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ハフィントン・ポスト上陸で明らかになったプロレス団体化、ロックフェス化するネット論壇サイト

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

ハフィントン・ポストが上陸して約10日。世の中は変わっただろうか?あれほど騒がれた割には、その後、話題にもならないような気がする。いや、上陸に合わせて評論家たちがちょっと騒いだこと、六本木ヒルズで行われたパーティーが派手だったこと、安倍晋三がサイトに登場したことくらいだろう。よっぽどネットや、ニュースが好きな意識の高い人はともかく、普通にネットに触れている人でもまだ知らない人の方が多いことだろう。

もちろん、新サイト、新サービスが定着するには時間がかかる。別にサービスがスタートしてすぐに定着するわけでも、世の中が変わるわけでもない。ただ、卒直に、サービスの導入の仕方が雑なのではないかと感じる瞬間がある。

例えば、Yahoo!でもGoogleでも「ハフィントン・ポスト」で検索すると日本語版のサイトは一番上に表示されない。検索対策はちゃんと行なっているのだろうか。また、海外版を踏襲したとはいえ、ユーザーインターフェースも使いやすいとはいえない。どうでもいいが、投稿者の写真もモノクロで遺影みたいだ。コメント欄が売りというが、逆に優等生コメントが多かったり、いかにも投稿者が名前を売らんかなのコメントだらけで、残念だという気がする。というか、厳密にはコメントを読み込む気もおきない。

私も投稿者の一人なのだが、投稿ツールはまだ用意されておらず、毎回、編集部にファイルで渡さなければならない。取材記事もお粗末だ。先日、インタビューを受けたが、あまりに投げかけられる質問が漠然としており、明らかにインタビュアーの予習が十分ではなく、出来上がってきた原稿は用語の統一や、語尾の統一などもされていない雑な状態。インタビュー原稿をなおすのはよくないのだが、修正のためにかなりの時間がとられ、疲弊してしまった。編集部からは謝罪したいという連絡があったが、あんな派手なパーティーに出ている人たちに私のように売れないライターに時間をとってもらうのは申し訳なく、私も貧乏暇なしなので丁重にお断りした。よくハフィントン・ポストは朝日新聞と組んでいるから立派だという話になるが、申し訳ないが、今のところはそんなクオリティではない。

相変わらず、メディアやITに詳しい意識の高い人たちは、このサイトが上陸する時に煽ったわけだが、はあ、またかと思ってしまう。ウェブに過度な期待をしても意味はない。逆に今回のハフィントン・ポストの上陸、および広がり方は中川淳一郎の著書名風に言うならば「ウェブはバカと暇人のもの」であることをますます可視化するのではないだろうか。

私が感じるのは、ここにきて日本では論壇サイト、オピニオンサイト的なものが増えてきている。ただ、書いている人で読みたくなる顔ぶれが一緒なので、こんなにサイトが多くても意味があるのかと思ってしまう。結局、そこでは書き手のバラエティ、レベル、何より読者に支持されるか、あるいはフィットするかという話になるのだろう。

この辺は、90年代にプロレス団体が増えていった状態、そして90年代後半にロック・フェスが増えた状態と似ている。増えていったものの、結局、登場するレスラー、アーチストは同じ顔ぶれが何度も出るようになったという。レスラーで言うと高山善廣、バンドで言うとマキシマムザホルモンなどはいったい、それぞれどれだけの団体、フェスに出ているんだ、という。どこに行ってもいる、という。とはいえ、団体、フェスの色はなんとなくある。そんな状態になるのだろう。

まあ、多様性があることはいいことだと思っているので、読み物サイトが増えることは総論では良いことだろう。ただ、個人はそんなに情報を消化できない。結局、いくつかのお気に入りのサイト、お気に入りの論者を選ぶようになるのだろう。これもまた、サイト同士で相互配信しているから、結局、情報の入口と出口はバラバラで、ますますぐちゃぐちゃなのだけど。

書き手にとってもそうだ。「このサイトで書きたい」と思うサイトに結局、偏ることになる。そのサイトで書くことで影響力を持つことができるかどうか、ステイタスが上がるかどうか、そして換金化できるかどうかである。

私はオピニオンサイト系だとアゴラ、WEBRONZA、All AboutのNewsDig、ハフィントン・ポスト、Yahoo!個人などで書いているが、正直、この中ではアゴラが一番、投稿しやすいし、広がりもある。また書いていて楽しいのは、All AboutのNewsDigだ。ちゃんと編集者がついてお題が設定されるので、ネタを考えるのも楽である。WEBRONZAはたまに朝日新聞に掲載されるので、これまた影響力が上がる。ハフィントン・ポストは一番残念だ。もっとも、上陸したてなので話題にはなったが。申し訳ないが、しばらくは書く気にはならないし、それで何も困らないだろう。

というわけで、群雄割拠の時代であるが、結局、読者と書き手にとって嬉しいサイトが残るのだと思うし、それでいいのだと思う。さあ、1年後、最も支持されているサイトはどこかな。それもまた多様でいいのだろうけど。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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