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モータースポーツ10大ニュース(4輪)10位〜6位/喜びと悲しみが交錯した2019年

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2019年5月に亡くなった3度のF1世界王者、ニキ・ラウダ(マクラーレン時代)(写真:ロイター/アフロ)

2019年のモータースポーツシーンを彩った話題をまとめる年末企画。4輪モータースポーツ編では10個のニューストピックスを取り上げる。まずはその10位から6位。

10位:SUPER GT/DTM交流戦が開催

2019年の国内モータースポーツでは新しい試みが実現した。車両規則の統一を図ってきた「SUPER GT/GT500」と「DTM(ドイツツーリングカー選手権)」の交流戦だ。

SUPER GTを統括するGTA(GTアソシエイション)の坂東正明社長の積年の夢は、10月のドイツ・ホッケンハイムで開催されたDTM最終戦に3台のGT500マシンが参戦し、11月に富士スピードウェイで開催された特別戦に7台のDTMマシンが来日したことで実現された。レギュレーションはDTMに準じた形で実施された交流戦はDTMのハンコックタイヤを使用。ドイツでの交流戦ではデータ不足のGT500勢は苦戦したが、富士での交流戦では両シリーズのマシンが入り乱れあっての面白いレースになった。

富士スピードウェイにやってきたアウディのDTMマシン
富士スピードウェイにやってきたアウディのDTMマシン

特に日本のファンにとって新鮮だったのは接近した状態でローリングスタートを切る、通称「インディスタート」。富士ではスタート直後に予想通りのクラッシュ、混乱が発生し、日本のレースでは見られない面白さがあった。その一方で富士での交流戦はすでに年間予算が確定したシーズン途中に開催が決定したため、イベントブース出展などのレース以外の部分は通常のSUPER GTレースに比べてやや盛り上がりに欠けた。とはいえ、久しぶりに実現した国内レースと海外レースの交流戦。2020年の開催は今の所アナウンスされていないが、SUPER GTとDTMの車両規定(クラス1)が統一される2020年以降も是非とも継続開催して欲しいところだ。

(動画:迫力のレースが展開されたSUPER GT/DTM交流戦)

9位:F2で死亡事故が発生

F1を目指す直下のカテゴリー「FIA F2」ではあまりに悲しい事故が発生した。8月31日(土)にベルギーのスパ・フランコルシャンで開催されたF2のレース1の2周目。名物の急坂セクション、オールージュを登った先で事故は起きた。スピンしたマシンにアントワーヌ・ユベール(フランス)が接触してウォールにクラッシュ。はね返ったユベールのマシンに後続のファン・マニュエル・コレア(アメリカ)が突っ込み、ユベールが帰らぬ人となってしまった。享年22歳。

アントワーヌ・ユベール【写真:FIA F2】
アントワーヌ・ユベール【写真:FIA F2】

追突したコレアも両足を負傷する大怪我となり、現在も復帰に向けたリハビリを行なっているが、復帰までには相当長い時間がかかると報じられている。死亡事故の発生でF2のレースは中止となったが、メインレースのF1ベルギーGPは開催された。

壁のように迫る急坂を高速で駆け上がっていくオールージュは世界で最もドライバーの勇気が試されるセクションとして有名だ。事故はその先で発生した。F1に限らず、レーシングカーやサーキットの安全性は常に向上しているが、死亡事故は様々な不運が重なった上で発生してしまうもの。絶対に安全という保証はどこにもない。FIA(国際自動車連盟)による事故の調査・検証が行われているが、ユベールの死を無駄にしないためにも検証結果をさらなる安全性の向上に繋げて欲しいと願う。

(動画:FIA F2 2019 Season Highlights)

8位:日本GPで山本尚貴が出走

2019年は久しぶりに日本人ドライバーがF1を走らせた年になった。F1第17戦・日本グランプリ(鈴鹿)のフリープラクティスにスーパーフォーミュラ/SUPER GTダブルチャンピオンの山本尚貴がトロロッソ・ホンダから出走。事前テストも無しのブッツケ本番の状態ながら、山本はチームメイトのダニール・クビアトから僅か0.098秒差というタイムをマークして高い評価を得た。

トロロッソ・ホンダからフリープラクティスに出走した山本尚貴【写真:MOBILITYLAND】
トロロッソ・ホンダからフリープラクティスに出走した山本尚貴【写真:MOBILITYLAND】

日本人F1ドライバーが公式セッションに出走するのは2015年の小林可夢偉以来4年ぶりのこと。かつてF1日本グランプリには代役やテストドライバーなどで様々な日本人ドライバーがスポットで走行したが、現在は下位カテゴリーでの成績に基づいたスーパーライセンス申請のためのポイントが必要で、それを満たしている日本人ドライバーは限られている。

山本尚貴は当初、スーパーライセンスの取得条件を満たしていると考えられていたが、厳密にはポイントが足りないことが発覚。彼を日本GPに出走させるためにホンダやJAF(日本自動車連盟)が働きかけ、10月4日のFIA世界モータースポーツ評議会で承認され(今季の成績と獲得見込みポイントが考慮された)出走となった。

山本尚貴【写真:本田技研工業】
山本尚貴【写真:本田技研工業】

スーパーライセンス取得条件が厳しくなったことで長く閉ざされていた日本人F1ドライバー誕生への道。難しい条件をクリアするために、ホンダとJAFが動いたことは日本のモータースポーツにとって大きな一歩だったと言える。それに応える形で、レギュラードライバーと比較して遜色ないパフォーマンスを見せ、走行データを持ち帰った山本。31歳というF1デビューには遅咲きの年齢ながら、自らの努力でF1で存在感を示したことは本当に素晴らしいことだった。来季以降もF1ドライブのチャンスが訪れることを祈りたい。

7位:ラウダ、ホワイティングが急逝

F1ではシリーズの中心人物とも言えるレジェンド達が相次いでこの世を去った。開幕戦・オーストラリアGPのレースウィークにはF1技術責任者でありレースディレクターとして活躍したチャーリー・ホワイティング(イギリス)が急逝。享年66歳。そして5月20日には3度のF1ワールドチャンピオンであり、近年はメルセデスF1チームの非常勤役員を務めていたニキ・ラウダ(オーストリア)が死去した。享年70歳。

映画「RUSH」のモデルにもなったニキ・ラウダ【写真:Ferrari】
映画「RUSH」のモデルにもなったニキ・ラウダ【写真:Ferrari】

F1サーカスのまとめ役として興行面でのリーダーだったバーニー・エクレストン(元F1 CEO)が2017年で第一線を退いてから、F1チームやドライバー達の心の支えであった偉大な人物、ホワイティングとラウダ。66歳という年齢ながら20戦以上のF1世界選手権を転戦してレース運営面を取り仕切っていたホワイティング。後継者育成を行っていたところでの訃報はパドックに大きな衝撃をもたらした。新レースディレクターには直属の部下であったマイケル・マシが就任したが、F1は今後もレース数を増加させる方針であり、スタッフの負担、働き方も含めて課題は多い。

また、ニキ・ラウダは1970年代から80年代のレジェンドF1ドライバーであり、引退後もフェラーリ、ジャガー、メルセデスでチームの中心人物としてF1に携わり続けていた。彼の現役時代以降に生まれた若いF1ドライバーからも信頼を得ていたラウダの訃報に多くのドライバーが彼の死を悼んだ。

(動画:Niki Lauda- His Remarkable Career Story /F1公式YouTube)

6位:中嶋一貴が日本人初の世界王者に

2019年は4輪サーキットレースで初めて日本人の世界チャンピオンが誕生した年でもあった。フランスのル・マン24時間レースを中心とする「WEC(世界耐久選手権)」の最高峰クラスLMP1で、トヨタTS050 Hybridをドライブした中嶋一貴がフェルナンド・アロンソ、セバスチャン・ブエミと共に2018-19シーズンのドライバーズチャンピオンを獲得した。

2018-19の王者に輝いた中嶋一貴(右から3人目)【写真:2019 Joao Filipe/AdrenalMedia.com/FIA WEC】
2018-19の王者に輝いた中嶋一貴(右から3人目)【写真:2019 Joao Filipe/AdrenalMedia.com/FIA WEC】

中嶋一貴は日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟の長男であり、自らも2008年にF1フル参戦を果たし、親子二代での日本人F1ドライバーになった。2010年以降は国内レースに参戦し、2012年にはフォーミュラニッポンの王者に。国内トップフォーミュラを親子二代で制するのも初めての快挙。そして同年からはル・マン24時間レース/WECにも参戦し、2018年にル・マン24時間で初優勝。2019年は最終戦のル・マン24時間を連覇し、日本人初の4輪サーキットレースの世界チャンピオンに輝いた。

2輪では数多くの日本人世界チャンピオンがいるが、4輪では世界チャンピオン獲得経験者はラリーのPWRC(プロダクションカー世界ラリー選手権)で新井敏弘だけ。F1や耐久レース、ツーリングカーレースを含めてサーキットで行われるモータースポーツ競技で世界チャンピオンの称号を手にしたドライバーは皆無だった。それだけに中嶋一貴の快挙がもっと賞賛されても良いはずなのだが、WEC/LMP1に参戦する自動車メーカーワークスチームは中嶋の乗るトヨタだけということもあってか、それほど大きなニュースとして捉えられなかったのは残念だ。

中嶋一貴は2019-20シーズンもWEC/LMP1に参戦を継続中。成績に応じたハンディキャップが課せられた今シーズンは厳しいレースを強いられているが、連覇を狙う。

(動画:24 Heures du Mans- #8 Toyota wins the race for the second time! /ル・マン24時間レース公式YouTube)

次回の記事では4輪モータースポーツ編の5位〜1位を紹介する。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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