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講談社よ、島耕作を安売りするのはやめなさい 課長島耕作検定問題集は、古市憲寿対談と並ぶ汚点である

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

実にがっかりである。何ががっかりかと言えば、講談社から発売された『課長島耕作検定問題集』である。

私は、「島耕作検定」が出来たと聞いて、猛烈に興奮していた。この検定を通じて、日本のサラリーマンが島耕作の生き様を学び、処世術を学ぶことができるのではないかと、猛烈に期待していた。

よく島耕作は人柄で愛され、女の助けで成り上がっているという批判があるが、これは完全には正しくない。ところどころでビジネス上のジャッジをしているし、誠心誠意の対応はしている。まあ、課長編はその要素は強いが、部長編以降はビジネス的要素が強くなっている。言うまでもなく、日本のサラリーマン漫画の金字塔である。課長から始まり、最近では会長編がスタート。ヤング編も盛り上がりをみせ、しまいには、短編で少年篇も存在したし、さらにはもうすぐ学生編も始まる。

この作品がいかに素晴らしいかについては、私の最新作『普通に働け』(イースト新書)にも1項目かけて、たっぷり書いている。

だから、私は期待して、この島耕作検定の問題集を買った。

しかし、これが凄まじいまでの駄作だったのだ。良かったのは、ところどころに入る弘兼憲史先生のコラムくらいである。設問は検定というよりはクイズである。しかも、高校時代、世界史がいやになったキッカケそのもののような、本質的ではない、重箱の隅をつつくような問題だらけだ。いや、訂正しよう。そんな高尚な難易度のものではなく、「このときの台詞は次のどれでしょう」的なものだらけなのだ。まったく本質的ではない。いや、まだこれを通じて島耕作の生き様を学べるならまだいい。しかし、あまりにどうでもいい問いだらけで、思わず卒倒してしまった次第である。

島耕作のスピンアウト的なコンテンツは、いつも玉石混交である。いや、ストーリーの矛盾を一部はらみつつも、ヤング編はおもしろかったし、図鑑的なクロニクルや、お遊び的作品の映画とグルメ本も良かった。

しかし、このしょうもないクイズはないだろう。モーニング誌上+古市憲寿氏の『僕たちの前途』に掲載された、島耕作対古市憲寿対談と並ぶ汚点である。

あれも、しょうもなかった。

いや、古市憲寿氏は頑張った。しかし、島耕作が残念である。たんなる与太話でしかない感じなのだ。

1月には、『会長島耕作』の第一巻が発売される。なんと、島耕作人生ゲームとセットの特装版もある。私は、すぐにAmazonで予約したが、嫌な予感がしてきた。

講談社よ、お願いだから、島耕作を、これ以上、粗末に、扱わないでほしい。

島耕作はもはや、弘兼憲史氏や講談社だけのものではない。今後の連載で、日本のサラリーマンの前途を描く責任を背負っているさえ思う。

これは狂信的なファンからの嘆願書である。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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