今や世界戦や国体競技に!ゲームを超え、新たなモータースポーツを目指す「グランツーリスモ」

リアルなレースが再現されるグランツーリスモの世界【写真:ポリフォニーデジタル】

2019年は「eスポーツ」が注目され、バズワード(流行語)となった1年だった。昨年から竹の子のように次々にeスポーツ団体や選手のエージェントが立ち上がり、街おこしや企業イベントに積極的にゲームが取り入れられるようになっている。2020年もその勢いは止まらないだろう。

国内での盛り上がりの契機となったのは2019年秋の茨城国体で「eスポーツ」が文化プログラムの競技種目となったことだ。プレイステーション用のゲームソフト『グランツーリスモSPORT』もその競技に選ばれ、国体競技として各都道府県代表の選手たちが日本一の座を争った。

茨城国体で開催されたグランツーリスモの選手たち(写真:DRAFTING)
茨城国体で開催されたグランツーリスモの選手たち(写真:DRAFTING)

オーガナイズされたレース競技

茨城国体の本戦で選手たちの激しいバトルを実況した僕は「これはすでに本物のモータースポーツを超えている」と実感した。

レースゲームというとライバルにブツけて順位を上げていくシーンを連想する人が少なくないと思うが、競技として非常にオーガナイズされた中で、「グランツーリスモ」のトッププレイヤーたちはそのイメージを大きく覆すドライビング技量と的確な判断力を持っている。

レースに挑む選手たち【写真:ポリフォニーデジタル】
レースに挑む選手たち【写真:ポリフォニーデジタル】

現実のレースと同様に「グランツーリスモ」ではドライビングミスによる接触にはタイム加算やアクセルオフのペナルティ(罰則)が即座に課せられる。故意によるものならマナーの重大な違反で失格になることも。

レース中に判定を下すのが「グランツーリスモ」の制作会社ポリフォニー・デジタル(東京都江東区)の寺元陶陽(てらもと・とうよう)氏である。「グランツーリスモ」の大会でレースディレクター(競技長)を務めている。

寺元氏は「もともとグランツーリスモはeスポーツを意識していたのではなく、本物のスポーツをやろうとしていました。eスポーツという言葉がまだ世の中に知られていない時代でした」と語る。

大会でレースディレクターを務める寺元陶陽氏(写真:DRAFTING)
大会でレースディレクターを務める寺元陶陽氏(写真:DRAFTING)

シリーズ5作目の『グランツーリスモ5』(2010年発売)から始まったオンライン選手権をキッカケに、世界中のプレイヤー達が同じレースで走れるようになった。競技のルールや選抜の仕組み、プレイ画面の見せ方などを徐々にブラッシュアップし、「グランツーリスモ」はeスポーツという言葉が知られるようになる前に、ゲームを現実のスポーツとリンクさせる概念をユーザーに提供していったのである。

現実のレースと何ら変わりがない迫力のレースシーンが魅力【写真:ポリフォニーデジタル】
現実のレースと何ら変わりがない迫力のレースシーンが魅力【写真:ポリフォニーデジタル】

FIAが認める世界戦レースも開催

2008年には日産とのコラボレーションで「GTアカデミー」が誕生。これは「グランツーリスモ」のトッププレイヤー達の中から選抜を行い、現実のレースに参戦する選手を育てようと言うものだった。同アカデミー出身のルーカス・オルドネス(スペイン)が2013年にSUPER GTへ参戦した時は、”ゲーマーが現実のレースに参戦”というニュースが日本でも報じられ、Yahoo!ニュースのトップページにも取り上げられ、大きな話題を呼んだ。

その後、2014年に「グランツーリスモ」はF1など世界選手権モータースポーツを統括するFIA(国際自動車連盟)とパートナーシップを締結し、競技開催に向け様々な調整を行なっていったという。そして、2017年に現行作『グランツーリスモSPORT』が発売されると、2018年から「FIA グランツーリスモ選手権」がスタート。ついに「グランツーリスモ」はFIAが認めた正式なモータースポーツ選手権になったのである。

世界各国から選手が参戦するFIA グランツーリスモ選手権」【写真:ポリフォニーデジタル】
世界各国から選手が参戦するFIA グランツーリスモ選手権」【写真:ポリフォニーデジタル】

この「FIA グランツーリスモ選手権」は18歳以上のプレイヤーなら誰でも参加できる。国、地域を代表して戦うネイションズカップではオンラインレースの成績に応じて国と地域の代表選手が選抜され、24名がライブイベントとなるワールドツアーを戦うことになる。

ワールドツアーでの勝利数が多い選手や各国代表決定戦の入賞者から選抜された36名がモナコで開催されるワールドファイナルに出場し、世界一を争う。そして、ワールドファイナルの勝者になると、FIAの年間表彰式に招かれ、F1チャンピオン、WRCチャンピオンなどと共に栄誉を称えられるのだ。

参加に多額な資金が必要な現実のモータースポーツと違い、ソフトとインターネット環境さえあれば誰もがエントリーでき、勝てば世界800万人以上と言われるユーザーの頂点としてFIAの表彰式に呼ばれるわけだ。これは夢のある世界である。

モナコで開催されたワールドファイナルの表彰式【写真:ポリフォニーデジタル】
モナコで開催されたワールドファイナルの表彰式【写真:ポリフォニーデジタル】

同一条件で魅せるレースを

現実のモータースポーツでは資金力によって道具であるマシンに差が生まれ、その優劣が勝負を決定づけることが多々あるが、「グランツーリスモ」は基本的にイコールコンディション。バーチャルでは設定で条件を完全に同一にして選手を戦わせることが可能なので、本当の意味での腕一本勝負の世界だ。

実車では性能が異なる車種がイコールコンディションになるのもゲームならでは【写真:ポリフォニーデジタル】
実車では性能が異なる車種がイコールコンディションになるのもゲームならでは【写真:ポリフォニーデジタル】

その基本設定を行うのがポリフォニー・デジタルで「グランツーリスモ」開発ドライバーを務める山田和輝(やまだ・かずき)氏。自身も元々はプレイヤーで、レッドブル主催の大会で優勝し、ポリフォニー・デジタルからスカウトされた。「グランツーリスモ」は選手権や大会を開催するにあたって、条件をイコールにするだけでなく、レースの面白さ、見せ方にもコダワリを持っていると山田氏は語る。

「僕自身もレースが大好きでよく見に行きますが、現実のレースでは抜きつ抜かれつがないパレード走行になりがちじゃないですか。かといって、追い抜きがたくさんあれば面白いのかというと違うと思います。ある程度のリスクを負ってズバッと抜く。どうすれば見ている人が興奮するか、面白いかを常に実車のレースを見ながら考えています」と山田氏。

開発ドライバーの山田和輝氏(写真:DRAFTING)
開発ドライバーの山田和輝氏(写真:DRAFTING)

スリップストリームの効き方やタイヤの摩耗など道具の条件をレース主催者側が自由に設定できる「グランツーリスモ」で、選手たちは画面に写る映像、ハンドルコントローラーに伝わってくる振動でマシンの挙動を感じ取り、操縦する。現実の世界からすれば、設定というのはギミックに写るかもしれない。しかし、事前にプレイして最適解を見つけ出して大会に挑むのは、現実のモータースポーツにおけるテスト走行と全く同じプロセスである。

トッププレイヤーたちの練習量は1日平均約400kmだという。これは鈴鹿サーキット(1周5.8km)なら70周近く毎日走り込んでいる計算。中には大会会場のホテルにもプレイステーションを持ち込み、事前練習を欠かさない選手もいる。それくらい努力して走り込んで研究することが求められるハイレベルな戦いなのだ。

「極めないと答えが見つからない世界です」と山田氏。「大会時の設定では、30分とか与えられた練習時間の中で選手達がどれだけ(勝つための要素を)見つけられるか、それも見越して設定を考えています」とのこと。

2019年のチャンピオン、ミカエル・ヒザル【写真:ポリフォニーデジタル】
2019年のチャンピオン、ミカエル・ヒザル【写真:ポリフォニーデジタル】

寺元氏が付け加える。「イコールコンディションですから、速い人は速いわけですよ。ドライバーが完璧だとバトルが起こらないパレード走行になってしまう。だから、どれくらい接近できるか、タイヤ摩耗の崖(性能低下)をどこにもってくるか設定を考えて、レースをどうデザインするかが僕らの課題です」

寺元氏や山田氏が単に世界一を決める舞台を作るだけでなく、大会を見ている人も楽しめるレースを創り出せるのは、レベルが高い選手達への信頼があってこそなのだろう。実際にトップレベルの「グランツーリスモ」大会は面白く、現実では滅多に見られない興奮のシーンが満載の見応え十分なレースが多い。

(動画:2019年モナコで開催されたワールドファイナル ネイションズカップ決勝)

すでに世界で競技として認められ、多くの人を楽しませるエンターテイメントにもなりつつある「グランツーリスモ」。2020年、トップレベルのドライバー達の戦いを、一人の観戦者として楽しんでみてはいかがだろうか。2020年のワールドツアーは2月15日〜16日にオーストラリアのシドニーで開幕する。

【関連リンク】

2020 ワールドツアー第1戦シドニー 特設ページ