7月23日の東京オリンピック開会式で「長い」と注目を集めたIOCバッハ会長のスピーチは、改めて確認してみると、人前で話す人が踏まえたい重要な教訓が含まれていた。

ネット上では「校長先生かよ」などという声も上がっているので、バッハ会長にはもちろん閉会式に向けて、そしてそれ以外の方々にも参考にしてもらえるように、ポイントをまとめてみた。少し気をつければ話の印象がガラリと変わる「バッハの教訓」である。

「話が長い」の意味は3つ

 バッハ会長が開会式に話した内容を冷静に後から見てみると、「話が長い」と思わせる理由は以下の3つある。

1)位置づけから見て長い

 スピーチは、20時開始の開会式の約3時間後からだった。これは本来なら開会式の終了予定時刻だった。スピーチを聞いてもらうには負担の大きな時間だ。

2)条件から見て長い

 プログラム構成上、与えられていた予定時間は、橋本聖子組織委会長とバッハIOC会長の二人で9分間だった。一人で最大4分半だ。ところが実際には13分も話を続けた

3)内容面から見て長い

13分スピーチを日本語訳で追ってみると、冷静に読んでみて長い。独りよがりなポエム的で、具体性が乏しく、聞き手を置いてきぼりにしている印象がある。出現頻度で文字を見るテキストマイニングでも、キーワードがメッセージの強さにつながっておらず、長い。

 私自身もリアルタイムに見ていて、思わず「長い」とつぶやいた。5分経過したあたりのことだ。ネットでもそのあたりから、しびれを切らすようなツイートが増えていた印象が強い。

バッハの教訓1 「長い」と言われたら終わり

 スピーチの難しさは、情報よりも印象で受け取られることが多いことだ。それはつまり、どれだけ内容を精査しても「長い」と言われた瞬間に、そのスピーチ=長かったと語られ、記憶されるということ。

 せっかく手間をかけて良い内容を準備したとしても、「長い」の一言で片付けられるのは、悲しいものである。

バッハの教訓2 人前で話すなら条件を厳守する

 では、どうすれば良いのか?

 まず、今回のプログラム構成を考えると、4分半でも長すぎると思うが、もし条件が4分半なら、スピーチは必ず4分半以下にすることだ。

 今回のように話し手がトップの場合、象徴的なメッセージを発信する存在なので、この「条件」を守らないことで、イベントが「約束した通りに進まない」こともあるという誤ったメッセージ発信にもつながってしまう。時間厳守は約束厳守の姿勢を示すことにもつながっている。

 日本語原稿なら、1分が300-350文字程度だから、4分半なら約1500文字までだろう。メッセージを強くしたいなら文字数は減らし、1200-1300字でも十分だ。

バッハの教訓3 必要不可欠な情報だけにする

 内容面では、話の柱を先に決める。

 良いスピーチは、「その場・その時・その人でないと言えないこと」を話すのがポイント。今回の場合であれば、「開催への感謝」「連帯・団結の呼びかけ」「天皇陛下の開会宣言へのバトンパス」というのが柱になりそうだ。

 これを、聞き手にどう受け止められ、語られていくか(記憶に残してもらうか)をイメージしながらまとめる。当然、聞いている人たちが途中で寝てしまわないように、退屈しないように、暑さが深刻なら長すぎて倒れないように、配慮することは言うまでもない。

 最初は簡潔にポイントをまとめて、エピソードなどは後で肉付けに使ったほうが良い。どう考えても話の下手なバッハ会長などは、必要不可欠な情報以外は加えないことだ。余計なことは言わない。今回のように批判の声が大きな場面で、苦手なスピーチで挽回しようとするのは無理がある。

条件の1/3で構成してみる

バッハ会長のスピーチは、大きく前半と後半に分かれており、前半は「感謝」、後半は「アスリートへのメッセージ」になっている。国際的な式典で、トップが多くのステークホルダーに対して順番に「感謝」の言葉を伝えるのは常識だ。

だが、パンデミックによる延期で無観客の「私たちが想像していたものとはまったく異なっている」(バッハ会長の言葉)状況での開会式において、夜中の11時に、しかも時間オーバーしている状況で話すスピーチとしては、最低限にカットすべき内容だろう。

 また、アスリートへの呼びかけでは、「団結・連帯」を重要なキーワードとして扱っているが、目新しさを感じないありふれた抽象的な伝え方のため、もっと具体的にするか、大幅にカットしたい

今回のバッハ会長のスピーチを内容を変えず必要不可欠な要素だけで構成すると、立場上言及が必要と考えられる固有名詞を残しても、約13分のスピーチを、条件(4分半)の1/3の時間、つまり1分半でまとめられるのではないかと思い、最後にまとめてみた。面白みには欠けているかもしれないが、スピーチの役割やメッセージは残しつつ、長くは感じないと思うが、どうだろう。

 東京2020オリンピック競技大会へようこそ。

 さあ、希望の瞬間です。205の国・地域のオリンピック委員会、そして難民選手団がここに集うことができました。

 これは日本のすべての皆様のおかげです。心から感謝と敬意を表したいと思います。

 またすべての国・地域のオリンピック委員会、国際競技団体、TOPパートナー、パートナー、放送権者に、心からの感謝を表したいと思います。

 明日がどうなるか分からない中、誰もがもがき、耐え、決してあきらめなかったことで、今日、皆様は、オリンピックの夢を実現しました。

 パンデミックは私たちを分断しましたが、今この瞬間、物理的にも気持ちの上でも、団結することができました。団結こそがまた、困難を乗り越えるカギなのです。

 そしてこの一体感は、パンデミックの暗いトンネルの終わりにある光です。聖火がその希望の光をより明るく輝かせます。

 ここで、私は天皇陛下をお招きし、第32回近代オリンピアードの東京2020オリンピック競技大会を開く宣言をいただくことを大変光栄に思います。

 東京オリンピック大会の開会宣言をここに謹んで天皇陛下にお願い申し上げます。