Yahoo!ニュース

F1の価値観が大きく変化したコロナ禍のシーズン/2020年シーズンの10大ニュース(5位〜1位)

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
不振のシーズンに終わったフェラーリのルクレール(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「F1世界選手権」の2020年シーズンを振り返る企画。今季の代表的なトピックスを10個取り上げている。

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で大幅なスケジュール変更を強いられた2020年のF1。同一サーキットでの連続開催という過去には考えられなかったウルトラC日程が組まれ、1カ国1グランプリ開催の原則も関係なくなり、とりあえず17戦で乗り切ったシーズンだった。

ビフォワーコロナとアフターコロナで様々な価値観が変化した2020年。当然のことながらF1も変わるべき時に来ているのは確かだ。まさに激動の2020年シーズンの5大トピックスを取り上げよう。

5位:角田が7年ぶりに日本人F1ドライバーに決定

2021年に角田裕毅(つのだ・ゆうき)が7年ぶりの日本人F1ドライバーとして参戦することになった。レッドブルのジュニアチーム、アルファタウリ・ホンダからの参戦だ。

F1デビューする角田裕毅
F1デビューする角田裕毅写真:代表撮影/ロイター/アフロ

久しぶりの日本人F1ドライバー誕生の機運が高まった2020年、モータースポーツを専門としないメディアが角田に関する記事を執筆しだしたのは少々驚きだったが、それだけ世間の関心が高いということだろう。

2000年生まれのミレニアムボーイ、角田裕毅は今季からF1直下のFIA F2に参戦。国内のFIA F4チャンピオンを経て、ヨーロッパに渡った角田は渡欧2年目にしてFIA F2に挑戦したわけだが、新型コロナウィルス感染拡大の影響でレースは延期に。状況によっては最も大事な1年が危うくフイになってもおかしくはなかった。

そんな中、FIA F2の2020年シーズンは7月からスタート。角田は昨年チームランキング4位のチーム「カーリン」から参戦し、ルーキーながら第2戦・レッドブルリンクでポールポジションを獲得すると決勝レースは2位でフィニッシュし、初表彰台を獲得する。その後、第5戦・シルバーストーン、第7戦・スパ・フランコルシャンで優勝を飾るなど活躍を見せた。

F1昇格に必要なスーパーライセンス取得に向けてはランキング4位以内でシーズンを終えることが当初からの条件だったが、角田は最終戦・バーレーンでポールトゥウインを達成したり、最後までプッシュし続け、年間ランキング3位を獲得。ルーキーながらも絶妙なレースメイクで周囲の高い評価を勝ち取り、角田はF1昇格の権利を手中にした。

アルファタウリでF1テストに参加する角田【写真:RED BULL】
アルファタウリでF1テストに参加する角田【写真:RED BULL】

起用のキーマンであるレッドブルのヘルムート・マルコは角田の実力を高く評価しているが、特にシーズン終盤の素晴らしいパフォーマンスは人種、国籍、知名度の枠を超えて世界中のレースファンを納得させられるものだった。F1シートを実力で掴んだ角田が日本人としてF1で初優勝する日を期待してしまう。来年のデビューが楽しみだ。

4位:ドライバーもコロナ感染、代役たちが輝く

開幕戦として予定されていたオーストラリアGPが中止されて以降、F1は無観客でのレース開催を行なってきただけでなく、パドック内で感染拡大が起こらないように徹底した感染拡大防止策を取ってきた。

しかし、残念ながら外部の人との接触を完全に断つことはできず、セルジオ・ペレス(レーシングポイント)、ランス・ストロール(レーシングポイント)、ルイス・ハミルトン(メルセデス)がPCR検査で陽性となり、レースを欠場。

レーシングポイントのランス・ストロールとセルジオ・ペレス
レーシングポイントのランス・ストロールとセルジオ・ペレス写真:代表撮影/ロイター/アフロ

彼らは不運にもコロナで欠場となったわけだが、幸運にも代役のチャンスを掴んだ者もいる。そんな代役たちが大いに注目されたことはハミルトンの独走で単調になりがちだったシーズンにスパイスを与えてくれた。

ペレス、ストロールの代役を務めたのは、今季のシートを失い一時休養に入っていたニコ・ヒュルケンベルグ。レーシングポイントの前身、フォースインディアで活躍したヒュルケンベルグは第5戦・70周年GPで予選3 番手を獲得。表彰台獲得はならなかったものの、代役参戦というハードルを乗り越えてチームにポイントをもたらした。

ニコ・ヒュルケンベルグ
ニコ・ヒュルケンベルグ写真:ロイター/アフロ

また、ハミルトンの代役はジョージ・ラッセル(ウィリアムズ)。低迷するウィリアムズで2年目を迎えているラッセルはこれまでポイント獲得(10位以内)の経験なし。それでも現代の最強チーム、メルセデスに乗ると予選はフロントローを獲得した。

決勝では好パフォーマンスを見せて首位を快走するが、ピット作業でチームがボッタスのタイヤを間違えて装着するアクシデントが発生。再度のタイヤ交換を余儀なくされて、ラッセルは優勝のチャンスを失ってしまった。

メルセデスに乗ったジョージ・ラッセル
メルセデスに乗ったジョージ・ラッセル写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ヒュルケンベルグもラッセルも素晴らしいパフォーマンスを見せて自分自身の存在感を示したが、それでも簡単には次に繋がって行かないのが今のF1だ。ジョージ・ラッセルはウィリアムズに戻り、ヤスマリーナサーキットをメルセデスの2.5秒落ちで走った。そして、ニコ・ヒュルケンベルグからはまだ来年の去就のニュースが届いていない。

かつてティレルで優勝争いをしたジャン・アレジをフェラーリが獲得したり、ジョーダンで代役デビューしたミハエル・シューマッハをベネトンが奪ったり、驚きのパフォーマンスを見せたドライバーには別のチームからもオファーが来て、ドライバーとしてのキャリアが花開いたものだが、それは今や昔話なのだろう。

1991年のベルギーGPで衝撃的なF1デビューを果たしたミハエル・シューマッハ
1991年のベルギーGPで衝撃的なF1デビューを果たしたミハエル・シューマッハ写真:アフロ

3位:グロージャンが大クラッシュから奇跡の生還

2020年のF1で最も衝撃的なシーンとなったのが、第15戦・バーレーンGPにおけるロマン・グロージャン(ハース)の大クラッシュだ。スタート直後の接近戦でグロージャンはダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)と接触し、ガードレールに激突。

グロージャンのマシンは真っ二つになり、コクピット部分はガードレールを突き破って反対側に出た。直後にマシンは炎上するが、グロージャンはすぐに脱出。奇跡的に軽い火傷を負っただけで生還した。

ガードレールを突き破り炎上するグロージャンのマシン
ガードレールを突き破り炎上するグロージャンのマシン写真:代表撮影/ロイター/アフロ

万が一、グロージャンが気を失っていたりしたら、命に関わる重大事故になっていたかもしれない。奇跡的にグロージャンの命を守ったのは頭部を守るガードのHALO(ヘイロー)だった。これがガードレールを突き破る際の盾となり、グロージャンの身体が守られたことはもちろん、炎上下でも意識を失わずに脱出することができた。

手に火傷を負ったグロージャン
手に火傷を負ったグロージャン写真:ロイター/アフロ

他にも今年のF1はイタリアGPのシャルル・ルクレール(フェラーリ)のアクシデントや、トスカーナGPでの多重クラッシュなどショッキングなシーンが多かった。安全性の向上は今後も求められていくが、スタート直後の接触や事故には自動車レースの最高峰らしからぬものもある。本当に誰かが命を落としてからでは遅い。

2位:ハミルトンがシューマッハの記録を破る

今季も17戦中11勝をマークし(コロナ感染で1戦欠場)、圧倒的な速さと強さで4年連続のチャンピオンに輝いたルイス・ハミルトン(メルセデス)。

最強マシンを手にするハミルトンの勢いは今季も止まる気配が全くなく、メルセデスファン以外にとって退屈な展開のレースが多かったとはいえる。ただ、さすがはハミルトンと唸らせるレースが多く、その存在感、風格はまた一段と大きくなった印象だ。

ルイス・ハミルトン
ルイス・ハミルトン写真:代表撮影/ロイター/アフロ

もちろん結果でもハミルトンは一つの壁を超えることになった。ミハエル・シューマッハの最多優勝回数記録(91勝)を第12戦・ポルトガルGPで塗り替え、歴代最多の勝利数の記録を破った(シーズン末までで95勝)。

最多勝だけでなく、すでに最多ポールポジション記録、最多表彰台記録などありとあらゆるレコードを塗り替えるハミルトン。そんな彼が今後塗り替えるのは、ミハエル・シューマッハが持つ7回の最多ワールドチャンピオン獲得記録の更新だ。今季のチャンピオン獲得で7回のタイ記録に並んだハミルトンは2021年に8回目の新記録達成を狙う。

2007年にマクラーレン・メルセデスで日本GP(富士)を含む4勝をマークする衝撃的なデビューを果たしたルイス・ハミルトンだが、彼ももう来年には36歳になるベテランの領域だ。

スタート前に行われたドライバーたちによるセレモニー
スタート前に行われたドライバーたちによるセレモニー写真:代表撮影/ロイター/アフロ

また、唯一のアフリカ系人種のF1ドライバーであるハミルトンは今季、人種や文化の多様性を訴えた。アメリカ・ミネソタ州の警察官による黒人男性殺害事件が発端となり、人種差別の撤廃を求める大きなムーブメントが起きた。F1も「We race as one(私たちは団結してレースをする)」のスローガンを掲げ、グローバルスポーツとして人種や文化の多様性をアピールした。

ハミルトンのチームであるメルセデスも、多様性の向上を目的にマシンのカラーリングを定番のシルバーからブラックベースのカラーリングに変更。レース前のセレモニーシーンなどは2020年シーズンを象徴する出来事として語り継がれるであろう。

黒ベースのカラーリングで走った2020年のメルセデス
黒ベースのカラーリングで走った2020年のメルセデス写真:代表撮影/ロイター/アフロ

1位:ホンダが2021年限りでF1から撤退

2020年最も衝撃的だったF1関連のニュースはやはり、ホンダのF1撤退の発表であろう。

2020年10月2日(金)17時から突然行われたオンラインの記者会見で、ホンダは2021年限りでのF1活動終了を発表した。将来のF1復帰の可能性についての質問には「今回は2050年、カーボンニュートラルの実現という新たなチャレンジにリソースを傾けるという判断をしましたので、再参戦のことは考えておりません」とキッパリ。

ホンダの八郷隆弘社長
ホンダの八郷隆弘社長写真:森田直樹/アフロ

この撤退発表はあまりに衝撃的で、「可能な限りF1を続けると言っていたのに!」「撤退と再チャレンジを繰り返しているからホンダは認められない」「モータースポーツへの敬意がない」などファンからの怒りが爆発。ジャーナリストらが火に油を注ぐ感情論の記事を投稿すれば、さらに燃え上がり、古株のモータースポーツファンたちによる行き場のない議論が続いていた。

翌週の10月5日(月)、ホンダの株価は下落どころか70円ほど上昇。発表の影響はほとんど無かったのが現実だ。80年代から90年代のF1ブームの頃からのファンなら3度目に味わう心境だけに慣れたものだったのか、感情にまかせた議論はすぐに沈静化した。

ホンダは2021年をもって撤退するが、レッドブル、アルファタウリの2チームがどこのパワーユニットを使うのか?という問題がある。レッドブルはホンダのパワーユニットを2022年以降も継続して使用できるように調整しているが、そのためにはパワーユニットの開発凍結が行われる必要がある。

最終戦アブダビGPで優勝したレッドブル・ホンダのフェルスタッペン
最終戦アブダビGPで優勝したレッドブル・ホンダのフェルスタッペン写真:代表撮影/ロイター/アフロ

複雑なハイブリッドシステムであるF1パワーユニットは巨大自動車メーカーの開発力と資金力なしでは成り立たず、新規参入も難しい。パワーユニットの不足=チームの撤退に繋がってしまうので、他のメーカーが開発凍結に合意するかが鍵だ。

角田のF1デビュー決定、ホンダのF1活動終了宣言など日本のファンをザワザワさせるニュースが相次いだコロナ禍のF1。来季は久しぶりの日本人ドライバー参戦もあるので、今年以上の注目を浴びることになるだろう。日本人ドライバー不在の間、ゴシップネタ以外ではなかなか盛り上がらなかったが、2021年は本当のレースの面白さで世間を巻き込んだニュースが届けられることを祈ろう。

2020年のF1 10大ニュース、10位〜6位

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事