最下位候補者でもこの実力 ウイルス対策にきっぱり

ギャバードは若いが実力はあると痛感した集会(筆者撮影)

スーパー・チューズデーが、一気にジョー・バイデン前副大統領とバーニー・サンダース上院議員の一騎打ちに。このため、タルシ・ギャバード下院議員(38)がまだ大統領選予備選挙に残っているのは、すっかり忘れていた。しかし、彼女を直に見て「アメリカはすごい」と思った。

集会で新型コロナウイルスの流行について支持者から聞かれると、「問題は2つ、これとこれ」とシャープに答えた。記者会見で、用意された原稿しか読めないどこかの首相を考えれば、支持率が最下位の候補者でも、明日から仕事ができるのではないか、と錯覚する回答だった。トランプ米大統領にも聞かせたかった。

スーパー・チューズデー前日の3月2日、彼女の集会に行ったのは、全くの偶然だった。

取材のため訪れているテキサス州オースティンで、サンダース支持者の年配女性が、ギャバードの集会に誘ってくれたのだ。

「まだ彼女の集会を見ていないから、直に彼女を見たいのよ」

私も、これまでに候補者5人の集会に行ったが、ギャバードはまだ。ただ、過去12時間以内に、ピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長と、エミー・クロブシャー上院議員の2人が選挙戦から撤退を発表した。2人ともギャバードよりも上位を走っていたにもかかわらずだ。ギャバードも撤退宣言をするのか。まあいい、行ってみよう。

結果、これまで行った集会で、会場も参加者数も最も小規模。

「もしかしたら、撤退発表かもね」

夜7時開始の30分前にもまだ列ができていないので、タコスを買っていた屋台の前で、地元紙記者がひそひそ声で話しかけてきた。

6時50分に10人ぐらいの列に並んで入る。タルシと書かれたTシャツや帽子を売っている。参加人数はボランティアも入れて、220人。サンダースは平気で数千~数万人の集会を開ける。小さい!

ここで、ギャバードについて。彼女は、ハワイ州選出の下院議員で米サモア系。ヒンドゥー教徒でもある。ハワイ州陸軍兵として、イラクとクウェートに駐屯した。当選すれば、初のサモア系、ヒンドゥー教徒、退役軍人(ベテラン)出身の大統領となる。

ざっと参加者の様子を見る。テキサス州という土地柄もあるが、かなり多様性がある。若者は、大学街であるせいかざっと1割。ギャバードが退役軍人なので、それらしき男女が3割程度。立った時に、手足が「休め」の姿勢になる。ギャバードを見られると感極まっている表情のLGBTらしき人が1割ほど。ラティーノと中央・東南アジア系もいる。

7時半過ぎ、彼女が登場した。支持者が一斉に立ち上がり、キャーという女性の歓声と、ベテランからか男性の吠える声が沸き起こった。

ステージはなく、最前列の1メートルほどのところに立っている。赤いジャケットに、黒いスリムパンツ。身長は170センチほど。退役軍人とは思えない華奢な体型だ。さすがに姿勢がよく、キリッと立っている。ジムに行っているなという感じのキュッとした体型だ。

もちろん、姿勢が良いため、サンダースやウォーレンのように前のめりになる情熱的な感じはない。オバマ前大統領に似たブティジェッジのようなカリスマ性もない。年齢的にも、長年政治家をやっているほとんどの候補者と異なり、迫力には欠ける。

しかし実力は、体型や雰囲気ではない。

彼女のメッセージは、分断ではなく、一つになることを、訴えていた。

「アメリカ合衆国憲法の最初の3つのワード、WE THE PEOPLE、これこそが全ての中心です。私たちが一つであるという国民の責務を表しています。たとえ、誰かに同意できなくても、正しい不同意の仕方が必要です」

そして、エイブラハム・リンカーン元大統領を3度も引用した。最近Instagramで発見した好きな言葉もリンカーンだ。

「あの人物は嫌いだ。(だから)あの人物のことをもっと知らなければならない」

これも、相手を理解しようというアプローチの言葉だ。

さらに質疑に入って、私は本当に驚いた。想定外の質問が来るが、スパーンとエースが返る。

質問者アンジェロ「白人以外で残った唯一の候補であり、最年少であり、退役軍人から初めての大統領になるということに感謝しています(これは彼女自身は宣伝しなかった)。僕が住んでいるサンアントニオで、コロナウイルスの感染者が11人出ています。あなたの政策を教えてください」

ギャバード「全てがリーダーシップの問題です。2つのポイントがあります」

「第1に、疾病対策センター(CDC)、食品医薬品局(FDA)といった組織の官僚主義が問題です。ウイルスが、アメリカで取りざたされて数週間経つのに、検査の基準を狭くして検査が受けにくくなっています。検査しても結果は4日後なので、その4日間被検者以外がウイルスにさらされている可能性が否定できません」

「ニュースによると、スコットランドや韓国では、ドライブスルーで検査ができるというではないですか。なぜアメリカがそれよりも遅れているのでしょうか。それを解決するべきです。検査をすること、それが今一番大事なのです」

「第2の点は、選挙でも重要な争点になります。つまり、緊急対策費用にはどの程度の歳出規模が最適かということです。私たちは、2020年に入って2カ月の間に80億ドルをアフガニスタンに費やしています」(支持者から「ノー!」という声)

「歳出となると、中央ではやれ1セントだ10セントという話をしています。が、外交政策は内政でもあります。アフガニスタンに月40億ドル費やせるなら、緊急事態にもそれだけ費やせるはずです。私たちがリーダーを選ぶ際、そういうことが重要だということ、リーダーシップとは何かを理解してください」(ウォーーー!という歓声)

後ろに座っていた明らかにPTSDを患っているとみられる年配の退役軍人は、彼女の発言に「イエス、イエス。来てよかった」と泣かんばかりだ。

どこかの首相と同じく、トランプ大統領のコロナウイルス対策には、疑問の声が高まっている。現在、マイク・ペンス副大統領をリーダーに指名したが、彼はインディアナ州知事時代、HIVウイルスの感染拡大を危惧した保健医療担当者の提案を無視し、「家に帰って神に祈る」と答えて批判を浴びた。検査の迅速化は、感染者がいる州レベルでは進んでいるが、国レベルで進んでいないのも事実だ。

ギャバードは、この選挙を生き残ることはないだろう。過去の投票動向や、集会を積極的にしていないという批判もある。でも彼女にとっては経験を積むいいチャンスだ。彼女には、実力がある。現実的な政策を考える力もある。集会は小さかったが、老若男女、若者、LGBT、非白人を集められる。同性愛者で果敢に選挙戦を展開したブティジェッジ同様、ギャバードには、将来のアメリカを担うパワーを感じた。

ニューヨーク在住ジャーナリスト。「アエラ」「ビジネスインサイダー・ジャパン」などに、米社会、経済について幅広く執筆。近著は「現代アメリカ政治とメディア」(共著、東洋経済新報 https://amzn.to/2ZtmSe0)、「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社 amzn.to/1qpCAWj )、など。2014年より、海外に住んで長崎からの平和のメッセージを伝える長崎平和特派員。元共同通信社記者。

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ニューヨークに2003年から住むジャーナリスト。大統領選挙取材は2008年から今年は4回目。下町クィーンズで、豊かではないが夢いっぱいのミレニアル世代と暮らしながら、トランプのアメリカ社会、政治、テクノロジーをミクロから眺めていく。そこから、アメリカの夢、挫折、フラストレーションが浮かび上がる。

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