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三宅裕司が名誉委員長の「平成平日委員会」を振り返る プレ金は週休2.5日社会を目指せ

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
自主プレ金を楽しむ私と娘

平成最後の金曜日だ。プレミアムフライデーだ。10連休前に早めに仕事を切り上げる人もいれば、仕事がたまって早く帰れない人もいることだろう。

今回は、平成の「休み方改革」について考えたい。実はプレミアムフライデーの取り組みが始まる20年以上前に、「休み方改革」のムーブメントがあったのだ。「平成平日委員会」がそれだ。「平日に有給休暇をとって、旅行に出かけよう」というものだ。当時の関係者への取材や入手した資料をもとに、このムーブメントがいかに先進的だったかを振り返りつつ、日本人の休み方の何が問題なのかを考えたい。プレミアムフライデーの推進者たちが学ぶべき教訓についても指摘する。

平成平日委員会は平成5年7月に発足した。法定労働時間の短縮が行われ、週休2日制が広がっていたが、生活者の旅行は週末や祝日に集中していた。これを打破し、平日の有給取得促進、旅行需要の平準化、平日の余暇活動の喚起をアピールするために立ち上がったのが、「平成平日委員会」だ。団体名は、当時、流行していた「平成教育委員会」のパロディである。

名誉委員長は三宅裕司氏だ。旅行業界を中心に、約50の団体・企業が参加した。日本旅行業協会、日本観光協会などの団体や、JRグループ各社、JALやANA、旅行代理店、ホテルチェーン、さらにはサントリーや高島屋、本田技研、ソニーミュージック、コスモ石油、放送局やエンタメ各社など錚々たる顔ぶれである。

後援は運輸省(当時)である。民間企業の活動を同省が後援したのはこれが初めてだという。事務局をリクルート(現:リクルートライフスタイル)の『じゃらん』関係者が担当した。当時の『じゃらん』は創刊してまだ数年で、赤字状態だった。

イラストレーター秋山孝氏が描いたイメージキャラクター「ヘイヘイドリ」もつくられた。大空を自由に飛び回る自由さとともに、羽をのばす、羽を休めるなど、余暇をイメージさせたのもポイントだ。

平成6年5月には赤プリで記者会見を行った。プレミアムグッズとして「撮りっきりコニカもっとMINI(レンズ付きフィルム)」の平成平日委員会バージョンも配布された。それから3年間「鬼の部課長へ有休旅行プレゼント」「9月にとる夏休み夢のツアープラン大募集」「11月22日イイ夫婦の日」「平日旅行ワンランクアップ」「平日有休遊びの達人、大募集!」などのキャンペーンが行われた。各種イベントへの出展や、広告の出稿も行われた。

平成6年度は12回、7年度は14回、8年度は7回の会議が開かれた。関係者によると参加率100%となることも多かったという。会議の終了後は、当時のリクルート銀座7丁目ビルにあった「シーガルハウス」という社員向けバーにて懇親会が開かれ盛り上がった。

もっとも、人事異動などにより各社のキーマンが異動したことなどから、徐々に活動はゆっくりになり、3年間で終了した。また、肝心の平日休みが取得されたかどうかでは、効果が確認できなかったという。

とはいえ、現在では一般的によく見られる夏休みを7〜9月の間に分散してとるなどの取り組みを、平成初期に仕掛けるなど、このムーブメントがキッカケになったとも思えるものもある(断定はできないが)。何より、約50の団体・企業が一丸となって取り組んだことに意味がある。関係者の証言や資料からは熱を感じた。

さて、プレミアムフライデーだ。毎月、月末になるとTwitterのトレンドでこのキーワードを見かける。プレ金をからかうもの、今日も帰れないという不平・不満も散見される。今後、どの方向に進むのか。

プレミアムフライデー推進協議会は3月29日付の日本経済新聞朝刊に全段広告を掲載した。キャッチコピーは「来るよ、週休2.5日。行こう、新しい働き方へ!」だった。単に休むだけでなく、自分磨きの提言などもまとめている。「早帰りを押し付けられる日」から「第3の時間を使って自分を向上する日」にすると提案していた。

今のところのプレミアムフライデーは成功と言えないことは明々白々である。数億とは言え、血税が注ぎ込まれたわけで、経産省・経団連の関係者、特に世耕経産相、榊原前経団連会長、中西現経団連会長は実態を虚心に直視し、真摯に顧みたうえで、敬虔な反省をするべきだと考える。

担当した広告代理店、博報堂も力が弱いと言わざるを得ない。90年代前半、事件の印象が強く、莫大な借金があったリクルートの、しかも創刊したばかりの赤字媒体『じゃらん』が平成初期にこのような仕掛けをしていたことをぜひ、ベンチマークしてほしい。そして、「さすが、博報堂だ」と言われるような仕事をして頂きたい。

なんせ、関係者の熱量が足りなかったのではないか。出てくる企画にプレミアム感もなかったし、押し付け感が見え隠れしていた。

週休2.5日と言われても白ける人も多いことだろう。ただ、改元にはさめている私だが、今後、何時間働いて、何日休む社会にするのかという議論は必要だ。現状の働き方改革は、仕事の量や役割分担、やり方などを見直さなくては労働強化になっている。実際、そうなってしまっている例も散見される。

週に2.5日、休める社会にするにはどうすれば良いか建設的な議論が必要だ。週休2日も昭和末期には当たり前ではなかった。次の社会をつくる議論が必要だ。

休み方改革を始めよう。有給取得義務化や祝日の増加も結構だが、理由にかかわらず自由に休める社会、一生懸命働かなくてもすむ社会、ぼーっと生きている人も批判されない社会(そもそも、ぼーっと生きることもできる社会)を目指したい。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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