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F1レーサーから国会議員に、山本左近が当選!市街地レースの実現に向けた取り組みも政策に

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
F1ドライバー時代の山本左近(写真:アフロ)

ついにレース界から政治家、しかも国会議員が誕生だ。

元F1ドライバーで現在は医療法人などの理事を務めている山本左近(やまもと・さこん/自民党)が2021年10月31日(日)に投開票が行われた衆議院議員選挙で当選。

2年前の参議院選挙にも自民党から比例で立候補していたものの落選してしまったが、今回は比例東海ブロックで衆議院議員に初当選となった。

モータースポーツから政治家へ

2021年の時点で過去19名存在する日本人のF1ドライバーの中で、政治家に転身する例は山本左近が初めてとなる。

日本では珍しいケースだが、海外では1970年代から80年代にF1ドライバーとして活躍したカルロス・ロイテマンが母国アルゼンチンで、州知事、上院議員などを務める政治家に転身。残念ながら今年7月にロイテマンは亡くなったがF1から政治家に転身した例として度々名前があげられる。

今年亡くなったカルロス・ロイテマン(右)はアルゼンチンの大統領候補にもなった
今年亡くなったカルロス・ロイテマン(右)はアルゼンチンの大統領候補にもなった写真:ロイター/アフロ

海外ではフランスの「ル・マン24時間レース」を統括するACO(フランス西部自動車クラブ)のピエール・フィヨン会長の兄、フランソワ・フィヨンが過去にフランスの首相を務めるなど、モータースポーツと政治は密接な関係にある。

日本国内でレース界から政治家に転身した例としては、参議院議員として三原じゅん子が2010年から活躍。タレント、女優としての顔が世間には有名だが、実は1990年代前半にレーシングドライバーとして「全日本ツーリングカー選手権」に参戦していたことがある。

元レーシングドライバーの三原じゅん子議員
元レーシングドライバーの三原じゅん子議員写真:Motoo Naka/アフロ

また、自民党には三原じゅん子議員も所属する「自由民主党モータースポーツ振興議員連盟」があったり、ジャーナリストから転身した青山繁晴・参議院議員は自身のホームページでレーシングカーでサーキット走行をする姿を紹介したりしているなど、 モータースポーツと政治の繋がりがこれまで全くなかったわけではない。

レーサーとしての山本左近

元F1ドライバーという肩書きだが、山本左近はモータースポーツの最高峰、F1に年間フル参戦をしたわけではなく、シーズン途中からスポット参戦したドライバーだ。

スーパーアグリ時代の山本左近
スーパーアグリ時代の山本左近写真:ロイター/アフロ

山本は鈴鹿サーキットレーシングスクール・カート(SRS-K)でレーシングカートからキャリアをスタートさせ、1999年に全日本カート選手権FAクラスでチャンピオンを獲得。その後はトヨタの育成ドライバーとして全日本F3選手権などで活躍し、優勝。2005年のフォーミュラニッポンではルーキーながら2位表彰台を獲得した。

そして2006年のドイツGPで鈴木亜久里の日本F1チーム「スーパーアグリ」からF1デビュー。2007年には「スパイカー」で走り、同年の日本グランプリでは自己最高位の12位を記録している。

スパイカー時代の山本左近
スパイカー時代の山本左近写真:Action Images/アフロ

F1ではフル参戦の機会に恵まれず、またチーム体制も資金難の小規模チームからの参戦だったこともあり、入賞(ポイント獲得)の記録はなかったが、レーシングドライバーとしては理論的で着実に結果を残すタイプのドライバーであり、メーカーのバックアップを受けずにF1や海外のレースに参戦できるほどのコミュニケーション能力や国際感覚を持ち合わせた選手だった。

レース活動としては2010年のF1参戦を最後に第一線からは退き、地元の医療法人で経営者として活動。近年は自身もスポット参戦した電気自動車レース「フォーミュラE」のテレビ解説者や、SUPER GTのレポーターを務めるなどして、モータースポーツの魅力を発信していた。

市街地レースの実現も政策に

F1など海外のチームと交渉し、レース活動をしてきた経験は国会議員になった今後、山本左近の大きな強みになっていくはずだ。

2019年参議院議員立候補当時の山本左近
2019年参議院議員立候補当時の山本左近写真:YUTAKA/アフロ

彼のホームページに書かれている実現したい政策は、医療、介護、福祉などの分野や愛知県の地元の振興策などを挙げているが、やはりモータースポーツや自動車産業に対し、強い愛を持って接してきただけに、「世界的モータースポーツイベントの招致」も政策に掲げている。

その中で、具体的に言及されているのが、電気自動車レース「フォーミュラE」の日本招致。日本からは日産自動車も参戦している同レースだが、市街地コースでの開催が多く、日本では市街地レース実施が非常にハードルが高いため、まだ開催が実現できていない。

ニューヨーク市街地で開催されたフォーミュラE
ニューヨーク市街地で開催されたフォーミュラE写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

山本は政策として「フォーミュラEを招致し、市街地レース開催に向けて、法改正を推進します」と明記している。

F1がレース数を年間23戦と拡大し、さらに新しい国での開催を目指しているように、特に国際レースは世界的で招致合戦が加熱しており、そこには国や自治体のバックアップ、招致体制づくりが欠かせないものになっている。特に自動車メーカーが生き残りをかけた競争に注力するようになる今後10年は、自動車大国の我が国といえども招致合戦に敗れてしまうことが出てくるかもしれない。

そんな時代の変化の中で、実際にF1に乗り、モータースポーツを深く理解している人物が国会議員になったことは、国際レースの継続開催に非常に大きな力になっていくだろう。

もちろん、国会議員になったからにはモータースポーツのことだけに目を向けているわけにもいかない。様々な人の声を聞き、より良い社会の実現に向けて仕事をすることが国会議員としての任務となる。

山本左近
山本左近写真:ロイター/アフロ

レーシングドライバーは用意周到な準備、緻密な計算、そして素早い判断力がないと成功できない職業だ。車を速く走らせるだけに留まらないモータースポーツで培った能力を活かして、国会議員・山本左近には日本を良い方向へと加速させてもらいたいものだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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