Yahoo!ニュース

人生がときめく時間の使い方 時間は美しく流れているか?

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
すっかりスマホが時計がわりの時代ですけど、こういう時計っていいですよね(写真:アフロ)

『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)という本を発表した。「国をあげた最大のチャレンジ」として掲げられている「働き方改革」に関して物申す内容になっている。なお、リンク先が出版社のサイトなのは、いかにも売らんかなというものにしたくなかったのと、ネット通販に本当に在庫がないからだ。配達員の方を疲弊されるのも問題だし、書店にはたっぷり在庫があるので、手にとって頂きたい。

常識と感情を上手く手放して語る本にしたかったのだが、最終的には烈々たるパトスがみなぎる、熱い本になってしまった。それだけ、私がこの問題の論じられ方について怒っているということだ。「働き方改革」という美名のもと、労働者からますます搾取しようとする国や、経済団体に対して、私は怒りの拳を叩きつけた。我が国の労働社会の、根本的・普遍的矛盾に、非妥協的に立ち向かった本である。「働き方改革」の矛盾を広範に暴きだし、「最大のチャレンジ」として掲げた「働き方改革」のこの体たらくを糾弾すべく、追撃の巨弾を断固としてぶち込む本である。「働き方改革」は「働かせ方改善」にすぎないという旗幟も鮮明に、断固として戦い抜く決意を打ち固めたのである。すべての労働者・学生・市民に読んでもらいたい本なのだ。

・・・と最近はこういう極左団体の会報誌みたいな文体にひいている読者も多いようで。実際、本の評価のされ方においても、日本的雇用、日本の労働市場の特性から必然的に、合理的に発生してしまう残業について論じた部分も評価されているのだが、読者からは、最初は載せるかどうか迷ってしまった、私の残業体験記や、残業を減らすために私が工夫していることなどが好評だったようだ。ビジネスパーソンとして、参考なるということなのだろう。今日は、中でも好評だった「私の時間術」についてお伝えしよう。

いかにも、忙しい人認定されている私だけど、実は現在は1日8時間以上、週40時間以上働かないことにしている。もっとも大学教員、物書きという仕事をしているので、どこからどこまでが仕事なのか分からない部分もあり。ただ、「インプットする(つまり本や論文を読むなど)」時間を除いてこの時間内に収まるようにしている。最近は睡眠時間も必ず、6時間寝るようにしている。

いや、様々な方面から「もっと仕事しろ」プレッシャーを感じているのだが、なんせこれから子育てが始まるし妊婦を支えないといけないし、子供を授かる前から実はすでに家事重視の生活に移行していた。会社員の頃は朝から早朝まで働いていたし、最も忙しい頃は大学院生をしながら週に8コマ教え、連載を月20本持ち、週に2回は講演し、年に7冊本を出していたから、今は信じられないくらい働いていない。さすがにMAX期と比べると収入は下がったが、とはいえ激減というわけでもなく。

そんな私の時間術をご紹介しよう。この手の話は、スマホ活用や手帳術の話になりがちで、それも有効ではあるものの、実は考え方の方が大事なのだ。私の場合のポイントは、スケジュール表を見て、ワクワクするかどうかが最も大事にしていることである。そのために、ワクワクするアポから先に入れること、時間が美しく流れるようにすることにこだわっている。

あなたはスケジュールを見て、ワクワクするだろうか。それとも、嫌な気分になるだろうか。私は自分にとって楽しいアポから優先してスケジュールに入れる。具体的には、ジムやマッサージに行く時間、会いたい人に会う時間、家族と過ごす時間、ライブやプロレス観戦など趣味のための時間だ。こちらを最優先し、仕事は空いている時間でこなすようにする。楽しい時間の割合が増えると、「しょうがない、仕事でもするか・・・」という気分になるのである。

さらに、時間が美しく流れるように工夫する。私は、スケジュール表の美しさにこだわっている。手帳のデザインのことではない。スケジュールの並び方、時間の流れ方だ。その日の予定は、どんな内容のものが、どのような順番で、どんな場所で流れるかのデザインについてである。この流れが美しいと、無駄な時間を減らすことができるのだ。

移動時間を減らすために、できるだけ同じ場所にアポを集中させる。大学教員の仕事をしているので、最近は大学、なかでも研究室にいることが多い。大学の外の日は、できるだけ一つの沿線か、エリアで1日が完結するようにしている。

アポの順番もポイントだ。原稿を書いたり、書籍を読んだりするのは、眠気との闘いになってくる。取材対応も疲れてくると機嫌が悪いのが顔に出やすいので、タイミングが重要だ。これらの仕事はできるだけ午前中に入れるようにしている。逆に会議や講義・講演はその場に出てしまえばスイッチが入るので、執筆などが続いた後でも構わない。外でのアポも、移動時間に昼寝ができることを意識して予定を並べている。

なお、その他工夫しているのは、一つの仕事にかける時間を決めてしまうことだ。私は、ある業務に必要な時間を割り出し、明確に定義している。さらに言うと、基本、それ以上の時間はかけないことにしている。

例えば、原稿をA4で1枚分(約1000字程度)書く時間は30分、学内の会議で使うA4で2枚程度の資料なら60分、90分の講演のための資料(パワーポイントで約20枚)をつくるのは2時間というふうに決める。これは、読書の時間にも導入している。やわらかめの新書は2時間、かための新書で5時間、ビジネス雑誌は読みたい部分を中心に1時間というようにである。コンディションや、難易度によっても変わる。とはいえ、「この仕事は普通○分で終わる」というふうに自分の中で決めておけば、遅れているのか、快調なのかもよく分かる。仕事のスケジュールも組みやすい。

なお、時間をかけた方が良いものができるのではないかという意見が出る。「良いものをつくる」ということは全く否定しない。ただ、「時間をかけると必ず良いものができる」というのは違う。時間のかけ方によるのである。むしろ、ある案件に○時間しかかけないというやり方で、その段階での完成品をつくっていった方が、あとあとブラッシュアップしやすく、完成度は上がるのである。なお、「私はこれだけ手間暇かけている」とアピールする人のアウトプットがいまいちだと、よっぽど良い人なら同情を誘うが、たいていは失笑ものにしかならないから、やめた方がいいだろう。

このように標準・基準を決めるのは、トヨタ生産方式的な考え方だ。こうすると予定がコントロールしやすくなる。

なお、時間のへそくりをつくるのもコツだ。必ず予定表の中に予定を入れないタイミングを設けている。他の人にはその時間が空いていることは内緒にしておく。この空き時間は、Google Calendarを共有している妻しか見ることができない。アポの調整の際にも、最初はこの時間も空いていることは内緒にしておく。

何か仕事が遅れた場合や、やむを得ない時だけ、この時間のへそくりを使う。これにより、時間に余裕を持つことができるし、何かあった時にも柔軟に対応することができる。もし、何の予定も入らなかった場合は、読書か、休む時間にする。

一言で言うと、「人生がときめく時間の使い方」という感じだ。まあ、それはあなただけでしょという批判もあることだろう。おっしゃるとおり、誰にでもできるわけではない。ただ、「いかに時間の主導権を握るのか」ということはこれからも問われ続けるだろう。それは別に地位や権力などと必ずしも関係ない話だと思う。

あなたの時間は、美しく、ときめくものになっているか?

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

常見陽平の最近の記事