ描けない世界があるんだよ、っていうのをやってるんですよ。プロレスって、そういうものなんですよ。

坂井: 親が反対してるっていうのは、プロレスをやる上での障壁にならないんですよ。だって、やるって決めてるんだから。親が反対してようがしてなかろうが関係ないんだけど、絶対、親を連れてきたがりますね、テレビは(笑)。でも、関係ないから! お客さんが沸くか沸かないか、レスラー仲間がバックステージで「グッドマッチ!」って握手してくれるかどうか、トレーナーの先輩たちが「いい試合だった」って評価してくれてるかどうかだけなんです。勝ち負けを超えて自分がレスラーとして表現したいことができたかどうか、それだけを考えてるから、親がどう思ったかなんてホンットどうでもよくて、親が止めたからってやるんですよ、プロレスラーは! バカなんですよ! 

松江: 「学校辞めます」なんて当たり前じゃん!って。

坂井: 実家の家業継ぐためにプロレスラー引退するやつなんて、いないですから!

――そうなんですか!(笑)

松江: でも、そこを取ると「わからない」ってなっちゃうんですよね。日曜昼に見る人は。

坂井: お父さん、お母さんは反対しないの? って当然思いますよね(笑)。まあしょうがないか。

松江: でも、そこを超えたものを撮っているはずなのに、排除しているなっていうのが、ドキュメンタリーを作っている身としては残念で。この映画は、そういうドキュメンタリーにはしないぞって。なるはずはないんですけど。大家さんは、『プロレスキャノンボール』上映のとき、パンプレットを買った人への特典として握手会してるのに、上映が終わった後、来場した人全員と握手しちゃう(笑)。ルールを超えちゃう人なんですよ。

坂井: そういうところって、確かに『ザ・ノンフィクション』では描けない。「マジでヤベえ」ってなっちゃうから。

一同: (爆笑)。

「文化系」をアラフォーになっても続けるということ

松江: 僕が感動したのはね、HARASHIMAさんがモヤモヤしてるときに引っ張るのが、やっぱり大家さんをはじめとする“文化系”のアラフォーの人たちで、僕は、大森での映像(※棚橋組との再戦日時が発表された大森駅東口前公園「UTANフェスタ2015」でのHARASHIMAと大家の挨拶)が好きなんですよ。

坂井: わかる!

松江: あのとき、明らかに前に出てるのが大家さんで、HARASHIMAさんが「ガンバレ、HARASHIMA!」って言われて、ちょっと戸惑ってるんですよね。あれがすごい大事なんですよ。ああいうときに立ち上がるのが“文化系”の仲間。僕は、そこにちょっとグッと来るんですよね。で、最後に「ガンバレ、オレ!」で締めるっていう図々しさ(笑)。そこもまた素晴らしいじゃないですか。あのシーンがなんかこの作品で友情物語になっていていいですよね。たぶん、普通のドキュメンタリー作る人が、今のDDTを撮ると、飯伏(幸太)さんや竹下(幸之介)さんが主役だと思うんですよ。“輝く人”っていて、テレビだったらそっちなんですよ。でも、暗闇で観る映画だと大家さんなんですよ。

坂井: 陰影があるんですよ。谷崎潤一郎的なね(笑)。大家健って、熱くてギラギラしてるけど、あれは、昔の割烹料亭みたいなところにやたらある、金色の漆器とか金屏風と同じ。行燈から光が反射するとキレイなんですけど、上から照明が照らされるようには作られてないんですよ。飯伏とか竹下とかはテレビの照明に当たるとちょうどいいんですけど、大家はテレビの照明に当てられると暑苦しくてしょうがない(笑)。反射しすぎて、うっとうしい。昔の俺たちって、それですからね。映画館の暗闇だと、大家の光が完璧なんですよ。

松江: 白熱灯1個くらいがちょうどよくて、HARASHIMAさんが光を失っているときに大家さんが光を浴びせる。

坂井: 停電した割烹料亭の中でろうそくをパッとつけたら、わっ、金屏風ちょうどいい! ってなるんですよ(笑)。

松江: 人が輝く適材適所ってあるんですよ。大家さんは映画。飯伏さんは、アメリカとかで試合やっても違和感ないじゃないですか。

坂井: WWEに照明に合うんですよ。会場明るいからね。

――今回の映画で“主役”となっているのはみんな同世代ですが、そこに特別な意識はありますか?

坂井: ありますね。今、お客さんがプロレスやプロレスラーに求めるものって、変わりつつある。2000年代当時は、プロレスに対抗する概念として、総合格闘技とかアメリカのWWEがあったから、「プロレスはこんなことができるよ」って表現のひとつがDDTだったりマッスルだったんです。けど、今は総合格闘技などが当時ほど影響力を持っていない中で、若い人たちにとって、プロレスは真剣勝負だという前提で見るスポーツになってしまっている。だから、僕たちがやっている「文化系プロレス」というアプローチは、今のプロレスファンには必要とされない時代になってきているという自覚はあります。そんな中で、DDTのエースであるHARASHIMAさんは純粋に強さを競う「体育会系プロレス」にもちろん対応して、DDTを引っ張る存在として、「キング・オブ・スポーツ」を社是としている新日本プロレスのエース・棚橋選手と同じ土俵で勝負を挑んだんです。そこから起こった齟齬とか、価値観の違いとかは、HARASHIMAさん個人に対してではなくて、DDT全体へのメッセージだと思ったから、自分らとしても何らかの答えは出さなきゃならないなって。だから僕は、映画っていうジャンルでプロレスの面白さを表現したんです。

松江: 僕は『ライブテープ』も『フラッシュバックメモリーズ 3D』もこれまで自分の映画って若い人たちに見てもらいたかったんですよ。一番映画を見ていた『キッズ・リターン』とか『KAMIKAZE TAXI』とか、10代の頃にキャパ100人くらいの単館映画館で20人くらいの観客と席を開けながら観てた、その頃にやっぱ自分は影響を受けてるので、そういう若い頃の自分に観せたいっていう思いがあったんですけど、今回の映画は同世代に見てもらいたいですね。

坂井: ホント、そう!

松江: 初めてですね、自分の映画で。意外とこういう「文化系」の表現をアラフォーまで続けている人っていないんだって分かってきたんですよ。

坂井: いないんですよ!

松江: みんな辞めちゃうんだ。自主映画をやってた人も、もうそういうんじゃないよねって。僕と一緒に自主映画やってた仲間も、漫画原作の映画の監督とか、名前が重視されないディレクターをやるわけですよ。愚直にサブカルを続ける人は本当にいなくなった。もしくは、亡くなっちゃったり。「文化系」をアラフォーになっても続けるって、ホントに他人事でなく、体を壊すし、お金にならないし、マジでツラいし、キツイんですよ。そういう意味で同世代に見てほしいですね。今いないってことはこれからますますいなくなるから、若い子がこういうことをやらないなって分かったんですよ。たぶん最後の世代。マンガ家でいうと大橋(裕之)さんで最後ですね。

坂井: ええー!

松江: 金にならないけど、正直に自分のやりたいことやる人。

坂井: 確かにいま愚直にものづくりをしようとしても、情報も入ってくる。ちゃんと考えればエラーが起きにくいし、能力さえあれば、いい会社に入れたりする。結局、ホントにすげーヤツって朝井リョウみたいになりますからね。

松江: そう、そう、そう!

坂井: 東宝に入れちゃうんですよ! 我々の世代なんて募集してないですからね、きっと(笑)。

松江: いや、ホントにそういう話で、僕らの映画が好きな若い人は今、東宝とかに入ってるんですよ。ちゃんと金を稼いだ上で、生活は生活、好きなものは好きなものってやっている。僕らのお手本は、お金よりも大切なものがあるはずだっていう、例えば、いましろたかしさんとかだったんですよ。

坂井: いましろたかしさんの『ハードコア』を最近読んだんですけど、人生観変わっちゃうね(笑)。

松江: 僕らは、あれが正しいって思ってたんです。でも実はね……、あれ、正しくなかったんです(笑)。

坂井: ええっ!? ホントに好きなことだけやり続けてきて、好きなことをやりたいからこそ、俺は一回プロレスを辞めたくらいで。最終的にやっぱりプロレスをやりたいってなって、やりたいプロレスをやるために仕様変更をしたり自分の中のものをアップデートしたりしてプロレスをいまも続けてるんだけど、プロレスやってたからカネがないってずっと思ってたし、プロレスをやってたからなかなか世に出れないんだって思ってたくせに、そのプロレス団体から、映画撮っていいよっていわれるんだから。しかも誰の顔色も伺わずにですよ。普通ね、スポンサーとかいてもいいじゃないですか。でもDDTがポンと金を出してくれるわけですよ。決して潤沢ではないですけど。それで東京国際映画祭みたいなものに招待してもらって、俺はたまたま体調不良で行けなかったですけど、みんなでレッドカーペットを歩かせてもらったり。そのスゴさをいまいち分かってないですからね、行ってるヤツらは(笑)。ジム・オルークさんに曲を作ってもらってるのがどれだけスゴいかって!

松江: ねえ。ジム・オルークですよ!

坂井: 言いたかないですけど、20代のころの自分が聞いたらホントにびっくりするんじゃないかなって思うようなことが待ってるからね。たとえあきらめたとしても、意外と夢がかなってしまうことはあるし、最近、それを感じさせてくれるような素晴らしい出来事がたくさんありました。同世代の人で、何かの形でやめたり、まだ続けている人も少なからずいるわけでそういう人にはどうしても見てほしいし、共有したいし、一緒に戦っていきたいなって思いますね。でも愚直にものづくりしようとしている人が東宝に入れる、いい時代なんですよ、実は。

松江: 俺、入れたかな…?

坂井: 入れないよ! 専門学校卒だから!(笑)

松江: そうだった、そうだった(笑)。

坂井: でも、松江くんが普通に深夜ドラマ枠であんな作品を作ってるんですよ! まだまだがんばらなきゃなって。

松江: 戦い方はあるなって思いますね。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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