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ゼリア新薬工業自死事件の論点 人事部よ、仕事をしろ

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
いい写真がありませんでした(写真:アフロ)

製薬会社のゼリア新薬工業に勤めていた男性(当時22歳)が、新入社員研修で過去の体験などを告白させられ、2013年5月に自死し、「業務上の死亡」だったとして2015年に労災認定を受けた事件が明るみに出た。

詳細はリンク先をご覧頂きたい。ヤフートピックスにも掲載されていたので、もうご覧になった方も多いことだろう。

ゼリア新薬の22歳男性「ある種異様な」新人研修受け自殺 両親が提訴(BuzzFeed Japan) - Yahoo!ニュース

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170808-00010006-bfj-soci

男性は、ビジネスグランドワークス社が請け負って実施した「意識行動改革研修」を受講していた。ゼリア新薬工業もビジネスグランドワークスもこの報道に関して、HP上では8月10日8時現在、コメントをしていない。

新入社員が自死に至ったことについて、私は満腔の怒りで震えている。この事件に関しては私に限らず、その怒りは燎原の火のごとく燃え広がりつつあるが、ここでは感情をおさえ、この個別の案件からやや話を広げ、貴社でも、そしてあなたにも起こりうるものだとして、問題提起したい。

研修で起きてしまった問題は、すべて人事部が悪い。パートナーとしての研修会社の選び方、それに対するマネジメントの問題である。今回の事件について、私はこの点に注目している。いわゆる、ベンダーコントロールの問題だ。

もっとも、これは簡単そうで深い。世の中には有象無象の研修会社がある。提供しているプログラムの内容や金額だけでなく、講師のレベル感なども含めて検討したのだろうか。ここが実は奥が深いところだ。

プログラムが優れていても、講師の質の管理ができていない企業というものも存在する。中には、ひたすらプログラムを洗練させる一方、そこそこのビジネス経験のある講師に任せれば成立するように設計している企業もある。講師も、社員が行っているというものはものだけでなく、外部のパートナーに委託しているケースもある。その際も、試験を行い講師として認定している企業もあれば、とりあえず空いている知人に頼んでいる企業もあるのである。

「講師が誰になるかわからないのだから、この批判はナンセンスだ」という声があることだろう。この批判こそ、ナンセンスだ。講師の顔ぶれ、レベル感、特徴などを把握するのは人事部の仕事だ。さらに言うならば、やさしく接するのか、厳しく接するのか、どの受講生をケアするべきなのかなどの情報共有も必要だ。

この案件については、私はベンダーコントロールの問題ではないかと見ている。パートナーを選ぶ際に、プログラムや、講師のレベル感を確認したのか。さらには、運営のチェックを行っていたのか。この部分が問われることになる。

事件については、今後2社の声明を待つとして、私は世の中の企業に対して警鐘を乱打したい。これは貴社でも、今年や来年に起こりうる事件であるということだ。

この事件が明るみに出て「まだこんな時代錯誤な研修をやっているのか」「人権侵害ではないか」というコメントを頂いた。いや、あるのだ。特に新人研修に関しては、新卒採用との共犯関係で、未経験で白無垢な若者を組織の色に染め抜いていく側面がある。学生から社会人への意識改革の要素もある。いまだに自衛隊体験入隊研修などがあるのもそのためだ。

もちろん、今回問題となった意識改革型研修だけが問題ではない。同期たちの絆を深め、企業のビジョンを浸透させるような一見すると穏やかな研修においても、マインドコントロール的な側面はある。

余談だが、私も20年前、リクルートに入社して受講した新人研修は、意識改革セミナーのようなものだった。自己評価と他者評価をトレーナーと同期入社社員と泊まり込みで議論し、評価のズレ、悩み、迷いについて徹底的に議論する。いや、議論という平和なものではなく、問い詰められる。あまりに辛くなって、研修中に行われた懇親会ではウイスキーを飲んで泥酔し、思わずその瓶を壁に叩きつけてしまった。いや、暴走したのは私が悪いが、人格を無視した研修に憤りを感じたのもまた事実だ。嫌なことを色々思い出してしまった。本当に会社を辞めてよかった。

話を戻すと、要するに貴社でも同じような要素のある研修が行われていないかということだ。さらに言うならば、現在、新卒は売り手市場だ。この局面は危うい。人事部は多くの新入社員に対応しなくてはならない。そして、研修会社にかぎらず、人材ビジネス企業にとってはかき入れ時だ。人事部においても採用や研修担当者は、労務などと違い、この局面で他部署からの異動者や新人が担うこともある。人材ビジネス企業も新卒・中途ともに採用を強化する。つまり、売り手市場のもと、(その分野の)素人同士が商談をし、大量の新人に対応することになる。結果として、対応が雑になることもある。

ゼリア新薬工業、ビジネスグランドワークス社だけの問題と捉えてはいけない。自分ごとだと捉えなくてはならないのだ。あなたの会社の人事部はまともに仕事をしているかどうか、チェックしてもらいたい。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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