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インディカー開幕プレビュー/佐藤琢磨が11年目のシーズンで王者を狙う!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
佐藤琢磨【写真:INDYCAR】

日本人ドライバー佐藤琢磨が参戦する「NTTインディカーシリーズ」の2020年シーズンがいよいよ米国フロリダ州・セントピーターズバーグ市街地コースで開幕する(決勝は3月15日/現地時間)。

今年も5月の「インディ500」をメインイベントに全米各地で17戦が開催されるシーズンだ。佐藤琢磨に加え、日本のレースでファンの心をガッチリ掴んだフェリックス・ローゼンクビストやアレックス・パロウが参戦し、注目度の高いインディカーのシーズンプレビューをお届けしよう。

インディアナポリス500マイルレース(インディ500)のスタート【写真:INDYCAR】
インディアナポリス500マイルレース(インディ500)のスタート【写真:INDYCAR】

エアロスクリーンを装着するインディカー

今季からインディカーはドライバーが乗るコクピットの上部にドライバーを保護するための「エアロスクリーン」を装着してレースをする。

F1などヨーロッパ主体のフォーミュラカーレースでは保護デバイスとして、草履の鼻緒のような形をした「HALO(ヘイロー)」が近年取り付けられているが、アクセル全開率が高い超高速のレース「インディ500」が含まれるインディカーでは、安全性に対する独自の研究から異なるアプローチを行った。

エアロスクリーンを装着したインディカー【写真:INDYCAR】
エアロスクリーンを装着したインディカー【写真:INDYCAR】

この「エアロスクリーン」はアストンマーチンのハイパーカー「ヴァルキリー」を開発するレッドブル・アドバンスド・テクノロジーと共同開発で行われたもの。ルックスは慣れるまで多少の違和感はあるものの、スクリーンが付いた分、ドライバーのヘルメット周りは風切り音が減少し、無線の交信時に音声が聞き取りやすくなるなど、メリットは安全性だけではないようだ。

コクピットから見たエアロスクリーン。上部にはコクピット温度上昇防止のダクトがある【写真:INDYCAR】
コクピットから見たエアロスクリーン。上部にはコクピット温度上昇防止のダクトがある【写真:INDYCAR】

エンジンサプライヤーはホンダシボレー。エアロスクリーンの装着を除いて大きなレギュレーション変更がないため、今季も7人のウイナーが生まれた昨年と同様の混戦となりそうである。

昨年2勝の佐藤琢磨に大きな期待

2019年はインディカー参戦10年目にして日本人初のポールトゥウイン、シーズン2勝、ポールポジション2回、インディ500でも3位という好成績をおさめたのが佐藤琢磨。ホンダエンジンを搭載する「レイホール・レターマン・ラニガンレーシング」に残留し、メキメキと力をつけるチームの勢いでシリーズチャンピオンを狙う。

アラバマで日本人初のポールトゥウインを成し遂げた佐藤琢磨【写真:INDYCAR】
アラバマで日本人初のポールトゥウインを成し遂げた佐藤琢磨【写真:INDYCAR】

ただ2月にテキサス州のCOTAで行われた合同テストでは、チームがエアロスクリーンを装着して初めてのテストだったことと、悪天候で走行スケジュールが減ったことでタイムを伸ばすことができず。開幕戦のセントピーターズバーグでどこまで躍進できるかは未知数だが、昨年の見事な2勝で高まった士気で何とか開幕ダッシュを見せてもらいたいところだ。

エアロスクリーンを装着してテストする佐藤琢磨【写真:INDYCAR】
エアロスクリーンを装着してテストする佐藤琢磨【写真:INDYCAR】

43歳の佐藤琢磨は今季、インディカーで鉄人と呼ばれるトニー・カナーン(45歳)がスポット参戦となるため、フル参戦ドライバーとしては最年長。しかし、インディカーでは40代のドライバーが最前線で戦うことは決して珍しいことではなく、インディ500では過去に48歳目前という年齢で優勝ドライバーもいる。市街地コース、通常のサーキットコース、ハイスピードオーバル、ショートオーバルなど様々なタイプのコースでレースが開催されるインディカーで、佐藤琢磨のベテランらしい粘り強い走りを期待したい。

注目のルーキーはアレックス・パロウ

そして、今季は昨年まで日本のレース「スーパーフォーミュラ」で大活躍し、人気ドライバーとなったスペインの若手、アレックス・パロウがインディカーに参戦することになった。

アレックス・パロウ【写真:INDYCAR】
アレックス・パロウ【写真:INDYCAR】

スーパーフォーミュラではルーキーながら3度のポールポジションを獲得し、富士スピードウェイで優勝。また、SUPER GTではGT300クラスのマクラーレン720S GT3を奇跡的な2位に導くなど、凄まじい才能を披露した。その逸材をアメリカに連れて行くことになったのが、SUPER GTでマクラーレンを走らせた「チーム郷」。郷和道が代表のこのチームには元インディカードライバーのロジャー安川も関わっていたため、その類い稀なる才能の持ち主にインディカーへの道が開けることは何ら不思議なことではなかった。

昨年SUPER GTで走ったチーム郷のカラーリングで走るアレックス・パロウ【写真:INDYCAR】
昨年SUPER GTで走ったチーム郷のカラーリングで走るアレックス・パロウ【写真:INDYCAR】

パロウはホンダエンジンを搭載する「デイル・コインレーシング」からチーム郷とのコラボレーションチームとしてインディカーに挑戦する。同チームはインディカーの中ではいわゆる中堅の一角だが、過去にはジャスティン・ウィルソン、セバスチャン・ブルデー、マイク・コンウェイらを起用して優勝。チーム力は決して強力とは言えないものの、運悪くF1では成功できなかった実力者たちの速さを活かすチームと言える。

どんな厳しい環境でもそのドライビングでチャンスを勝ち取ってきたパロウだけに、インディカー挑戦1年目としては悪くない環境。インディカーではルーキーイヤーに実力を示したドライバーが翌年トップチームに昇格するのは頻繁に起こることなので、パロウの1年目は大いに注目したい。

3強チームが今季も牽引する?

インディカーのトップチーム三大巨頭と言えるのが、「チーム・ペンスキー」(エンジン:シボレー)、「チップガナシ・レーシング」(エンジン:ホンダ)、「アンドレッティ・オートスポーツ」(エンジン:ホンダ)の3チームだ。

チャンピオンチームである「ペンスキー」は昨年2度目の王座を獲得したジョセフ・ニューガーデン、インディ500で初優勝したシモン・パジェノー、不振の中でも後半戦に2勝したウィル・パワーのラインナップで変わらず。ロードコースでもオーバルでも速い、インディカー最強チームは今年もシリーズの主役になるだろう。

2019年のチャンピオン、ジョセフ・ニューガーデン【写真:INDYCAR】
2019年のチャンピオン、ジョセフ・ニューガーデン【写真:INDYCAR】

また、ホンダエンジンを積む「アンドレッティ」は昨年2勝のアレクサンダー・ロッシ、2012年インディカー王者のライアン・ハンターレイ、そして3年目のザック・ビーチに加え、姉妹チームにマルコ・アンドレッティ、昨年2勝を飾った19歳のコルトン・ハータが乗る。特に元インディカードライバーのブライアン・ハータを父に持つコルトン・ハータのチームはMLBニューヨーク・ヤンキースのオーナー御曹司のジョージ・スタインブレナー4世がチームオーナーであり、若いドライバーと若いチームオーナーのコンビで全米の注目を集める。

2019年最終戦・ラグナセカで優勝したコルトン・ハータ。左から父ブライアン、オーナーのスタインブレナー、そしてコルトン・ハータ【写真:INDYCAR】
2019年最終戦・ラグナセカで優勝したコルトン・ハータ。左から父ブライアン、オーナーのスタインブレナー、そしてコルトン・ハータ【写真:INDYCAR】

そして、ホンダエンジンユーザーの「チップガナシ」は5度のインディカー王者を獲得したスコット・ディクソン、昨年未勝利ながらもルーキーイヤーでシリーズランキング6位を得たフェリックス・ローゼンクビストに加え、今年は元F1ドライバーのマーカス・エリクソンがチームに加入し、フルタイム3台体制となった。

5度のインディカー王者、スコット・ディクソン【写真:INDYCAR】
5度のインディカー王者、スコット・ディクソン【写真:INDYCAR】

この3強と言われる「ペンスキー」「アンドレッティ」「チップガナシ」に中堅チーム所属の佐藤琢磨らが割って入っていくのがインディカーの面白いところ。インディカーでは戦略と運を味方につけることで、あっと驚く大逆転劇も起こる。30万人以上の観客を集める5月の「インディ500」を含め、毎戦キャラクターの異なるコースで開催されるインディカー。今年も見応えたっぷりなシーズンになることを期待しよう。

NTTインディカーシリーズ」は今年もスポーツチャンネルの「GAORAスポーツ」で全戦放送される予定だ。

なお、インディカー開幕戦・セントピーターズバーグはコロナウィルスの感染拡大防止のため、関係者のみが入場できる「無観客レース」となることが発表された。(3月13日追記)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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