F1と並ぶ世界選手権に!電気自動車レース「フォーミュラE」が開幕!見どころと今後の課題は?

フォーミュラEに参戦するジャガー【写真:Formula E】

電気自動車レース「フォーミュラE」のシーズン7が2021年2月26日(土)にサウジアラビアのディルイーヤで開幕する。当初は2020年末から2020-21シーズンとして開幕予定だったが新型コロナウィルスの感染拡大により延期され、まずは多くのチームの拠点があるヨーロッパから近い中東で開幕戦を行うことになった。

今回は7シーズン目を迎え、多くの自動車メーカーの参戦で盛り上がる「フォーミュラE」、新シーズンの見どころと今後の課題をご紹介しよう。

今季から世界選手権に格上げ

シーズン7の大きな変更点というとタイトルの通り、今季からF1やWRCと並ぶ「世界選手権」のステータスに昇格することだ。

フォーミュラEのスタート【写真:Formula E】
フォーミュラEのスタート【写真:Formula E】

「フォーミュラE」はヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、アジアなど世界各国を転戦し、すでに世界選手権シリーズと言える規模でレースを開催してきた実績がある。世界選手権に昇格したからとは言え、シーズン6から中身は特に変わらず、チャンピオンシップもドライバーズ選手権とチーム選手権のままだ。

とはいえ、スタートアップのモータースポーツであるフォーミュラEにとれば、FIA(国際自動車連盟)からお墨付きをもらい、「世界選手権」のステータスを得たことは非常に大きなステップだ。

フォーミュラEはスポーツビジネスに長けた実業家のアレハンドロ・アガグとFIA会長のジャン・トッドが2011年に紙ナプキンに構想を書いたところからスタートしたという。

CEOを務めるアガグは「いつの日か世界選手権になることを夢見て仕事をしてきた。これでフォーミュラEはシングルシーターの国際レースの最上段に並んだことになる」と喜びを語った。

ポルシェのフォーミュラEマシン【写真:Formula E】
ポルシェのフォーミュラEマシン【写真:Formula E】

当然、「世界選手権」の称号は参戦する数多くの自動車メーカーにとっても参戦する意義を見出しやすく、説明しやすくなる。最初の構想から10年経たずに、アウディポルシェメルセデスベンツBMWDS(シトロエン)、ジャガー日産などの世界中の名だたる自動車メーカーを呼び込んだことは偉業と言える。

日本でも人気のキャシディが初参戦

サウジアラビアで開幕する2020-21シーズンだが、コロナ禍は収まっておらず、シーズン後半のスケジュールは未だ発表されないままとなっている。大都市の中心部で主に市街地コースで開催することがセールスポイントの「フォーミュラE」にとって、このコロナ禍はかなりの逆風だ。

パンデミックの影響をモロに受けた2020年は3月以降のレースは全て中止に。8月にドイツ・ベルリンで無観客レースを6レースまとめて開催し、半ば無理やりシーズンとして成立させた。今季に関しては、ワクチンの接種が世界中で進んではいるとはいえ、先行きは見通せず、大都市での開催は非常に厳しいだろう。無観客レースを開催しやすい常設サーキットでの開催が増えるかもしれない。

このように、世界選手権の初年度としてはなかなか厳しい船出になっている「フォーミュラE」だが、昨シーズンも11レース数6つの異なるチームが優勝し、9人のウイナーが生まれたコンペティティブなレースだけに今季も混戦が予想される。

ニック・キャシディ(右)【写真:Formula E】
ニック・キャシディ(右)【写真:Formula E】

そんな中、日本人ドライバーの参戦はないものの、今季から日本で活躍したニック・キャシディが「ヴァージン」から参戦することになった。キャシディは2015年に来日し、2017年にはSUPER GT/GT500クラスのチャンピオンに輝き、2019年にはスーパーフォーミュラでもチャンピオンを獲得した。爽やかな笑顔と神対応で日本のファンに愛された外国人ドライバーだ。

キャシディは昨年夏にヴァージンとの契約を発表。同チームはアウディのパワートレインを使う、いわばサテライトチームであるが、参戦初年度から常に年間ランキングで5位以内をキープしている強豪チームの一つ。昨シーズンも開幕戦・ディルイーヤでサム・バードが優勝を飾っており、合計4回の表彰台でチームランキング4位につけた。

キャシディと同じく日本のレースを経てフォーミュラeに参戦したドライバーにはフェリックス・ローゼンクビスト(現インディカードライバー)、ストフェル・ヴァンドーン(メルセデス/昨年ランキング2位)らがおり、その成功例を見ても、キャシディが高い順応性を武器にフォーミュラEで活躍してくれるのではと期待してしまう。

日産のチーム「Nissan e.dams」【写真:Formula E】
日産のチーム「Nissan e.dams」【写真:Formula E】

また、日本メーカーとしては「日産」が参戦。昨年はチームランキングで2位を獲得するなど活躍し、ドライバーラインナップもオリバー・ロウランドセバスチャン・ブエミの2人で変更はなし。

ちなみにロウランドの22号車には「アリア」、ブエミの23号車には「リーフ」の愛称が付けられるそうで、かつて日産のグループCカーにシルビアやスカイラインの名前が付けられていたのを思い出すPR手法だ。今季は世界選手権に格上げになっただけに初のワールドチャンピオンを狙うビッグチャンスだけに日産の活躍に期待したい。

撤退表明も、今後の課題山積み

世界的にも電気自動車やゼロエミッションカーへのシフトが進んでいる。フォーミュラeに参戦するジャガーは2025年から全車種ラインナップを電動化すると発表した。

こういった時代の流れのもと、多くの自動車メーカーが参戦し、世界選手権に格上げされるならば「最も勢いに乗っているレースはフォーミュラE」だと思い込んでしまいそうだが、実情はそうではない。

今季限りで撤退するBMWのマシン【写真:Formula E】
今季限りで撤退するBMWのマシン【写真:Formula E】

2020年末、初年度から参戦の「アウディ」、そしてアンドレッティオートスポーツと組んで3シーズン目の「BMW」が今季限りでの撤退を発表したのだ。アウディはダカール・ラリーにEVでの挑戦を表明するなど、カテゴリーチェンジを図ろうとしている。一方でBMWはフォーミュラEでの技術開発はやり切ったという考えから撤退するという。

確かにフォーミュラEの車体は全車共通の「Gen2」シャシーを使用し、モーターやトランスミッション、リアサスペンション、回生システム、そしてソフトウェアなど開発が自由にできる部分が残されている。ただし、開発が自由になっている部分で速さに大きな差が生まれるかというと、そうではない。プライベートチームに供給されるパワートレインでもワークスチームと充分に戦えているのだ。

ただ、これだけ自動車メーカーが参入し、競争が激しくなるとコスト高騰がエスカレートする。勝つための最適解のために実際に走っているマシン本体ではなく、バックグラウンドでの作業、研究開発に資金が投じられ、チームによってコストに差が出てくるようになるだろう。来シーズン以降に先送りとなった第三世代のマシン導入時にはF1のように予算制限が必要になるかもしれない。

インドのメーカー、マヒンドラのチームクルー【写真:Formula E】
インドのメーカー、マヒンドラのチームクルー【写真:Formula E】

フォーミュラEは既存のモータースポーツファンとは異なる若い層のファンを取り込もうと、ファン投票によるパワーアシスト権「ファンブースト」やマリオカートの一時的なスピードアップ機能のような「アタックモード」など今風の要素を取り入れて工夫をしているが、モータースポーツの常識を塗り替えるムーブメントには至っていないのが現実だ。

まだ始まったばかりのモータースポーツで自由な発想でレースイベントを作っていける反面、歴史の浅さはフォーミュラEのネックでもある。ル・マン24時間レースなど歴史が長いレースイベントが持つネームバリューは時代が変わっても影響力が大きく、自動車メーカーは投資を再開した。フォーミュラEがまず超えるべきはこういった伝統的なビッグイベントだ。

ニューヨークシティで開催されたフォーミュラE【写真:Formula E】
ニューヨークシティで開催されたフォーミュラE【写真:Formula E】

フォーミュラEにはニューヨーク、ロンドン、パリなど世界を代表する都市の中心部でレースを行うという大きな魅力がある。これがフォーミュラEの大きなセールスポイントだ。しかし、コロナ禍にあっては大都市でのイベント実施は非常に難しい。状況はすぐには改善しないだろう。

まずは世界選手権としての1年目を魅力的なシーズンとしてまとめることが重要である。そして、来季の第3世代マシン導入時にアウディ、BMWの穴を埋める魅力的な自動車メーカーを誘致できるかになるだろう。そういう意味でもフォーミュラeにとって非常に重要な1年が始まる。