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「有名税」の税金対策は可能なのか? 露出社会、監視社会、謝罪社会の生き抜き方

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

消費税の増税は先送りになった。ところで、「有名税」の課税対象者と税率は今後、どうなるのだろうか?減税はありうるのか?節税は可能なのか?有名税の「脱税」は悪なのか?

いかにも私が嫌いな、釣り記事みたいなタイトル、書き出しになってしまったが、この「有名税」は今、そこにある社会問題だと思う。

私がこの問題について考えるキッカケになったのは、今晩(2016年6月26日)放送されるTBSラジオ「文化系トークラジオLife」のテーマが「有名税との付き合い方」だからだ。

2016年06月26日Part0(予告編)「有名税とのつきあい方」

http://www.tbsradio.jp/life/2016/06/20160626part0.html

この告知文を読んで考えた。これは、いわゆる有名人だけでなく、民間人も自分事として考えるべき問題なのではないか、と。

国税庁のHPを見ても、有名税という言葉は載っていない。ただ、その「課税対象者」が広がっており、「税率」が上がっていることを、私たちは直視しないといけないのだ。

今年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」には「センテンススプリング」が必ず入りそうな勢いだ。他にも『週刊文春』が報道したニュースに関連したキーワードがノミネートされそうな予感だ。メディアが公人を批判すること、叩くことそのものは悪いことではない。特に政治家や経営者に対して批判的な視点で監視し、問題提起することはメディアの果たすべき役割の一つだろう。

とはいえ、そこにも倫理のようなものはあるだろう。時に芸能人のプライベートに関しては、踏み込んではいけない部分がある。報じたところで、読者が「そんなのはどうでもいいだろう」「そこまでやるのか」と捉えるのなら良いのだが。

例えば、今朝起きてTLを見て、気づいたのだが・・・。今日現在、批判的なトーンで拡散しているダイヤモンド・オンラインのこの記事などは顕著だろう。

海老蔵の取材自粛要請に週刊誌が応じない理由

http://diamond.jp/articles/-/93630

「1ページ目を見て、もう読む気がしなくなった」という声が散見されたが、いくら市川海老蔵や小林麻央が著名人であり、公人であるとはいえ、「闘病」という極めてデリケートであり、命に関わることによって踏み込むことは、メディアも読者も倫理が問われる問題だろう。「有名税」の過剰な徴収とも言える案件である。

なお、文春などの報道と、それに対する謝罪問題については以前、こんな記事を書いたので合わせてご覧頂きたい。

【iRONNA発】ベッキー不倫騒動は誰が誰に対して謝っているのか? 謝罪の連鎖に踊らされる現代人 千葉商科大専任講師・常見陽平 - 産経ニュース

http://www.sankei.com/column/news/160522/clm1605220001-n1.html

ただ、「有名税」の問題は、市川海老蔵、小林麻央クラスの著名人以外にも起こっている。これが、「有名税」というものに他人事として接してはいけない理由である。

まず、有名人は細分化している。例えば、ニコ生やTwitterでよくあるdisりコメントに「誰だよ」というものがある。もちろん、「誰だよ」とdisられる人は、安倍晋三や村上春樹ほどは有名ではないのだが、各ジャンルの中では有名な人だったりする。それこそ、数年前に「若手論壇ブーム」なるものがあったわけだが、そこで出てきた人たちというのも、テレビやラジオのレギュラーになれた人でない限り、全国区の著名人かというと、そうではない。とはいえ、その分野では著名人だったり、少なくとも期待の新人だったりする。要するに細分化したわけだ。

しかし、ここまでもまだ、言ってみればメディアに出ている人に話である。実は、SNS時代、つまり露出社会、監視社会、さらには吊し上げて謝罪させる社会において厄介なのは、一般人の中のプチ有名人にまで「有名税」が「課税」されてしまうことだ。

「有名人」とは別にメディアに出ている人だけではない。業界内、企業内の有名人、学内でちょっと目立っている人などがいる。現代においては、彼ら彼女たちがSNS上などで攻撃されてしまうわけだ。それこそ、私も今よりも10年前、20年前の方がよっぽど有名だった。10年前は大手企業の採用担当者として目立っていたので、その年の就活生40万人の間ではちょっとした有名人だったし、20年前は一橋大学という小さな大学で中川淳一郎と一緒にプロレス研究会で大暴れしていたので、当時の一橋大生の間では知らない人がいないくらい有名だった。

イベントやSNSなどで人々がつながる時代であるからこそ「有名税」は誰にでも課税され、増税される面倒臭いものになっている。

なんとか「減税」をお願いしたいわけで、SNSのサービスを提供している企業は少しでもプライバシーが守られ、快適に過ごせるようブロックやミュートの機能などを提供し始めたのだが、これは「有名税」の「減税」策とも言えるものなのだが。

「脱税」なんてものは完全にはできない、逃げられない社会になっているわけで、ここはなんとか「節税」できるように個人が防衛策を用意するしかなさそうだ。企業や学校でのソーシャルメディアリスク対策をはじめとした、民間人のための有名税対策が必要な時代だと感じる。

個人的には見られていることを意識すること、情報の開示範囲に気をつけることをまずやるだけでなく、万が一のための(これは殺されるとか、襲われるというレベルまで指す)の対策を考えておかなくてはと思っている。

というわけで、今日のTBSラジオ「文化系トークラジオLife」を楽しみにしつつ、それに便乗しつつ、「有名税」というものは、庶民にも関係あるものになっているということを問題提起したい。

ネット上では「こいつ誰?」と言われる私だけど、大学に3回脅迫状が届くなど、面倒臭い想いをすることも増えてきた。外で酒を飲まない日はできるだけクルマ移動にするなど、それなりの努力はしている。

有名税に対する節税策。これは、いま、私たちが取り組まなければならない問題なのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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