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ゼクシィがCMで「結婚しなくても幸せになれるこの時代」と言い切ったのは事件だと思う

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
中川淳一郎作 結婚するカップルイラスト(ゼクシィとは関係ありません)

今年も『ゼクシィ』の新CMが発表された。もはや説明不要だが、『ゼクシィ』はリクルートマーケティングパートナーズが発行する、日本ナンバーワンの結婚情報媒体である。本誌と関連事業の売上は540億円にも達するそうだ。結婚する読者の8〜9割が読むと言われている。

余談だが、未婚女性が部屋に『ゼクシィ』を置いてさりげなく(いや、強く)結婚を迫るのを「ゼクハラ」と呼ぶ。この媒体の強さを物語るエピソードだ。ギネスブックに載るほどの分厚さは夫婦喧嘩にもピッタリだとの説もある。いや、これで殴られたら本当に死ぬかもしれないので、気をつけよう。

この『ゼクシィ』のCMは毎年、話題を提供してきた。歴代CMガールはブレークしており、女優の登竜門的な存在になっている。広瀬すずがこのCMに出演していたのも記憶に新しい。CMソングも話題となる。現在、ウエディング・ソングの定番となっている木村カエラの「Butterfly」も『ゼクシィ』のCMソングだった。最近でも、嵐、AKB48、MISIA、EXILE ATSUSH、福山雅治などが起用されていた。リクルートグループでも毎年CMが話題となるのは『ゼクシィ』くらいだ。それだけ、定番化しているし、強い媒体なのだと言えるだろう。

今年のCMは花嫁役が佐久間由衣、パートナーが清原翔という旬な、強い人選。CMの演出も風船で街の空を飛ぶという王道の多幸感である。

しかし、注目するべきは、何と言ってもコピーだろう。

「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」

『ゼクシィ』がこれを言うかという感じだろう。「結婚しなくても幸せになれる」とは。いかにも、リア充イメージ、幸せの押し売りイメージのこの媒体がこう宣言したのは事件だ。ただ、こう語ることにより、同誌はますます「結婚する花嫁を応援するメディア」であり続けると、旗幟を鮮明にしたのではなかろうか。これもまた、『ゼクシィ』という王道メディアでしか言えないことである。

冷静になってみると、戸惑う。では結婚しなくても幸せなのか。結婚しない自由も、結婚しないことで得られる幸せがあることも事実ではある。ただ、幸せではないから、出会いもなく、恋愛も出来ず、結婚出来ない層もいることもまた自明ではないか。結婚したところで、幸せになれるかどうかが分からないことも自明である。子供を授かるのも、育てるのも大変だ。マリッジブルーならぬ、マリッジスルー、つまり離婚するカップルだって3割強いる時代だ。

しかし、そういう状況をわかっていながらも、「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」と言い切る同媒体に、強さと覚悟を感じた。CMの炎上が話題となる今日このごろだが、これを言い切るのは実に痛快であり、夢と希望、勇気を感じるものだった。

あっぱれ!

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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