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偽善者たちの老害芸炸裂? 新聞の成人式社説を読み比べてみた 若者からの視点を代弁せよ

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
成人式ですね(写真:つのだよしお/アフロ)

成人式がやってきた。1年で一番苦手な日である。この日になると、みんな特定地域の成人式を狙いうちして「荒れる若者」を面白がったり、突然、意識高くエールをおくったりする。SNSで訓示のようなことを書き出す人もいたりする。そういう人は、若者にメッセージを贈りたいのではなく、若者応援オジサンである自分のブランドを高めようとしている。若年層が減少し、ただでさえ若者の声が届きにくくなっているのにも関わらず(18歳選挙権などは実現したが)、この日だけ珍しいもの見たさで、あるいは偽善者ぶって若者に注目する。老害芸が炸裂する。

その最たるものが、新聞の成人式社説である。若者の新聞離れが叫ばれて久しいが、彼らが読んでいない媒体で突然、エールをおくったり、説教を始めたりするのだから、これほど筋が悪いものはない。これぞ中高年偽善者エンターテインメントだ。主な読者が中高年の男性であるにも関わらず、「若者を応援してやったぞ」「説教してやったぞ」というお家芸である。

もっとも、年々、上から目線の説教は減ってはきている。ただ、若者を理解していそうで、丸投げ感があるもの、誤解しているのではないかというものも見受けられる。何より、中高年に届けるべき若者の声が紹介されていない。

各社の成人式社説を比較してみた。全国紙は各社のサイト、地方ブロック紙、地方紙は47NEWSの社説ページから飛んで確認した。主なものは網羅しているが、漏れている地方紙があることをご了承頂きたい。タイトル、私による要約、URLを表記する(URLのリンクは貼らない)。他にもコラムでふれた地方紙が多数あったが、ここでは社説にしぼって論じる。

【全国紙】

読売新聞

成人の日 勇気を持って前へ踏み出そう

概要:若者へのメッセージ。被災した熊本県南阿蘇村の成人式の模様が綴られ参加した介護福祉士の取り組みなどを紹介。「身近なところにも、情熱を傾けられる大切なことが、数多くある。自分が選んだ仕事で、周りの人に喜んでもらう。その喜びの輪が大きくなって、社会の仕組みが変わることさえある。」とメッセージ。駒崎弘樹氏の学生時代からの取り組み、いきものがかりの「放牧宣言」などにふれつつ、最後は「前に進めば、また新しい道が開ける。たとえ失敗しても、やり直しはきく。勇気を持って、一歩を踏み出すことが大切だ。」としめる。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170108-OYT1T50088.html

朝日新聞

スマホ世代の新成人 手中の「利器」が時代開く

概要:若者を取り巻く状況の解説。「君の名は。」の大ヒットを引き合いに、スマホ世代の可能性を紹介。「ポケモンGO」や岡田体育さんがブレークした事例紹介。ITネイティブ世代の可能性にふれつつ、最後は「つながる道具の力を、時に失敗もしながら、でも前向きに使ってゆこう。発見をもたらし、新しい文化をうみ、社会を豊かにする。そんな未来をスマホ世代の若者に見いだしたい。」としめる。若者へのメッセージではなく、スマホ世代の若者を理解せよという視点。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html

毎日新聞

若者はいま 未来に希望持つために

概要:若者を取り巻く状況の解説。ブラックバイトや奨学金問題、児童養護施設の進学問題など、若者が直面する問題の解説。格差の固定化を問題提起。最後は「彼らが諦め、挑戦できない社会に未来はない。きょうは成人の日。大人になることに希望を持てる国にするにはどうしたらいいのか。それは政治だけの問題ではない。」とむすぶ。若者が直面する社会問題をまとめたもの。

http://mainichi.jp/articles/20170109/ddm/005/070/002000c

産経新聞

成人の日 周りを思いやれる大人に

概要:若者へのメッセージ。新成人としてのあり方を説く。現実の厳しさを説きつつ、その中で強く生きることを説く。「夢や希望を大切にしつつ、同時に、なかなか思うにまかせない世間の冷厳な一面を知ることも、大人には欠かせぬ要件の一つである。」「家族ら周りの人々の支えに甘えてきた子供の頃とは違って、有縁無縁の力に感謝し、これからは周りを支える立場になるのだと決意を新たにすることである。」など処世術を説く。評論家の福田恆存、阪神淡路大震災の年に生まれ、大相撲初場所で新十両に昇進した照強の事例を出しつつ説明。「今年の新成人もぜひ、多くの人々に思いを致せるような大人になってほしいと願っている。」と結ぶ。

http://www.sankei.com/column/news/170109/clm1701090002-n1.html

※全国紙の中で、日本経済新聞は今年は社説での成人式への言及はなし。コラム「春秋」にて18歳選挙権についてはふれていた。

【地方ブロック紙、地方紙】

河北新報

18歳選挙権/政治参加の定着は継続課題

概要:若者を取り巻く状況の説明。成人式に触れるのは冒頭のみで、政府が検討している成人年齢を18歳に引き下げる民法改正の紹介や、18歳選挙権が導入された後の若者の投票率、課題などを紹介。若者と政治参加にふった内容。

http://www.kahoku.co.jp/editorial/20170109_02.html

福島民報

【成人の日】新しい古里の担い手に

概要:若者を取り巻く状況説明と、若者へのメッセージが混在したもの。県内の成人式への出席予定者数にふれ、震災を乗り越えつつ成長した若者とその親をねぎらう内容から始まり、18歳選挙権や成人を18歳からとする民法改正についてふれている。「社会全体の高齢化が進み、憲法改正も論議される中で、未来をつくる若者一人一人の意見はますます重みを増す。インターネットやスマートフォンを使いこなし、世界中の仲間とつながりを築ける世代だ。物事に対するさまざまな見方を尊重しながら、存分に羽ばたいてほしい。」とエールをおくる。アナウンサー有働由美子さんが成人式を境に父親との関係が変わったエピソードも紹介。県民の心情に配慮しつつ、テーマとしては総花的「全部入り」な印象。

http://www.minpo.jp/news/detail/2017010937961

中日新聞・東京新聞(同じ社説が掲載されている)

傍らを歩く人になる 成人の日に考える

概要:若者へのメッセージ。名古屋を拠点に活動するタレントで書家の矢野きよ実さんの取り組みの紹介。矢野氏は3.11の震災直後から被災地の子どもや大人に毛筆を握ってもらい、思いの丈を思ったままに書にしてもらう「書きましょ」プロジェクトを継続している。そこでの感動エピソードを伝えつつ、最後は、新成人へのお願いとして「第一に、今生きているというキセキのような現実を思い切り味わっていただきたい。」「次に、被災地のこと、ふるさとに帰れない人のこと、忘れないでいてほしい。」「そして最後に、傍らで涙をこらえている人に「大丈夫」と言える大人になってほしい。」というメッセージと、矢野さんからの新成人への贈る言葉「いつも 味方だよ」でむすんでいる。

http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2017010902000099.html

神戸新聞

成人年齢/「大人」のリスクも知ろう

概要:若者を取り巻く状況説明。成人式という言葉は一言も登場しない。民法改正により、18歳から大人となることが検討されていることについて。「早い段階で若者に責任感を持たせ、社会を担う大人としての自覚を促そうとする考え方だ。国際的にも18歳以上を成人とする国が多い。」としつつ、「一方で、影響を受ける法律は少年法だけでなく飲酒や喫煙、公営ギャンブルの解禁など多岐にわたる。親の同意なしにローンなどの契約ができるようにもなる。」などのリスクを指摘。議論が不十分ではないかと問題提起している。

http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201701/0009813678.shtml

山陽新聞

成人の日 縮小社会の未来開く力に

概要:若者を取り巻く状況説明と、若者へのメッセージが混在したもの。「岡山県内など各地できのう成人式が行われた。大人への一歩を踏み出した新成人の皆さんの門出を祝福したい。」としつつも、その後は、人口減少社会について述べている。「急激な人口減少という前例のない事態を乗り越えるには、新しいモノや考え方を生み出す力が求められる。その担い手になるのは若い世代だ。困難な役割かもしれないが、旧来の発想にとらわれず、豊かな未来の可能性を模索してほしい。」「ネット社会を生きる若い世代には多様な情報の中から真実や事実を見極め、正しい選択をする力を養ってもらいたい。」など、若者へのメッセージも盛り込まれている。若者だけでは手におえない社会問題と彼らとの関係がやや乱暴に論じられている印象。

http://www.sanyonews.jp/article/471319/1/

高知新聞(※1月8日の社説)

【成人の日】より良い社会目指そう

概要::若者を取り巻く状況説明と、若者へのメッセージが混在したもの。高知県内で高知県で6660人が新成人となることをに触れお祝いメッセージを発信しつつ、その後は、18歳選挙権、大人の定義をめぐる民法改正、電通自死事件などについて書き綴られる。新成人を取り巻く環境についての問題提起、さらには厳しい環境で生きるための心構え、彼らを迎え入れる姿勢などについても論じている。

http://www.kochinews.co.jp/article/72318

琉球新報

新成人の皆さんへ 肝心持ち沖縄押し上げて

概要:若者へのメッセージ。「磨けば磨くほど、社会の中で輝きを増すだろう。一人一人の若者が原石として限りない可能性を秘めていることを認識し、大人への第一歩を堂々と踏み出してほしい。」というメッセージから始まる。新成人が生まれた頃の、沖縄出身者安室奈美恵の活躍などにふれ、「潜在力にあふれる沖縄の将来を支えるのが新成人だ。既成概念や常識にとらわれない感性と、本土や世界と渡り合う物おじしない行動力を発揮し、沖縄を押し上げるパワーを存分に発揮してほしい。」と結ぶ。沖縄×新成人にふったエール。

http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-423786.html

以上である。

今年のトピックスといえば「18歳選挙権」「成人の定義を18歳からとする民法改正」だろう。成人式を社説で取り上げた12紙(東京新聞と中日新聞は同じ内容)中、4紙が取り上げている。河北新報、神戸新聞のようにこのテーマだけで書ききるものもあった。

私の当初の問題意識だった「説教」「訓示」系も少なめの印象だ。読売は、スゴイ人の事例を取り上げてエールを贈る王道説教・訓示系だった。マイルドではあったが。最も「説教」「訓示」色が強かったのは産経新聞だったが、とはいえ今年は夢だけでなく現実を知るべしというメッセージを盛り込んだ点は評価したい。

逆に若者の味方風で誤解をしているもの、丸投げにしているものはタチが悪い。個人的には今年のワーストは山陽新聞である。人口減少社会、ポスト真実時代など、問題提起は素晴らしい。ただ、それを若者に押し付けるのはいかがなものか。若者だけでは対処しきれるわけがない問題について丸投げしている印象だ。若者=新しい発想の持ち主というのも、若者の味方を装った乱暴な議論である。低成長で危険な世の中を生きているのだから、保守化するのは当然なのだ。中高年の、しかも経済的に豊かな層の方が柔軟な発想を持てるのではないだろうか。朝日新聞も若者を応援していそうで、実はそれは若者に限らない話なのではないか、スゴイ若者を前提としていないかという印象を受ける。

お涙頂戴にふったのは東京新聞・中日新聞だ。最後の方は完全に、ポエムだ。しかし、この手のポエムは涙を誘わないと意味がないのだが、ちゃんと泣ける内容になっていること、紹介している事例の取り組みが地に足のついたものだから涙を誘う。実際、泣けた。ここ数年の成人式社説の中で最高レベルに。

新鮮味も面白みもないものの、最もバランスがとれており、若者を取り巻く環境を新聞の読者層に提示したのは毎日新聞である。機能する社説だったと言えるだろう。

ただ、今年も不十分だったと言えるものがある。それは、「若者からの視点」である。新成人は社会をどう見ているのか。一部、今年の新成人のコメントを紹介したものはあった。皮肉にもそれは説教・訓示系の社説を掲載した読売新聞、産経新聞である。ただ、若者は社会をどのように見ているかというのを新聞の読者層に知ってもらうという機能を、どの新聞社の社説も果たさなかったのではあるまいか。

やや手前味噌だが、東京新聞千葉版で私が司会を担当した18歳、19歳との座談会が掲載された。1月1日から3回に渡り掲載された。

<大人って…成人年齢引き下げ>18、19歳のホンネトーク (上)理想の

オトナは?

http://www.tokyo-np.co.jp/ article/chiba/list/201701/ CK2017010102000122.html

<大人って…成人年齢引き下げ>18、19歳のホンネトーク (中)こんな

オトナは嫌だ

http://www.tokyo-np.co.jp/ article/chiba/list/201701/ CK2017010302000120.html

<大人って…成人年齢引き下げ>18、19歳のホンネトーク (下)将来の

夢は何?

http://www.tokyo-np.co.jp/ article/chiba/list/201701/ CK2017010402000147.html

千葉県在住の上智大生、千葉商科大学の教え子、地下アイドル、地元の信金に内定している女子高生が参加した。彼ら彼女たちの言葉は、いちいち「大人」だった。低成長の時代に生まれ育った若者たちは現実を痛いほど見ている。よく批判される安定志向、地元志向に関しても、なぜその方向に行くのかという話がいちいち説得力があった。東京新聞のしかも千葉版という実にニッチな(失礼)ものではあったが、若者「から」の声や視点を世に伝えることができ、有意義だった。私も早く大人にならなくてはと思った次第だ。

今年も荒れる成人式などの様子が狙い撃ちされ報道されている。それもまた事実ではあるが、このような若者の声を中高年に伝えることこそ、メディアの役割ではないか。若者もバカではない。若者「から」の声や視点を意識しよう。このエントリーは問題提起であり、年齢ばかりくってしまい、未だに大人になれていない私からの新成人応援メッセージである。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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