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こんなに差があったのか。新型コロナ知事会見ウォッチ47都道府県比較

鶴野充茂コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授
マスク・手話・ネット配信が知事の記者会見の標準になった(写真:ロイター/アフロ)

 

 新型コロナウイルスの動向について、連日、全国で記者会見が開かれている。緊急事態宣言下の5/1時点で調査した結果、47都道府県庁の全てが、知事の会見動画をネット公開していた。手話対応は41都道府県に及び、少なくとも13の都道県でネット生中継が確認されるなど、少しでも早く多くの人に情報を届けようとする姿勢が窺える。1つ1つを見ていくと、内容的にもバラエティに富んでおり、今や知事会見動画は、「ステイホーム」で全国のお国柄を味わうコンテンツだ。

 

 

 緊急事態宣言が全国に拡大され、47都道府県がそれぞれで対応を迫られている。マスメディアは広域災害時と同様に全ての動きをカバーすることが困難になり、公的機関が発信する一次情報の重要度が増している状態だ。

 

 このタイミングで全国の都道府県庁がどのように情報を発信しているのか、前回の記事で、災害時の発信で差が生まれやすいHPとツイッターについて調査したところ、格差が明らかになった( 緊急事態宣言後の47都道府県オンライン広報力の格差を何とかしたい)。

 

 いざと言う時に、どこに居住するかで得られる情報に格差があるのは重大な問題であり、これを何とかしたいというのが、もともとの問題意識である。この記事でもその考え方に基づいて、知事の記者会見の情報発信を調査・比較した。

 

 

全47都道府県が会見動画を公開・少なくとも13都道県が生中継 

 

 

 調査の結果、47都道府県庁の全てが、知事の記者会見を部分的あるいは公開までに時差があるにせよ、動画でネット公開していた。中にはこの春、新型コロナウイルスをきっかけにして会見動画の公開を始めたところもあった。

 

 会見は冒頭メッセージと記者との質疑応答の組み合わせが多いが、質疑応答までを含んだ全ての会見動画を公開しているのは36都道府県だった(残りは知事のメッセージのみ)手話通訳が会見に立ち会っているのは41都道府県。そして、少なくとも13の都道県でYouTubeライブの生中継による配信が確認された

 

 もともと記者会見は、あくまでマスコミに向けたクローズドな場であり、一般向けの「コンテンツ」ではなかった。それが2011年の東日本大震災で(と言って良いだろう)、記者会見のネット生中継が本格的に広がり始めた。しかしそれ以降も、機材や担当者、データ公開の方法、予算、記者クラブとの関係などをめぐって、会見映像という生データの直接公開は決してスムーズには進んでいなかった。

 

 そんな観点で、「全47都道府県庁が」この「新型コロナの春」時点で、自分たちで知事の会見動画を管理して公開するに至ったというのは、大きな時代の変化と言えそうだ

 

 

 

こんなに差があった知事会見動画比較

 

 

 全47都道府県が知事の会見動画を公開しているが、実は内容には大きな差がある。いくつかの観点からその差を見ていこう。

1)映像の格差

<鳥取県:県民へのメッセージ>

 

 この動画タイトルとなっている「おる・出ん ウイーク」は、県の啓発メッセージとして発信され、ネット上でも広がりを見せている

 

 記者会見のタイミングで県民メッセージという形で動画メッセージを用意しているところも少なくない。表現や伝え方の工夫もさまざまだ。

 

 

<岩手県:昭和感ある画質と音質>

 

 懐かし映像のような雰囲気だが2020年の記者会見だ。

 

 マスメディアが公開する会見映像ほど高品質は望めないのかもしれないが、都道府県庁が公開している会見動画は、画質・音声の面で問題があるものが少なくない。

 

 一般公開する情報としてたくさんの人がストレスなく視聴できるように、少なくとも会見者の表情がわかる映像(会場の明るさ・カメラの画質)と、会見者・質問者・司会者の声がそれぞれ明瞭に聞こえる音声(会場音ではなくマイク音声ライン入力)での撮影を求めたい。

 

 

 

2)話以外が気になって仕方がない

 

<和歌山県:知事の横に謎の人物がいる>

 

 知事の横で無言で大量の書類を仕分けている。知事の話に時々相槌も打っている。質問に答えることもある。でも最後まで分からない。何者だ。

 

 

<徳島県:強烈な禁止メッセージが目に飛び込む>

 

 警告マークで目をやられる。

 

 

<北海道:ウポポイって何だ>

 

 

 

 会見者の背景にある記者会見ボードの色柄やキャッチコピーは、会見内容と関連性があり、目立ちすぎないように、また、会見者の肩書や名前は動画の中でも分かるように配慮したい。そこにいる人には常識でも、動画を見ている人に「誰なのか」分からなければストレスになる。

 

 

 

3)ドラマが起きる記者会見

<香川県:予定外の情報がモレた>

 

 お詫びから始まる知事会見。動画の一部はプライバシー保護などの観点から、削除されている。経緯はこちら(感染者らに関わる会見で、個人名漏らすミス 香川県知事)。

 

<山梨県:妻にはまだ話してない家庭内リスク>

 

 「意気込み」を伝えようとしているが、妻の顔が頭に浮かんだのか、動揺がマスクをしていても明らかで、うまく説明できない様子が目を引く。このやりとりは、「山梨知事「妻に相談してない」給与1円を正式表明」として記事になった。

 

 

<奈良県:噛み合わないやりとり>

 

 謝罪会見に匹敵する2時間に及ぶ知事会見。一言で確認がほしい質問に、長い背景情報の説明が始まる珍問答が続く。長い説明を記者が「つまり」とまとめて確認すると、新たに長い説明が始まり長時間化している。

 

 

 

 質疑応答は、そのやりとりが思わぬニュースにつながる可能性があり、記者会見のメイン部分として見逃せない。また誤報や記者の姿勢なども含めてチェックする意味でも、行政機関には質疑応答部分までしっかり動画公開を求めたい。透明性の観点から、会見主催者側のリスクマネジメントの意味も大きい。

 

 

 

47都道府県・知事会見動画比較一覧

 

 

 最後に、都道府県ごとの動画公開状況や見どころを一覧表にまとめておく。より多くの人がこうした一次情報にアクセスし、政策や行政・自治体についての深い理解のきっかけになれば幸いである。

 

 一覧表には、改善したい点についてもコメントを加えた。行政機関としても、社会が外出自粛が長期化する中で、遠隔からアクセスできる情報の充実という観点からも、こうした記者会見の情報公開・発信について、さらに整備や強化・改善を図りたい。

 

知事記者会見の動画配信状況一覧 その1
知事記者会見の動画配信状況一覧 その1
知事記者会見の動画配信状況一覧 その2
知事記者会見の動画配信状況一覧 その2

 

 

※注釈

・記者会見の動画は5/1時点で確認できるものを対象とした

・Live配信はYouTube上でライブ配信記録があったものを○とした

・アーカイブは質疑応答までのフル会見データが確認できたものを○、質疑応答のカットがあった場合には△とした

・コメント欄は、YouTube動画ページでユーザーコメントを許可しているものを○とした

・検索性は、YouTube上で「検索」できるものを基準として、都道府県庁HPからしか行けない限定公開設定のものや、同時配信システムの場合には×とした

・手話通訳は、4月末時点で対応が見られるかを確認し、会見によって明らかな有無が認められる場合は△とした

 

 

★都道府県庁が公開する知事の会見動画はここから見られる。

1:北海道 https://www.youtube.com/user/hokkaido/videos

2:青森県 https://www.youtube.com/user/AomoriPref/videos

3:岩手県 https://www.youtube.com/user/prefiwate/videos

4:秋田県 https://www.youtube.com/user/prefakita/videos

5:宮城県 https://www.youtube.com/channel/UCsSLg4zjhM3yOLG2XkYx0zw/videos

6:山形県 https://www.youtube.com/user/yamagatakoho/videos

7:福島県 https://www.youtube.com/user/PrefFukushima/videos

8:新潟県 https://www.youtube.com/channel/UCteaSVEDeoBHKl0wlQa7DZQ/videos

9:栃木県 https://www.youtube.com/user/TochigiPref/videos

10:群馬県 https://www.youtube.com/user/gunmakouhouka/videos

11:長野県 https://www.youtube.com/channel/UCwRc-mLZslRud5riCjgT-bw/videos

12:埼玉県 https://www.youtube.com/user/prefsaitama/videos

13:茨城県 https://www.youtube.com/channel/UCzAcY98s-Tg6ooS3OujMMeg/videos

14:千葉県 https://www.youtube.com/channel/UCgwvS1atESFUsoshx0z81WQ/videos

15:東京都 https://www.youtube.com/user/tokyo/videos

16:神奈川県 https://www.youtube.com/user/KanagawaPrefPR/videos

17:山梨県 https://www.youtube.com/user/yamanashipref/videos

18:富山県 http://www.pref.toyama.jp/cms_cat/401010/kj00021808.html

19:石川県 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/chiji/kisya/r2/index.html

20:岐阜県 https://www.youtube.com/channel/UCTeVwAHR9nwk10ZwCJQof0w/videos

21:静岡県 https://www.youtube.com/user/shizuokapref/videos

22:愛知県 https://www.youtube.com/user/aichikoho/videos

23:福井県 https://www.youtube.com/user/fukuikouhou/videos

24:滋賀県 https://www.youtube.com/user/shigakoho/videos

25:京都府 https://www.youtube.com/user/kyoto/videos

26:大阪府 https://www.youtube.com/user/osakapref/videos

27:三重県 https://www.pref.mie.lg.jp/MOVIE/ci200006541.htm

28:奈良県 https://www.youtube.com/channel/UCDbVZnt_vpzljjQDYxvphKg/videos

29:和歌山県 https://www.youtube.com/playlist?list=PLQrlmY4eG9XtejwO7EF5pq3y0pmitRyWa

30:兵庫県 https://www.youtube.com/user/hyogoch/videos

31:鳥取県 https://www.pref.tottori.lg.jp/kaiken/

32:岡山県 https://www.youtube.com/user/okayamaprefkoho/videos

33:島根県 https://www.youtube.com/user/ShimanePref/videos

34:広島県 https://www.youtube.com/user/hiroshimakenkouhou/videos

35:山口県 https://www.youtube.com/user/PrefYamaguchiKouhou/videos

36:香川県 https://www.youtube.com/user/PrefKagawa/videos

37:徳島県 https://www.youtube.com/user/tokushimakouhou/videos

38:愛媛県 https://www.youtube.com/user/EhimePref/videos

39:高知県 https://www.youtube.com/user/KochiPref/videos

40:福岡県 https://www.youtube.com/user/fukuokaitv/videos

41:佐賀県 https://www.youtube.com/user/SagaKouhouMovie/videos

42:長崎県 https://www.youtube.com/user/nagasakiyokatv/videos

43:大分県 http://www.onsenkenoita-ch.com/prefecture/index/5

44:熊本県 https://www.youtube.com/channel/UCxExSxy7_ASodaYISKkyrRQ/videos

45:宮崎県 https://www.youtube.com/user/miyazaki/videos

46:鹿児島県 https://www.youtube.com/user/kagoshimakensei/videos

47:沖縄県 https://www.youtube.com/user/okinawaOfficial/videos

コミュニケーションアドバイザー/社会構想大学院大学 客員教授

シリーズ60万部超のベストセラー「頭のいい説明すぐできるコツ」(三笠書房)などの著者。ビーンスター株式会社 代表取締役。社会構想大学院大学 客員教授。日本広報学会 常任理事。中小企業から国会まで幅広い組織を顧客に持ち、トップや経営者のコミュニケーションアドバイザー/トレーナーとして活動する他、全国規模のPRキャンペーンなどを手掛ける。月刊「広報会議」で「ウェブリスク24時」などを連載。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒業。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会元理事。防災士。

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